─一本のゴールドフェザー─
「ククク……アバンよ今からお前の恐怖と絶望に喘ぐ様を見るのが楽しみだ……」
マナルガはこれまで以上に禍々しい嗤いを浮かべると暗黒魔力と時の魔力を融合させた闇色のエネルギーで五つの魔法陣を作り出した。
「その魔法陣で召喚するのか……っ!!?」
「ああその通りだ……さてそれではお前の記憶を見せて貰うぞ!!」
「ぐ……っ!!?ぐわぁぁぁーーー!!!」
マナルガの影に囚われ身動きの取れないアバンはその身の大半を包み込んだ黒い影に覆われる。
「アバン殿ーーーーーーっ!!!」
クルテマッカはアバンを案じる上げる。
「フハハハーーー!!!クルテマッカよお前達にも面白い余興を見せてやろうっ!!」
すると、とうとうアバンの身は完全に黒い影の中に飲み込まれた。
「アバン様をどうするつもりだ……っ!!?」
オルヴァがマナルガを睨み付けながら叫ぶ。
「なぁに暫く待っていろ……」
そう言ってマナルガはオルヴァを一瞥すると歪んだ笑みを浮かべて黒い影の中のアバンの様子を窺っている。そして……
「ククク……そうかそれがお前の大切な過去とその記憶か……」
マナルガはやがてアバンの身を包み込んでいた影だけを取り除き、彼の四肢だけを捕らえている影のみで吊り上げた。
「気分はどうかな?アバン……」
「わ、私の過去の記憶をどうするつもりだ……」
アバンは苦悶の表情で鋭い視線を投げ掛ける。
「ククク……こういうコトさ……」
すると、マナルガは両手に暗黒魔力を込めて先刻現れた魔法陣に闇色のエネルギー注ぐ。
「なんだ……っ!?ヤツは一体何をするつもりなのだっ!!?」
クルテマッカ達がその悍ましいエネルギーに恐れ慄いていると……
「先ずはあのピオラの使い手と……妾の身体を傷付けた忌々しいあのギラの生みの親か……」
「なんだと……っ!!?」
アバンはマナルガのその言葉に恐れていた自分の考えが現実になったその光景を目の当たりにする。その悍ましい暗黒魔力が注がれた魔法陣から二つの影が現れるとそれはアバンがよく知る二人の人物と瓜二つの姿をしていた。
「レイラ…っ!?それにポップまで……っ!!?」
「ククク……そうだお前の記憶を時の魔力で覗かして貰い、そこからこの魔法陣で呼び出したのさ……この妾の命じるままに動く影人形をな……」
「影人形……っ!!?」
アバンは戦慄の表情を浮かべる。確かに見た目はアバンのよく知る共に旅をしていた頃のレイラと、共に大魔王バーンとの熾烈な戦いをくぐり抜けたポップではあったが、影人形と呼ばれる様にその姿は漆黒の闇に染まっていた。
「アバンよ……お前は仲間を殺せるか?」
「………」
「そうよなぁ……いくら妾が呼び出した影人形とはいえ…仲間を殺すのは躊躇われるだろう?」
「よく言う……こんな状態にしておいて……」
アバンは動きを封じられた状態に皮肉を込めて苦笑する。
「ククク……ああ、確かにそうだな……だがお前とはこうして初めて相まみえたが、こうして動きを封じておかねばどこか得体の知れない怖さがあるのだ……そう何をしでかすかわからんところはやはりお前の祖父ジニュアールⅠ世とよく似ている」
「それは光栄だ……あの祖父と似ているのならば……」
「そうか……ではお前もそう慕うジニュアールⅠ世の元に行くがいい……影人形どもよっ!!」
マナルガの命じる声に影のレイラとポップはアバンの前に立ち塞がる。
「先ずはバギ系呪文で切り刻んでやれっ!!」
「バギマ!!」
すると影のレイラがアバンに向けてバギマを放つ。
「ぐわぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」
マナルガの影に囚われているアバンは躱すことも叶わずバギマの直撃を受けてその身が真空の刃に切り裂かれる。
「次は私の身体を傷付けたお前の得意とするギラを撃ち込んでやれっ!!フハハハーーー!!!」
「ギラッ!!ギラッ!!ギラッ!!」
更に今度は影のポップがアバンの身体に収束ギラの連発を打ち込む。
「ぐあ……っ!!?うぁぁっ!!ぐうぅ…っ!!」
「フハハハハーーーー!!いい眺めだ!!」
「おのれ……っ!!」
