Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
予定の時間とは違う時間に更新してしまい、申し訳ないです。
「 あ 」
山中の車道を走っていた真人は、空を見上げるなり、ぽかんと口を開けた。
孫悟空の筋斗雲よろしく、マシュを運ぶ白雲を見たからだ。
「えー⁉ 何してんの、鐘蓋ぁーい!」
真人は肩をがっくり落として、重い落胆を秘めた溜息をついて、これまたがっくりと項垂れた。意外でも何でもないが、仲間と自分で評した割に、真人は鐘蓋のことを未だに掴みかねていた。
(てっきり花御タイプかと思ったけど……そういう訳じゃなさそうだなぁ)
人間の恐れの集合体、それが呪霊だ。
その中で『森』への恐怖が具現化した花御は呪霊として温厚……真人から見れば『窮屈』と感じる性質だった。
人間の恐怖にも種類があり、『畏敬』の念が多いと、花御のような本能より理性が勝っているタイプの呪霊が生まれるのだ。
鐘蓋は『空』の呪霊であるが故に、花御と同じタイプと思っていたが……。
(とにかく今回ではっきりした……どうやら彼の目的は俺達とは違うらしい)
真人達、呪霊連合の目的は、人間が今座っている『世界の霊長』の席に、
人類が悠久の果てに得た理性と、呪霊の剥き出しの本能、どちらが強いか……そういう
真人は大きく伸びをして、首の骨を鳴らした。
「んん~~~、寂しいなぁ~~。呪いらしくなった鐘蓋見てみたかったんだけど、ねぇ?
興味本位の問いが―――うず高く積み上げられた改造人間の遺骸に投げかけられる。車道をふさぐ、遺骸の塔に腰かけていた天仙……虞美人は「ハンッ」と一笑に付した。
「くだらな過ぎて、逆に羨ましいわね。いっそのこと私も
「ねぇ、やっぱり……そうだよね。あんた、どっちかって言うと
真人の術式【無為転変】は、魂に干渉する術式だ。
干渉するということは、認識するということ。
認識するということは、見えるということ。
真人は今、虞美人の魂を見ていた。
それは自分達と同じ……否、自分達よりも深いところで発生した輝きを秘めた、人外の魂。
圧倒的な年月によって、更に輝きに磨きがかかっている筈の、彼女の魂は――――醜い
「何があんたをそうさせるんだ?
「――――やはり
そう言いながら浮かべた彼女の表情に、真人は怪訝に目を細めた。
虞美人の瞳にこもった哀れみの眼差しを、理解できなかったから。
「こんなガキも後輩だなんて、自分の悪縁に溜息も出ないわ」
ゆらり、と屍の塔から立ち上がる。
するとそれだけで大気が揺らぎ、虞美人の周囲の大気が紅く染まり出す。
霊核を環境と同期した精霊による魔力放出が、虚空の色を書き換えていく。
「……俺は先輩とは認めてないけどね」
額から垂れ落ちた冷や汗を、舌で舐めとる真人。
大気が放出された魔力によって染まり、視界が紅く塗りつぶされる。
――――マシュを追い詰めていた分身は鐘蓋の雷によって停止させられている。
分身による力の分散は、5対5。
(火力勝負じゃ勝ち目はない)
悠然と虞美人が歩みだす。
屍の塔を一段、また一段と降りていき、双手には紅蓮の魔力を纏わせた剣を握っている。
(だったらどうするか? 決まってる)
しかし、今ここにいる真人には――――術式が刻まれている。
口の中に四本の手を生やし、手印を結ぶ。
触れることで魂に干渉する【無為転変】。
「領域てんブァッ⁉」
――――バギャンッ‼ と、虞美人の拳が、真人の歯を砕き貫いた。
真人の口の中に突っ込んだ虞美人の拳が、領域展開を発動させる手印を結ばせない。
「がぉ…ぶっ、ごぇっ⁉」
「お前……私の魂に触れようとしたな」
顎が外れ、窒息の苦渋に喘ぐ真人を、虞美人は冷徹に見下す。
不快に顔を歪め……吐き捨てた。
「痴れ者が」
瞬間、口内にある拳に魔力を凝縮。過剰な魔力が【拳】の形を崩壊させ――――自壊宝具が発動する。
【
紅の雨が降る。
降りしきるその雨垂れに、真人の肉片が混ざっているのか。
それは確かめようもない。
痕跡すら残さぬ程に消し飛んだから。
ギュルルル、と雨粒が寄り集まり、再び【人型】に再生する虞美人。
「私の魂に触れて良いお方はただ一人。そのお方こそ、私のすべて…………端からガイアかアラヤかなど……私にはどうでも良いのよ」
理性も本能も、どちらでも良いしどうでも良い。
死を味わうことのない、悠久と孤独に縛られた魂に芽生えたこの
「
何も無くなった眼前の虚空にそう言い残すと、虞美人はくるりと髪を翻した。
追手である真人は消滅した。
先を行った藤丸達と合流しようと、虞美人は踵を鳴らした。
「――――3000年生きてて知らないんだぁ?」
