Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
光が瞬く。
わずかな痛みを挟んで、
(なんだ……?)
【最強】五条悟は蝉の鳴き声を聞いた。
『いっくよー』
【呪術高専3年】五条悟は、同級生の気だるげな声を聞いた。
次の瞬間、完全に突き刺すつもりでペンをぶん投げた家入硝子と最小限の動作で消しゴムを投げた夏油傑がいた。
(これはなんだ?)
ここでようやく【最強】五条悟は――――【呪術高専3年】の頃の自分を認識する。
学生時代の自分が、無限でペンを止めて、消しゴムにこつんとぶつかった。
『うん、いけるね』
消しゴムをキャッチし、虚空に静止したペンをつまむ、学生五条。
成り立ての学生五条はつらつらと、構築したばかりの自身の【最強】を物語る。
『今までマニュアルでやってたのをオートマにした。呪力の強弱だけじゃなく、質量・速度・形状からも物体の危険度を選別できる』
(やめろ)
『毒物なんかも選別できればいいんだけどそれはまだ難しいな。これなら最小限のリソースで無下限呪術をほぼ出しっぱにできる』
(気づけ)
過去の自分を見る、五条の目がどんどん細まる。自分だけが強いだけじゃ意味が無いことに気付いていない昔の馬鹿さ加減を眼光で責める。
(――――傑に気づけ)
2007年8月、五条悟が【最強】になった夏。
2007年8月、夏油傑が【最強】になれなかった夏。
――――二人で最強じゃなくなった夏。
真夏の陽光が、光が瞬く。
わずかな痛みを挟んで、
*********
目の奥がチカチカとかすかな痛みを訴える。
本当にささいな痛みだった。
「あーーーっと……なんだっけ、どこまでいったっけ?」
勝負が決した後でしか気づけないような、かすかでどうでもいい痛みを抱えたまま、五条悟は見上げた。
四肢を潰して、壁に縫い付けた殺生院キアラを。
「かっ……は――――っ♡」
「何感じてんだよ」
五条がクンッと指を上げる。
直後、形成された最大出力の【蒼】が壁に縫い付けたままのキアラを吸い込んだ。
天井に穿たれたクレーターの中心点となるキアラ。目の焦点を失い、口腔から血を吐き出し……潰れた四肢を魔神柱で補肉して再生させる。
「ならば」
キアラが視線を向けたと同時に、五条悟の周辺から魔神柱の槍が創造される。メディアの時とは比べ物にならない数の魔神が投げ槍として使い捨てられようとも――――その悉くを五条悟は到達させない。
「こうですか?」
天上から地上へ、絶世の天女が駆け落ちる。戦技の法悦に火照らせた生足を振り上げ、
「ここ、弱そうだね」
キアラの背に、グッと五条の足が乗せられた。
五条は背後からキアラの獣の
爆ぜる、黒き閃光。
刹那の時間から消え去るほどの速度でキアラが地下に埋められていく。残された五条は両手に握った
「うん、今日は調子いいね」
本日二度目の黒閃を経た、自身の呪力と術式の精度に満足げに微笑んだ。
(これならいけそうだ)
そうして五条は呪力を見通す【六眼】で呪力の集合体となっている
三十六の【蒼】の縦列が地中の只中に配置され……キアラを更に星の内奥へ引きずり込んでいく。
「そこで虚しく」
五条は指先に虚空を収束させる。赫く黒く凝縮された【無限】をキアラの埋まった穴に目掛け、最大出力で放つ。
弾く力・赫が突き進む毎に、強く・速く引き寄せる三十六の蒼。
射出された
「勝手に独りヨがってろ」
キアラが沈んでいった穴を見下ろし、言の葉を吐き捨てる。
「祓ったぞ……真希」
五条の六眼は呪力の全てを見通す。キアラの、あの女の腹には真希や京都校の生徒と思しき呪力の名残がこびりついていた。
強く聡く……自分に置いて行かれない可能性を秘めた生徒の顔を思い返し、悔いるように瞼を閉じる。
――ちくっ、とかすかな痛みが目の奥に生じた。
「ん?」
瞼を開く。
光が瞬く。
わずかな痛みを挟んで、
「ようやく届きましたね」
「……は?」
貝殻で乳房を覆った獣が、【無限】にしな垂れかかっていた。
キアラの双眸と六眼の双眸が、絡み合う。
キアラはうっとりと目を細め――――吐息を吹きかけた。
甘い甘い快楽の香り。
『毒物なんかも選別できればいいんだけどそれはまだ難しいな』
過去の自分の言葉を思い返すより早く…………視界が瞬くほどの
ドシャッ、と五条悟が崩れ落ちる。
それを見下ろしながら、キアラは横に手を伸ばした。すると穴の中から呪力の残滓が集合していき――――
「私達は二人で【
同じ顔、同じ目、同じ声で、
「―――あてつけ、かよ」
脳内から止めどなく分泌される
二人で【最強】だった、あの
地に伏した【最強】が、【唯一】を睨み上げる。
「 領域展開 」
天へ突きあげるように、
【無量空処】
無下限の内側へと、人類悪を引きずり込んだ。