Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第46話 宵祭り ―犯罪遂行

 領域が解ける気配に、夏油は思わずそちらを振り向いた。

(疱瘡神がやられた…………)

 振り向いた先、ダム湖の山間の森だけが【紅く】色づいている。

 過剰な呪詛による異常気象が起こったのと、放った呪霊134体の呪力が一斉に消失したのは同じタイミングだ。

 

(やはり英霊はピンキリだな)

 額から冷や汗が一筋流れる。

 遠く離れた夏油に突き刺さる、苛烈で刺々しい眼光に、汗を流される。その眼光を飛ばしたのは……森を【紅く】染め上げた【天災】だった。

 

「――っ、化け物め」

 その眼光の主の底知れなさに口の端を苦々しく吊り上げた瞬間。

 

雛芥子(ひなげし)に見惚れている場合かな?』

 

 究極メカ丸の左手が夏油目掛けて振り下ろされた。受ける瞬間、【怪力】を発動させる夏油だが、何かに気付くや否や、落下もいとわずに飛びずさった。

 

 浮遊する呪霊だけが宿主の動きについていけず――光り輝く指刃に切り裂かれた。

 ダム湖へ落下する夏油、しかし涼しい顔で手を掲げると、再び龍の呪霊を取り出し、それに飛び乗った。

 

「見惚れる、か」

 

 ククッと夏油は喉を鳴らして……今しがた切り裂かれた袈裟を見下ろした。

 呪力のレーザーを刃の形に留めたその斬撃の強みは、生地の切断面から薫る焦げ臭さが教えてくれた。

 

「確かに久しい感覚だよ。遡れば――平安以来の高揚かもしれないね」

 

 夏油、否夏油の内にいるソレは眼前の敵に意識を戻す。

 それは未知の世界からやってきた【英霊】と【呪術師】が織りなす、新しい可能性だった。

 そんなソレの胸中を、半ば察しつつもモリアーティは幸吉の肩を叩き、耳打ちする。

 

「ようやく手傷を負わせられたね。流石だ、幸吉くん」

「……なんでそんな馴れ馴れしいんだ、あんた」

 

 幸吉はまるで孫のように自分に接してくるモリアーティに毒を吐きつつも、彼を認め始めていた。

(まさか夏油とこんな長時間、戦り合えるなんて)

 

 天与呪縛で縛られた年月を呪力に変換して戦うと決めた時、短期決戦を即決していた。出し惜しみをしたら、こちらがやられると思っていた。

 しかし、モリアーティが呪力の運用方法に従ってから……目に見えて年月(じゅりょく)の消費量が抑えられている。

 

月消費(スペンド)五指刃(ブレイドレーザー)

 一秒につき一か月分の呪力を消費して、指先にレーザーの刃を放出する技。

 しかし常時放出し続けるのでなく、衝撃の瞬間だけ放出することで呪力消費を最小限に抑えている。

 

 更に普通の打撃とレーザーが加わった斬撃をうまく混ぜ込むことで、夏油に【怪力】で受けるか避けるかの二択を迫らせている。

 

 幸吉は心の底から思った言葉を、ため息と一緒に吐き出した。

「あんたが味方で良かったよ」

「いやいや、それは私のセリフだよ。君の術式は……悪企みするには魅力的すぎる」

 

 邪悪に破顔した犯罪コンサルタントが、動く。

 ひしゃげた究極メカの右腕を覆うように武装されたモリアーティの装備『ライヘンバッハ』から鉄風雷火が吹き荒ぶ。

 

 モリアーティのスキル【蜘蛛糸の果て】によって、【悪】に改造された究極メカ丸の右腕は巨大化した宝具(ライヘンバッハ)を振るう程にまでなった。

 

 一発一発が人ひとり分のサイズを誇る弾丸の嵐が、夏油を襲う。

 微笑みを絶やさない夏油の腹に、弾頭がめり込み――――穿つを超えて胴体が消し飛んだ。

 

 だがモリアーティは忌々しく舌を打った。

 すると上半身と下半身に千切れた夏油の姿が陽炎に揺らめき、消える。

 

 1級呪霊【日照り神】、その術式は高熱による幻覚操作だ。

 メカ丸の右腕を破壊した【道祖神】と入れ替わるようにして現れたその呪霊は、厄介さだけで云えば【道祖神】を超える。 

 

