Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
一度は中華全土の実権を握った西楚の覇王、項羽。
その恋人であり妻として、歴史に名を遺した
ガイアの抑止力――人間を律する星の使者【真祖】のカテゴリに近い、尋常の外の存在が
「えぇい、この……っ! べたべたくっつくな‼ 離れろ、人間‼」
尋常の内にいる少女の抱擁を剝がそうと、四苦八苦していた。
最終的に藤丸の頭に拳骨を落としたことで、虞美人は抱擁から解放された。
「いったぁぁい! ひどいよ、ぐっちゃん私死にかけたんだよ⁉ もうちょっと優しくしてよぉ!」
「自業自得だ! 来て早々、宝具使う羽目になるなんて思わなかったわ‼ とにかく状況を教えなさい! 何も聞かされてないのよ、こっちは!」
藤丸はハッと気づく。
【帳】の電波遮断でカルデアとの通信が途絶されていることに。だから虞美人は状況を知らないままレイシフトでやってきたのだ。
藤丸は現状を伝えようと口を開いたところで――――
ズズズズズズッッッ‼ と呪霊の背後から放出された呪力が空間を形成していく。
(これって……領域展開⁉)
報告書では聞いていた。しかし、こうして目の前で体感したのは初めてだった。
森の中にいた筈の藤丸と虞美人は一瞬にして、墓所の空間に引きずり込まれた。
「ちょっ、何よこ」
ガゴン‼ と。
戸惑って辺りを見回した虞美人の問いかけごと、黒い棺桶が閉じ込めた。
藤丸は目を疑う。空から降ってくる訳でも、地中から現れた訳でもない。虞美人の存在が棺桶と入れ替わったのかと錯覚するほど、その黒い棺桶はいきなり現れたのだ。
『 *(墓) 』
そして呪霊が手の平に拳を叩き下ろす。
瞬間、棺桶の真上に現れた巨大な墓石が、虞美人を収納した棺を地中に埋めた。
「ぐっちゃん先輩!」
藤丸は墓石に手を伸ばして駆け出した。
『 #(3) 』
呪霊のカウントダウンが始まる。
言語は不明瞭なのに意味だけは伝わる。
そんな奇妙な感覚などに構っていられなかった。
『 “(2) 』
(どうすればいい⁉ どうすればどうすればどうすれば!)
思考が停止しても動きは止めない。藤丸は掘り起こそうと土に指を沈めて、
『 !(1) 』
「あ」
虞美人とのパスが切れたことに愕然とした。
棺桶の中、墓石の真下で……虞美人は【死】を迎えた。
そして呪霊の狙いは藤丸に移る。
特級特定疾病呪霊【疱瘡神】の必中術式が、領域内に残る生存者:藤丸に発動する。
虞美人の墓石の前に座り込んだ藤丸を、瞬時に現れた棺桶が閉じ込める。
『 *(墓) 』
疱瘡神がトン、と拳を手の平に落とす。
すると突如として藤丸を閉じ込めた棺桶の真上に、墓石が振り落ちた。
「あぁ、もう……不愉快極まりない」
『⁉』
疱瘡神が驚愕に瀕する。
確かに発動した必中必殺の術式。しかしそれを嘲笑うかの如く――虞美人を埋葬した墓石が砕け散った。
長い濡れ羽色の髪を翻し、細く華奢な両腕を振り上げながら、告げる。
「安心なさい。ちゃんと発動してたし、ちゃんと殺されたわ」
土中から脱出した虞美人はつまらなそうに腕を一振り。投げられた真紅の魔力を纏った剣が、藤丸の墓石を砕破した。
疱瘡神は知る由もない。
眼前に立つ彼女が、ただ『女』の形をしただけの上位種だと。
天仙。
真祖。
星の精霊。
麗しき天女の相貌を成した【天災】だと。
気付けるはずがなかった。
「? 何を呆けている」
虞美人は、格の違いに放心する疱瘡神に首を傾げる。
そうして腕を組んで、かの存在の最期を見もせずに背を向けた。
「さっさと楽になりなさい」
直後、墓石を砕いた際に打ち上げた真紅の魔力が、豪雨となって疱瘡神に降り注いだ。ドチャチャチャチャチャッッッッッ‼‼‼ と雨粒の一滴一滴が疱瘡神の血肉を穿ち、消滅反応の煙さえ搔き消した。
領域が解け、藤丸を拘束していた棺桶が霞の如く消え失せる。
「まったく……不死者に墓なんて、とんだ嫌味ね」
つまらなそうに舌打ちをすると、虞美人は立ったまま呆けている藤丸の頬を張った。
その時には既に、虞美人の脳裏に特級呪霊のことなど微塵も残っていなかった。