Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
すみません、昨日の夜間に合わなかった……
呪術高専・カルデア交流試合
第二試合 『
・【鬼】が何らかの理由で追跡能力が失われた時、ゲームは終了。
逃走者の勝利とする。また【鬼】の追跡能力喪失について、逃走者は如何なるペナ
ルティも発生しない
・逃走者は【鬼】に発見された場合、5分間の隠伏行為を禁ずる
・ゲーム時間は無制限
七海の血管を浮かび上がらせ、刑部姫が頭を悩める理由は、三つ目のルールにある。
――ゲーム時間は無制限。
さっさと試合を終わらせたい両者にとって、悪魔が過ぎるルールだ。
早期的にゲームを終わらせる方法は、二つ。
一つ、刑部姫が七海の追跡能力を失わせる(気絶)
二つ、七海が【鬼】として刑部姫を捕獲する
聞けば、このゲームもといルールを設定したのはカルデア側だという。
もし、このルールを作った人物と出会ったなら……七海は皮肉の一つや二つは言いたい気分だった。
「用意された勝ち筋が細すぎるんですよ」
憎たらしい程のゲームバランスに、七海の眦に忌々し気なしわが寄る。
もしもゲーム時間が有限だった場合、七海は刑部姫の姿を捉えることすら出来ない。
影に潜り、万能の折り鶴で居場所を常に特定されて、制限時間いっぱいまで気配を消される。
刑部姫が
そのおかげで今、七海は刑部姫を発見し……隠伏行為を禁じられた刑部姫を追いかけられるのだから。
「やぁぁぁーーー‼ 来てるぅうーー‼ なんで⁉ 姫、いま敏捷ランク上げてるのに⁉」
「……先程の威勢はどこへ行ったんですか」
「そんなもの! 姫の見せ場が終わった時点で、こたつに帰ったわ!」
「意味が分かりません」
一転した刑部姫の態度に、七海はため息が止められない。
なぜ
(あの緑色の光。あれの後、明らかに彼女のフィジカルが上昇した……)
それでも鍛え上げた肉体を更に呪力で強化した1級術師と、スキル【四神地相・西】で強化しただけの引きこもり英霊では、地力が違う。
腕を伸ばせば、ギリギリ指先が届きそう。
そんな距離になるまで刑部姫を追い詰めながらも、七海が
「いっけぇーーーーー‼」
息が苦しくなって顔を上げただけに思えた刑部姫が、空に叫ぶ。
すると枝葉に紛れていた白紙の鶴の奔流が七海を呑み込んだ。
肌に小さな切り傷ができる、その程度の攻撃力しかない折り鶴。
全身を呪力でガードすれば余裕で防げるが、その真意は追跡の妨害だ。
「ちっ!」
こそばゆい折り鶴の連撃に、七海は苦々しく舌を打つ。
刑部姫が隠伏行為を禁止された5分間、今こそが七海の唯一の勝ち筋。
対して刑部姫はこの5分を乗り切れば良い。
そしてまた七海の気絶を狙って攻撃する。
「――イタチごっこですよ」
七海が鉈を抜き放つ。
一体一体が細かい郡体に、【十劃呪法】は相性が悪い。
故に、七海は鉈に呪力を多めに注ぎ、力任せにぶん回す。
奔流の内部で荒れ狂った暴風が弾け、折り鶴が紙片と散る。
七海はパラパラと降り注ぐ白い雨の中に踏み出る。
視界を巡らせると、そう遠くない――5メートル程先の位置で、刑部姫はぜぇぜぇと四つん這いになっていた。
「ご、5分きっつぃ……も、もぅ走れなひ」
引きこもり生活か原稿生活のせいか。ともかく5分間の全力疾走は刑部姫の心肺には酷過ぎた。
「もう辞めにしませんか」
七海が一歩踏み出す。
刑部姫が力なく腕を振るうと、数羽の折り鶴が弾丸特攻するが――――七海の鉈を握る腕が消える。そして彼の背後で、はらりと墜落する折り鶴達。
「あなたの攻撃力では、私を気絶させられません。かといって、あなたに逃げを徹底されたら、私には打つ術がない。
「い、いや……貴方が手加減しなきゃ良いだけじゃない。さっきだって、その鉈でタッチすれば届いたのに」
息を整えて、刑部姫は諭してくる七海に反論する。
鉈を握れば、リーチが伸びる。普通に手を伸ばしてギリギリ届かないなら、鉈でリーチを補強すれば良い。
それをしなかった理由は、やはり先と同じ。
「それはできません。
何故なら、私には、子どものあなたの安全を優先する義務があります。
味方(労働力)になる予定の人材を傷つける馬鹿がいますか」
「なんか不穏なカッコが見えた⁉ いやそれより! なんなの、姫のことさっきから子ども子どもって! だから違うって! 何だったら、姫、あなたより長く生き」
「長く生きたかどうかは関係ありません」
「な、なら社会経験か‼ やっぱりそこでマウント取るんだ、この脱サラ呪術師ぃー‼」
「その呼び方やめてください、誰から聞いたんですか。そこも関係ありません。何故なら労働はクソだからです。あなたと私の差異は、それを体感したか否かに過ぎない」
「あれ~~~? 何だろう、この敗北感。『働きたくない』って所は同じはずなのに、重みが全然違う……」
「貴方が英霊であること、人ならざる長命だったとしても、私にとってあなたは子どもです。カセットテープを知らない世代が出てきた、日に日に生え際が後退してきた――――そういう小さな絶望が、人を大人にするのです」
疲労困憊、どちらも勝敗を決めきれないイタチごっこの状況、それでいて尚……少女の目には、勝機を探る光を宿していた。
勝敗と生死が重なっていないのなら、勝負などある程度の諦観で締めるべきなのだ。
ゲームの勝ち負けに熱くなる。
これを子どもと言わずして、何と言う。
「もう一度だけ忠告します。降参してください。それが互いのためで」
『――――四方を護りし清浄結界』
降伏勧告を紡ぐ口が、閉じられる。
額から玉のような汗を流す少女、そこから立ち昇る【神性】が、一節一節重ねる度に増していく。
『こちら幽世覚める高津鳥、すなわち私は八天堂。百鬼夜行の刑部姫……』
七海の奥底に眠る、人間の本能が叫ぶ。
人によっては一生感じることのない、本能の警告。
――――人智では到底及ばない【神秘】との相対。
七海は右足を引き、大きく半身を切った。刑部姫の反撃に供え、急所が集まる正中線を正面から外す。
その身に刻まれた生得術式が即座に起動。
視界に捉えた少女に、7対3の比率点が発生。
脇に差し込まれた鉈がボッ‼ と引き抜かれる。
居合の如き一閃が、刑部姫の体躯に創り出された比率点目掛けて駆け抜けた‼
『 千代に八千代に煌めいて‼ 』
刑部姫の溌溂とした詠唱が完了した刹那――――土中から湧現した白鷺の城郭が、七海の一閃を弾き返した。
最近、平行して書いてる一次小説でてんてこ舞いです。
週3更新、まもれてなくてすみません。
今日の深夜、出来たら2話目上げます。