Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
五条は上層部にこう提言した。
英霊の現界には、マスターの存在が不可欠。ならば、マスター藤丸立香の身柄を押さえれば、英霊達は下手な行動を取れない。
だったら藤丸立香に『縛り』を課し、マスターを介して英霊達を手駒にすればいい、と。
『 ならば、示せ。英霊とやらの実力を 』
英霊に1級~特級相当の力があるという見立ては、あくまで五条悟の主観によるもの。上層部は客観的で厳然な事実を求めていた。
「今年の交流会は個人戦やんなかったからさ。試合会場って、整備されたままほったらかしだったんだよ。後はもうとんとん拍子。いやー僕って先見の明あるよね!」
「なんのことだか分かんないんですけど?」
「はい、これ試合表」
(あ、この人答える気ないな)
藤丸は悟りながら、五条が差し出した紙に目を通す。
内容は個人戦の組み合わせだった。
第一試合 東堂葵 VS フェルグス・マック・ロイ
第二試合 七海建人 VS
第三試合 冥冥 VS シバの女王
第四試合 五条悟 VS 織田信長
「どーしてこうなった!?」
「あ、英霊側の出場者はカルデアの人達が決めたよ」
「どーしてこうなった!?」
二回叫ぶ藤丸。
別に選出されたサーヴァントが見劣りするとかそういう訳では無いのだが、如何せん癖の強い者が多く、藤丸はダヴィンチちゃんの意図を疑った。
「まさか初手から制御できるか不安な方々が来るとは……」
「いやいや、今回はあくまでお互いの実力を見せるだけだから。制御できるかどうかは、今後の君の働きで見ていくよ。ささっ、のんびり観戦しよーぜ」
そう言って、五条はあっさりと藤丸の荒縄を外す。
意外そうに目を丸める藤丸だが、すぐに思い直す。
目の前にいるのは、この特異点最強の呪術師。
(わたしがどんな状態でいても、そんなに関係ないか)
言ってしまえば、五条悟に監視されてる時点でどんな拘束や監禁よりも効果を発揮するからだ。逆に彼がここにいる限り、藤丸の死刑が執行されることも無い。
ここで何かアクションを起こすのは得策ではない。故に、藤丸は深呼吸でリラックスし、「ん~っ」と凝り固まった身体をストレッチで伸ばした。
「あ、そうだ。この機会にやってみなよ。呪力の捻出訓練」
不意に五条が何かを放る。ワッと驚いてから、藤丸は放られたそれをキャッチ。それとは、鼻提灯を膨らまし、パンチンググローブを嵌めたクマさん人形だった。
「キモ可愛いぃ~~~~っ!」
「本当に可愛い? それ」
「でもわたしに呪力なんて……」
「まぁまぁ、やるだけやってみようよ」
藤丸は首を傾げながらも、とりあえずクマぬいぐるみを抱っこして、ブラウン管テレビに視線を向ける。
クマぬいぐるみはスピースピーと眠ったままだ。
つまり――藤丸は無意識の内に呪力を流し込んでいた。
五条はニヤニヤとその様子をほくそ笑む。
呪力はストレス。一般人でも僅かな呪力なら、常に無意識に垂れ流している。その呪力の蓄積が呪霊を生むのだから。
こうして藤丸は知らず知らずの内に、虎杖も行っていた呪力訓練をやらされていた。
ただし虎杖の場合は映画だったが――――――彼女がこれから見るのは、カルデアの仲間と呪術師が戦い合う『大人な交流会』だった。
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東堂葵は苛立っていた。
3年最後の交流会。
血沸き肉躍る、魂の独壇場は、襲撃した特級呪霊によって邪魔された。個人戦も今年は五条悟の気まぐれで野球に変わってしまっていた。
それでも東堂は満足していた。
それだけで、東堂の魂は限りなく満たされていたのだが……こうして交流会の個人戦のフィールドに立たされると、思ってしまう。
この場所で、
【英霊】などと云う、どこの馬の骨とも知れない存在と競い合ったところで、何も満たされはしない。
中途半端な刺激を受けた結果、東堂葵の魂は……不完全燃焼に陥っていた。
「――俺がここに来た理由。あの爺さんの指図を受けた理由が分かるか。過去の威光よ」
間合いは、三間。
約五メートル先に仁王で立つ戦士を、英霊を、東堂は『過去の威光』と断じた。
その言葉の選択はある意味で正しい。
サーヴァントはあくまで人理の影法師。英霊の座に記録された死者である。生前の、本物の英雄の一部分を切り取り具現化した存在。
故に、東堂葵と対峙する英雄もまた、広義では紛い物に値するのだが。
「はっはっはぁ! 俺を捕まえて過去の威光とは! 豪気で精悍! 良い戦士になるぞ、少年よ!」
そんなことは、この魔剣使いフェルグス・マック・ロイには些事であった。
むしろ、英霊を過去の威光と評した東堂への興味に、糸目が輝く。
「分かるぞ。お前は人の指図を易々と受ける者では無い!」
「見る目はあるようだな。そうだ、俺がここに来た理由は唯一つ」
ザッ! と利き足を一歩退く。
鍛え抜かれた屈強な肉体から、ズズズズッ‼ と呪力が立ち昇る。
退いた足は軸足となって、呪力で強化した剛力を溜めこんでいく。
「――過ぎ去ってしまった青春の一ページを埋めるためだ」
交流会に参加できるのは3年まで。
来年の交流会、虎杖は参加できるが、東堂は参加できない。
親友との個人戦、その機会は永遠に失われた。
青春時代に残した後悔は一生引き摺る。
「答えろ」
その後悔を拭うに足る豪傑なのかどうか。
東堂葵は、かの英雄の品定めを始めた。
「 どんな女がタイプだ!!!? 」
性癖には、当人の全てが反映される。異性、同性、対象は関係ない。
己の愛を注ぐ対象がつまらない者であれば、その者自身もつまらない。
そして東堂葵は、つまらない男を激しく嫌悪する。
そんな東堂の価値観を知らないまま、フェルグスはその問いを受けて―――――――沈黙した。
「……答えられない、か」
頬を伝う、一条の軌跡。
涙が、地に落ち、散った瞬間。
東堂葵の肉体は、放たれた一発の大砲の如く爆ぜて掻き消える。
残念だよ、英雄。
そんな落胆の言葉を置き去りにして。
次瞬、蒼炎の砲弾と化した東堂の拳が、フェルグスの胸板に深々と突き刺さった。