Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
「お、おっきーが戦ってくれてる! 締め切り間近の筈なのに! きよひーに焼かれるかもしれないのに! わぁぁぁぁぁーーーーーおっきぃぃいいい!」
「何でそんなに感動してんの?」
悲鳴を上げながら逃げまどう刑部姫の姿に、藤丸は感無量で滂沱の涙を流した。
隣で見ている五条には分かるまい。
戦わない・働かない・媚びないがモットーの英霊、生粋のひきもりである
交流会の組み合わせを見て、一番不安だった彼女が無事に出場していることに、藤丸はこれ以上ない程に胸を撫で下ろす。
「ありがとおっきー‼ 負けるなおっきー‼ 逃げて逃げてひきこもれぇぇーーー‼‼」
「それどういう声援?」
五条が首を捻るが、藤丸は構わず腕を振り上げて刑部姫を応援する。
その感涙に濡れた藤丸の頬っ面ごと――――ぬいぐるみの呪骸がまた引っ叩いた。
「ぷぺぇ⁉」
「ほらほら、感情が乱れてるよ。呪力を一定に」
「もぉっ! もぉおおおーーーーー!」
二度目のビンタを経て、とうとう藤丸は苛立ちMAXでぬいぐるみを叩きつけた。
はぁはぁと肩を上下させるが、渋々とぬいぐるみを抱っこする藤丸。しかし最早抱っことはいえず、首を絞めてるとしか思えない抱きしめ方に変わっていた。
「でもなんで、急に隠れ鬼ごっこ? わたしてっきり交流会の試合って一対一の戦いかと思ってた。天下一武道会みたいな」
「タイマン4連続なんてつまんないっしょ。それに元はと言えば、君んとこの英霊のせいだよ? ほら最後、バキバキに会場割っちゃったじゃん」
あっ、藤丸は声を上げた。
第一試合の最後、フェルグスは東堂を気絶させつためにステージに叩きつけたが……確かに全体に亀裂が走るほどステージは大破していた。
「まぁ、隠れ鬼は
「……あー、分かっちゃったわたし」
藤丸は目を泳がせて、カルデアで行われたであろう打ち合わせを推測した。
おっきー『戦いたくない! ヤダ!』
ダヴィ 『大丈夫、誰も戦えなんて言ってないよ』
ホームズ『そうとも。向こうが譲歩してくれてね。ゲームで勝敗をつけると約束してく
れた』
おっきー『げ、ゲームで? ほんとに?』
ダヴィ 『あぁ、本当だとも。君も長い間、缶詰作業でそろそろ娯楽が欲しいところ
じゃないかな?』
(って、おっきーを騙したんだろうなぁ……)
流石にこんな簡単に刑部姫が騙されたわけではないだろうが、そこは深謀知略に長けたホームズとダヴィンチちゃんだ。藤丸の想像を超えるブラフで、刑部姫を試合に引っ張り出したんだろう。
「いやぁ、にしても絵面ヤバいね!」
五条が手を叩いて、テレビに映る第二試合の様子を爆笑する。
形勢は、【鬼】の七海が追いかけ、刑部姫が全力で逃げ回っていた。その様子に見覚えを感じた藤丸はふと考えこみ……とある映画のタイトルを口にした。
「あっ、ター〇ネーターっぽい」
*****************
「――こんにゃろぉぉーーー‼ これでも喰らえぇ!」
スキル【千代紙操法】を発動し、刑部姫は振り向き様に攻撃用の折り鶴を乱射した。
先程の弾丸のような軌道と異なり、木の幹を縫い、枝葉を抜けて、自由自在な軌道で折り鶴達が七海を攻め立てるが……。
鉈を握る手が唸りを上げる。
四方八方に斬円が吹き荒び、七海の鉈が折り鶴をあっさり叩き落とす。
歩を緩めず、無表情のまま、七海は刑部姫を追いかけ続ける。
淡々と、ズンズンと、攻撃をあしらい真っすぐに追跡してくる。
「えぇぇぇぇ⁉ ちょっ、ちょっとは止まってよ、もぉぉおおおーーーー!」
「こちらの台詞です。あなたも乗り気では無いんでしょう? 大人しく立ち止まって頂けたら、すぐ終わります」
「鉈振り回しながら、そんなこと言われても! 終わるの鬼ごっこどころじゃ済まなそうなんだけどぉぉおぉーーーー⁉」
はひっはひっと息が苦しくなってきた刑部姫は【千代紙操法】で移動用の折り鶴を作成。ローラースケートのように片足を折り鶴に乗せて、低空飛行を始めた。
一気に機動力を得た刑部姫は七海との距離を引き離した。
「はぁはぁはぁ……何あの人⁉ 怖っ! 下手なホラー映画より怖い!」
鉈を片手に、着々と追い詰めてくるサイボーグを思い描いた。
