Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第47話 宵祭り―終焉ー

 停滞している大気が、猛風となってマシュに突き当たる。

 大蛇の大口腔から連射される火炎の息吹。その間隙を縫うように駆け抜ける白い閃光が今のマシュだった。

 

 白光放つ円盾を掲げて前進したマシュは大蛇の鱗につま先を引っかける。大蛇の長い躯体を駆け上がり―――――マシュは光放つ円盾を、大蛇の頭上で振りかぶる。

 

「……また」

 

 大蛇の首がゆっくりと見上げる。

 狂気故の純信を秘めた円らな瞳に、唇をキュッと噛みしめて。

 

「会いましょう清姫さん」

(また、同じマスターの元で)

 

 再開を誓った円盾の鉄槌が白く輝き……静かに首を垂れる大蛇の頭に直撃する。

 瞬間、100万分の一で炸裂する――――白き閃光。

 その衝撃はダムの堤防にも伝わり、瓦割りの如く亀裂が堤防に縦断した。

 

 大蛇に改造された清姫の、魔力で構築された体が解けて、黄金色の粒子がマシュの耳を掠めて立ち昇った。

 

(これは…………っ)

 マシュは驚きに目を見開く。

 

 パワー、スピード、アジリティ。

 明らかに増大した自身の能力値にではなく―――――数分前、突如として白く輝きだした円盾の反応にだ。

 

 これまで沈黙し続けた円盾が、激しく呼応している。

 所有者であるマシュにしか伝わらない、この感覚の名は

「――共鳴?」

 

 誰に言われるまでもなく、とある方向へ振り返るマシュ。

 その方角は【帳】を脱出したメカ丸達がいる方角だった。

 

「あーぁ、もう終わりかぁ」

 落胆の声が背中にぶつかる。

 見やると、肩を落としたツギハギがため息交じりにぶつくさ語っていた。

 

「常時宝具発動……良いアイデアだと思ったんだけどなぁ。やっぱり英霊も使い方は改造人間と同じでいっか。思えば俺って連携とかしたことないし」

 

 するとツギハギはマシュが目の前にいるにも関わらず、その場で胡坐をかいた。

 敵を前にして座り込む。戦闘において降伏に近いその行動を前にしたマシュは、逆に警戒を増して近づかなかった。

 

 なぜならこの呪霊は、降伏なんて行動をするはずがないから。

 それだけは短い戦闘の中でマシュも感じ取っていた。それ故に……ツギハギの意図が見えないことが不気味だった。

 

「そんなに難しいことじゃないよ」

 

 頬杖を突いて、ツギハギがマシュに笑いかける。

 理由の分からない強化を経たマシュに臆することも警戒することもなく。

 

「言ったろ? もう終わりだって。大体さぁ、おかしいと思わなかった? なんで俺達がお前らより早くサーヴァントと出会えたか? なんで俺が『聖杯戦争』だなんて別世界の戦争に詳しかったか」

 

 ツギハギの指摘に、マシュはハッと息をのむ。

 戦闘の最中に交わしたツギハギの言葉を思い出す。

 

『なぁ、お前らはどうなんだ英霊? 願いを餌に死んでも何度も呼び出されて殺し合って、最後は令呪で自害させられる……』

 

 明らかにこの口ぶりは、聖杯戦争という儀式の詳細を知った言い方だった。最終的に英霊は令呪で自害させられる。そうしないと、聖杯に英霊7騎の魂を注げないからだ。

この事実は、ともすれば聖杯戦争の当事者ですら把握していない可能性のある真実だ。

 

 更には、カルデアから消失した20体のサーヴァントの消息。

ツギハギの口ぶりから明らかに呪霊連合は複数体のサーヴァントと接触している。呪術高専に協力を仰いでも消息を掴めないサーヴァント達と、だ。

 これらすべての理由を――――ツギハギは指さした。

 

「大地を、森を、海を人々は恐れてきた。天災を恐れてきた。でもさ、国を問わず、境を問わずに恐れられる『天災』を、俺達は見落としていたんだよ」

 

 直後、異変が起こる。

 清姫の体から立ち昇っていた黄金色の粒子が収束されて――――ある一点へと流れていくのだ。

 

 ツギハギの指が示す方向へ、マシュは視線を向けた。

 それは清姫の霊基の行方を追うことでもあり…………やがて一人の男にたどり着く。

 

 法衣を纏い、藺草の笠で相貌を覆った男だった。

 

 その男は当然の如くマシュの遥か上空を浮遊し、ダム湖を見下ろしていた。そして悠然と袖から腕を出し、手をかざす。

 

「――まさか」

 その手を見た途端、嫌な予感が脳裏から背筋へとつんざいた。マシュの予感を正確になぞるように、現実は変化していく。

 

