Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
着弾した砲拳がフェルグスの厚い大胸筋を打ち据え、十二の肋骨繋がる胸骨体にまでめり込む。
戦車の砲撃を想起させる拳圧は戦塵を巻き上げ、驚天の音階に達した打撃音が周辺一帯の大気を震わせる。
それでも尚、拳の加速は終わらない。
突き立った拳は更なる加速を見せて骨肉を侵攻し、フェルグスの巨躯を吹き飛ばさんと、東堂は拳を振り切り――――――
「すまない、少年」
「っ‼」
拳は、腕はそれ以上前に進まなかった。
胸板に突き立つ拳、その肘は伸ばし切ることなく、中途半端に曲がったままだ。
(なんと⁉ 動かん! 完全に止められた⁉)
胸板に拳が突き立ったまま、微動だにせず、威力は封殺された。
相手は、ただ立っていただけなのに。
同じ学生に『化物』と称され、学生にして1級術師に達した東堂葵。その最大呪力出力の拳を――――フェルグスは仁王立ちのまま、受け切った。
「お前の問いに、俺は、答えられない」
「っ⁉」
戦塵、晴れる。
その先に広がる光景に、東堂は目を見張った。
ケルトアルスターの英雄クー・フーリンの友にして養父としても知られる魔剣使い。
豪傑なケルト戦士の筆頭である彼が――――苦渋の顔を浮かべていたのだから。
あわや、東堂と同じく涙を流しそうな勢いで、フェルグスは額に手を当て苦悩する。
「タイプとはつまり……最も己が好ましく思う女体のことだろう? しかし……俺には、どれが一番かを決めることなど出来ん! 出来んのだ! なぜならば!」
フェルグスは肩に載せていた、螺旋状の大剣――カラド・ボルグを、傍らの大地に突き立てる。
そして、苦渋の末に導き出した答えを叫んだ!
「俺は主に! 女が大好きだからだぁぁぁぁぁぁぁっっっっ‼」
英雄の
瞬間、東堂はフェルグスの胸板の感触から―――――満点の夜空を垣間見た。
女体とは、無限に広がる夜空。
性癖とは、唯一つの綺羅星。
大きさ、輝き、色彩。様々な要素はあれど、美しいことには変わりない。
その美しさに、輝きに優劣をつけなければならない……そんな苦悶に、英雄は顔を歪めていたのだ。
(あぁ……なんてことだ。品定めだと? 後悔を拭うに足る男か、だと? うぬぼれるのも大概にしろ、東堂葵!)
己の傲慢さに、憤懣やるかたない東堂。
自分よりも大きな者を前にし、東堂という少年は、天を仰ぎ、滂沱の涙を流す。
しかしフェルグスは未だに苦悩した顔のまま、己の趣味嗜好を吐露し続けている。
「いやしかし! 女体の柔肌も良いが、時には男体の逞しき筋骨も格別であって……」
「――――もう、充分です」
「む、そうなのか……なぜ泣く、少年?」
「どうやら私達は『師弟』だったようだ」
東堂は涙を拭いもせず、拳を離し、一歩退いて構える。
その目に失望の暗雲は無く、己が人生に新たな1ページが刻まれる興奮だけが輝いていた。
「胸を借りて、望ませて頂く! 師匠!」
「――うむ! その意気や良し!」
フェルグスは考えることを止めた。
そんなことよりも……少年の膨れ上がった戦意と高揚に充てられて、ケルトの血が狂騒する。戦士の本能が戦意を駆り立て、拳を固めさせる。
英霊の中でも規格外の膂力がフェルグスの上腕を膨れ上がらせ、先端の拳を巌の如く固める。
「そら、行くぞぉぉおおっっ‼」
「来い! 師」
言葉が、消し飛ぶ。
下段から上段へ駆け登るアッパーが、東堂の水月ド真ん中を捉え……東堂葵はフィールドの遥か上空へと打ち上げられた。
(――――あぁ)
ボプンッ! と口内から血潮が溢れ飛ぶ。
青空の中へ誘われるように、東堂の体は山なりに吹き飛ぶ。
師匠と定めた男の拳の威力は長い滞空時間を経て、ようやく東堂に落下を許す。
落ち行く視界、遠ざかる青、やってくる地表。
最大呪力で防御して尚、体内の最奥へと響く殴打の衝撃が、全てを物語る。
英霊フェルグス・マック・ロイは、人間東堂葵に一切の手加減なき拳を与えてくれたのだと!
(俺は今! 全身全霊で! この世界に存在している‼)
退屈が裏返る予感。
高みに果て無しと告げられた歓喜を鳩尾に感じながら。
東堂葵はこの出会いに、拍手を送った。
【
視界が切り替わる。
落ち行く体と
驚き、振り返るフェルグス。
その尊顔に向けて、東堂は上体を捻り、左足を引き上げた。
与えてくれた感激への、せめてもの返礼として撃ち出した左回転上段蹴り。
そんな感謝の念に満ちた東堂の魂が、百万分の一の確率を呼び寄せた!
「――――黒閃」
顔面を貫いた漆黒の輝光が、フェルグスの巨躯を横様に吹き飛ばした。