Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
「で、連れてきちゃったの? 彼?」
「だって……野薔薇ちゃんは鈴鹿ちゃんと一緒に買い物行っちゃったし、伏黒君は荊軻に連れて行かれたし……虎杖君だけ残して行けなくって……」
「お邪魔しまーす! うはぁ本当にバーだ、すげぇー! なんかドキドキするな!」
「はい、バー特有の雰囲気というか……私も未だにソワソワしちゃいます」
「そうだねぇ、マシュ君はノンアルコールカクテルを振る舞っても場酔いしちゃうからね。ところで語尾の悩みは解決したかな?」
その瞬間、マシュの頬があっという間に朱に染まり、余計なことを口走ったバーの店主の名を責めるように呼んだ。
「~~っ! モリアーティさん!」
いつの間にか新宿に店を構えていたその英霊は、高笑いでマシュの叫びに応えた後、どことなく固い表情の虎杖にカッコつけた礼をする。
「さて、君とは初めましてだね、虎杖悠仁君。私はジェームズ・モリアーティ。見ての通り、バーを営んでるしがない老紳士さ。ま、そう気を張らずにリラックスしたまえ」
「そうそう。気軽に『アラフィフ』って呼んで良いから。」
「マスター君⁉」
「……ははっ、なんかやっぱすごいな藤丸は」
そうして藤丸達3人にノンアルコールカクテルを振る舞ってから、モリアーティは鈴鹿達の調査結果を伝えた。
「ふむ、では、地下駐車場の機械室にもいなかったんだね、
「幸吉? 誰?」
虎杖の呈した疑問に、藤丸は意外そうに目を丸める。
「知らないの? ほらペッパー君みたいな……あの中身の人」
「あぁ、メカ丸か! 俺あんまり面識無いんだよなー、京都校の人だからさ。なに? 藤丸達、メカ丸探してんの?」
「五条さんのお願いで……でも手がかりが無いんですよ」
メカ丸、もとい
術式:傀儡操術。己の作成した傀儡を操るのだが、特筆すべきはその捜査範囲。
「日本全土から傀儡を操作できる。操れる傀儡に条件は無し。究極、蚊のようなサイズでも術式対象、か。――――なにそれめちゃめちゃ楽しそうな呪術じゃない?」
「こら、犯罪コンサルタント。悪い笑顔してんじゃないよ」
ジェームズ・モリアーティ。
世界的名探偵シャーロックホームズの宿敵にして、『完全犯罪』のプランを依頼者に提供する組織を運営していた。その規模は当時のヨーロッパ全土に網が行き渡るほど。
そんな彼からしてみれば、与幸吉の【傀儡操術】は悪魔的魅力であろう。
「内通程度で済ますなんてもったいない……っ! 私であれば、彼の能力をもっと有効に」
「シャラーップ、アラフィフ」
そんな犯罪界のナポレオンの口を物理的に塞ぐ藤丸。マシュと虎杖では、決して真似できない所業だ。
冷静になったモリアーティは咳払いを一つ挟んでから、容疑者のおさらいに戻る。
「まぁ、代償を鑑みると妥当なギフトではある。【天与呪縛】とは、よく言ったものだよ」
広大な術式範囲と膨大な呪力と引き換えに、与幸吉は生まれながら右腕と腰から下の感覚が失われており、肌は月光に焼かれるほど脆い。
マシュの顔色に僅かな沈痛の色が混じる。虎杖や藤丸とはまた違った曇り方は、彼女が彼の境遇を他人事とは思っていない証だった。
「どうして……幸吉さんは呪詛師と呪霊連合と通じたんでしょう」
ぽつりと問いがこぼれ落ちる。
藤丸とマシュはここ数カ月に起きた高専の出来事を資料で確認済だった。
魂を歪める術式を持つツギハギ顔の呪霊。
大地の畏れが具現化した火山頭に、星を慈しむが故に人間の滅びを望む森の呪霊。徒党を組んだ特級呪霊の連合と、それに入れ知恵する呪詛師。
明らかな人類の敵にどうして、人間である彼が協力したか。
その理由をマシュは理解できず――――モリアーティはあっさり言い当てた。
「体を治してもらうために決まってるじゃないか」
盲点を突かれて、曇っていた三者の顔がそれぞれ晴れる。モリアーティはグラスを拭きながら、理路整然と言い当てる。