 男がかざした手の平に黄金色の粒子が吸われていく。『再会』を約束した、清姫の霊基が嘲笑うかの如く男の内に取り込まれる。

 

「紹介するよ、彼は【鐘蓋(きょうがい)】。人間が『天空』を恐れる心から産まれた、俺達の誇らしい仲間(のろい)さ」

 

 ツギハギから鐘蓋と呼ばれた、天空の呪霊は今しがた【清姫】を吸収した手の平で、合掌する。

 

 そして己の体に刻まれた術式を励起させた。

 

         【蒼穹破殻(そうきゅうはかく)

 

 厳粛とした声が降り落ち、遠く離れたマシュの耳でもはっきりと伝わってくる。

 そして続く言葉によって、マシュの予感を超える最悪の事態が引き起こされた。

 

       【拡張之十一『暗黒霧都(ザ・ミスト)』】

 

 鐘蓋を中心にどこからともなく濃霧が漂い、ダム湖周辺の山間部をまるごと覆い包んだ。記憶を蝕む殺人鬼の霧に包まれたマシュは呆然と鐘蓋を見つめる。

 

「ジャック……さん」

 理屈は分からない。

 ただマシュは今、はっきりと――――奥多摩で消失した筈の、ジャック・ザ・リッパ―の霊基を鐘蓋の内に感じ取った。

 

 途端、頭の中で溢れるジャックとの思い出がマシュを円卓の騎士から少女へと変えて、ゆらゆらと手を伸ばさせる。

 

 失ってしまった人を取り戻せる可能性を前にした少女は……後ろに迫る【呪い】に気付かない。

 

「  はい、おしまい 」

 螺旋状に回転する手刀が、マシュの心臓に迫った。

 

         *******************

 

 ダム湖上空に【鐘蓋】が出現した頃。

 

 究極メカ丸のコクピット内で、モリアーティは夏油の腹に簡易領域を封じた杭を突き刺した。

 

 体内で発生させられた【領域】が、夏油の五体を飛散させる。

 夏油傑もとい【呪霊操術】を有する術者を殺害した場合、術式が暴走し、体内に取り込まれた呪霊が解放される危険性がある。それを見越したモリアーティが選んだ殺害方法、それこそが【簡易領域による刺殺】だった。

 

 あらゆる術式を中和する【領域】により、【呪霊操術】の暴走を中和しつつ殺害する。事実、この殺害方法は成功だっただろう。

 

 ――――飛散した夏油が【本人】だったならば。

 

「やってくれたな…………っ‼」

 

 ギリッと杭を握りしめるモリアーティ。

 その杭に突き刺さっているのは、一枚の紙きれ。

 

 横五本縦四本の格子形の図形――【九字紋(ドーマン)】が描かれた紙きれだった。

 

 本人と同等の力量を持つ式神の作成。

 そんなことができるのは、消失した20騎の混沌悪サーヴァントの中で唯一人。最も厄介かつ危険度の高いその英霊は……既に呪霊連合に与していたのだ。

 

「幸吉君、今すぐ上空を映し給え!」

「ッ、わかった!」

 

 今しがた仕留めた夏油が偽物であることをすぐに理解した幸吉は、究極メカ丸のカメラを起動。自分達の頭上に浮かぶ、袈裟と法衣の二人組を捉えた。

 

 袈裟を着た夏油は呪霊の上に胡坐をかいたまま、黄金色の粒子を吸い込む法衣の男に声を掛ける。

 

「遅かったじゃないか、鐘蓋。早速だけど頼むよ。でなければ、何のために姿を現して、術式を使ったか分からなくなる」

【急くな。抹消範囲は、汝とハロウィンの計画内容だな?】

 

「そうだ。五条悟にはぎりぎりまで私の存在は隠したい。特に与幸吉、彼の記憶は徹底的に消去してほしい。計画の詳細は確実に抹消しなければならない」

【容易い】

 

 鐘蓋と呼ばれた法衣の男は合掌し、十一番目の拡張術式を発動させる。

 途端、放出された濃霧がダム湖を呑み込み、二つ隣の山まで覆い包む。モリアーティは夏油と鐘蓋の会話に驚愕する。

 

(抹消範囲だと⁉)

 

 ジャック・ザ・リッパ―の『情報抹消』の適用範囲は、自身に関わることだけだ。そんな記憶操作に近い効力を発揮するスキルではない。

 

「なるほどね。今回の黒幕はそういうタイプということかね」

 

 口角を吊り上げていくモリアーティ。その心中は既にとある思惑によって固められつつあった。その思惑に従い、迅速に行動を開始する。

 

「幸吉君、しっかりしたまえ」

 

 頭を押さえ、忘却していく情報に動揺する幸吉の肩を叩く。同年代の男子ならばそれでも動揺を止められないだろうが、彼は幾ら卑下しようとも呪術師だ。

 強張った肩から力を抜き、長く息を吐けば、心は落ち着かずとも、思考はクリアになっていく。

 

