Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第45話 宵祭り―花火の後の夕立

 一度は中華全土の実権を握った西楚の覇王、項羽。

 その恋人であり妻として、歴史に名を遺した女性(サーヴァント)こそ【虞美人】である。その正体は星の内海から湧現せし精霊(たんまつ)

 

 ガイアの抑止力――人間を律する星の使者【真祖】のカテゴリに近い、尋常の外の存在が

「えぇい、この……っ! べたべたくっつくな‼ 離れろ、人間‼」

 尋常の内にいる少女の抱擁を剝がそうと、四苦八苦していた。 

 

 最終的に藤丸の頭に拳骨を落としたことで、虞美人は抱擁から解放された。

 

「いったぁぁい! ひどいよ、ぐっちゃん私死にかけたんだよ⁉ もうちょっと優しくしてよぉ!」

「自業自得だ! 来て早々、宝具使う羽目になるなんて思わなかったわ‼ とにかく状況を教えなさい! 何も聞かされてないのよ、こっちは!」

 

 藤丸はハッと気づく。

【帳】の電波遮断でカルデアとの通信が途絶されていることに。だから虞美人は状況を知らないままレイシフトでやってきたのだ。

 

 藤丸は現状を伝えようと口を開いたところで――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ズズズズズズッッッ‼ と呪霊の背後から放出された呪力が空間を形成していく。

 

(これって……領域展開⁉)

 報告書では聞いていた。しかし、こうして目の前で体感したのは初めてだった。

 森の中にいた筈の藤丸と虞美人は一瞬にして、墓所の空間に引きずり込まれた。

 

「ちょっ、何よこ」

 

 ガゴン‼ と。

 戸惑って辺りを見回した虞美人の問いかけごと、黒い棺桶が閉じ込めた。

 藤丸は目を疑う。空から降ってくる訳でも、地中から現れた訳でもない。虞美人の存在が棺桶と入れ替わったのかと錯覚するほど、その黒い棺桶はいきなり現れたのだ。

 

『 *(墓) 』

 

 そして呪霊が手の平に拳を叩き下ろす。

 瞬間、棺桶の真上に現れた巨大な墓石が、虞美人を収納した棺を地中に埋めた。

「ぐっちゃん先輩!」

 藤丸は墓石に手を伸ばして駆け出した。 

 

『 #(3) 』 

 

 呪霊のカウントダウンが始まる。

 言語は不明瞭なのに意味だけは伝わる。

 そんな奇妙な感覚などに構っていられなかった。

 

『 “(2) 』 

 

(どうすればいい⁉ どうすればどうすればどうすれば!)

 思考が停止しても動きは止めない。藤丸は掘り起こそうと土に指を沈めて、

 

『 !(1) 』

 

「あ」

 虞美人とのパスが切れたことに愕然とした。

 棺桶の中、墓石の真下で……虞美人は【死】を迎えた。

 そして呪霊の狙いは藤丸に移る。

 特級特定疾病呪霊【疱瘡神】の必中術式が、領域内に残る生存者:藤丸に発動する。

 虞美人の墓石の前に座り込んだ藤丸を、瞬時に現れた棺桶が閉じ込める。

 

『 *(墓) 』

 

 疱瘡神がトン、と拳を手の平に落とす。

 すると突如として藤丸を閉じ込めた棺桶の真上に、墓石が振り落ちた。

 

 

「あぁ、もう……不愉快極まりない」

 

 

『⁉』

 

 疱瘡神が驚愕に瀕する。

 確かに発動した必中必殺の術式。しかしそれを嘲笑うかの如く――虞美人を埋葬した墓石が砕け散った。

 

 長い濡れ羽色の髪を翻し、細く華奢な両腕を振り上げながら、告げる。

 

「安心なさい。ちゃんと発動してたし、ちゃんと殺されたわ」

 

 土中から脱出した虞美人はつまらなそうに腕を一振り。投げられた真紅の魔力を纏った剣が、藤丸の墓石を砕破した。

 疱瘡神は知る由もない。

 

 眼前に立つ彼女が、ただ『女』の形をしただけの上位種だと。

 天仙。

 真祖。

 星の精霊。

 麗しき天女の相貌を成した【天災】だと。

 気付けるはずがなかった。

 

「? 何を呆けている」

 

 虞美人は、格の違いに放心する疱瘡神に首を傾げる。

 そうして腕を組んで、かの存在の最期を見もせずに背を向けた。

 

「さっさと楽になりなさい」

 

 直後、墓石を砕いた際に打ち上げた真紅の魔力が、豪雨となって疱瘡神に降り注いだ。ドチャチャチャチャチャッッッッッ‼‼‼ と雨粒の一滴一滴が疱瘡神の血肉を穿ち、消滅反応の煙さえ搔き消した。

 領域が解け、藤丸を拘束していた棺桶が霞の如く消え失せる。

 

「まったく……不死者に墓なんて、とんだ嫌味ね」

 

 つまらなそうに舌打ちをすると、虞美人は立ったまま呆けている藤丸の頬を張った。

 その時には既に、虞美人の脳裏に特級呪霊のことなど微塵も残っていなかった。

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