Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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61話 呪霊連合ドライビング☆

「なぜ儂が貴様らを迎えに山まで極道(ガイ)車回さねばならんのだぁああーーーーー‼‼」

 

 山中のカーブを華麗に曲がり降りながら、ハンドルをバンバン叩いて、頭富士山は噴火した。

 

「漏瑚ぉ~~暑いぃぃ~~」

 車内にいる人数を誤魔化すためにショタ化した真人が、座席の足元からニュッと顔を出す。

 

「真人。顔を出すのは危ないと、吾は思うんだ」

「窓開けよっか、頭が茹だりそうだ」

 

 自分の足元にいるショタ真人を気遣う鐘蓋。

 その横で車の窓を開けて涼む夏油。

 ただ法衣を着た男二人が並んで後部座席に密集してる時点で、視覚的に暑苦しかった。

 

「だいたいギャラハッド貴様ァ! なぜあのクソ重い盾をトランクに積んだァ⁉ 儂のドラテクが鈍るであろうがぁああああああああーーーーーー‼‼‼」

「漏瑚殿、ちゃんと前を見てください。あっ、ほら野生の鹿と対向車が」

「キェエエエエエエエ火礫虫‼」

 

 鹿と対向車は燃えた。

 価値観マ〇オカートな漏瑚のドラテクに、一切の鈍り無し。

 

「まったく。藤丸立香を逃すばかりか用済みの協力者まで逃すとは……情けんぞ。計画に狂いは生じてないのだろうな?」

「あー狂いなら」

「絶賛、現在進行中で狂い続けてるだろうな」

 

 夏油と鐘蓋の言で、頭富士山はぽっぽっーと汽笛のように噴火する。

 

「殺生院キアラ。あの女はどの(世界)の下でも碌な奴では無かった。奴が死のうが生きようが、混乱は後を引いて残るであろう……」

 

 だが、と鐘蓋は言葉をつなげる。

 

「今キアラの零基が吾の中に還った。これで僅かだが、キアラの権能を行使できる」

 

 そう言いながら、鐘蓋が手をかざすと、そこから魔神柱と白き快楽の手が蛆のように湧き出てきた。

 

 夏油はもはや馬鹿馬鹿しくなってきたと言わんばかりに、呵々大笑する。

 

「上層部も御三家もほぼ全滅させるとは、勘弁してほしいね殺生院。私の元鞘も無くなってしまった……もう本土に呪術世界を統制する機構は壊滅しただろう」

 

 ――()()()()()()以外には。

 夏油はそう付け足した。

 

 漏瑚は俯き、ググググとハンドルとアクセルに力を籠め続ける。

 隣のギャラハッドが漏瑚の肩をつんつんする。

 

「前を向いてください。高速に乗るんでしょう? インターチェンジが目の前ですよ」

「   どないすんねぇーーーーーーーーーーーーーーー―ん‼‼‼    」

 

 インターチェンジ! 爆破!

 爆炎の中を駆け抜け、突き破る極道車‼

 

「爆発オチなんてさいてー!」

「でゃまれ真人ぉおーーーー‼‼ じゃあ何か⁉ 計画は頓挫ということかぁ⁉」

 

「んー……鐘蓋の記憶消去の霧で漏れてはいないが……頓挫というほどでもない。ここは様子見に徹するか――――更にぐちゃぐちゃに掻き乱すか」

 

 夏油の脳裏によぎるのは、あの英霊。古の京都で『悪』を冠した、あの陰陽師の力だった。

 

「それを決めるのはまた後で良いのでは? キアラの零基の記憶からだと、あの女、五条悟を下したぞ」

「ハァ⁉」

「更には呪霊に変貌したようだな、五条悟は」

「ファーっ⁉」

「漏瑚殿、叫び過ぎはよくない。のど飴はいかがか」

 

 ギャラハッドはのど飴を差し出した。

 飴は漏瑚の熱で溶けた。

 

「え? じゃあ呪霊操術の術式対象じゃない? 取っちゃいなよ、夏油」

「いや、無条件で取り込むのは無理だね。弱らせないと。君たちならできるかい?」

 

 子供の思い付きをたしなめるように、真人の提案を遠回しに断る夏油。

 五条悟が呪霊になった。

 その事実に対して、夏油は他の可能性を考えていた。

 

(反転術式は正のエネルギー……呪霊にとってはただそれだけで消滅の危険性のある力。つまり、呪霊になった今、五条悟は)

 

 術式反転【赫】と、極ノ番【紫】を使えない。

 どちらも正のエネルギー=反転術式を用いる拡張術式。それらを使用することは、即ち自身の消滅につながる。

 ただ無下限呪術の厄介な『止める力』は未だ健在。順転【蒼】の出力もバカにならない。

 

(……吉と見るか、凶と見るか)

 考えこもうとしたその時、夏油の体が前のめりに傾く。

 車内の全員がそうなっていた。

 車が急停止したのだ。漏瑚は無言で席を折り、ばたんと扉を閉める。

 

「貴様ら、先に行け」

「――漏瑚殿」

 

 ぶつかろうとしてくる高速道路の車をノーモーションで焼却・爆破しながら、漏瑚はギャラハッドを見やる。

 車内の仲間達が怪訝に思う中、ギャラハッドは無言で頷き、運転を変わって車を走らせる。遠ざかっていく極道車の後部ナンバーを見つめながら、漏瑚は独り言ちる。

 

「さて」

 

 漏瑚を真上から照らす日輪に――――ケダモノの影が、映る。

 

 ドッッッッッッッゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ‼‼‼‼‼ と、高速道路に巨大なクレーターが刻まれた。

 

 巻き上がる破砕、砂利、瓦礫を腕の一振りで払いのけて、漏瑚は襲来したケダモノ――禅院真希を見据える。

 

 ギッ‼ と真希の眼光が、漏瑚の後方――極道車にいる鐘蓋が宿した、キアラの零基(残滓)を狙い睨む。

 

()()

 漏瑚に、些かの迷いもなかった。

 新たな仲間・鐘蓋から貰った――――右手甲に刻まれた、【刻印】を切ることに。

 

()()()()()()()()()()()

 

 漏瑚の咆哮と共に、【令呪】の一画が赫く、赫く輝いた。

 




その頃のギャラハッドは……

ギャラハッド(運転……疲れてたんだなぁ、漏瑚殿。代わってあげるよ、いつでも)

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