Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

8 / 61
第8話 五里霧中―盟

 黒と白の犬が混じり合い、変貌した式神【玉犬・渾】は、狼人間のような巨躯を誇り、二足歩行も可能になった。

 その爪牙は、特級にもダメージを与えられるほどに鋭さを増している。――――伏黒は、そんな得物を、窮地を救ったかの美女に向けているのだ。

 

 理由は唯一つ。

 

「――お前らは、何者なんだ」

 

 眼前の美女が、あの幼女の殺人鬼同様――――呪力に似通った、得体の知れない力を宿しているからだ。

 

 伏黒は頭部からの出血も抑えず、警戒に目をギラつかせて、美女を睨みつける。けれどそんな伏黒の眼光を受けて、美女は思案顔で俯いた。

 

『ふむ、お前ら、か……つまり君は会っているんだね? 変わり果ててしまった、あの子と』

「そうだ。あの子は人間じゃない。術師でもなければ、呪霊でもない。だがっ! 既に三人の被害者を死に至らしめている!」

 

 腹を切り裂き、子宮を抜き出し。

 あまりに邪悪。反吐の出る悪烈さだ。どんな理由があろうとも、伏黒はあの幼女を許すわけにはいかない。そして、その幼女と同等の存在らしき者に、心を許せるほど、伏黒の警戒は緩くない。

 

『 【英霊】 』

「……は?」

 

 美女がつぶやいた一言に、伏黒は片眉を上げる。顔を上げた美女は真摯な眼差しで、はっきりとした口調で自分達の正体を告げた。

 

『私達は、英霊という存在だ。人理に刻まれし英雄だが……あの子や私のような、らしくない存在も【座】は認めてしまっているのが如何ともし難いことだ』

「……何の話だ?」

『私達の正体さ。まぁ、君の警戒も無理のないことだし、君は正しい判断をしているよ。今すぐ心許さなくても良い。ただ、言うべきことだけは言っておく』

 

 喉元に人間大の狼の爪を突きつけられながらも、美女は堂々とした態度で伏黒の目を真っすぐ見据え続けた。

 

『人理継続保証機関・ノウムカルデアは、先刻をもって、東京都立呪術高等専門学校……呪術高専と協定を結んだ』

 

 伏黒は足元がぐらつく感覚を覚えた。

 驚愕に目を見開き、頭の中が混乱するが、美女は『そして信じられないかもしれないが』と前置きをしてから、胸を張った。

 

『安心しろ。人類最後の、私のマスターが君の友人を救いに行った』

 

 驚きと疲労と負傷のトリプルパンチ。

 ぐるん、と視界が回って、伏黒はそのままばたりと入眠した。

 

          **********

 

「 【蝦蟇】 」

 

「伏黒!」

 

 伏黒が蝦蟇で敵の男をぶん投げるなり、男の元へ走り出す。何も言わずに敵を分断し、各個撃破に移る伏黒を心配して、虎杖は思わず声を掛けるが……。

 

 ひらひら、と返事するのも煩わしそうに手を振られただけだった。

 茂みの奥へ消えていく伏黒の背に、「ははっ」と虎杖は笑ってしまった。

 

(――そっち任せた)

 

 思えば、虎杖は彼に心配ばかり掛けさせた。

 少年院の時も、交流会の時も、いつだって伏黒はなんだかんだ言いつつも、虎杖を信じて託してくれた。

 

 今度は虎杖が託す番だ。

 

「さぁて……」

 

 信頼のこもった年相応の純朴な目が、この世界に身をやつす呪術師のそれに切り替わる。振り返れば、向こうで釘崎があの幼女と戦っている。

 

 趨勢は幼女の方に分が上がっている。小柄な体躯を活かした素早い身のこなしに、釘崎が追いついていない。釘崎の実力を信じていない訳じゃない。ただ浅いとはいえ―――仲間を斬りつけていく幼女を許せないだけだ。

 

 その有り余る脚力で、地を抉り蹴る。虎杖は0距離で全力疾走に移り、釘崎の元へ駆け付けようとして、

 

「   アハッ♡  」

 

 宿儺の指を宿した呪霊が、腕を振るった。呪霊が放ったビンタは走り出した虎杖の頬っ面を捉えた。更に手の平に圧縮した呪力をインパクトの瞬間に解放。バァンッ‼ と爆音を弾き出し、虎杖を横合いに吹っ飛ばす。

 

 背中から木の幹にぶつかるが、勢い止まらず幹がへし折れた。

 地響きが倒れ伏す虎杖を起こした。

 

「……ってぇ~~~」

 

 キーンと甲高い音が聞こえ続ける。耳障りな耳鳴りに顔をしかめる虎杖は、耳の奥からドロリと何かが流れ出したのを感じた。

 

(あ、鼓膜破けたなこれ)

 

 片耳はしばらく使えない。それを念頭に、虎杖は呪霊を祓う組み方を考えながら、ぴょんと仰向け状態から体を跳ね起こした。

 

「アハッ!」

 

 虎杖が跳ね起きるのを予測したように、呪霊は呪力の矢を虎杖の顔面に向かって放つ。顔のど真ん中が消し飛ぶ寸前―――虎杖の拳が矢の側面を叩きつけた。

 バキィン! と呪力の矢を弾き飛ばした虎杖に、呪霊が四つの目を丸めた。

 

「そういや、俺、前にお前に負けてんだよな」

 

 少年院で遭遇した、宿儺の指を宿した特級呪霊。

 あの幼女を腹に孕んでいたこの呪霊は、少年院の特級呪霊と瓜二つの同種だ。

 厳密にいえば、同じ個体では無いのだが。

 

「お前に負けたせいで、宿儺に頼った。頼ったから、俺は死んで」

 

(伏黒達に……)

 

 親指から順番に指を一本一本、折り畳んでいき、ギギュウ‼ と拳を固く硬く握りしめる。少年院の時のような、感情任せの赤い呪力では無い。

 

 なぜなら、虎杖はもう……呪術師なのだから。

 

 感情を制御する呪術師が宿す、蒼炎の如き呪力が今の虎杖の拳から溢れ出す。

「――リベンジさせてもらうぜ」

 

 6月の雪辱を果たさんと、虎杖の呪力は燃える。対して、宿儺の指の呪霊には、『受けて立つ』という理性や知性は存在しない…………が

 

「――けひっ。ひっ、ひひ……ゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラゲラッッ‼‼‼」

 

 体を震わせ、両頬に手を添えて、笑う・哂う・嗤う。

 欺き、誑かし、殺す――――呪いの本能に忠実に従って、宿儺の指の呪霊は、殺し合いの愉悦に浸っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。