Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

6 / 61
第6話 五里霧中―影

 静かに呪力を捻出し、その身に刻まれた相伝の術式に流し込む伏黒。それを見過ごすTバック男ではなく、伏黒の式神召喚よりも前にレーザーによる弾幕を展開した。

 毒のレーザーが濃密度で噴射、伏黒に迫るが、

 

「 【脱兎】 」

 

 ぽん、ぽぽん、ぽぽぽぽぽん。

 

 影から出ずるはコロコロと湧き上がる兎の群れ。一匹ないし数匹なら可愛いかもしれないが、蛇口を捻って出る湯水の勢いで無数に湧き上がると気圧される。

 

 兎の式神が壁を築き、レーザーの狙いが逸れる。その隙に伏黒は脱兎の群れに紛れ、Tバック男の距離を詰めようと迫り―――――

 

「悪手なのでは?」

 

 男の声が耳朶を叩いたのと同時に、伏黒の視界いっぱいに紫毒の光線が迫った。

 

「――ッ!」

 

 どぷん、と伏黒の態勢が一瞬沈む。元は武器を取り出そうとした影に、己の足を沈ませたのだ。紙一重で光線を避ける。

 

「 【蝦蟇】っ! 」

 

 森の木陰に召喚しておいた蝦蟇を呼ぶ。それだけの合図で、茂みから蝦蟇の舌が伸び、伏黒を引っ張った。

 

 次の瞬間――――伏黒のいた場所にレーザーが雨あられのように打ち込まれた。

 空から地面へ降り穿つ、その速度を目の当たりにすると、伏黒は全力で走り出す。

 

(駄目だ、あの速度じゃ詰められる前に撃たれる!)

 

 脱兎を引き連れながら、伏黒は闇夜に紛れ、木々の中を駆け抜ける。

 しかし、レーザーは鞭のようにしなやかに軌道を曲げて、幹と幹の間を縫ってきた。

 

「っ!」

 

 ドズッ! と目の前を走っていた一匹の脱兎が毒の光線に撃ち抜かれる。あと一歩前に踏み出していたら、伏黒も共に撃ち抜かれていた。

 

「くそっ!」

 

 悪態をつきながら、伏黒は走り出す。しかし、背後から迫るレーザーの速度は、伏黒の速力の比ではなく、あっという間に追いついてくる。

 

「 【蝦蟇】っ!」

 

 伏黒の毛先にレーザーが掠めた瞬間、横合いから伸びた蝦蟇の舌が、伏黒を引っ張り込んだ。すると翅王の軌道がグン! と横に曲がり、正確に伏黒を追いかけてきた。

 

(虎杖なら振り切れるかもしれねぇが……っ!)

 

 脱兎の数を増やし、狙いを逸らす。それでも追いつかれそうになった時には遠隔で召喚した蝦蟇の舌で緊急退避する。それの繰り返しで、なんとか翅王から逃げおおせているが……

 

(このままじゃ、じり貧だ)

 

 あの毒レーザーの本当の脅威は、内包した毒よりも、その速度と精密性だ。Tバック男は呪力感知で伏黒の位置を把握して、レーザーで追跡させているのだろう。

 

 驚くべきは、レーザーの精密性を生み出す、Tバック男の優れた操作能力だ。

 迫る危機に反応し、伏黒は咄嗟にのけ反る。

 

 ドドドンッ! と眼前にレーザーが突き刺さった。

 

 なんとか背中のレーザーを解除せねば。このままでは、体力と呪力を使い切るだけ。

(毒の術式なのは分かってる。問題は、何から毒を生成して、操っているかだ)

 

 術師の呪力を源に、毒を生成する式神を持つ術式は知っている。式神遣いは術師に多く、小学一年生の頃からこの世界にいる伏黒には、心当たりは容易についた。

 

 だが伏黒の目には、あのTバック男が式神を連れているとは思えなかった。ならば毒の源は本人の呪力。しかし、そうだとするとTバック男は、あの量の毒=呪力を放出し続けていることになる。

 

(そんなことしたら、あっという間に呪力切れだ)

 

 ――――何かの物質に呪力を通わせ、操る。それが一番あり得る方法だった。交流会に襲撃してきた特級呪霊・花御は、自身の呪力だけで樹木を顕現させていた。だが、あれは例外で埒外な存在なのだ。

 

(だとしたら、その物質ってなんだ⁉)

 

 伏黒は翅王の猛追を避けながら、再びTバック男を目視できる距離まで戻っていく。男の呪力感知をやり過ごすため、大量の脱兎でチャフのように攪乱させる。

 

 ドドドドドドドドドッッ‼‼ と、周囲にいる脱兎が次々に消されていく。

 最初は遠方の脱兎から撃ち抜かれていくが、レーザーの矛先はだんだんと伏黒に迫っていき、何発か服や髪を掠めた。

 

(よく見ろ)

 

 伏黒は自分に強烈な命令を発して、瞳孔を限界まで開く。傍らの脱兎達が撃ち抜かれる、その様子を見て、翅王を構成する物質を見定めようとして――――――鼻先に、燃えるような激痛が走った。

 

「づっ!」

 

 噛み締めた奥歯が軋む。肌が沸騰して焼け爛れる激痛に苛まれながらも……伏黒は目を閉じなかった。

 

( 血、か!)

