Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第51話 戦いの快楽

 ――――真言立川詠天流。

 山奥で細々と長らえている宗教の宗主の娘として、殺生院キアラは生を受けた。

 生まれ落ちた時はまだ病弱であった彼女は、14の頃やってきた医者の治療により回復。それからは目覚ましい才覚を発揮した。

 詠天流に伝わる房中術や法術…………果ては武術まで。

 

「なるほどな」

 

 ドズン‼ と、李書文の踏み込みが地を凹ませ、空を圧する。

 

【絶招】……八極拳の秘伝の套路(型)により、周辺一帯の大気が李書文の【気】に塗りつぶされる。李書文の気に包まれたそこは最早、この世界で云うところの【領域】。

 その中で放つ剛打は、例え牽制やフェイントの為であったとしても相手を死に至らしめる絶技なのだが。

 

「なかなかどうして」

 

 頬を吊り上げる李書文の凶拳は――――当たることなく捌かれる。

 かくも淫らな女の、か細き五指にて。

 

使()()()()()()()、主」

「淑女の嗜みです♡」

 

 蠱惑的に微笑むキアラに、李書文は八極の極意を叩く叩く叩く。

 突き・打ち上げ・打ち下ろし・蹴り・掌打・二連撃・肘打ち・膝打ち・寸勁・体当たり、どれもかれも是全て【无二打】と同等の威力。

 

 そのいずれをも、キアラの女体には届かない。

 

 益荒男に口付けを送られる手の甲で、同性異性の玉肌を撫でる手の平で、繊細に蠢き快楽を与える五指で、弾かれる。

 

 否、弾かれているのではない。

 ()()()()()()()

 

「妙な武術を使う。流派は何処かな?」

「詠天流武術です。我が宗派は、性交を以て悟りに至る故……」

 

 大砲の如き打撃の威力の流れを、そっと指を這わすことで操り、逸らす。その度に李書文は拳を、肌を愛撫されるような感触を味わった。

 

「おやおやおや……私の手淫はお気に召しませんか? 只人ならば一撫でで果ててしまうのですが」

「生憎、柔き肉に快を見出せぬ性分(タチ)でな」

「それはそれはお気の毒ですね」

「お主ほどでは無いさな」

 と言った瞬間、ズンッと、キアラの足を『震脚』でもって抑えつける李書文。見開かれたキアラの目には動かなくなった自分の足が映り――――直後、全身が硬直した。

 

 練り上げた功夫によって、不動を強いた李書文は両掌を掲げた。

 

「どれ、一つ……」

 それは【无二打】と同様、宝具として昇華された絶技。

 

 八極拳の流派によって技の形が異なるがため、現代において実態の無い技として扱わ れているが何ということは無い。

 その技は決まった型を持たない、無型の奥義だったのだ。

 

「色狂いに馳走してやる」

 使い手の八極拳の技量に応じて自由自在に繰り出せるその宝具は、李書文が最も得意とした技だった。

 

               【猛虎硬爬山】

 

 上に掲げた両掌を横から振り下ろす。

 両側から迫る手刀が、大鋏の如くキアラの首に飛んだ。

 腰まで届く長い濡れ羽色の髪が切り裂かれていったその時……()()()()()()()()()()()()()

 

               「四念回峰行」

 

 瞬間、李書文のがら空きの胴に撃ち込まれた、神速の四連撃。

 鞭のようにしなる滑らかな手撃は、李書文の口腔を瞬く間に血で満たす。

 更にキアラは李書文の胸板に掌を当てて、その上からもう一方の掌を重ね合わせる。

 

「発破!」

 

 ズムンッ‼ と骨肉の深部まで到達する衝撃が、口腔の血をごばっと吐き出させた。

 膝から崩れ落ちていく老拳士を、キアラは苦痛に歪めながら見下ろした。

 

(……やはり、凄まじいお方)

 ひしゃげた右手中指と左手薬指を目にして苦虫を嚙み潰すキアラ。完全なタイミングで撃ち込んだと思った神速の四連撃。しかし実際に撃ち込めたのは二連まで。

 捌かれた残り二連撃がどうなったかは、握り潰された指が如実に語る。

 

「ともかくこれで、この方はおしま」

 ――――崩れ落ちたと錯覚するほど滑らかな、膝からの脱力。

 それは、数多の武術を使用する禅院真紀が使っていた技の一つ。

 李書文が放った躰道の卍蹴りが、余韻に浸っていたキアラの側頭部を穿った!

