Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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すみません、昨日の夜間に合わなかった……



第29話 大人と子供の定義

 呪術高専・カルデア交流試合

 第二試合 『隠れ鬼ごっこ(ハイドアンドシークタグ)』のルールは三つ。

 

 ・【鬼】が何らかの理由で追跡能力が失われた時、ゲームは終了。

  逃走者の勝利とする。また【鬼】の追跡能力喪失について、逃走者は如何なるペナ

  ルティも発生しない

 

 ・逃走者は【鬼】に発見された場合、5分間の隠伏行為を禁ずる

 

 ・ゲーム時間は無制限

 

 七海の血管を浮かび上がらせ、刑部姫が頭を悩める理由は、三つ目のルールにある。

 

 ――ゲーム時間は無制限。

 

 さっさと試合を終わらせたい両者にとって、悪魔が過ぎるルールだ。

 

 早期的にゲームを終わらせる方法は、二つ。

 一つ、刑部姫が七海の追跡能力を失わせる(気絶)

 二つ、七海が【鬼】として刑部姫を捕獲する

 

 聞けば、このゲームもといルールを設定したのはカルデア側だという。

 もし、このルールを作った人物と出会ったなら……七海は皮肉の一つや二つは言いたい気分だった。

 

「用意された勝ち筋が細すぎるんですよ」

 憎たらしい程のゲームバランスに、七海の眦に忌々し気なしわが寄る。

 

 もしもゲーム時間が有限だった場合、七海は刑部姫の姿を捉えることすら出来ない。

 

 影に潜り、万能の折り鶴で居場所を常に特定されて、制限時間いっぱいまで気配を消される。

 

 刑部姫が攻撃(ボロ)を出したのは、【鬼】の気絶こそがゲームを終わらせ、かつ自身が勝利する唯一の方法だったからだ。

 

 そのおかげで今、七海は刑部姫を発見し……隠伏行為を禁じられた刑部姫を追いかけられるのだから。

 

 

「やぁぁぁーーー‼ 来てるぅうーー‼ なんで⁉ 姫、いま敏捷ランク上げてるのに⁉」

「……先程の威勢はどこへ行ったんですか」

「そんなもの! 姫の見せ場が終わった時点で、こたつに帰ったわ!」

「意味が分かりません」

 

 一転した刑部姫の態度に、七海はため息が止められない。

 なぜ乙女走り(それ)でこけないのか不思議だが、刑部姫は先程よりも数段上の速力で、なんとか七海に追いつかれずにいる。

 

(あの緑色の光。あれの後、明らかに彼女のフィジカルが上昇した……)

 

 それでも鍛え上げた肉体を更に呪力で強化した1級術師と、スキル【四神地相・西】で強化しただけの引きこもり英霊では、地力が違う。

 

 腕を伸ばせば、ギリギリ指先が届きそう。

 そんな距離になるまで刑部姫を追い詰めながらも、七海が捕獲(タッチ)できない理由。それは—————腰のホルスターに納められた鉈を抜けない理由と重なっていた。

 

「いっけぇーーーーー‼」

 

 息が苦しくなって顔を上げただけに思えた刑部姫が、空に叫ぶ。

 すると枝葉に紛れていた白紙の鶴の奔流が七海を呑み込んだ。

 

 肌に小さな切り傷ができる、その程度の攻撃力しかない折り鶴。

 全身を呪力でガードすれば余裕で防げるが、その真意は追跡の妨害だ。

 

「ちっ!」

 

 こそばゆい折り鶴の連撃に、七海は苦々しく舌を打つ。

 

 刑部姫が隠伏行為を禁止された5分間、今こそが七海の唯一の勝ち筋。

 対して刑部姫はこの5分を乗り切れば良い。

 そしてまた七海の気絶を狙って攻撃する。

 

 

「――イタチごっこですよ」

 

 

 七海が鉈を抜き放つ。

 

 一体一体が細かい郡体に、【十劃呪法】は相性が悪い。

 故に、七海は鉈に呪力を多めに注ぎ、力任せにぶん回す。

 