「資料では、ツギハギ顔の術式【無為転変】は魂に干渉することで肉体を操作する術式だ。歪めることができれば、治すことだってできるだろう。だから体の治癒を交換条件に、情報を提供する【縛り】を結んだ。『内通』という犯罪に走るには、納得のいく動機だとも」
「――それでも、あいつは駄目だ」
ギチィ! と、拳が堅く握り締められる音がマシュの傍らから響き渡る。虎杖は脳裏に蘇る真人の大笑いを描きながら、沸々と口を開く。
「あいつはそんな約束事を守る奴なんかじゃない」
「だろうねぇ。体を治した後に殺せば、【縛り】を破ったことにはならないし……それは幸吉君も理解しているだろう。だからこそ」
一度、言葉を区切って、モリアーティは静かに磨き上げたグラスをバーの棚に飾る。
そして断言する。
「彼は間違いなく戦う準備をしている。だからこそ、潜伏場所は
それを聞き、藤丸は今日調べてきた場所を思い返す。
廃デパートの地下駐車場なら、傀儡の置き場所に困らない。その機械室は、メカ丸本体が隠れるには絶好の条件だ。
思い返せば、これまで調べてきた場所は全て、モリアーティが口にした条件に当てはまっていた。
「そしてこれまでの呪霊連合の動きからして、東京で何かを起こそうとしているのは明白。何故ならここには五条悟がいる。彼をどうにかしなければ、悪事なんて起こせる筈無いからね。ならば彼らの都合を考えれば、東京近辺・少なくとも関東圏には潜伏してる筈だ」
日本全土という広大な捜査範囲。
しかしメカ丸の側からではなく、
なぜなら、体の治癒という【縛り】を成立させるためには、
「東京から近すぎず遠すぎず、尚且つ、幸吉君が潜伏できて多くの傀儡を隠せる場所。それでいて一般人が訪れない場所といえば……ここだろう」
同じ悪側だからこそ、モリアーティはその心理を追いかけ、更には不確定要素まで計算して与幸吉の居場所を特定していく。バーテンの制服ポケットからスマホで検索し、マップでその場所を示す。
その場所は――――山間部に放置された、廃ダムであった。
「さぁ、明日はこの場所に行くよマスター君。少々急がなければ……幸吉君の身が危ないかもしれない」
こうして10月18日と19日、モリアーティの店は休業した。
虎杖はモリアーティの運転する車に乗った藤丸とマシュを見送ってから、LINEで助けを求めてきた伏黒のヘルプに向かった。
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「こ、腰が……! 長時間の運転が祟った……っ!」
「がんばれアラフィフ頑張れ! アラフィフは今までよくやってきた! 見てきたもん、分かるよ! アラフィフはできる人! だから今日も! これからも! ヘルニアになっていても! アラフィフの腰が砕けることは絶対に無いっ‼」
「君に私のことを断言されたくないんだが⁉ というかちょっと楽しんでいないかい、マスター君⁉」
「あ、見えてきました! ダムです! モリアーティさん、あともう少しですよ!」
カーブが連続する山道が腰を追い詰める。けれど、そのカーブを迎える度に、山間に建てられたダムの全容が見えるようになってきた。
夜遅くの出発だったため、時刻は日付を越えて10月19日を迎えていた。
「ところでさ。これで幸吉君いなかったら、アラフィフどうする?」
「とんでもないタイミングでの『ところで』だね、マスター君⁉ 私、もう帰りたくなってきたんだが⁉ あっ! 運転できるの私だけか! アハハハハハハハハh」
次瞬、車窓に映る景色に起こった変化が、モリアーティの悲し気な高笑いを止める。
――――ダムの向こう側に、巨大な水柱が立ったのだ。
水柱から現れたるは、ダムの高さを超す巨大な機械傀儡。その傀儡がダムの上にいる何かに向けて、手の平を向け……爆炎を放出。
ここまでの道中で蓄積された腰のダメージは、無駄ではなかった。