─アバンの涙─
「…っ!?ま、まさかっ!!?」
「ククク懐かしいだろう?」
マナルガが最後の魔法陣に渾身の闇のエネルギーを注ぎ込み、最後の影人形がその姿を表すとアバンはまさに驚愕の表情をみせた。
「ロカっ!!!?」
そうそこにはアバンの最大の親友にして愛弟子マァムの父親である若き戦士ロカの姿があった。しかし、やはりその全身は漆黒の闇色に染まっている。
「お前の記憶の中の存在であれば喩え過去に消えた者でもこうして顕現させる事が出来る、先刻に話に出たバーンやまたお前の宿敵とも言えるハドラーでも良かったが、クククやはりお前にとって最もやりづらい相手はコイツだろうと思ってな……」
マナルガは嘲笑うその醜い顔をすっかり取り戻して浮かべている。
「なるほど考えましたねこれが先程あなたが言っていた”仲間を殺せるか?“という言葉の本当の意味だったのですね」
アバンはマナルガに強い視線で告げる。
「ああ最大限お前を苦しめてあの世に送る為にな、だが……」
「……?」
と、マナルガはそう言って再び不敵にその口元を歪める。
「これまでのお前の健闘にチャンスをやろう」
「なにっ!?」
「先刻のようなつまらん影縛りはしないと約束しよう動けぬままお前がなぶり殺される様を楽しむのも悪くはないが……」
「一度見せてしまった技は私には通用しませんよ」
そう言ってアバンは最後の一本となるゴールドフェザーをその手に構える。
「ああ、だからこそお前のように何事にも聡い相手にはシンプルな方法が一番効果的だと踏んだまでよ、一対一での勝負をな……」
そう言ってマナルガが影のロカを一瞥するとロカはそれに合わせるかのように腰の剣を抜く。
「我が祖国カール騎士団の剣まで影色に染まっているとは」
するとアバンもその手元にある奇跡の剣を構える。
「ホウ意外だな」
「なにがだ?」
「躊躇いなく構えを取るか無二の親友を斬ることになるかも知れんのだぞ?」
アバンの構えをみてマナルガは訝しげに告げる。
「こちらこそ御心配して頂けるとは意外ですねですがお気遣いは無用」
するとアバンはその手に構える奇跡の剣に自らの闘気を注ぐ。
「私の目の前にいる男はロカであってロカではありません」
「………」
「しかし、私の記憶の中のロカであったとしても、いや、だからこそ私は嬉しいのです」
「嬉しいだと?」
マナルガの問いにアバンはその瞳に輝るモノを浮かべる。
「もう二度と会えないかも知れない相手と喩え敵として相対する形であれ、再びその姿を垣間見る事が出来るという事はおかしなことを言っているようですが嬉しいのですよそう無二の親友とはそういうモノです……」
アバンはそう言って口を真一文字にグッと閉じるとやはりその瞳は熱く輝る。
「そうかククク、まさかこれから死んでもらう相手の口から最後にそんな話しをされるとはな」
(「ロカ……」)
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魔界───
その頃ロカは、メドゥルザの手下である女魔族のアギスによって連れ去られたワズを助けに向かうべく、北の方角にあるメドゥルザの城を目指して広大な魔界の旅路を踏み出していた。
「待ってろよ婆さん!メドゥルザのクソ野郎から必ず助け出すからなっ!!」
強い視線でまだ見ぬ先のメドゥルザの城を見据えて一歩一歩踏み出すその歩みにも力が籠もる。
左手に携えた剣の柄にもグッと力を込めてロカは真っ直ぐにその目的を果さんとしていた。
魔界随一と呼ばれる伝説の魔剣──
『屍黒竜の牙』をその手に……
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───カール王国
「フローラ様っ!アキーム隊長をお呼びしましたっ!!」
フローラお付きの兵士が毅然としてフローラに告げる。
「ありがとう、あなたは復興作業に戻っていいわ」
「はっ!畏まりましたっ!!」