するとここでオルヴァがアバンの救援に向かおうとマホカトールの魔法陣から足を踏み出そうとする。
「いけません……っ!!!」
「………っ!!?」
しかし、そんなオルヴァを諫めるアバンの声が轟く。
「アバン様……っ!?し、しかし……っ!!?」
「大丈夫です……オルヴァ王子……ここは……私にお任せ下さい……」
「アバン様……」
「フン……!愚かな男よアバン……我が影に囚われ更に仲間にいたぶられている貴様に何が出来る……」
「そうですねぇ……確かにこれはかなりキツイ……まさかこんな形でレイラやポップの攻撃を受けることになるとは……」
「ククク……それでは仲間を増やしてやろう…」
「………っ!!?」
アバンはマナルガのその言葉に思わず目を見開き顔を上げる。
「さぁ!出でよっ!!影人形どもっ!!」
すると更に残りの二つの魔法陣から二体の影が現れる。
「ヒュンケルっ……!!?それに……ダイ……っ!!!?」
そこに現れたのは黒い鎧の魔槍に身を包んだヒュンケルとやはり影色に染まったダイの影人形だった。
「お前の弟子のアバンの使徒とやらの中でも最も攻撃力の高い二人を選んでやったぞ……」
「これは……フフ…なかなか…私の自慢の弟子は皆、優秀ですからね……」
アバンはそれでも微笑を浮かべながらそう告げる。
「フン……っ!そんな軽口もいつまできけるかな?さぁ影人形共よ……お前達の師を思う存分いたぶってやれ!!」
そしてマナルガのその声を皮切りにダイ、ポップ、ヒュンケル、そしてレイラはそれぞれアバンに怒涛の攻撃を仕掛けて来た。
「ぐあぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!」
レイラのバギマを絡めた短剣による素早い攻撃やヒュンケルの容赦のない槍捌きがアバンの身を更に切り刻んでいく。
「メラゾーマーーーーーーーーーッ!!!」
「ウアァァァァーーーーーーーッ!!!!」
「大地斬っ!!!」
「ガハァァァ……ッ!!!」
更にそこにポップのメラゾーマが直撃すると、続け様ににダイの剣による攻撃が加わる。
「アバン様ぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」
「いやぁぁぁぁーーーーーーっ!!!」
オルヴァやメティス達が悲痛な叫び声を上げる中、アバンの身体には影人形の仲間達により数多のダメージが刻まれていく。
「ブラッディースクライドーーーッ!!!」
「……っ!!?グアァァァーーーッ!!!!」
そして更に畳み掛ける様にヒュンケルの黒いブラッディースクライドがアバンの胸板に炸裂すると凄まじい血飛沫が上がった。
「きゃあぁぁぁぁーーーーーー!!!」
ミネルヴァを始めアリアやメティスの女性陣は思わず目を背ける。
「なんという……凄惨な光景だ……見ておれん……っ!!?」
「ひ、酷すぎる……」
更にクルテマッカやオルヴァ達も、もはや声も出せない程に青褪めた表情を浮かべている。たがしかし、そんな中でディードックだけは一人顔色も変えずに真剣な眼差しでアバンのその姿を見つめている。
「お主は確かディードック殿と言ったな……アバン殿とは旧知の仲とみたが……」
微動だにせず、しかしその拳を強く握る手から滴る血の雫に気付いたクルテマッカが問う。
「クルテマッカ陛下……ええ、そうッス……まぁ元々は俺の兄貴分であるマトリフっていう旦那を介しての仲ではありますが……アバン殿には俺も色々と世話になってます……」
ディードックはベンガーナ王のクルテマッカからの問いにそう答えた。
「ならばお主の目から見て……あの光景はどう感じる……いや、なぜ目を背けず見ていられる!!あの様な痛々しいアバン殿の姿を……っ!!!」
クルテマッカはそう言ってディードックに強く迫る。
「………約束……したんですわ……その兄貴分のマトリフって旦那と……」
「……?約束……だと?」
クルテマッカもそしてその場にいるオルヴァ達も、ディードックのその言葉に、アバンから目を逸らし下を向いていたその顔を上げる。
「自分が傍にいない時には必ずアバン殿の力になってやってくれって…まだアバン殿が魔王ハドラー討伐の旅をしていた頃からそんな風に言われてましてね……最近もそんな手紙をマトリフの旦那から送られて来ました……」