「10月31日」

 

 そう言って、彼は袖をまくり、モリアーティに腕を突き出す。

 幸吉の記憶は霧によってこれからどんどん消去されていく。

 そうなる前にモリアーティに告げた理由を、モリアーティは受け取り――――手に持った杭を彼の腕に突き立てた。

 

「ぐっ……うぅううっ」

 歯を噛みしめ、痛みに耐える幸吉。

 杭の先端が腕の肌を破り、『10/31』の文字が刻まれる。

 モリアーティは杭を投げ捨てると、幸吉に迅速かつ的確にこれからの行動を指示する。

 

「君はライヘンバッハに乗って、この場を離脱するんだ。ジェット機構の使用法はこの紙に。私はここで究極メカ丸の制御を完全に乗っ取り、時間を稼ぐ」

「あんたの仲間はどうする。マシュ・キリエライトは堤防の上。藤丸立香は森の中だ」

 

「その情報はどうやって手に入れたのかな。まぁ、モスキート型の偵察機でも放っていたのだろう。その機体を使って、彼女達を誘導して合流しなさい」

「……メカ丸を破壊した、円盾の騎士はどうする?」

 

「ミス虞美人がいる。彼女はサーヴァントになって寧ろ弱体化してるほど、強力な存在だ。かの騎士相手でも引けを取らない。戦闘時は彼女を軸にして、突破するんだ。大丈夫、君にはまだ天与呪縛で得た呪力が残っている。いいかぃ、決して無駄遣いするんじゃないよ?」

 

 少しおちゃらけた口調で釘を刺され、幸吉は初めてモリアーティの前で苦笑した。

 彼が見せてくれた効率的な呪力の使い方は、霧でも忘却されないだろう。

 出会った時間は半日にも満たない。けれど、幸吉はコクピットから出る寸前、かの英霊に――言葉(のろい)を残す。

 

「依頼失敗の弁償はしてもらうぞ、犯罪コンサルタント」

「フッフフフ! 良いことを教えてあげよう、共犯者君。悪事とはね、上手く事が運ばないものなのだよ」

 

 だからこそ、計算と欲望で支える。上手く事が運ばないなら、上手く事が運ぶようにレールを整える。

 

 それが悪事だ、それが犯罪者だ、それが完全犯罪だ。

 

 武装棺桶に幸吉が乗り込み、ジェット機構を作動。究極メカ丸から『ライヘンバッハ』が飛び立った。残された究極メカ丸に、モリアーティは【蜘蛛糸】を張り巡らす。

究極メカ丸は今完全に、悪の教授ジェームズ・モリアーティの支配下に落ちた。

 

「フフフ……アッハッハッハ! あぁ! 素晴らしい!」

 

 時間制限付きの、呪術師の呪力ではなく、魂の階梯が上である英霊の魔力が巨大機械に満ち満ちていく。破壊の権化と化した巨大機械の殲滅力を計算すればするほど、モリアーティは高らかに笑う。

 

 その高笑いを――――ダム湖の奥底から現れた存在が掻き消す。

 

【蒼穹破殻・拡張之十二】

 それは、鐘蓋の手から湧現した雲塊が、形を成したもの。

 

 狂王クーフーリンオルタの宝具【噛み砕く死牙の獣(クリード・コインヘン)】の解釈を広げた結果、誕生した拡張術式。

 

戯雲絶死棘獣(ノクトガルミークリード)

 

 魔槍ゲイボルグの元となった紅海の魔獣が、破壊の権化たる巨大機械を掴み潰す。

 捕食者たる魔獣の口が、地獄の窯のごとく開かれる。

 

 巨大機械のカメラに映る、ずらりと並んだ魔獣の牙。その一本一本がゲイボルグの素材足り得る弩級の呪物だった。

 

 その光景を目の当たりにしながらモリアーティは――かくも揚々と賞賛を口にした。

 

 素晴らしいと。

 そして最期にこう、結んだ。

 

「世界は破滅に満ちている」

 

 死の牙が一人の獲物を捕食した。

 




 鐘蓋は指を用いた【縛り】で混沌悪のサーヴァントが特異点から脱出(座に退去、もしくはカルデアに帰還)した時点で、その霊基に干渉して宝具などの情報をコピペしてます。
 だからカルデアに帰っただけのクフニキの宝具も扱えるという……蛇足。
 
友人や色んな人(声優さんやイラストレーターさん)と協力して作った宣伝PV
ぜひご覧くださいな!   

堕天使Vtuberラブコメ
https://www.youtube.com/watch?v=c-HODNVze0U

きらら系麻雀
https://www.youtube.com/watch?v=aNO8V3r4C48
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