 

 呪力から生成した毒を、己の血に混ぜ、圧縮して放つ。

 そしてレーザーの仕組みを解いた伏黒の脳内で連想という名の閃きが弾けた。

 まっさらな意識はその閃きのままに体を動かし、掌印を結ばせ。

 

 ――後方から迫った腐毒の矢が、閃きを内包した伏黒の頭ごと突き刺さった。

 

               *

 

(当たった)

 

 手応えを感じた壊相は広く展開していた翅王を、己の背中へ引っ込ませる。

 毒血を蝶の羽の形状に留めて、壊相は忌々しい殺人鬼と乱入した呪術師が待つ戦場へ歩を向ける。

 

(随分、遠くに退き離された)

 

 おそらく、あの年若い術師が誘導させたのだろう。年の割に中々の遣り手だが、【翅王】を当てられた今、激痛で動けないだろう。

 

 ――【翅王】で当てて、【朽】で殺す。

 

 それが、壊相の必勝パターン。

 そして肝心なのは、【朽】を発動させるタイミングだ。

 

(翅王を当てたのは、あの小娘と宿儺の呪霊にウニ頭の術師。……残るは二人)

 

 ウニ頭の術師が引き連れてきた、釘を使う女術師と男の術師。

 全員に【翅王】を当てて、【朽】で一網打尽にする。

 

(心残りは……多少ありますが)

 

 あの幼女の殺人鬼には弟の痛みを僅かでも味わせてから殺したかったが、それにこだわって、そもそも殺せなかったのでは本末転倒。

 

 翅王の毒は死ぬほどではないが、かなりの激痛を与える。並の術師なら当たれば動けなくなるほどに。それで幼女をいたぶりたいのが、壊相の本音だが……

 

(確実に、一度に全員を【朽】で分解して殺す)

 

 それ以上の憤怒が、本音を、私情を押し潰した。

 怒りの感情に蓋をされ、壊相は完全にウニ頭の術師を忘却の壷中に追いやっていた。

 

           「 【満象】 」

 

 突如として、遥か頭上に現れた巨大な呪力の塊を感知。

 壊相は黒く濁った結膜を限界まで開いて、頭上を見上げる。

 月浮かぶ夜空から落ちてきたのは、呪力で生成された滂沱の如き水だった。

 純粋膨大な水量を、モロに浴びる。降り注ぐ滝のような水圧に目を閉じながらも、壊相は【翅王】を頭上に放とうとして、

 

「なっ⁉」

 

 ドロリ、と糸が解けるように、毒血が水流に洗い流されていく。

【翅王】が解け、無防備になった壊相に―――――――真上から降って来た巨大な象の式神が、その質量を活かした踏みつけを喰らわせた。

 

 衝撃に伴う風圧が辺り一帯の木々を根っこから吹き飛ばす。

 

「ぐっっおおおおおおおぉおぉぉぉぉおおおおっっっ‼‼⁉⁉」

 

 額に血管が隆起する。凄まじい重量に押し潰されそうなところを、とっさに呪力で強化した両腕で支えるが……ビキビキビキと肉の悲鳴が上がる。

 

(こんなものっ! 投げ飛ばしてくれる!)

 

 油断を衝かれたが、巨象の重量に適応した壊相は全身を呪力で強化し、巨象を投げ飛ばそうと力を込めて。

 

 パシャンと、呆気ない水音が鳴って、投げ飛ばそうとした重量から解放された。

 

 油断からの驚愕、適応からの解放で、目を丸くする壊相。そんな彼が立っているその場所は……周囲の木々が薙ぎ倒され、空からの見晴らしが良くなっていた。

 

              「 【鵺】 」

 

 上空から飛来した巨鳥の式神が、ずぶ濡れの壊相目掛けて、雷を帯びた大翼を振り下ろす。電撃による痺れが全身をつんざき、壊相は自由に身体を動かせなくなった。

 

「~~~~~っ!」

 

 苦悶に歪む壊相の視界に、茂みから飛び出すウニ頭の術師が飛び込んだ。

 木々が取り払われたことで、月光が地面に影を産み落とす。

 身を低くかがめ、駆けるウニ頭の術師は、落ちた月影に指を沈める。

 

 水面近くの魚をさらう鳥のように、伏黒の指は月影の中にあった呪具を、走る勢いそのままに取り出す。

 ズァァアッ‼ と、黒剣が影から引き抜かれ、そのまま斬り上げ一閃。

 

 壊相の右肩を斬り飛ばし、鮮血を噴き出させる。

 ウニ頭の術師は切断面から覗く凄惨な肉と骨を傍目に、壊相の真横を通り過ぎる。

 急激に失われていく血と熱を感じながら……壊相は月明かりに照らされる大地に伏せた。

 




 1週で3話ずつ投稿できたら、と思っています。
 お気に入りやしおりしてくださった皆様、ありがとうございます! 励みになります!
 
 感想、お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。