そう言って兵士は敬礼をして復興作業に向かった。
「よく訓練された兵士の皆さんです、さすがフローラ様のご指導が行き届いております」
アキームは開口一番にそう言うと復興作業に向かった兵士の背中を見ながらフローラに微笑みかける。
「あらありがとうアキーム隊長、でも貴国の皆さんにも本当に感謝しています、傷付いた我が国の兵士だけでなくカールの民からもベンガーナの皆さんの尽力に心から感謝と喜びの声を耳にすることも多いのよ」
「それは恐縮の至りっ!!我がベンガーナ王陛下もきっとそのお言葉に胸打たれることと思います!!」
「ええ、お互いに心から♪」
そう言ってフローラもアキームも互いに笑顔を交わす。
「さて、それで来て頂いたのはこのことなんだけど……」
と言ってフローラはテランのフォルケン王から届いた歴史資料をアキームに手渡す。
「これは歴史資料ですか、ん?我が国ベンガーナのことが?」
アキームはサッと目を通しながらもやはり目敏く自国ベンガーナの一文字を見つけて食い入る様にその資料をみつめる。
「その歴史資料の話はクルテマッカ陛下からお訊きになったことはあるかしら?」
アキームにそう訊ねるフローラの目には力が籠もっている。
「いえ申し訳ありません、しかしこの凶神という存在はとても」
「ええ気になるところよね『凶神レノクス』その名前はどう?」
「いえそちらも初耳です……」
「そう…」
フローラはやや失意の表情を浮かべる。
「ん?、この話しは訊いたことありますね……」
「え?どの話しかしら?」
「ここですね凶神の闇の力に対抗しうる伝説の剣……」
「伝説の剣?“奇跡の剣”のこと?」
アキームの言葉にフローラは読み込んでた歴史資料の中に記載されていた”奇跡の剣“の項目を思い出して訊ねる。
「凶神の絡みではありませんが、伝説の武器や防具の話しは実は個人的な興味でよく調べておりまして、この奇跡の剣に関してもそれなりに存じ上げでおります!」
「そうだったのね、それでこの奇跡の剣というのはどういう武器なの?」
「はい、古来より言い伝えにある話では天界のとある名工が神に命じられて作り上げた神力を宿す名剣だとか、そして更にその奇跡の剣は破邪の力を扱う者には本来の力以上に特別な能力を発揮するとか……」
「破邪の力を扱う、譬えばアバンのように破邪呪文のマホカトールや破邪のアイテムを扱う存在に特別な力を齎すということ?」
「ええ!まさにアバン様のような方ならうってつけといったところでしょう!!」
「そう!奇跡の剣……それでその歴史資料にはその在り処までは書かれていないけどアキーム隊長は知っているの?」
「あ、いえ、重ね重ね申し訳ありませんが…何処かの洞窟にあるとか遥か昔に滅んだ街の地下にあるとか……どうにもその在り処までははっきりしていなくて……」
アキームは再び恐縮するように告げる。
「そうなの……でももしその奇跡の剣があれば仮に凶神という存在がこの地上を脅かすことがあったとしても対抗策には充分になり得る」
「ええ!そりゃあもちろんですっ!!我々伝説の武器に目を輝かせる者にとっては一生に一度でいいからお目に掛かりたい名剣ですからっ!!」
アキームの目が途端にキラキラと輝き出すとフローラは微笑しながら再びベンガーナの方角にその視線を向ける。
(「奇跡の剣……」)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ガキィィィーーーーーーーーーン!!!
「ハァっ!ハァっ!」
(「ロカ……」)
ベンガーナ城の地下牢獄に激しく剣を凌ぎ合う音が響く。
奇跡の剣を振るうアバンと闇色に染まるカール騎士団の剣を振るう影のロカは、もうかれこれ数十分の間、互いに一進一退の鍔迫り合いを展開していた。
そしてアバンはそんな中、ロカや仲間達と旅をしていた頃の事を思い出していた。
「まだまだぁーーーーーー!!!」
「負けませんよっ!!!」
キィィンーーー!!
キィィンーーー!!
