Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第52話 与えられる選択=誘惑

 ――――殺生院キアラが来襲する三分前。

 

「はぁーーーあ、まったく。人を何度も呼びつけやがって」

 

 くあっ、と大きく欠伸をした五条悟の足取りは億劫だった。

 【呪術総監部】……上層部のお歴々に呼ばれたからだ。保身バカ世襲バカ、腐ったみかんのバーゲンセールと喩えた総監部と五条は常々、様々な問題で揉めていた。

 

 その中でも、最もホットな揉め事は二つ。

 宿儺の器・虎杖悠仁の件と――――異邦から現れたマスター・藤丸立香の件。

 

(立香にメカ丸捜索の任務与えたから、それについてごねる気なんだろうな)

 

 徒党を組んだ特級呪霊と、バックに潜む呪詛師。

 その集団に、高専内の情報を渡している内通者は二名いる。

 メカ丸と、上層部の誰かだ。

 

(まぁ分かってたけどね。情報を集める手足(メカ丸)を、危険視してる立香に奪われるんだから)

 

 それでも大事にはならないことは、五条は分かりきっていた。

 せいぜい、嫌味や小言をネチネチ長く言われる程度だ。

 

 向こうがどんなに権力を用いようが、強大な個人の戦力には敵わない。

 その気になれば、五条はいつだって上層部を皆殺しにできる。

 そうしないのは、五条の我儘……否、高専教師としての夢を抱いてるからだ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 それが五条悟の夢であり、自身に課した枷だ。

 この枷を五条が守る限り、総監部との均衡は保たれる。

 

 ただし。

 

「――――――――なんだ?」

 

 それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 総監部メンバーが鎮座する空間に入った五条は、アイマスクの下で六眼を見開く。

 鼻腔を、濃厚な血潮の香りが突き刺す。腐臭と肉がこねられる悍ましい音が響く。

 宙に浮かぶ障子の向こう、上層部の老人達が座っているはずの場所は血に染まり、障子に移る影が蠢いている。

 五条は障子の裏に回り込む。すると――――赤い目玉を幾つも生やした、黒ずんだ魔の肉柱が五条をギョロリと睨め付けた。

 

「イメチェンが過ぎるでしょ、おじいちゃん」

 

 五条は苦笑すると、魔神柱に変生していた上層部の悉くを――四十三秒で屠殺した。

 どれだけ首をすげ替えても無意味だからと、止めていたことだが……

 

「どうやらそうも言ってられないらしい」

 

 地響きと轟音が届く。

 上層部の空間を出て、五条は五重塔に模した建造物の頂上から、高専全土を見渡す。

 二百七十六柱の魔神柱が胎動し、蠢き、蹂躙している母校の光景を。

 

「さて……どこから行くか」

 するり、とアイマスクを下ろした。

 

                ◆ ◆ ◆

 

「やはり高専忌庫は魔術工房の立地として十分ですわね……メディア様」

 

 薨星宮に続く道の最中にある数多の呪物を保管せし忌庫にて、二人の女が対峙していた。忌庫の一区画を工房として改築していた魔女メディア、そして侵入者・殺生院キアラ。

 

 神代の魔術師が施した工房の罠を容易く突破し、キアラは魔神柱化させた指でメディアの脇腹を貫いていた。

 

 脂汗を滲ませるメディアの手には、宿儺の指に模した聖杯の欠片が三本。

 薄く口角を上げた唇を舌で割って、キアラは嗜虐に満ちた表情で舌なめずりする。

 

「さぁ、その欠片をお渡しください。決心がつかないのであれば……つくように優しくお腹の中を掻き混ぜましょうか?」

「―――なんのために」

「はい?」

 

 白々しく首を傾げるキアラに、ギリッと歯噛みしながら、メディアは真意を問うた。

 眼前の、聖杯なんか目じゃない化生となっている女に。

 

「無数の魔神柱を従えてるあなた……それだけの権能を有してるあなたが、どうして聖杯なんかを必要とするの?」

「――――選択を、与えたいのです」

「選択?」

 

 怪訝に目を細めるメディアだったが、突如腹部に焼き鏝を押し当てられたような激痛が走って苦悶する。脇腹に刺さっていた指を、キアラが引き抜いたからだ。

 

 血に塗れた人差し指を眺めながら、キアラはもう一本、中指を立てた。

 

「私はマスター藤丸立香のサーヴァント。他の方は知りませんが、私はこの特異点に引きずり込まれてからも、己と契約を保ち続けております。まぁ、使えるかもしれないと、あの呪霊(羽虫)とも契約はしていますが……私の心はマスターの物です」

 

「意味が……分からないわね。自分があの娘の物だというなら、どうして同盟関係の高専を」

「同盟? 縛り枷を嵌めた相手をどうして味方と思えましょうや。それに……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 舐め回すような視線の指摘が、メディアの顔に苦痛ではない陰りをもたらせる。

 藤丸とマシュの部屋に訪れ、話を聞いた時に抱いた違和感。

 頭の中で言葉にしていないだけで、メディアはその正体を霞のようにぼんやりとだが突き止めていた。

 キアラは、その霞を、言語で表すことで晴らした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()。二十に分けられた聖杯の欠片によって、無理やり特異点としての体裁を整えられただけ。私たちの世界とは異なる『呪術』が発生しているこの世界を、私達の魔術言語で表すならば」

 

 特異点は、本来の歴史の中にある『過去の世界が変貌した世界』。

 異聞帯は、本来の歴史とは決定的に違えた『ありえたかもしれない世界』。

 

 そのどちらもが、修正されれば、無かったことになる【剪定事象】だが……だが、この呪術蔓延る世界は、その定義には当てはまらない。

 

 余りにも本来の歴史(世界)とはかけ離れた異聞帯の世界に、違い過ぎるがゆえに『存在強度』が与えられた、完全なる『異世界』。

 

「――――『異聞世界』。読んで字のごとく、世界を股にかけて移住できる世界」

 

 キアラは二本の指を立てた。

 メディアの血に塗れた人差し指と、まっさらな中指。

 

「私がマスターに与えたい誘惑(選択)とは…………世界の移住です」

 

 キアラは血に塗れた人差し指を折って、続ける。

 

「人理は漂白され、何もかも無くなった元の世界。例え退けたとしても、続々と七匹の獣が現れる世界……から」

 

 キアラはまっさらな指を折り曲げて、続ける。

 

「かつてマスターが住んでいた日本に限りなく近い、安住の世界へ。

カルデアのマスター! 人理の救世主! その一切の重責を捨てられる『世界の移住』という選択肢! これを与えることが――――私が聖杯に掛ける願いでございます」

 

 世界の半分を与える、と魔王は聖人に言った。

 しかし、この女は、キアラはそんな半分ぽっちの、生半可な誘惑など与えない。

 責任放棄・異世界への逃走。

 自身の与えた選択(誘惑)に屈するか否か。それを見つめる快楽に浸ろうとして――――このキアラは既に禁欲生活(サーヴァント)を辞めていた。

 




アヴァロンルフェにて、たしか見かけた『異聞世界』という単語から無理くり考えたけれども……本当に型月設定に『異聞世界』ってあっただろうか……。
妖精國の妖精が移住できるのも、この『異聞世界』ないしは『存在強度』が強いからだったと思うのですが……ちょっと誰か教えてくれぇえええええええええええ!!
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