 

「かっ……!」

 キアラの脳が揺れ、視界に純白の火花が散る。

 明滅するキアラの喉目掛けて、李書文の親指が飛ぶ。どちゅ! と硬く鍛えた指が暗器の如くキアラの喉を抉る。

 そして間髪入れずに、李書文の正拳突きがキアラの下腹にめり込んだ。

 

「どうした」

 

 五臓六腑が弾け飛び、崩落した寺社仏閣から突き出た木の柱に背中から貫かれたキアラに向かって、凶暴な翁が咆え立てる。

 

「その程度で終わる貴様では無かろうが…………っ‼」

「――――ケヒッ」

 

 腕を後ろに回し、血肉が擦れ合う水音を奏でながら、木の柱を引き抜くキアラ。その相貌は清楚で妖艶な淑女の面影は無く。

 

「ケヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャッ‼‼ ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッッ‼‼‼」

「存分に馳走してやる故……死ぬなよ?」

 

 頬を裂き、歯を剝き出しにして、生来の凶暴性を全開にする李書文。狂ったように、正気を失ったかのようにキアラが飛び掛かる。

 戦いの愉悦に、快楽に溶けた両者を―――――――殺生院キアラはため息をついて眺めていた。

 

「 スキル【万色悠滞】 」

 

 殺生院キアラが有する魅了スキルである。

 五感全てで誘惑し、少しでもキアラの色香に惑えば相手を問答無用で支配するスキル。しかし、かの翁はあらゆる色香に反応せず、寧ろキアラの武術に興味を示していた。

 

 効果が薄いと判じたキアラは戦闘中にスキルの改造に着手。『月世界』で使用された、本来の【万色悠滞】に戻したのだ。

 相手をの精神と魂を読み取り、すべて受け入れた上で、電脳ドラッグを上回る快楽を与えるスキルへと。

 

「あなたにとっての快楽は【強者との立ち合い】。ですから、ソレを差し上げます。宿儺の指の呪霊に魔神柱(わたしの髪)を30柱ほど投与した強化個体。飽くせぬ戦いの愉悦と快楽を与えるでしょう」

 

 キアラと契約していた宿儺の指の呪霊は、魔神柱を鎧のように纏って、李書文と戦っている。

 

(やはりどれだけ下等でも使い道はあるというもの。あの時、溶かさずに残しておいてよかった……)

 それだけ思うと指の呪霊への興味を失い、キアラは踵を返して、その場から離れる。

 へし折られた指と卍下蹴りのダメージに立ち眩みつつも、表情は苦痛に歪んでおらず……寧ろ快楽の歓喜に浸っていた。

 

「解析に手間取ってる間に手酷くやられてしまいましたが……気持ちよかったぁ……。ふふふっ、それでは李書文様、どうぞ心行くまで人形の戯れをお楽しみくださいな」

 

 二百七十六の魔神柱の蹂躙にさらされる高専敷地内を、キアラは歩く。

 らんらんと目を輝かせながら。

 それぞれの双眸に二つの目的を映しながら。

 

「高専忌庫にある3つの聖杯の欠片…………そして、薨星宮におわす【天元】。ふふふっ、天元。あぁ――――一つになったら、一体どれほど気持ち良いんでしょう……♡」

 

 天元。

 日本呪術界の中心にして、【個】から【世界】そのものへと昇華した高次元存在。

 そんな存在との性交を想像して、キアラは心臓が爆ぜそうになるほど火照った。

 




天元逃げて、超逃げて!!! 
なんなら聖杯よりセッッッが目的なまである。
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