Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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今までと比べるとちょい長いです。
すみません。


第3章 メカ丸救出編 
第39話 新たな日常


『いぃーま何十ぅ~~連?』

『ぼーまぼまぼ麻婆ぼぼ』

 

 低級呪霊の戯言が月明かりに照らされる。

 振るわれた黒剣が白い月光を遮った瞬間、呪霊は両断。

 消滅の白煙が月だまりの中に残された。呪霊の消滅反応に振り返ることなく、伏黒は両側に墓石が立ち並ぶ道を駆け抜ける。

 

 目指すは、霊園奥にある御神木。

 そこの注連縄を外すという肝試しが流行ったせいで、発生した呪霊の跋祓が伏黒達の任務だった。

 

(墓石壊してねーだろうな、あいつら)

 

 呪霊の祓除(ばつじょ)で起こった現地の破損は、伊地知等の監視員が大変複雑な事務処理をこなした上で、弁償・修復される。

 廃ビルや廃テナントなら、そこまで物を壊しても問題にならないが、学校や今日のような霊園だと少し事情が込み入ってくる。

 伊地知の胃と豪快(ガサツ)な虎杖達への憂慮が駆ける足を早める。

 しかし、それは杞憂だったと、伏黒は知る。

 

「――虎杖」

「おっ、伏黒。そっちもう終わった?」

 

 四方に立ちこめる呪霊の消滅煙の中で、虎杖が何の気なしに手を振る。

 伏黒は「あぁ」と返事をしつつ、虎杖の周囲に視線をやる。

 呪霊の肉が墓石に飛び散っているが、墓石には傷一つ付いていない。打撃の最高威力が呪霊の体内で炸裂するように調節したからだ。

 

「……お前って意外と器用だよな」

「そうか? まぁ、人の墓だし。あんまり壊しちゃ駄目なのは分かってるよ」

 

 少しの寂寥を漂わせて、虎杖の細めた目が情に満ちる。そんな虎杖の横顔を、伏黒は苦い表情で見つめる。

 虎杖が善良な人間であることはとっくのとうに知っているし、心根が変わっていないのも分かっている。 

 

 伏黒の苦渋の源は――――虎杖の『呪術師』としての成長スピードだ。

 以前までは呪力操作も戦い方も、パワフルな印象だった虎杖。しかし、奥多摩の一件以降、呪力操作に繊細さが加わった。

 ジャック・ザ・リッパ―戦で再発したことを切っ掛けに、今では悪癖だった『逕庭拳』を制御可能している。

 淀みない呪力操作と生来の膂力、虎杖の実力は間違いなく1級に達している。

 それに比べて遅々とした己の成長速度が、伏黒の顔を渋くさせていた。

 

(――任務中だ)

 

 頭を振って、伏黒はこの場に見えない釘崎の所在を虎杖に訊ねる。虎杖の話では、もう釘崎は奥の神木の方へ行ってしまったという。

 2人が走り出したタイミングで、月が雲に隠れた。

 夜の闇よりも黒く浮かび上がる神木のシルエットへ向かうと……聞き慣れた、勇ましくも品のある声が飛んできた。

 

「そっち逃げたわよ! ――()()()!」

「はいっ!」

 

 雲が晴れ、月明かりが差し込む。

 伏黒と虎杖の頭上を飛び越す蛙の呪霊を追いかけて――――跳躍したマシュが盾を振り下ろした。

 盾の十字杭がふくよかで粘り気のある呪霊の背中に突き刺さる。

 

 ズンッ! と霊園の道にクレーターを穿ち、盾杭が蛙を張りつけにした。

 立ち上る白煙を払いもせず、マシュは消えゆく呪霊の血肉を見下ろす。

 

「呪霊の消滅反応確認。戦闘を終了します」

 

 任務完了を意味する報告を告げて初めて、マシュは耳にかかる紫髪を指で梳いた。

 顔を上げると虎杖と伏黒がいたことに気付いて、笑いかける。

 

「お疲れさまです、虎杖さん。伏黒さ……」

 