真人にとって、肉体は魂の形に追従する下位物質に過ぎない。
いくら肉体を爆散させようとも……魂に攻撃を与えなければ、真人は、消えない。
背を向けた虞美人に抱き着く真人。
「
耳元でそう囁いた、真人の破顔は――――誰よりも愉快に歪んでいた。
虞美人の乳房を握る手の平から、ズグンと【無為転変】が発動する。
ボコボコボコと虞美人の胴体が蠢き、歪められた魂の形に従って肉体が歪んでいく。
「それじゃあ、バイバ」
勝利の愉悦に興じ、何の痛痒も感じない永遠の別離を口にする最中で――――【
「は?」
爆発した虞美人が魂ごと再生する。
目を丸めて倒れ伏す真人の腕を押さえつけて、虞美人は上に跨った。
【
「ちょっ――――」
【
「無駄……」
【
「魂には通じな」
【
「……おい」
【
「待てよ」
【
「まてまてまてまて‼」
【
「話をき」
【
魂の輪郭を知覚した者……虎杖悠仁やマシュ・キリエライトでしか、真人にダメージは与えられない。それがいかに強力な攻撃だとしても、真人は己の魂の形を強く保つことで、ダメージを無効化する。
しかし『魂の形を保つ』という行為には、『術式の発動』という段階を踏んでいる。
術式を発動とするということは、呪力を消費するということ。
つまり呪力が尽きれば―――――
「やめろやめろやめろ‼ くそっ、無尽蔵かよこいつぅぅああああ⁉」
絶え間ない呪詛の爆撃が、真人の呪力を削り続ける。
爆撃の余波で既に地形は変化し、車道は崩れ、土砂崩れが起きるが、その土砂すらも宝具で吹き飛ばす。
呪力が尽きるまで攻撃する。
呪術師にとっては現実的じゃない方法は、虞美人ならば……星からの無限の魔力供給を受ける精霊ならば可能だった。
そして駄目押しの事実として―――――真人は今、
「やぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああめぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ‼‼‼‼」
虞美人は閉口を守る。
意味を感じないから。
だってもう殺すから。
もう死ぬ者とこれ以上言葉を交わす意味を、虞美人は見出す気が微塵も無かった。
ただし。
「 直ちに攻撃を止めてください 」
殺せない者が言葉を掛けてきたら、それは例外だった。
虞美人はこちらに近づいてくる人物をじろりと一瞥する。
その者は【
すたすたと、てくてくと、散歩道の如く。
けれど、その者は、散歩にしては不釣り合いな大きな円盾を持っていた。
「……ギャラハッド」
「藤丸立夏・与幸吉・マシュキリエライト、この三名を我々は見逃した。……あなたも、こちら側の存在を見逃してもらっても良いのでは?」
虞美人はしかし、組み伏せたソレに無感情の眼光を振り下ろして、宝具の発動を止めない。
「コレはここで殺す。これは確定事実だ。聖杯に認められた貴様でも、この事実を覆せると思うな」
「――――ならば」
ギャラハッドが手をかざす。
途端、真人の周りだけを覆う白亜色のシールドが地中を湧現した。
「………………」
シールドに覆われた真人を憮然と見下ろす虞美人。その堅牢さは、身をもって知っていた。ギリッと歯を噛みしめる脳裏に、紫髪の後輩の顔が浮かぶ。
「いいだろう、ここは退いてやる」
虞美人は立ち上がり、ギャラハッドの横を通り過ぎた。
ギャラハッドは目を伏せ、陳情を受け入れた上位存在に深く応える。
「感謝します」
「だが、一つだけ答えろ天上の騎士。――
沈黙が流れる。
するとギャラハッドが空を仰いで、一言だけ紡いだ。
「――
「……愚かだな」
心無い言葉しか投げれない自噴に、目を吊り上げる虞美人はそのまま去っていく。
残されたギャラハッドは蒼穹を仰いだまま、ほんの刹那――フッと目を細めた。
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ふわっと内蔵に浮遊感を覚えた時、藤丸は自分がつまづいたのだと思った。
しかし爪先の向こうに小さくなったマシュが見えた時、(あぁ、私、落ちているんだ)と謎の感慨深さを抱いていた。
「先輩っ!」
「ッ! 受け止めて!」
藤丸が吹き飛ばされた瞬間から駆け出していたマシュは、落下地点を見定めると、スライディング。指示通りに、マスターの細身を腕の中に受け止めることができた。
「っ~~~っくりしたぁ!」
「先輩! ご無事ですか⁉」
「うん、ありがとマシュ」
内臓が浮き上がった気持ち悪さは残っているが、ふらふらと藤丸は立ち上がった。
「大丈夫か、藤丸立香!」
そう言って遅れてやってきたのは、与幸吉だ。彼は藤丸の無事を確認すると、背後で今も起こっている災害現象を見やる。
