Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
妖精円卓領域がいけないんだ……あんなに面白いのがいけないんだ……
整備されていない、凹凸だらけの剥き出しの大地を蹴りつける。
「――っ、――っ、――っ」
腕を振る度に、湖の水を吸った高専制服の袖から水滴が飛び散る。汗か水滴かも分からない滴が目の端を掠れる。
肌は冷えているのに体の奥底が熱い。
酸素を求める肺が苦渋にあえぎ、中心に引き絞られていく。
「――――っ!」
それでもがむしゃらに腕を振り、歯を食いしばり、カッと目を見開く。
思考は要らなかった。ただ体の叫びに委ねることが、現況の最適解だから。
生きたい
生きたい
死にたくない
いつもは後輩の前だから律していた足を、いつだって本当は逃げ出したかった足を、存分に走らせる。
背後からは様々な声が聞こえた。
ぶちゅりぐちゅりと嫌悪感を逆撫でる怪音が。
意図が明らかじゃない、不吉な問いかけが。
雄叫びを上げながら木々を薙ぎ倒す轟音が。
どこから響いてきてるか分からない哄笑・狂笑・嘲笑が。
藤丸の命を刈り取ると告げる。
特に意味も無く。
ただ弱者である『人間』を弄ぼうという本能に従って、134体の呪霊が追いかけてくる。
怖気が脊髄を這い上がった
膝の内側から生じる震えが足をもつれさせようとしてくる。
「うご……っけ!」
ガン‼ と自分の膝を殴りつける。
崩れてる暇は無いという言の葉を拳に閉じ込めて、殴る。
逃げたがっていた足が、生きたがっている体が、諦めて黙らないように――――――
『ねぇ』
ソレは唐突に、藤丸の前方に立ち塞がった。
直後、藤丸は肌に吸い付く制服越しに、この辺り一帯の空間が切り替わった感覚を味わう。
(これって……領域⁉)
見開いた藤丸の黄色い瞳に入り込むように、女の姿をしたソレは顔を近づけた。
『わぁぁああたしぃぃぃぃぃ、きれぇぇええええぃ?』
髪に覆われた口がガパリと開いて、人とは思えない鋭さの歯から白い線が垂れ落ちる。頬に振りかかる生温かな吐息に、びくりと肩が跳ねあがって……そのまま藤丸は呪霊の眼前に指先を突きつけた。
「ガン」
ド、と唱えようとして――――藤丸は咄嗟に唇を噛んで詠唱を中止した。
そうして今も藤丸の首を縛る特級呪物【下閾乃鐘】を睨んだ。
(これさえ無ければ……っ‼)
藤丸の脳裏に、解除できなかった忌々しい呪物の詳細と、五日前のやり取りがよみがえった。
****************
特級呪物【下閾乃鐘】。
その効果:鐘の音を聞いた装着者の意識消失。
術式効果だけで云えば1級程度。
しかし下閾乃鐘が特級足る所以は『相手に不利な条件を一方的に設定できる』点だ。
「駄目ね。この鐘、魔力に反応して音が鳴るようにされている」
今にも鐘に触れんとしていた【
「それはつまり……【
10月14日。高専の学生寮、藤丸マシュの部屋にて。
マシュは朝方、レイシフトされてきたメディアにそう問いかけた。
するとメディアは頭を振って、
「解除そのものは可能よ。問題は『魔力に反応』するという点」
【
「あー……そっか。【
「そういうこと」と言って、ベッドに腰かけていた藤丸の隣にメディアが並んで座る。
するとマシュはそそくさと立って、藤丸の左隣に移動する。
「? マシュなんで隣……」
「音が鳴るということは先輩の秘匿死刑が実行される。ということは」
「えぇ、そうね。五条悟が刺客となる」
「あの、私を挟んで話さないで?」
現代最強の呪術師、その実力は並大抵のサーヴァントでは太刀打ちできないレベルだった。かといって、五条に対抗できるサーヴァントを召喚するには時間が足りない。
その理由は。
「二人に聞くけれど、
メディアの問いに、藤丸は自身の令呪を、マシュは部屋の壁に立てかけてある円卓の盾を見つめる。そして同時に首を振った。
全ての英霊が集いし最高の触媒『円卓』と藤丸の令呪を用いて、二人は幾度となく英霊召喚を実行していた。
藤丸の令呪を通して、カルデアにいるサーヴァントの『影』を召喚し、戦闘時のみ顕現していたが――この特異点に来て以来、令呪による限定召喚が出来なくなっていた。
マシュの盾も同様。土地の魔力……龍脈の上に『円卓』を設置してでの現地召喚もできなかった。
「こちらの世界に来てから何も変わっていません。今、あの盾は『円卓』として機能していません。ずっと、沈黙したまま。あ、あくまで私の感覚なんですが……」