 グラリ、とマシュの近くの墓石が傾いた。

 ドミノ倒しのように墓石が倒れる。

 口を丸くして目を見開くマシュを見て、伏黒はため息交じりに額を手の平で覆った。

 

「やばいやばいやばい!」と虎杖が倒れた墓石を起こし、「どうしましょどうしましょ!」とマシュが割れてしまった墓石の破片を組み立てようとする。

 

「ちょっとマシュ―? 仕留めそこなってないでしょうね……ってうっわ、あんた何してんの⁉」

 

 御神木の方からやってきた釘崎が事態に気付いて、慌てて駆け寄る。

 伏黒は淡々とスマホのシャッターを切って、壊れた墓石の現状を撮る。

 

(伊地知さん……の前に)

 撮った写真を送ろうとして、思い留まる。

 伊地知より先に、今回の補助監督に連絡すべきだと気付いたからだ。

 そうして伏黒は送信先を伊地知から――――藤丸立香に変更した。

 

 

 ***********

 

「闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え」

 

 呪力を載せた言霊が、藤丸の唇から紡がれる。

 呪術高専の制服に似せた【呪術礼装】に0から術式が構築。流れた呪力が【帳】を形成し、霊園を取り囲む。

 

 そうして車内で待つこと20分。

 

「うわっちゃ~、また伊地知さんに報告しなきゃ」

 

 伏黒から届いた任務完了の知らせと添付された写真に、藤丸は頬を掻いた。【帳】を上げてから、伊地知に倒壊した墓石の写真を転送する。

 

 助手席で報告書とお詫びの文をスワイプ入力していく藤丸。

 しかし不意に藤丸は居住まいを正すと、()()()()()()()()()()()()()()()()に、抗議の目を投げかけた。

 

「そんなジッと見ないでよ――荊軻」

「いや、なに。随分、補助監督の仕事に慣れたなと思っただけだよ」

 

「仕事なんて。事務処理は伊地知さんがやってくれるし、運転だって荊軻任せだし……そんな大したことしてないよ、私は」

「ふふっ、その謙虚さは変わらないね。補助監督になってもマスターになっても」

 

 黒スーツに彩られた荊軻の微笑みは崩れない。当世風にスーツ姿になった荊軻は凛々しく大人の余裕もあって……バリバリのキャリアウーマンに見えた。

 

「荊軻の方が仕事できそうな感じだけど」

「私に書類仕事は無理だよ。友と語らい、酒を愛し、書を嗜む。そんな生き方しか知らないからね」

「……謙虚なのはどっちよ」

 

 中華の歴史を一変させたかもしれない天下の義侠にジト目を送る藤丸。すると助手席側の車窓がこんこんと軽くノックされる。

 音に反応して振り返った藤丸は……窓向こうに映る狐耳にギョッとし、慌てて車外に飛び出る。

 

「そんな慌ててどうしたし」

「鈴鹿ちゃん! 耳隠してって! 人に見られたらどうすんの!」

 

 藤丸はそう言って、狐耳と尻尾が生えていることを除けば日本のJKそのものと云った出で立ちの英霊――鈴鹿御前の肩を揺さぶった。

 がくんがくんと頭を揺らされる鈴鹿だが、「アハハこれウケるー」と軽い笑い声と明るい笑顔を浮かべるのみだ。

 

「だいじょぶだってぇ~、一般人に見られても『よくできたコスプレ』としか思われないし。ていうかぁ! 私、マスターとおソロの制服着てんのエモくない⁉ マジバイブス上が」

「耳ぃ! ピコピコ動いてるから! 尻尾ユサユサしてるから! 明らかに『よくできたコスプレ』の範疇越えてるから! バイブス下げてぇ!」

 

 藤丸がここまで鈴鹿に慌てている理由は、伊地知への心配からだった。

 ただでさえ墓石破壊の件で申し訳無いのに、鈴鹿の耳関連で騒ぎにでもなったら、居たたまれなくなる。

 

 そう思っていたところで、スマホが震える。伊地知からの返信だった。

 

