Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
七海建人は憂鬱だった。
前提として、一級術師は多忙の粋を極める。
呪術高専京都校・学長の楽巌寺曰く『一級術師こそ呪術界を牽引していく存在』だ。
任務の危険度・抱える機密事項・俸給は準一級以下とは比較しようも無い。
故に、一級術師は基本的にひっぱりだこだ。
そんな中、訪れた数少ない休日。
何をする訳でもない。読めていない本を読み、趣味の酒を嗜み、自炊で腹を満たす。
別段、任務から帰宅してからやることと変わらない。
けれど『休日』という甘美な響きと何でも詰め込める空白の時間に、七海の胸中は少しだけ晴れやかになっていた。
少々凝った料理に挑戦しても良いだろうか。
そう思ったか否かは定かではないが、兎にも角にも
『ナナミー、明日空いてるよな? ちょっと頼みがあるんだけどさー』
五条の連絡によって『休日』は泡沫の夢と化した。
「休日出勤はクソだ」
そして現在、七海は高専敷地内の森の中にいた。枝葉の天蓋を仰いで、重い重いため息を吐き切ると、気だるげに歩みを始める。
七海は憂鬱だった。
突如として現れた特級相当の存在【英霊】。
それらを唯一従えられる【マスター】。
そして今、七海は【英霊】の有用性を証明するための当て馬として、秋口に差し掛かる森の中を駆け回っている。
視界の端に流れる木々や茂みを高速で見送る。
枝葉の隙間、茂みの揺らめきをつぶさに観察し――――ひらり、と白紙の折り鶴を捉えた。
捉えた視界がすぐさま折り鶴の長さを線分し、7対3の比率点に弱点を作り出す。
握りは緩く、衝突の瞬間だけ鉈の柄を強く握る。ひらひらと捉え辛い筈の折り鶴目掛けて、七海の鉈が振るわれ、比率点に叩き込まれる。
折り鶴はその鶴翼の根元を断たれ、音もなく墜とされた。
七海は面白くもつまらなくもないといった表情でしゃがみこみ、両断した鶴の折り紙を拾う。
(他の鶴達とは動きが違った。偵察、か)
クシャリと折り紙を丸め、紙ごみにしてから放る。
次の手がかりもとい折り鶴を探そうと、七海は首を巡らせた途端――――数十匹の折り鶴の嘴が、弾丸の如く迫り、七海のサングラスを白に染め上げた。
突撃折り鶴の群れが枝葉の天蓋を吹き飛ばし、森の一角を土塵と轟音を響かせた。
「……やった、か?」
木の陰からひょっこり顔を出し、折り鶴がもたらした破壊の痕跡を遠巻きに見つめる刑部姫。生唾を呑み込み、目を瞑って手のしわとしわを擦り合わせる。
「お願いもうやられて気絶してて原稿まだなのさっさと終わらせたいのだからお願い【鬼さん】気絶しててお願いだからぁぁぁぁーーーーーー!!」
――傍らの木の幹に炸裂する、7対3の比率点。
幹の途上でへし折られた大木がべきべきと断面を広げ、自重によって傾いていく。間近で感じる大木の倒壊音と地響きに、冷や汗だくだくの刑部姫が顔を上げると……。
「えぇ、そこはあなたと同意見です。さっさと終わらせましょう」
重いため息を吐きながら、こめかみをひくつかせる28歳成人男性が立っていた。
成人男性……七海は髪を掻き上げると、呪符に包まれた鉈の切っ先を、刑部姫の鼻先に突きつける。
「今から【タッチ】しますので――――避けないでくださいね」
七海は一つの単語を強調して吐き出すと、鉈をブォンッ! と一旋。
振り上げた鉈を一息に振り下ろした。
「ぴぎゃぁぁぁアアアーーーーーーーー‼‼⁉」
姫らしさをかなぐり捨てた、刑部姫の悲鳴が森中にこだました。
呪術高専・カルデア交流試合
第二試合 七海建人 VS 刑部姫
競技内容――『