「なんだアイツ等まだやってやがるのか?」
「ええ、今日も暇を見つけてはああしてお互いの剣を磨いてるわ……」
アバンが仲間達と魔王ハドラーの本拠地にいよいよ攻め込むとなったその前日……マトリフが呆れてレイラにボヤきながら見守る中、いつものようにアバンとロカは互いの剣を交わしながらその腕を磨いていた。
「いつもの習慣なのかなんだか知らねぇが、いよいよ魔王の本拠地に乗り込もうって時までやらなくてもいいじゃねぇか~」
「フフ♪ホントよね、でもアバン様もロカもなんだかイキイキしてるのよね」
「ヒヒ♪確かにな……本当にアイツ等は掛け替えのない親友なんだろうな」
マトリフはそう言いながらアバンとロカの稽古を眺めながら微笑んでいる。
「そうね……」
そしてレイラはマトリフの言葉に彼らが初めてネイル村に訪れた時の事を思い出していた。
「きっとあの二人は変わらねぇぜ……」
「ええ変わって欲しくないわ……何があっても……」
キィィィーーーーーーーンーーー……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「アバン様……っ!!?」
アリアのその声に影のロカと剣を交えるアバンの戦いを固唾を呑んで見守っていたクルテマッカ達も思わず目を見張った。
「……っ!!!?アバン殿がっ!!?」
「泣いている……?」
激しい剣技の応酬にどちらかの剣の一閃が決まればそのままこの決闘の決着が着きそうな張り詰めた空気感の中でクルテマッカやオルヴァが声を上げた通り、アバンはその瞳から熱い涙を零していた。
「ディードック殿の話によればあの影の男はアバン殿の親友と言うではないか!やはりこのような悲しい再開をしなければならなかったことが余程……」
クルテマッカは影のロカが魔法陣から現れ、アバンと剣を交え始めてからディードックにアバンとロカの関係性を訊き、憐れむ様に顔を顰める。しかし……
「いえお父様よくご覧になって……」
「なに?」
真っ直ぐにアバンの戦いを見つめるアリアのその言葉に彼は彼女と同じようにその視線を改めてアバンに向ける。と、その時クルテマッカはある事に気付いた。
「なんとまさか……!?」
「ええお父様、アバン様は悲しんでいるのではなくきっと……」
アリアはそう言って微笑む。
眼の前で一進一退の攻防を繰り広げるアバンがその影の親友と剣を交えながら何故か微笑む様に……
そうロカと剣を交わしたあの若き日々の一つ一つをアバンは今、不思議な喜びと共にその身と心で強く思い出していた。
身体が動くあの頃のように……
心が熱くあのひと時のように……
(「ロカ……」)
ガキィィィーーーーーーーーーン!!!
その一瞬だった……
互いに譲らぬ命懸けの剣舞を繰り広げていたその最中、影のロカのその豪胆な剣がアバンの体勢を崩した。
そして影色の親友はその一瞬の隙を突かんと猛然と向かってくる。
しかしその瞬間、アバンは流麗な動きでその崩れた体勢を逆手に取ると全闘気をその手にある奇跡の剣に込めて……
渾身のアバンストラッシュを放った──!
若き日…ロカや仲間達と共に旅をしていた時間はアバンにとっては何より掛け替えのない宝物のような思い出だったのかも知れません。特にアバンとロカの関係性はレイラやマトリフ、更に自らの愛弟子達であるアバンの使徒達とも違う特別な繋がりでありロカはその特別な存在なのだと思いました。ダイにとってのポップのように……だからこそアバンは敵とはいえロカのその姿を十数年振りにみれたことが敵として現れたショックを感じさせないくらい嬉しかったのかも知れないという展開を考えてみました。賢いアバンですからマナルガの術で現れたロカが本人でないということはセリフの通りで理解してますが、心から逢いたかった親友を前にして彼は思い出を振り返りながら喜びの中でその剣を奮っていたのだと思います。
最もアバンだからこその展開でもありますが……
その意味のヒントはフローラとアキームの会話の中に……(◠‿・)—☆