「うぅん、マシュが言うならきっと正しい。だってあの盾を託されたのはマシュなんだから」
藤丸は自分の手をマシュの手と重ねた。マシュは少し驚きつつも、「はい」と穏やかに微笑んだ。
その横でメディアは足を組み、頬杖をついて思案し続けている。
汎人類史と全く違う二千年を歩んだ異聞帯でも機能した、令呪と霊基グラフによる限定召喚。それすらも機能しない、否させないこの特異点の特性が不可解だからだ。
(召喚はできない。けれどレイシフトはできる。今までの特異点とは真逆の現象ね)
レイシフトによるサーヴァントの完全同行は本来、かなり狭き門なのだ。
特異点の特性やその時代に合致したサーヴァントでなければレイシフト適正が存在しないのだが……。
10月14日現在、カルデア内にいるサーヴァント全てのレイシフト適正が100%となった。しかし
(――まるで誘い込まれてるみたい)
なるべく多くのサーヴァント本体が、この特異点に訪れるように。
メディアはこの特異点を形成した黒幕の意図を測ろうとして……そもそもの根本的な疑問に気づいた。
だがメディアはそこで一旦、思考を止めた。
それよりもやっておくべきことがあるからだ。
ベッドから立ち上がり、部屋を出ていこうとする背中に声をかける藤丸。
「あれ? メディアどこに行くの?」
「魔術工房よ。高専内で作る許可は五条悟から貰ってるわ」
「何か作るんですか?」
「そんな大した物は作らないわ」
マシュの声に振り返って、メディアは独特な形状の短剣――【
「
余った肉じゃがにカレールー入れてみるね位の気安さで、ギリシア随一の魔女メディアは絶句する藤丸達を置いていった。
****************
(メディアは高専で宝具の呪物化! アラフィフは戦闘中!
指先を突きつけたまま、藤丸は現時点で己と契約(パス)を繋いでいる3騎の英霊の状況を思い出す。
(ガンドさえ放てれば……っ!)
『ねぇええ、わた、わた、わたたししししきれいぃぃいい?』
前方には、同じ問いを繰り返して、藤丸を領域に足止めする呪霊。
背後からは百を超える呪霊の群れの足音が近づいてくる。
「~~~~っ! とっても! きれいだよ!」
焦燥が短慮を生む。藤丸は問いかけから相手の呪霊が『口裂け女』であることに気付いたが、だからこそ咄嗟に問いを返してしまう。
瞬間、口裂け女の手の平に鋏が現れ、ギチギチギチッ‼ と強く握りしめた。
(……え?)
藤丸は耳の付け根に薄い圧迫感を覚えた。上と下から刃を押し当てられ、ひやりと心臓を撫でられたような冷気が刃から漂う。
耳だけじゃない。
気付けば、藤丸は左手首・右腕・両足に同じ刃の冷気を感じた。
身じろぎ一つでもすれば斬られる。
そんな藤丸の口を―――――――
『おじョおちゃあんドこカらキタのぉオ?』
真後ろから伸びてきた呪霊の手が塞いだ。
( あ )
134の影が藤丸の頭上に落ちる。
ミシッ、と頭から聞いたことのない軋みが聞こえた。
これから藤丸の身に訪れる現象。
命あるものの終着点。
それを表す言葉の一文字目も、今の藤丸の頭には思い浮かばなかった。
なぜならば。
「――良いわね、お前は。その程度で安らぎを得られるのだから」
終着から最もかけ離れた、美しき精霊の降臨に目を奪われていたからだった。
精霊はその足を地に付けることなく、その肉体を放棄。
限界を超えた深紅の魔力が辺り一帯を紅く染め上げた。
【
その場にいた全ての存在の頭上で、精霊による呪詛の爆撃が炸裂。
美しき精霊の五体は爆発四散し、その余波が呪霊の大群を吞み込み消し飛ばす。
呪霊の消滅反応による煙が辺りに立ち込めるが……その数瞬後に降りしきる異常気象の雨が煙を消す。
頭から赤ペンキを被ったような状態になった藤丸は、ぺたんと地べたに座り込んでしまった。空からは呪詛によって引き起こされた【紅い雨】が降り注ぐ。
「ちょっと」
声が響く。
すると何もない藤丸の目の前の空間に突如として、紅い雨粒が集中。
寄り集まり、再び目が覚めるほど美しい女性の容貌が再構築された。
「この
腕を組み、苛烈な眼光を藤丸に向ける美女。しかし藤丸はそんな棘しかない言葉ですら嬉しく、美女の眼光に至っては意にも介さず、抱き着いた。
「ありがとぉ……っ! ぐっちゃぁん‼」
「誰がぐっちゃんよ‼」
ぐじゃぐじゃに泣きつく藤丸を、3騎目の英霊【虞美人】は全力で遠ざけた。
次回予告『ぐっちゃん、死す! デュ〇ルスタンバイ!』
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