Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
解体されるのは、九相図の次男か三男か!?
(あった……かい)
○○○○は、願いが達成された喜びごと、ずっと求めていた安寧に包まれていた。
暖かな原初の寝床。
聖なる杯に望み続けた安息の場所で、○○○〇は自身の両膝を抱えて、微睡む。
胸の内を満たす湯水のような幸福感に、閉じている目蓋がすぅっと和らいで。
――――〇〇ちゃん!
眉間に皺を寄せて、瞼をきつく閉める。
(だれ?)
――――〇〇〇〇ちゃん!
(誰なの? どうしてわたしたちを呼ぶの?)
どこからともなく聴こえてくる、自分達を呼ぶ声。
暖かな幸福感に満たされた胸中に芽生える、氷のような後悔が安息を乱す。
(誰なの? やめてよ、呼ばないで。ここで良いの。わたしたちはここにいたいの)
噛み締めた歯の隙間から荒く冷たい息を吐き、呼び掛けられる声にかぶりを振る。
土中に張り巡らされる霜のように、頭の中が凍りつく。
頭中の霜はキラキラと瞬き、瞼の裏からとある少女の姿を映して見せる。
茶色い瞳に、ぴょこんと跳ねた橙色のセミショートヘアー。
凡人なのに、只人なのに、幾多の困難を乗り越えてきた……笑顔が素敵な女の子。彼女に抱きしめられて、くすぐられて、溌剌に笑う別の自分達の光景を見て、〇〇〇〇は
(……いいなぁ)
少しだけ、羨んだ。
当然、母の内に眠れる現状こそ最も幸せな時だったけれど、それでも「ちょっといいな」と思うほどには、その光景は暖かだった。
そんな風に羨望に緩んだ〇〇〇〇の頬を――――薔薇の紋様が蝕んだ。
「
安寧の揺り籠が蝕まれる。
柔らかな頬が爛れる。
銀髪が腐る。
走る激痛に、氷が見せた幻影が朽ち果てる。
(いたい、いたい、いたい!)
母胎ごと自身を侵食する呪詛。
口から溢れた悲鳴が泡となって、羊水の中を駆け上がる。
『キャアアアアアアッッ!!』
子宮の中にこだます母の叫びに、微睡んでいた殺人鬼の目蓋が開かれる。
(許さない)
暖かな眠りも、冷たい羨望もかなぐり捨てて、殺人鬼は胎動する。
(わたしたちを、おかあさんを、虐めるな)
自らの願いを阻害する輩を解体すべく。
かつて霧の都を跋扈した殺人鬼が、呪霊の腹から産み落とされた。
*************
『ちょっとお遣い行ってきてくんない?』
ツギハギ顔の呪霊・真人は受肉した特級呪物『呪胎九相図』の壊相と血塗に、2件のおつかいを頼んだ。
一つは、八十八橋にある宿儺の指の回収。
二つは――――東京奥多摩に突如として現れた強大な呪物の調査。
『それって宿儺の指なんじゃないの? 兄さん』
『あぁ、その可能性の方が高い。が……そうじゃない可能性もあるらしい。あいつらの反応を見る限りな』
次男:壊相の問いに、長男:膨相は半信半疑といった不明瞭な答えを返す。
それは自分達を受肉させた呪霊側……真人とその一派ですら把握しきれていないということだ。その正体不明の、しかして宿儺の指と同等と思われる呪物。その詳細を。
『お前達なら、八十八橋に巣くってる呪霊は訳ないはずだ』
膨相は二人の弟である壊相と血塗に、兄弟への信頼を込めた眼差しを向ける。
百五十年間、呪物として封印されながらも、互いの存在を頼りに生存してきた。
だからこそ、宿儺の指一本分の呪霊に負ける筈が無いという信頼。
俺達は三人で一つだ。
長兄:膨相が繰り返し説くこの言葉が何よりの証左だ。
『実際に確認して宿儺の指であれば回収しろ。ただ、もしそれ以外の何かだとしたら……』
それでも尚、その信頼をも上回る懸念が、膨相の次の言葉に現れていた。
『血塗を連れて、すぐに退け』
壊相は杞憂と思いつつも、頭の隅に兄の言葉を留めていたが――――呪霊の腹から産み落とされた銀髪の幼女を認めた瞬間、悟った。
兄の言葉に、間違いは無かったと。