 奔流の内部で荒れ狂った暴風が弾け、折り鶴が紙片と散る。

 七海はパラパラと降り注ぐ白い雨の中に踏み出る。

 視界を巡らせると、そう遠くない――5メートル程先の位置で、刑部姫はぜぇぜぇと四つん這いになっていた。

 

「ご、5分きっつぃ……も、もぅ走れなひ」

 

 引きこもり生活か原稿生活のせいか。ともかく5分間の全力疾走は刑部姫の心肺には酷過ぎた。

 

「もう辞めにしませんか」

 

 七海が一歩踏み出す。

 

 刑部姫が力なく腕を振るうと、数羽の折り鶴が弾丸特攻するが――――七海の鉈を握る腕が消える。そして彼の背後で、はらりと墜落する折り鶴達。

 

「あなたの攻撃力では、私を気絶させられません。かといって、あなたに逃げを徹底されたら、私には打つ術がない。この茶番(ゲーム)も永遠に終わらない」

「い、いや……貴方が手加減しなきゃ良いだけじゃない。さっきだって、その鉈でタッチすれば届いたのに」

 

 息を整えて、刑部姫は諭してくる七海に反論する。

 鉈を握れば、リーチが伸びる。普通に手を伸ばしてギリギリ届かないなら、鉈でリーチを補強すれば良い。

 

 それをしなかった理由は、やはり先と同じ。

 

「それはできません。

 何故なら、私には、子どものあなたの安全を優先する義務があります。

 味方(労働力)になる予定の人材を傷つける馬鹿がいますか」

 

「なんか不穏なカッコが見えた⁉ いやそれより! なんなの、姫のことさっきから子ども子どもって! だから違うって! 何だったら、姫、あなたより長く生き」

「長く生きたかどうかは関係ありません」

「な、なら社会経験か‼ やっぱりそこでマウント取るんだ、この脱サラ呪術師ぃー‼」

「その呼び方やめてください、誰から聞いたんですか。そこも関係ありません。何故なら労働はクソだからです。あなたと私の差異は、それを体感したか否かに過ぎない」

「あれ~~~? 何だろう、この敗北感。『働きたくない』って所は同じはずなのに、重みが全然違う……」

 

「貴方が英霊であること、人ならざる長命だったとしても、私にとってあなたは子どもです。カセットテープを知らない世代が出てきた、日に日に生え際が後退してきた――――そういう小さな絶望が、人を大人にするのです」

 

 疲労困憊、どちらも勝敗を決めきれないイタチごっこの状況、それでいて尚……少女の目には、勝機を探る光を宿していた。

 

 勝敗と生死が重なっていないのなら、勝負などある程度の諦観で締めるべきなのだ。

 ゲームの勝ち負けに熱くなる。

 これを子どもと言わずして、何と言う。

 

「もう一度だけ忠告します。降参してください。それが互いのためで」

 

 

 

『――――四方を護りし清浄結界』

 

 

 

 降伏勧告を紡ぐ口が、閉じられる。

 額から玉のような汗を流す少女、そこから立ち昇る【神性】が、一節一節重ねる度に増していく。

 

『こちら幽世覚める高津鳥、すなわち私は八天堂。百鬼夜行の刑部姫……』

 

 七海の奥底に眠る、人間の本能が叫ぶ。

 人によっては一生感じることのない、本能の警告。

 ――――人智では到底及ばない【神秘】との相対。

 

 七海は右足を引き、大きく半身を切った。刑部姫の反撃に供え、急所が集まる正中線を正面から外す。

 

 その身に刻まれた生得術式が即座に起動。

 視界に捉えた少女に、7対3の比率点が発生。

 脇に差し込まれた鉈がボッ‼ と引き抜かれる。

 居合の如き一閃が、刑部姫の体躯に創り出された比率点目掛けて駆け抜けた‼

 

 

 

       『  千代に八千代に煌めいて‼  』

 

 

 

 

 刑部姫の溌溂とした詠唱が完了した刹那――――土中から湧現した白鷺の城郭が、七海の一閃を弾き返した。

 





最近、平行して書いてる一次小説でてんてこ舞いです。
週3更新、まもれてなくてすみません。

今日の深夜、出来たら2話目上げます。
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