「ならそのマトリフという方に頼まれてその約束を守る為に……?」
今度はミネルヴァが訊ねる。
「ええ、まぁそれもありますが……でもホントのところ惚れちまったんスよ……俺もあのアバンという人に……」
「惚れた……?」
「だって…あんなに真っ直ぐな目で傷付き苦しむ人々やこの世界の為に自分の命を顧みずでっけぇ相手に向かっていく男なんざ……そうはいませんよ……」
ディードックは苦笑を浮かべて言う。
「だから俺は絶対にあの人の戦いから目を逸らせないんですわ……何か……何か手助けをしてあの人の戦い……いや勝利に貢献してやりてぇってね……」
「ディードック殿……」
クルテマッカを始めその場の皆がディードックのその言葉に自分達も彼と同じ気持ちでいる事を強く望んだ。
「そうだ……アバン殿は我々の…そしてこのベンガーナ王国の為に……」
「ええ、こうして破邪の魔法陣で私達を護りながら……」
「あの魔女に立った一人で立ち向かっていかれた…」
「アバン様……」
「目を……逸らせません…ね…」
クルテマッカ達はそれぞれがアバンに対するその思いを改めて自らの心に確かめる。
「必ずアバン殿は勝ちますっ!!あんな魔女なんかに負けるような男じゃないっ!!!」
「ウム!そうだなっ!!」
ディードックの力強い言葉にクルテマッカ達の瞳には希望の光が灯った。そして彼等は傷付き苦しむアバンのその姿から一切目を逸らすことはなかった。
(「後はコイツを使うタイミング……まだかアバン殿……クルテマッカ陛下達にはああは言ったが……俺も心配してねぇワケじゃねぇぞ!アンタの命がこのままじゃ……」)
ディードックはこのベンガーナ城に訪れる前にアバンからあるアイテムを一つ預かっていた。それは自分が万が一危ない時にアバン自身の合図でそのアイテムを使って欲しいと言われ手渡されたモノだった。その為、ディードックが目を逸らさず戦況を見守っていたのはそのアバンの合図を見逃さないようにしていた為でもあったのだ。
ザシューーーッ!!!
「ぐうぅっ!!!うぅ……っ!!」
アバンの身体から更に鮮血が迸る中、マナルガは嘲り嗤う。
「ククク……まさに血の饗宴だなアバン……しかも流れたそれらの血が全て仲間達からの贈り物と来たものだ……フフフフ…妾は存分に楽しめておるぞ……」
「フ……そ、それはどう……いたしまして……ですが……そろそろ……その歪んだ笑顔も……フフ…見飽きてきましたね…」
「……なに?」
アバンはもう既に顔を上げることもまともに出来ない状態であったが、それでも僅かに上げたその視線をマナルガに向けた。
チャキ……
と、そんなアバンに更なる攻撃を加えようと影人形達が構えを取るとマナルガがそれを制止した。
「待てお前ら……何かおかしい……」
自身の影でアバンの四肢を捉えその身を吊るし上げている状態は変わらず、そのアバンの身体は傍から見ても相当なダメージを負っているかのようにみえてはいるが、マナルガはそんなアバンの姿をみてもどこか妙な印象を感じていた。
「また何か企んでいるのか?」
「……この状態で……ですか?」
二人は影人形を挟んでその強い視線をぶつけ合う。
(「いや……やはりこの男何かある……なんだこの違和感…」)
マナルガはその企みを暴こうと囚われているアバンを念入りに観察していく…切り刻まれた腕や足……合わせて胴体も既に血に染まっている……
(「あの出血量だけでもかなりのダメージを覗える……だが待てよ……なぜあれ程のダメージを受けて気絶一つしないのだ?休みなくあれだけの攻撃を受け続ければ流石のヤツでも………っ!?まさか……っ!?」)
すると、マナルガはアバンの背後に何かを感じて影人形のヒュンケルに命じた。
「ヒュンケル……アバンの背を切れ!」
「………っ!!!?」
その言葉を聞いた瞬間、アバンはその顔色を変える。
「ククク……やはり何か仕込んでいたか……」
「やれやれ……目聡いですね……」
そして影のヒュンケルがアバンの背後に廻り込むとその手に構えた槍でアバンの背を切り裂く。
ザン……ッ!!!