そもそも刑部姫は第一印象から七海には近寄りがたい空気を感じていた。
ヒエラルキーの壁というか社会性というか自分の根本を言い返しようのない正論で否定されそうな感覚。
「あれっ、なんだろ鬼ごっこ関係なく姫あの人苦手」
「奇遇ですね、私も苦手です」
抑揚のない、平坦な声が刑部姫の背筋をビクンと正す。
振り返る……までもない。
ザザザザザザザッッッ‼‼ と茂みを掻き分けて爆走する七海が、移動用折り鶴とぴったり並走していたからだ。
「――――子どもを相手取るのは」
「うひぃぇあああああああああああーーーーーー⁉」
バォンッ‼ としゃがみこんだ頭上で空気が抉られる音が聞こえた。
恐怖心に素直に従った刑部姫は折り鶴から飛び降り、ゴロゴロゴロと大地を舐める。
「べうっ」
木の根元にぶつかり、回転が止まる。刑部姫はすぐさま腹這いから上体を起こして……重いため息と鉢合わせた。
「今度こそ、【タッチ】でよろしいでしょうか」
七海は膝を汚し、鉈を握ってない方の手の平を、刑部姫の眼前に見せつけた。
姫の薄い唇が引き結ばれる。
「なんで今……さっきまで遠慮なく鉈振ってきたのに」
「あなたがあの折り鶴で防御するからでしょう」
そう言われて、刑部姫ははたと気づく。
何度も
今、転ばされ咄嗟に起き上がったばかりの刑部姫では、千代紙を作り出すこともできない。
だから七海は素手を突きつけ、静かに制圧したのだ。
「今度は私から質問です。どうして仕掛けてきたのですか? 正直な話、攻撃さえ無ければ私はあなたを見つけることはできませんでした」
スキル【気配遮断(陰)】で隠れ続け、【千代紙操法】で七海の動向を索敵。
この行動方針を徹底すれば、七海は森の中で途方に暮れるしかなかったのだ。
「それは……【鬼】を攻撃できるってルールがあったから。やっつけちゃえば早く終われるでしょ」
「ゲームを早く終わらせるなら、この方法でも良いでしょう」
刑部姫の顔にかざした七海の手の影が濃くなる。
俯く刑部姫。
その表情は濡れ羽色の髪に隠され、七海からは伺えない。
「攻撃・防御・索敵。あなたの折り鶴の式神はかなり万能です。充分、あなたという【英霊】の有用性は示せたかと」
七海の言う通り、現時点で交流会の目的は果たせている。
この試合で重要なのは勝敗ではなく、【英霊】の有用性の証明だ。
これ以上、刑部姫が戦う理由は無い。
「――降参を。私には、子どもであるあなたの安全を優先する義務があります」
そう言いながら、七海は腰のホルスターに鉈を納めた。
それは『傷つけない』という何よりの意思表示。これ以上、試合を長引かせる必要も抗う必要も無いという言外の言葉だった。
黒髪の帳が、刑部姫の相貌を隠し続ける。七海は、その帳の向こうにある顔色が見えずにいたが――――見えずとも、姫の意思が伝わる。
刑部姫は押し黙ったまま、ゆっくりと頭を振ったから。
「別にさ、姫は他の女英霊と違って、歳とかそんな気にしないけどさ」
サングラスの奥の瞳が見開かれる。
刑部姫の言葉に……ではない。
刑部姫を中心として四方に輝き伸びる緑光に、目を見開いたのだ。
そしてこの光が、七海を始めとした呪術師にはあずかり知らぬところで――――高専の森を『姫路城の地相』という概念に上書きしていた。
【四神地相・白鷺】発動。
刑部姫を姫路城の主として扱い始めた周囲の大地が、彼女に力を注ぎ与える。
「――――流石に、貴方に子ども扱いはされたくないっ!」
華奢な両腕を突き出す。
拒絶の意思が込められた掌底打が、七海の胸筋を押し込み…………呪力で強化されている筈の七海の体躯を力任せに吹き飛ばした。
想定外の膂力に、七海はダメージよりも驚愕に支配される。
「戦わない・働かない・媚びないがモットーの姫だけど。それでも例外ってものがあるの! 例えば……姫を必要って言ってくれた人に、『降参する』なんてみっともないところ見せられない時とか!」
【四神地相・東方】で筋力強化した刑部姫は、薄い唇を開き、歯を噛み締め、キッと目を細める。七海は木の幹に強打した肩の調子を確かめるために、腕を回す。
「そんじゃまビシバシやって、ビシバシ引っきこもろぅか」
「……引きこもりなんですか、貴方?」
七海の眉間に、僅かにしわが寄った。