 高熱を発し続ける日照り神。周辺の空気が揺らめき、光の屈折を操る。そうしてモリアーティ達の視界に映されたのは――――五人に分裂した夏油の姿だった。

 

「もちろんだが、本物は一人だけだよ?」

 

 頬を持ち上げ、見下ろすその夏油は切り裂かれた袈裟をこれ見よがしに撫でて見せる。だがモリアーティは「ハンッ」と肩をすくめた。

 

「雑なミスリードだね。袈裟の傷も幻影で再現しているだけだろう」

「さぁ、それはどうだろう……どうする?」

 

 五方向から一斉に迫りくる夏油。この陽炎は呪霊の術式で生まれたものだから、呪力感知では本物を捉えることはできない。否、幸吉もモリアーティも、本物の夏油だけを狙い撃とうだなんて考えていなかった。

 

「宝具解放」とモリアーティが告げる。

「五年チャージ」と幸吉が宣言する。

 すると、究極メカ丸が右腕に装備された武装棺に、5年分の呪力を籠めた。

 

 

「 【五重大祓砲(アブソリュート・キャノン)】 」

           +

「 【|終局的犯罪《ザ・ダイナミクス・オブ・アン・アステロイド》】 」

 

 特級クラスの莫大な呪力出力が後押しとなって炸裂する、対軍宝具。

 それは最早、対都市宝具級に迫る火力へと増大して、夏油の陽炎どころかダム湖全域の水を巻き上げた。その余波で日照り神は一瞬で消滅する。

 

 空を仰ぐ究極メカ丸に超局所的な豪雨が降り注ぐ。干上がった湖底に湖水が大渦を巻いて回帰する。

 

 操縦席の中は静まり返っている。

 操縦桿を握る幸吉の両肩に手を置いていたモリアーティは水の轟音に耳を傾けながら、静寂を破り始めた。

 

「夏油君、君ほどの人間が真正面から向かってくることなどありえない。だから、あえて正解を言うならば――――あの五人の陽炎は全て幻覚さ」

 

 あの手を取られた時点で、本物の夏油の姿は決して現れることは無いと分かっていた。

 

「散々【怪力】で接近戦アピールしてたけど、呪霊操術の強みは手数の多さだ。距離を取って呪霊の術式で畳みかけるのがセオリーなんだよ、本当は」

「…………だから近づかせたとでも言うのかい?」

 

 夏油が、口を開く。

 

 辺りを巻き込み、使用者の視界すら塗りつぶす大火力。

その隙を狙って夏油は操縦席の壁を殴り壊し、今――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「それで? この後、君達はどうするんだい? 私を誘いこんで、何か切り札を繰り出すつもりなのかな?」

 

 ただの大火力を放つだけなんて愚策とも言えない悪手。それを打ってまで自身を接近させた狙いを、夏油は尋ねる。

 

 手の平の上に乗り、いつでも握りつぶせる蜘蛛に語り掛けるように。

 しかし当の蜘蛛は現況を全く意にも介さず、ぬけぬけと次の言葉を吐き出した。

 

「いや。何もしないけど」

「……そうか」

 

 落胆の顔色を見つめる者は、この場に誰もいない。

 無抵抗のモリアーティを仕留めた後は幸吉だ。夏油は人外の膂力をもって、手の平の蜘蛛を握り潰そうとして―――――

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 掴む手が緩んだ。

 すると幸吉はモリアーティの背後にいる夏油に向かって、見えているかのように言い放つ。

 

「この操縦席を見て、まだ気づかないのか?」

 

 夏油は瞬時に操縦席を見渡し、同時に思考を巡らせて……操縦席に映るモニターの一つに釘付けになった。

 モニターが映す映像には――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ッ~~~~、傀儡操術!」

「ご名答!」

 

 与幸吉の術式【傀儡操術】で操作された6体のメカ丸は、五条悟への連絡を取ろうと走り続ける。

 モリアーティは先の銃撃で弾丸をばらまいた。

 一発一発が人間サイズの弾丸。

 その中に紛れていたのだ――――人間サイズのメカ丸が。

 

「この究極メカ丸も、俺達自身もブラフだ。モリアーティが教えてくれた。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「やってくれたね……っ!」

 

 幸吉の眼光が肩越しにギラリと輝く。夏油は苦々しく思いながらも、すぐさま二人にとどめを刺して、6体のメカ丸を破壊しようとするが。

 

「 【シン陰流・簡易領域】 」

 

 4本あった切り札を、幸吉は今ここで切る。

 刹那、弱者の領域がモリアーティと幸吉を包み込み、夏油の手を弾き飛ばす。

 

「悪かったね、私と幸吉君の術式は――――相性が良すぎた」

 

 モリアーティが振り返りながら、ほくそ笑む。

 そうして夏油の腹へ……【簡易領域】の術式を封じ込めた杭を突き刺した。

 

 *************

 

(勝てる……っ!)

