Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第43話 宵祭り―独りぼっちの祭囃子

 嫉妬・恨み・失恋。

 恋愛に関するトラブルで女性が妖怪変化する物語は多く散見される。

 能面の般若面が代表的だが、かの茨木童子は、元は美形の男性だったが、自分が振った女達の妄執によって鬼化したという俗説がある。

 

 しかし鬼になるならともかく――――恋焦がれた末のあくなき執念によって火炎を吐く大蛇……【竜】に変化したのは清姫だけである。

 

「清……姫っ、さ」

 

 苦鳴を上げるマシュの、四肢を、喉を絞め上げる大蛇。

 その鱗はマシュに宿るギャラハッドの守護が無ければ、燃え焦がされる程の高温を帯びている。

 

 その大蛇はかま首をもたげ、絞めつけた獲物を頭から飲み込もうと、大口を開ける。その口腔の奥底では青き炎が炉心の如く燃え盛っていた。

 

「俺の術式は【魂】に触れて、その形を変えれる。けど英霊の場合、俺が干渉できるのは【霊基】らしいんだよ」

 

 マシュの背後から現れたもう一人のツギハギ――ツギハギBが語りながら、マシュと戦っていたツギハギAへと歩み寄る。

 

 ツギハギAは小気味よく手を合わせて、Bの言葉を取り次ぐ。

 

「そいつの宝具、【転身火生三昧】……だっけ? 人の姿より断然そっちの姿の方が好みだから、そういう風に改造したんだ」

「どう? けっこう良くできてない? 宝具の常時発動ってかなり手間でさぁ。出力とかサイズとか削ってよーやく再現できたんだわ」

 

 マシュは歯を噛みしめ、眦を吊り上げて、二人並んだツギハギを睨む。

『この存在を、これ以上野放しにしてはいけない』という正義感が、酸素を絶たれた五体に力を漲らせ、巻き付く蛇体を解こうと、

 

「ま、すた……ぁあ?」

 耳元に吹きかけられる、火の粉混じりの言の葉が、マシュの眼を見開かせる。

 

 明らかに意志を喪失している、空虚で無意味な残り滓のような言葉。

 

「ぃか……な、で。にげ、なぃで」

 

 それでも大蛇は繰り返す。

「ます……たぁ、ますっ……たぁぁぁああ」

 

 己が絞めつけているのがその者でないことにも気づかず――その名を呼び続ける。

 きつくきつく絞め上げて、絡みついて。

 逃がさないように、遠くへ行かせないように。

 

「~~~~っ」

 言葉にならない苦渋を、マシュは飲み込む。

 漲らせた力が揺れて解けて、弱まっていく。

 

「――――つまんな」

 

 その様子を見守っていたツギハギ達は二人そろって失望を露にする。

 

「せーっかく英霊同士の殺し合い見れると思ったのになー」

「言っとくけど、放っておいても清姫(そいつ)直に死ぬよ? そこら辺は改造人間と変わらない」

「さっきまでは結構、良い殺意(きあい)だったのに。そんなに正当性欲しい? 自分が100%正義(ヒーロー)じゃないと戦えないタイプ?」 

「ガキかよ。これなら虎杖悠仁の方がまだ冷酷(マシ)だわ」

 

 腕を組み、長くため息を吐き、白けた顔で空を仰ぐツギハギ。

 マシュは何も言い返せず、せめて気道の確保を、と首回りの胴体を引き離しにかかったところで―――――三人の頭上を無数の影が覆った。

 

 それは、白昼駆け抜ける百鬼夜行。

 夏油傑が、藤丸立香抹殺のために遣わせた呪霊の大群だった。

 森の方へ飛んでいく呪霊達。マシュとツギハギは揃って視線で追いかけ、ほぼ同タイミングで呪霊の目的を察する。

 

 しかし同じ反応はここまで。

 

 マシュの相貌はサァッと青ざめていくが――――ツギハギの相貌はニィタァァァと口角を吊り上げていった。

 

「なぁ、良いこと思いついたんだけど」

「あぁ、分かってるよ。当たり前だろ?」

「そりゃそっか。じゃあ……術式有り(おれ)はあっち」

術式無し(おれ)はこっちで」

 

 途端、ツギハギBが呪霊の大群を追いかけて走り出した。

 ツギハギBは首だけ振り返り、呵呵大笑しながら、マシュに向かって宣告する。

 

「楽しみに待っとけ、マシュ・キリエライト‼ 清姫(そいつ)の次は藤丸(マスター)をけしかけてやるから」

「わぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ‼‼‼‼‼」

 

 怒号を張り叫び、マシュは渾身の力で腕を広げ、清姫の蛇体を弾き飛ばした。絞めつけから逃れたマシュは咆哮したまま全力疾走するが――――背後から伸びたツギハギAの手がマシュの髪を握り掴んだ。

 

 手首を捻じり、ぶちぶちぶちと引き千切りながら、ツギハギAがマシュを野球ボールの如く投げ飛ばす。後方へ放られたマシュは空中で態勢を整え、ズザザザザザッ! と着地する。

 

「どけぇええええええええええええええええええええええええ‼‼‼」

 

 盾を正面に構えたまま、弾丸の如くツギハギに突撃するマシュ。

 しかし、そのツギハギの前に立ち塞がるように、清姫が這い出てきた。

 そうして、大口をガパリと開けて…………【竜】の息吹が吹き荒ぶ。一条に伸びる蒼炎は、憤然としたマシュの突進完を完全に殺し、容易く押し返していく。

 

(なんて火力! とまらなっ)

 瞬間、盾の向こうで竜の息吹が爆発。

 マシュは吹き飛ばされ、地面に転がされていく。

 

「ぅ……」

 鼻腔を貫く、人肉の焼け焦げた匂い。顔を上げると、空気中に飛散した脂肪が唇をベタつかせた。ツギハギの攻撃によって作り出された、あちこちに肉がへばりついていた地獄同然の光景は、【竜】の一吹きで火炎地獄と化していた。

 

 パチパチと爆ぜて揺れる焔の向こう、高熱によって歪む空気の向こうで、ツギハギは清姫を侍らせながら手招きする。

 

(……先輩)

 マシュが見た最後の、藤丸の姿。その背中と橙色の髪を思い出して、マシュは立ち上がる。

 

「敵性呪霊『ツギハギ』、改造英霊『清姫』を確認」

 

 閉じた目蓋を開けた時、そこに薄弱の輝きはもう無かった。

 

「――戦闘を開始します」

 

 盾の長杭を構えて、マシュは呪霊と竜に立ち向かった。

 

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