Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第53話 人類悪と最強の人類

 ――――人類悪変生。

 メディアが目にしたのは、正しく生まれ変わり。曲がりなりにも、人理の守護者であったサーヴァントが、人理の汚点へと成れ果てる光景であった。

 

「その、すがた……」

 

 尼僧の姿をしていたキアラはより神々しく、より禍々しく、より艶めかしい姿へと進んだ。蠱惑的な息を吐き、火照った頬に手を添える女の頭には――――巨大な獣の王冠(ツノ)を戴せていた。

 メディアは社会を内から喰い破る癌細胞へと堕ちたキアラを、嗤った。

 

「ほんとうに、どうしようもないわね」

「? それは私のことを言ってるのですか? それともご自身の状況を口にしてるのですか? まぁ前者でも後者でも……何を今更分かり切ったことを」

 

 獣は動かなかった。

 指先の一本も、まばたきの一つもせず――――虚空から魔神柱を射出する。

 メディアのすぐ近くの虚空から。

 

「っ!」

 咄嗟に飛び退くが、間に合わない。

 

 ゼロ距離から槍のように生えてきた魔神柱に、メディアは貫かれる。大腿部は貫通し、他数本は服布を破くように。

 

「―――――ッ!」

 生かされたのだと、メディアはすぐさま悟る。その悟った目で……被食者を前に舌なめずりをする捕食者の享楽を見た。

 

 大腿の焼きつく激痛をも塗り替える赫怒を咆えた。

 腕を振るうと、地面に黒い淀が一瞬で現れ、そこから竜牙兵が這い出てくる。

 キアラへと殺到する竜牙兵だが、やはりキアラは動くことなく、ゼロ距離の虚空から生み出す魔神柱の槍で竜牙兵を消化していく。

 

 その間にメディアは貫かれた大腿部に治療魔術を掛け、背中から妖しく発行する翼を形成する。ヘカテの翼で飛び上がったメディアは、キアラの周囲を高速旋回する。

 

「此処で消えてしまいなさいッ!」

 

 耳元に流れる風切り音を上回る怒声を放った直後、翼から魔力弾を撃ちだす。円を描くように旋回していることで、四方八方から着弾するキアラ。その弾幕の苛烈さと正確さは、円の中心点=着弾点にいるキアラに全て叩き込まれる。

 

 立ち込める戦塵がキアラを覆い隠すと、メディアは戦塵の真上へ飛翔し、

「ヘカティック・グライアー‼」

 

 詠唱を叫び、極大の魔力の柱が戦塵の中央を穿った。

 メディアは晴れることない戦塵を、固唾を呑んで見守り――――頬に固い感触を覚えた。

 

「     え」

 

 刹那にも満たない時の中、鳥は地に落とされたことにも気づかなかった。

 

 逆流する血流に口腔から食道まで満たされる。混乱と痛苦に蝕まれながらも、メディはとにかく体を起こそうとするが――――背中から突き刺さった魔神柱が、しっかりとメディアを地面に縫い付けていた。

 

「フフフ、まるで標本ですね」

 

 無傷どころか、髪も乱れていないキアラは快楽に震える己の身を抱きしめて、立ち上がろうともがく眼下のメディアの様を視姦する。

 

「ア……アァアアアアアアアーーーーーー‼」

 

 フォークで蝶の羽根と体を突き刺したように、メディアは三本の魔神柱によって磔にされていた。

 

「あぁっ、いけませんいけません! 標本の蝶がそのような嬌声を上げては! これ以上、昂らせて一体私をどうしようと⁉」

 

 そう言うや否や、背中に突き刺さった魔神柱がギチギチギチと動き始める。こよりのように捻じったり、ぐらぐらと左右に揺れたり。その度に、メディアの体は自身の意志と離れたところで痙攣する。

 

 弄ばれていた。玩具にされていた。仕方のないことだった。

 

【人類悪・ビースト】。それは人理の真の守護者:冠位英霊(グランドサーヴァント)が相対すべき存在。通常の霊基のサーヴァントでは、そもそも存在の規模が違う。

 

「はぁ……いけませんね、つい寄り道してばかり。長年の我慢の反動ですかね。目的の物を貰いましょうか」

 

 そうしてキアラは遊び終えた玩具を置いて、魔術工房の深奥へとひた歩く。高専忌庫の一部を魔術工房として加工して、彼女が何を創っていたか。

 

 その創造物を、キアラは今手に取った。

 

「あぁ……【術式】はそのままに、しっかりと呪力が満ちている。今やこれは宝具ではありません」

 

 稲妻のようにギザギザの刀身を掲げて、キアラは見惚れる。

 自身と同じく【変生】した、その短剣の名は――――()()()()破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)】。

 

「さすが、稀代の魔女メディア。貴女は素晴らしい仕事を成し遂げました。その手向けに」

 

 三本の魔神柱がメディアを串刺しにしたまま、キアラの元へと運んでいく。

 手足の末梢部分から金色の粒子をこぼすメディアを、自身の豊かな胸元へ招き寄せ、しっかりと抱きしめる。

 

「――念入りに蕩けさせて差し上げます」

 自身の胎内へと招き入れようとしたキアラは、頬を染めながら……すぅっと髪を耳に掛けた。

 

     するりと。

 

 指先に奇妙な感触を覚えた。

 

「……?」

 

 怪訝に思って、キアラは自身の指先を見て―――――指にびっしりと絡まった髪を見た。数十本の抜け落ちた髪を目にして、女心に動揺(ショック)が走る。

 

「一体、なにが……」

 プツッ、とまた一本、髪が抜けた。

 

「ッ⁉」

 プツリと、ブツリと、ブチリと、ブチチンと。髪が抜け始める。

 

「これは」

 

 (魔神柱)抜け始める(殺され始めている)

 

「まさか」

 

 薨星宮(こうせいぐう)に侵入する前に放っていた、二百七十六()魔神柱()が……次々と殺され始めている。まるで順番待ちの死刑囚の如く、屠殺されゆく家畜の如く、次々と……次々と次々と次々と次々と次々と!

 

 そしてふと――――――――神の虐殺が止んだ。

 

「………………」

 

 どさり、とメディアを投げ落として、キアラは歩み始めた。

 コツコツと高専忌庫から出て、ゆぅっくりと憤懣に細めた眼を、静謐な空気満ちる薨星宮のとある壁に移した。

 刹那―――【無限】によって創生された仮想の質量が、薨星宮の壁をぶち壊した。

 紫色の光柱に照らされる獣の相貌が……敵意(きば)を剥き出しにする。

 

「女性の髪を引っ張るだなんて……随分と乱暴な殿方ですこと」

 

 壁に空いた風穴に向かって、キアラは語り掛ける。

 すると、舞う土埃を煙たそうに払いながら――――【最強】が嗤った。

 

「えw? 君、女のつもりなのww?」

 

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