Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
――――人類悪変生。
メディアが目にしたのは、正しく生まれ変わり。曲がりなりにも、人理の守護者であったサーヴァントが、人理の汚点へと成れ果てる光景であった。
「その、すがた……」
尼僧の姿をしていたキアラはより神々しく、より禍々しく、より艶めかしい姿へと進んだ。蠱惑的な息を吐き、火照った頬に手を添える女の頭には――――巨大な獣の
メディアは社会を内から喰い破る癌細胞へと堕ちたキアラを、嗤った。
「ほんとうに、どうしようもないわね」
「? それは私のことを言ってるのですか? それともご自身の状況を口にしてるのですか? まぁ前者でも後者でも……何を今更分かり切ったことを」
獣は動かなかった。
指先の一本も、まばたきの一つもせず――――虚空から魔神柱を射出する。
メディアのすぐ近くの虚空から。
「っ!」
咄嗟に飛び退くが、間に合わない。
ゼロ距離から槍のように生えてきた魔神柱に、メディアは貫かれる。大腿部は貫通し、他数本は服布を破くように。
「―――――ッ!」
生かされたのだと、メディアはすぐさま悟る。その悟った目で……被食者を前に舌なめずりをする捕食者の享楽を見た。
大腿の焼きつく激痛をも塗り替える赫怒を咆えた。
腕を振るうと、地面に黒い淀が一瞬で現れ、そこから竜牙兵が這い出てくる。
キアラへと殺到する竜牙兵だが、やはりキアラは動くことなく、ゼロ距離の虚空から生み出す魔神柱の槍で竜牙兵を消化していく。
その間にメディアは貫かれた大腿部に治療魔術を掛け、背中から妖しく発行する翼を形成する。ヘカテの翼で飛び上がったメディアは、キアラの周囲を高速旋回する。
「此処で消えてしまいなさいッ!」
耳元に流れる風切り音を上回る怒声を放った直後、翼から魔力弾を撃ちだす。円を描くように旋回していることで、四方八方から着弾するキアラ。その弾幕の苛烈さと正確さは、円の中心点=着弾点にいるキアラに全て叩き込まれる。
立ち込める戦塵がキアラを覆い隠すと、メディアは戦塵の真上へ飛翔し、
「ヘカティック・グライアー‼」
詠唱を叫び、極大の魔力の柱が戦塵の中央を穿った。
メディアは晴れることない戦塵を、固唾を呑んで見守り――――頬に固い感触を覚えた。
「 え」
刹那にも満たない時の中、鳥は地に落とされたことにも気づかなかった。
逆流する血流に口腔から食道まで満たされる。混乱と痛苦に蝕まれながらも、メディはとにかく体を起こそうとするが――――背中から突き刺さった魔神柱が、しっかりとメディアを地面に縫い付けていた。
「フフフ、まるで標本ですね」
無傷どころか、髪も乱れていないキアラは快楽に震える己の身を抱きしめて、立ち上がろうともがく眼下のメディアの様を視姦する。
「ア……アァアアアアアアアーーーーーー‼」
フォークで蝶の羽根と体を突き刺したように、メディアは三本の魔神柱によって磔にされていた。
「あぁっ、いけませんいけません! 標本の蝶がそのような嬌声を上げては! これ以上、昂らせて一体私をどうしようと⁉」
そう言うや否や、背中に突き刺さった魔神柱がギチギチギチと動き始める。こよりのように捻じったり、ぐらぐらと左右に揺れたり。その度に、メディアの体は自身の意志と離れたところで痙攣する。
弄ばれていた。玩具にされていた。仕方のないことだった。
【人類悪・ビースト】。それは人理の真の守護者:冠位英霊(グランドサーヴァント)が相対すべき存在。通常の霊基のサーヴァントでは、そもそも存在の規模が違う。
「はぁ……いけませんね、つい寄り道してばかり。長年の我慢の反動ですかね。目的の物を貰いましょうか」
そうしてキアラは遊び終えた玩具を置いて、魔術工房の深奥へとひた歩く。高専忌庫の一部を魔術工房として加工して、彼女が何を創っていたか。
その創造物を、キアラは今手に取った。
「あぁ……【術式】はそのままに、しっかりと呪力が満ちている。今やこれは宝具ではありません」
稲妻のようにギザギザの刀身を掲げて、キアラは見惚れる。
自身と同じく【変生】した、その短剣の名は――――
「さすが、稀代の魔女メディア。貴女は素晴らしい仕事を成し遂げました。その手向けに」
三本の魔神柱がメディアを串刺しにしたまま、キアラの元へと運んでいく。
手足の末梢部分から金色の粒子をこぼすメディアを、自身の豊かな胸元へ招き寄せ、しっかりと抱きしめる。
「――念入りに蕩けさせて差し上げます」
自身の胎内へと招き入れようとしたキアラは、頬を染めながら……すぅっと髪を耳に掛けた。
するりと。
指先に奇妙な感触を覚えた。
「……?」
怪訝に思って、キアラは自身の指先を見て―――――指にびっしりと絡まった髪を見た。数十本の抜け落ちた髪を目にして、女心に
「一体、なにが……」
プツッ、とまた一本、髪が抜けた。
「ッ⁉」
プツリと、ブツリと、ブチリと、ブチチンと。髪が抜け始める。
「これは」
「まさか」
そしてふと――――――――神の虐殺が止んだ。
「………………」
どさり、とメディアを投げ落として、キアラは歩み始めた。
コツコツと高専忌庫から出て、ゆぅっくりと憤懣に細めた眼を、静謐な空気満ちる薨星宮のとある壁に移した。
刹那―――【無限】によって創生された仮想の質量が、薨星宮の壁をぶち壊した。
紫色の光柱に照らされる獣の相貌が……
「女性の髪を引っ張るだなんて……随分と乱暴な殿方ですこと」
壁に空いた風穴に向かって、キアラは語り掛ける。
すると、舞う土埃を煙たそうに払いながら――――【最強】が嗤った。
「えw? 君、女のつもりなのww?」