「ぐぅ……っ!!!」
すると、切り裂かれたアバンの背中から同時に一本のゴールドフェザーが足元に落ちその瞬間にフェザーは輝き失った。
「見つかってしまいましたね……」
アバンは観念したような表情で告げる。
「お前の衣服の血を見ていてその背には攻撃を仕掛けてなかったことに気付いてな……」
「なるほど……」
「だが先刻から忌々しいそのフェザーで今度は何を企んでいたのか……確かそのアイテムには既存の呪文の効果を増幅させる働きがあったのだったな……あのマホカトールやピオラの様に……であるならば、今回は数々の攻撃に対するお前のその尋常じゃないくらいの耐久性を考えると……防御力……スカラか?」
マナルガはアバンが密かに自分の背中に仕込んでいたゴールドフェザーに込められた呪文を言い当てた。
「ええ、御名答ですよ……さすがですね」
アバンは苦笑を浮べている。
「なるほどな……予めスカラを込めていたフェザーを自らに使用して通常よりも増幅させたスカラで防御力を上げていたか……」
「しかしスカラはアストロンなどと違い絶対防御ではありませんからね……それなりにダメージを負います……だが逆にそれならこちらのお芝居で大ダメージを受けているようにも見せられますから……この大量の血糊も一役買ってくれましたよ……」
するとアバンの懐からいくつかの血糊が足元に落ちた。
「そうか、四肢を囚われ自由を奪われながらも攻撃を受けるフリをして微妙に身体を動かし致命的なダメージやその血糊がバレないようにしていたのか……」
マナルガは苦々しく表情を歪める。
「まぁそんなところです……」
「やはり……タダ者ではないな……ジニュアールの家系の者は……」
「フ……一度ならず二度までもお褒め頂けてなんとも光栄ですよ……」
「たが……」
ここでマナルガは軽く左手を上げて影人形達に改めて構えを取らせる。
「手の内を暴かれてお前の命が危機に晒されている状況には変わりはない……」
「………」
そのマナルガの言葉にアバンは無言で応える。
「その無言は……観念……とみて良いのかな?」
「………」
だが、アバンは更に無言を貫き僅か数十分前の事を思い浮かべていた。
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「ちょっと待って下さいディードックさん!」
「ん?どうしたアバン殿?」
兵士の案内でベンガーナ城の門扉をくぐり、二手に分かれてアリアの捜索に向かおうとしていたディードックをアバンは呼び止めた。
「先ほどからどうにも嫌な予感がするのでディードックさんにはコレを一本預けておきます」
と、アバンは一本のゴールドフェザーをディードックに渡す。
「あん?なんだこの羽根は?」
「そこにはある魔法を込めてありますので、私かディードックさん、あなたがピンチの時に良きタイミングでコレを投げて使用して下さい、敵がいたらその足元に投げて突き刺せばそれなりに一時凌ぎにはなると思うので……」
「良きタイミングって……」
「そうですね……なら私がピンチの時には三度無言になります……敵との会話で私がその相手の言葉に三度無言を貫いたらそれがそのフェザーを使うタイミングだと思って下さい……仮に敵がいたとしてどんな相手かもわかりませんので変に合言葉や視線を作るよりその方が相手にバレにくく良いかも知れません……」
「なるほどわかったぜ!」
「因みにディードックさんがピンチの時には迷わずそれを使って下さいね…」
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「後……一度……」
ディードックは先刻のアバンとの約束を思い出しながら彼の様子をつぶさに見つめる。
「フッ……まぁいいだろう…お前も漸く殊勝になったということだな……良い心掛けだ……では改めて自分の仲間と弟子達の手でこの世との別れを遂げるがいい……っ!!!」
「………」
(「三度……っ!!」)
「死ねぇぇぇーーーーーーっアバン!!!」
「今だーーーーーーっ!!!」
ヒュンッ!!!
その時、ディードックの手からゴールドフェザーが一閃の如く放たれた。
ドスッ!!
「なに……っ!!?これはゴールドフェザーっ!!!?」
マナルガがそのゴールドフェザーが突き刺さるアバンと影人形の間の床を凝視すると、その瞬間とてつもなく眩い光が辺りに放たれた。
「ぐぉぁぁぁぁーーーーーーーっ!!!!」
勇者にしか使えないニフラムの呪文が込められていたそのフェザーから通常より何倍にも増幅された聖なる光が放たれると、アバンを今度こそ八つ裂きにしようと構えていた影人形達は皆その光の彼方に消し飛ばされ、更にアバンの自由を奪っていたマナルガの影も同時に掻き消された。
アバンの大ピンチ!数多の戦いを潜り抜けて来たアバンもさすがにこの手の攻撃は受けてこなかったと思い付きまして、少々残酷さもありますがマナルガという強敵のイメージを固める為に今回はこのような形にしました。因みにこの展開は後の話にも繋がります。
いわゆる前フリです<(◠‿・)—☆