 

 幸吉の高揚した感覚が、帳の外へ出たメカ丸へとフィードバックされる。

 

 がしゃがしゃと動く度に鳴る機械音。

 この音を聞くたびに、幸吉は自分が普通じゃないと思い知らされてきた。けれど、今、この忌々しい駆動音が福音のように響いてくる。

 

(いける……っ‼ 会えるんだ、みんなに!)

 

 会えたら、まず加茂に謝らないといけない。交流会の事件では、自身の行動で彼を傷つけてしまった。

 

 真依・西宮辺りは自分の素顔をどう思うだろうか。絶対ろくなこと言わない。

 そう考えると、新田や歌姫先生辺りの方が、快く歓迎してくれそうだ。

 

 東堂は…………今度こそ異性の好みについて徹底的に追及されそうだ。勘弁願いたいがボコられないように、今のうちに考えた方が良さそうだ。

 

(いや)

 戦う直前にも、思い描けた三輪の笑顔が、現実味を増して浮き上がる。

 

(考えなくても……良い、のか?)

 

 この感情に名前を付けなくても良いと、機械の体では思っていた。

 だって、やることは変わらない。

 側で守れば良いと思っていたから。

 幸せを願えば良いと思っていたから。

 

 けれど、これからは――――その名前の付いた感情を、少しだけ本人に打ち明かしても良いのかもしれない。

 

『……バカか、俺ハ』

 

 京都高のみんなが聞きなれた機械音声を発して、浮かれた自分を律する。

 

(急ぐんだ! 早く連絡手段を確保! 五条悟に連絡を取るんだ! そうすれば奴らの企みを……ハ@%*ンのけいかく、を)

 

 幸吉の戸惑いが、メカ丸達の足を止める。

 そして気付く。

 

 辺り一帯を包み込む濃霧に。

 呪霊連合達が企てている計画の概要、その全ての記憶に霧がかかって思い出せないことに。

 

『なん、デ? なんでなんでなんでなんで⁉』

 

 呪術高専を裏切ってまで得た情報を、忘れる筈のない情報を、幸吉は思い出せない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 動揺する幸吉、しかしすぐに切り替えて、メカ丸達を走らせる。今はとにかく五条悟へ連絡を取るのだ。そうすれば夏油達をすぐにでも一網打尽にでき…………ッ!

 

 6体のメカ丸が戦闘体制に移行する。

 正面の方角……濃霧のベールの向こうに人影が映ったからだ。  

(夏油の手下の呪詛師か⁉ 構わない、数で畳むかけ)

 

 

「 無駄だよ、呪術師 」

 

 

 一閃、駆け抜ける。

 横薙ぎに振るわれた円盾の一撃が、6体のメカ丸を圧倒的暴虐に晒した。

 

 その男は、盾から伸びる十字杭を地面に突き下ろし、倒れ伏せるメカ丸の残骸を一様に見下ろした。

 

「僕と、我がマスターが来た今――――ここに一切の希望は残らない」

 

 幸吉は知る由もない。

 その男こそ名だたる円卓の騎士の中で、唯一『聖杯探索』を成功させた騎士だと。

 その騎士の名は、、ギャラハッド。

 天蓋司る呪霊を主として契約する、天上の騎士であった。

 




なんとか書けた……
今週は自作小説のPV作成でてんやわんやでした。一話で申し訳ない

さて、友人や色んな人(声優さんやイラストレーターさん)と協力して作った宣伝PV
ぜひご覧くださいな! 

堕天使Vtuberラブコメ
https://www.youtube.com/watch?v=c-HODNVze0U

きらら系麻雀
https://www.youtube.com/watch?v=aNO8V3r4C48
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