Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第32話 骨折り損のくたびれ儲け

「ふぅん?」

 

 冥冥は支配下にあるカラスとの視界の共有を切り、上目遣いを送る女王を見据える。

 

 潤んでいるのかと間違えそうなほど、瞳が艶やかに輝いている。起伏に富んだ女体が間近に迫り、芳醇な色香が鼻をくすぐり、胸中を情欲に駆り立てる。

 

 常人ならば垂涎ものの誘惑に、冥冥は口の端を緩め、可笑しそうに見下ろす。

 

「釈迦に説法かもしれないが、【他者間の縛り】は呪術において、かなりハイリスクでね。破ればどんな不利益を被るか分かったものじゃないんだが……」

「契約不履行には厳罰を。そんなの、どこの世界だって一緒ですよぉ。もぅ、冥冥様ったら」

 

 ほんの数分前に比べて、露骨に甘味成分の増した声音で、シバは冥冥の肩に指先を立てる。つぅ……っと、肩から手の甲まで指を這わせ、冥冥の手の平にそっと重ねる。

 

 頬杖を突いたまま涼しい顔で、冥冥はシバの女王の五指を絡みつかせた。

 

「――詳細は?」

「あなたがマスター、私はその使い魔とする契約です。マスターには令呪という使い魔への絶対命令権が授与されます。本契約なら三度の命令……ですが、今回の契約では一度だけ」

 

 ――――三騎。

 藤丸立香がマシュ以外に、この特異点に完全同行可能なサーヴァントの数だ。

 

 しかし、鬼一法眼を頭とした呪術解析班は、新たなルールを見つける。

 現地の呪術師を仮マスターとした場合、最大三騎の上限を破れると。

 

 一人の呪術師に一人のサーヴァントを契約させれば、その分こちらの世界に現界できるサーヴァントを増やせるのだ。

 

「なるほど、それで私に」

「えぇ、そうです。現在、確定してる組み合わせは七海さんと刑部姫さんですねぇ。刑部姫さんの千代紙操法は大変有用なので」

 

 同行可能な英霊に制限が無いと思われていた今回の特異点だが、ある程度の制約は存在していた。

 ・高ランクの神性を持つサーヴァント 

 ・宝具、ステータスがEXランクのサーヴァント

 

 この条件を満たすサーヴァントはレイシフトさせるのに、多くの時間を使うのだ。

 

 ダウンロードの読み込みが極端に重い、と言えば良いだろうか。

 刑部姫の千代紙操法はEXの判定を持つスキル。

 カルデア的には、彼女は帰還させず、そのまま呪術師の誰かをマスターにして現界させた方が得だった。

 

「それで、どうして君は私と契約を?」

「あなたがどこの陣営にも属していなこと。情報収集力が優秀な術式。そして……お金が大好きなこ・と」

 

 絡みつき、撫で回していた冥冥の手がしっかりと組み合わさって、握られる。

 イヤリングが煌めく耳元へ、シバの女王は身を乗り出して、吐息を吹きかける。

 

「分かりますの。私、契約とお金にうるさい魔神の子として生まれたので」

 

 冥冥の腕に密着し、圧しつけた双丘が柔く潰れる。

 尻尾が揺れ動き、耳をひくつかせ、シバの女王は契約のメリットを売り込んでいく。

 

「私、生まれが特殊でして。ちょっとした『未来視』が出来るのですよ」

「へぇ、それは……なんとも魅力的だね」

「でしょう、でしょう。ですから是非、私と」

 

 

「――その見返りに、君達は私に何を求めるんだい?」

 

 

 一瞬、少女のように純朴に輝いた顔が、笑みを咲かせたまま固まる。

 冥冥はふふっと頬杖をやめて自由になった手で……シバの女王の頭を撫でた。

 

「ひぁっ⁉」

「当ててみようか。まずは御三家への隠匿」

「ちょっ、ちょっとぉ、耳は……」

「先の二戦、こちらの実力を測るためとはいえ、勝ち方が派手過ぎた。

 呪術高専と御三家は別系統の組織だ。五条家は気にしなくて良いが、禅院家と加茂家が何らかの接触を図ってきてもおかしくない」

「ひゃんっ! あっ、ふ、ふふふっ、くすっ、くすぐった……⁉」

「確かに私の術式なら、御三家の動向くらいは掴めるかもしれないが……当てが外れたね。それだけは、どれだけ金を積まれてもやらないよ」

 

 ケモ耳を丹念に愛撫した冥冥は、あっさりとシバの女王から離れる。

 傍らの手すりに立てかけていた長柄の戦槌を持って、くるんとバトンのように回す。

 

「黒烏達が【宝】を見つけた。見つけ次第返すよ。下手に受け取って、契約を迫られては困るからね」

 

 微妙に頬が火照ったシバの女王は手すりにしな垂れかかると、清水の舞台を後にしようとする冥冥の背中を半目で睨む。

 

「……それだけ厄介なのですか、御三家は」

「いや、君達はあまり気にしなくて大丈夫だろう。ちょっかいは掛けられるだろうが、()()()()()()()()()、禅院家と加茂家は大きく動かないから」

 

 三つ編みの簾が振り返りざまに大きく揺れる。

 冥冥はイヤリングを見せつけながら、シバの女王に流し目を送る。

 

「報酬ありがとう。契約通り、ここで話したことは他言しないよ。――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 冥冥の姿が消える。

 静まり返った清水の舞台に残されたシバの女王はため息交じりに立ち上がり、

 

 

 

「 ()()()()()()()() 」

 

 

 

 女王の御身を守護する、強大な霊鬼(ジン)達が煙を撒き散らしながら現れた。

 

 エハッド・シュタイム・シャロッシュ。

 

 宝具【三つの謎かけ(スリー・エニグマズ)】の要となる、難題=剛拳を繰り出す霊鬼達を侍らせて、シバの女王は胡乱気に森を見下ろす。

 

「骨折り損のくたびれ儲け、ですねぇ」

 

 パチンと指を鳴らす。

 森を徘徊していた小さな煙人形の霊鬼が一瞬で霧散し、森が白煙に覆われる。

 その白煙の上で、カラス達がカァカァと鳴き、けたましい羽音を羽ばたかせていた。

 

 呪術高専・カルデア交流試合 

 第三試合 冥冥 VS シバの女王

 勝者――冥冥

 

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