「……あれもサーヴァントの力、なのか」
藤丸は首を振った。
「うぅん。――あんなことできるのは、ぐっちゃんしかいないよ」
連続的に肌を痺れさせる大気の振動、山が文字通り土砂となって崩れるも、その土砂すらも爆風が吹き飛ばして、パラパラと藤丸達の所にまで飛んでくる。
藤丸とマシュにとって、精霊種による豪快な魔力放出を目にするのは、中国異聞帯以来のことだった。
「一体、向こうで何が起きているんでしょう……いえ誰が行っているのかは明らかなのですが」
「分かんないけど――――よっぽど怒らせたんだろうね、カルデア来てからでもあんなに怒ったことないよぐっちゃん」
「二人とも呆けるのは後にしてくれ。もう夏油の帳は脱出した。通信するから、藤丸はこっちに来てくれ」
敵が誰であれ、あの爆連撃を喰らって只で済むはずがない。藤丸達はこれ以上の戦域離脱を止めて、呪術高専……否、五条悟への連絡を急いだ。
幸吉が通信型の傀儡を起動させると、砂嵐の音が鳴り始めた。時折甲高い電子音が混じる通信メカ丸を見つめていると、幸吉が口惜しい表情を浮かべた。
「……すまない。あの霧を吸ったせいで」
「幸吉くんは悪くない。大丈夫、君が手にした情報は絶対に伝える」
悔やんでも悔やみきれない幸吉の肩に手を置いて、まっすぐに言葉を伝える藤丸。それで彼の胸にへばりつく罪悪感を拭える訳ではないが、彼の本意だけは、五条悟に伝えなくては。
何らかの処罰が降りた時は味方になる、と頭の片隅で考えていたら、通信メカ丸に反応が出た。
『――――――もしもし』
「五条さん⁉ 藤丸です! 幸吉くんと接触できました! それより聞いてください、10月31日に……」
『あらあらあらぁ、マスターではありませんか』
女の、声だった。
藤丸の瞳孔が開かれる。
自分をマスターと呼ぶということは、サーヴァントだ。いや、そんなことを考えずとも、声で分かる。
「……キアラ、さん?」
『ふふ、うふふふふ、そうですよマスター。御身を導く魔性菩薩。あなたのアルターエゴ、殺生院キアラです』
カルデアの霊基グラフから消失した、20騎の混沌・悪サーヴァント。
その中でも『特記事項』とカテゴライズされた、超超級の危険度を有する一騎が、五条悟の電話に出た。
それが意味することを正しく把握しているのは、この場では藤丸立香だけだった。
「キアラさん……五条さんをどうしたの?」
『んん? はて? どうした、とはマスターも曖昧な問い方をされるもの。そうもいじらしいもとい焦らした物言いでは、この殺生ンッ院はぁぁあ…………、容易く限界が来てしまいそう』
通信メカ丸から漏れる、ぐつぐつに煮えた欲情の声。その熱っぽさは離れていても、耳に舌を入れられたような感覚を、藤丸に容易く与える。
恐怖とは程遠い快楽がゾゾゾと背筋に奔る。けれど藤丸は、この寒気が正しく恐怖の感情から湧いてきていることを知っている。拒絶も畏怖も警戒もさせず、その身を蝕む毒があることを……知っている。
「聞き方、変えるよ――――
『ふふふ、
「五条さんの、目?」
興味を覚えた藤丸の声に反応して、通信の向こうにいる女の声がひと際甲高くなった。
『はい! とても美しい蒼……いえこれは紫? なんということでしょう、なんと言葉で表せばよいのか分からないほど、美しき瞳でして。えぇ、えぇ、まるで人魚姫の泡のような…………あんまりにも綺麗なものだから私、思わずこう――――
瞬間、藤丸の脳裏に溢れだす、存在しない記憶。
目にしていない筈の記憶。
通信の向こう側で、かの存在が今
その存在はきっと、道端の花を摘んでしまった乙女のような顔をしている。
まるで目にしたことがあるかのように、リアルタイムで見ているかのように、鮮やかに通信の向こう側の様子が脳裏に描かれた。
『【六眼】と言うのですよね、コレ。あぁ、あぁ、あぁ! ほんとうに……きれぃ』
眼孔から取り出した六眼を、殺生院キアラは――――ちゅぷりと接吻を送った。
一方、その頃の七海宅。
七海「あなたが来てから明らかに物が増えました」
刑部「私が来る前は、明らかに物が無さすぎでした。彩りが増えたでしょ☆」
七海「逆です。見る限り茶色です。一面段ボール畑です。これの支払いは一体どこから…」
刑部「…………………………(ニコォ)」
七海「――――なぜ目を反らすんです?」
刑部「…………………………(ダラダラダラ)」
七海「少し、口座残高を確認してきます」
刑部「わぁああーーーー! まってまって、仕事疲れでまた外出!? やめといたほうが良いよ! 大丈夫、銀行は勝手に無くならない!!」
七海「私の貯金が勝手に無くなってる可能性があるんですよ」