*************
「なんだぁ? ガキかぁ? なんか弱そうだなぁ? 兄者ァ」
「……血塗、少し下がりなさい」
血涙を垂れ流す虚空の眼孔の前に手をかざし、壊相は異形の弟:血塗を下がらせる。
ぴちゃりと。
羊水と産血の水溜まりの中で、幼女は屹立する。
(呪力が、感じられない……なのに)
幼女の全身から立ち昇る呪力に類似した何かが、壊相の本能に警鐘を鳴らし、注意深く相手を観察することを強いる。
裾が極めて短いノースリーブのジャケットに、ローレグのヒモパンという幼女にしては攻めた格好だ。
相対する壊相も、女物のボディハーネスにTバックという、逞しい筋肉美を惜しげもなく晒す格好ではあるのだが、両者の格好に眉をひそめる一般人(感性)はこの場にはいない。
「……おじさん達、なの?」
幼さの残る声が夜の奥多摩の森林にこだます。
腰に装備したナイフを両手に握り、幼女は切っ先を自身の背後に向ける。
月光に濡れる凶刃のギラツキを辿ると、そこには四つ目の呪霊が横たわりながら、下卑た笑い声を上げていた。
「おかあさんに、わたしたちに、痛いことしたのは」
幼女が母と呼ぶ呪霊は、青白い肌をした人型。
(見た目は八十八橋で祓った指の寄手と同じ……)
宿儺の指を宿した呪霊は姿形が統一される。だから、壊相と血塗は八十八橋でしたように、この呪霊にも自分達の血を浴びせ、術式を発動させていた。
「
「…………?」と、幼女は首を傾げる。
壊相は幼女の問いには答えず、術式の開示による能力の底上げに掛かる。
(得体が知れない。とはいえ、この小娘にも血が侵食していたのは幸運だった)
幼女の頬に浮かび上がる薔薇の紋様。
それこそ、壊相と血塗の術式が発動している証拠だった。
「私達兄弟どちらかの血を浴びれば、侵食箇所から腐蝕が始まります。そちらの呪霊なら10分、お嬢さんならばもって5分が限界でしょう。朝を迎えずとも、骨しか残りません。さてどうしますか?」
術式の開示が済んだ。
これで術式の浸食速度は更に加速する。
壊相は幾ばくかの達成感に口元を緩める。術式の開示を受けても、銀髪の幼女はただぼうっと突っ立っていただけ。
(縛りによる底上げを知らないのか? 何はともあれ、勝負はついた)
勝負の決着を一方的に断じた壊相だったが、いち早く周囲の違和感に気付いたのは弟の血塗だった。
「兄者……なんだぁ、この霧?」
「っ⁉」
幼女の放つ異様さが、壊相の認識を狭窄させていた。
三者が集うこの場の森一帯に、白い霧が広がっている。
霧の発生点は、ナイフを携えた腕をだらりと垂らす幼女の足元。
大気が、塗り替えられる。
幼女の殺意が、霧となって壊相と血塗を包み込む。
(生得領域の展開⁉ いや、違う。なんだ⁉ これは一体なんだ⁉)
「 此よりは地獄 」
霧がもたらすは、因果の混乱。
黄緑色の瞳が見据えるは、解体対象。
「 わたしたちは、炎・雨・力 」
それは放てば絶命必須の凶刃。
回避は霧が許さず、あらゆる防御は意味を為さない極大の『呪い』。
「 殺戮をここに 」
その『呪い』の真名は
「
幼女が、殺人鬼が露と消える。
壊相は消えた幼女の姿を捉えようと、辺りを見回して――――虚空に舞い散る鮮赤の雫が目に入る。
その雫は、否、水流は自身の背後から膨大に流れ飛んでいて。
「あ……にじゃ」
振り返れば、そこには肉片になりつつも最愛の弟が、掠れる声を絞り出していた。
「血ッ塗ゥゥゥゥウウウウウッッ‼‼‼」
変わり果てた弟の姿に絶叫する壊相の背中を目にして、殺人鬼は凄惨に嗤う。
「変な背中。解体してあげるね」
壊相のコンプレックスである、背中に浮かび上がった人間の顔。
異臭を放つその背中に向かって、横薙ぎの一閃が振り払われた。
ついに始まった、呪術キャラVS英霊。
やっぱり原作にない対戦相手を考えるの楽しいです。
ここからは週1更新、呪アニが放送された後にしていくつもりです。
よろしくお願いします!