『藤丸さん。お気遣いどうもありがとうございます。私は大丈夫ですよ、五条さんの無茶ぶ……指示に比べたら全然。それに最近、仕事が無くなったら何もすることが無い自分に気付いてしまったので寧ろありがたいというか』

 

「伊地知さぁぁーーーーーん!」

 

 彼の計り知れない心労に、藤丸は涙が零れた。

 膝から崩れ落ちる藤丸を指さして、鈴鹿は車内に向かって声を掛ける。

 

「荊軻ぁ。マスターどうしちゃったのこれ? 伊地知ってオッサンだったよね、あれ、マスター渋専だったっけ?」

「いや純粋に尊敬しているんだろう。彼の補助監督セミナーは良く出来ていたからね。後はまぁ、共感(シンパシー)というやつかもしれないな。それで? 調査の結果は?」

 

 荊軻の視線が後部座席を経て、霊園の近くにある廃デパートの方角へ注がれる。鈴鹿は肩をすくめて顔を横に振る。遅れて赤みがかった長髪がさらさらと揺れた。

 

「まーた外れ。ねぇーほんとにいんの? そのメカ丸って奴?」

「存在はしているだろうよ。高専に報告されていた居場所を見ただろう。明らかに移動した痕跡があったからね。何せ術式が術式だ、幾らでも応用は効く」

 

 呪術高専2年『メカ丸』。本名:与幸吉。

 傀儡を操作する術式で、本人には生まれつき移動能力が無い。

 高専に事前報告されていた彼本体の居場所はもぬけの殻だった。内通者であることは確定だが……現状、捜索は難航していた。

 

「あのジジィ当てずっぽうで調べさしてないでしょーね? そうだとしたらマジで腹立つ」

「なに、そう不安がることは無い。彼の智謀はある程度は信じられる。心根は一切信用できないが」

「だから不安なんだけど……まぁ~いいやぁ。難しいことは任せるわ、私は言われたことだけするし」

 

 根っこの生真面目さを感じさせる鈴鹿の思考を放棄した態度に、荊軻は「それが良い」と目を瞑って頷く。

 

 報告のやり取りを終えて、二人の間に静寂が訪れるがほんの一瞬のことだった。

 霊園からマシュと虎杖達が出てきたからだ。

 

「マシュ~~! あれだけ加減してって言ったのにぃ~~」

「ご、ごめんなひゃぃせんふぁ」

 

 藤丸にもにもにと頬を引っ張られるマシュ。

 

「あっ、野薔薇ぁー。任務上がり? 乙―」

「鈴鹿。あんたも調査終わった? じゃあこの後、付き合いなさいよ、バレンシアガの新作バッグ出てさぁ」

「えマジ⁉ 行くし行くし!」

 

 ブランドの新作バッグにテンションを上げる鈴鹿と意気投合する釘崎。

 

「今度こそ真っすぐ高専に運んでくださいよ。居酒屋に行こうとしないでください」

「固いなぁ、少年。ぶらりと遊興に興じるのも、稽古の内だよ」

「……ぶらりじゃ済まないんだよ、あんたの酒に付き合うのは。だいたい未成年を連れ込まないでください」

 

 目元に怒りのしわが浮かぶ伏黒を、ニマニマと頬杖を突いて見上げる荊軻。

 

 藤丸はマシュと、釘崎は鈴鹿と、伏黒は荊軻と。

 各々に契約したマスターとサーヴァント同士のやり取りが、霊園前に駐車した車の周囲で交わされる。

 

 その空気にあぶれた虎杖は……

 

    「さみしい‼」 

 

 正直に自分の胸の内を叫んだ。

 




昨日は更新できず、申し訳ありません。3章のプロットの組み立てが上手くいかず……
でも、なんとか書き出せました。ライブ感の2章から一転、ちゃんとします!

そして、他の作品の執筆事情のため、週1の1話更新にさせていただきます。
更新日は土曜の25時。
1話更新に変わりましたが、その分、1話あたりの字数を増やしました。
でも長さを考えて、2話分割するかも……今後ともよろしくお願いします。
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