─占い師の朝と祝福の未来─
朝食を取った後、レオナの言いつけ通りに睡眠を取って身体を休めたメルルは夕方近くに目を覚ました。しかし、ベッドに入ってからずっと頭から離れなかった事が目を覚ました今もまだ、メルルの中でモヤモヤと残っていた。
(マァムさん………ずっとポップさんの傍にいるのかな……)
今朝方、この目で見た光景が浮かんでくる。マァムが穏やかに眠るポップの手を握りながら安心して寝息を立てていたあの光景が………
(やっぱり……マァムさんもポップさんの事が……)
まだ若い占い師とは言え、メルルはこれまで何人もの人々の未来をその特殊な力で見てきた。その中で相手に伝える内容は直近に起こることやそれに対して注意すること、また、逆にその相手のそれまでの努力がどう実るのか、という人生の中のあくまで一部分だけを伝えるという方法を取ってきていた。無論、それだけでも相手は満足したり、気を付ける姿勢を見せて御礼を述べていく人達が殆どであったが、中には自分が思っていた内容と違ったりすると、憤慨したり不愉快になって去っていく者もいた。しかし、大抵そういう場合は常に近くにいる祖母のナバルが場を諌めてくれていた。ところがメルルは今、生まれて初めて自分の為にある人の未来を見てしまおうか、もしくわ自分自身の未来を見てしまおうか、考えていた。
「でも……やっぱり怖い……それに、ルール違反よね……絶対」
一人ベッドの上でシーツにくるまりながら呟くメルルは、どうすれば今のこの苦しい気持ちが収まるのか、悩んでいた。
やがてメルルは起き上がり、支度を整えてからポップの様子を見に行く事にした。マァムもいるかも知れないと思ったが、ここで気後れするのもおかしな話しだと自分に言い聞かせて部屋を出た。
ポップの部屋の前でノックすると、今朝と同じ様にアバンが気さくな声で迎えてくれた。
「アバン様……すいません、お邪魔じゃないですか?」
ゆっくりと扉を開いて部屋の中に顔を覗かせる。
「おや、メルルさん。構いませんよ?私とポップだけですから。さっきまでマァム達もいたのですが、色々と用事をお願いましてね……」
「そうでしたか……」
メルルは平静を装いながらも、どこかホッとしていた。
ベッドに近づくと今朝と同じ様にポップは静かに寝息を立てている。それを見てメルルは改めて安堵した。
「傷はもう完全に治りましから、後は体力の回復ですね、ですがもう目が覚めるのを待つだけですから、やれることは尽くしました」
「よかった……本当によかったです!」
メルルの喜ぶ顔を見て、アバンも優しく微笑むと、彼はメルルに向き直り深々と頭を下げた。
「ア、アバン様!?」
「メルルさん、先立ってもマァムやレオナ姫から伺っておりましたが、先の大戦の最中では本当に私の弟子達がお世話になりました。改めてお礼を言わせて下さい」
突然のアバンの謝辞にメルルは慌てて、頭を振った。
「と、とんでもありません!私なんてお役に立てたどころか、ポップさんの様に凄い呪文も使えませんし、マァムさん達の様に戦いの役にはとても立てませんから、きっと足手まといだったんじゃないかと……」
言いながら、メルルは俯いてしまった。しかし、アバンは……
「いいえ、そんなことは断じてありませんよ。初めてあなた方がダイ達と出逢ったのがベンガーナの街中という事でしたね、レオナ姫からあなたの献身がとても有り難かったと先ほども伺いました」
「姫様が!?」
「ええ、ダイの父上であるバランとの辛い戦いの最中にもヒュンケルとクロコダインさんの回復に一役買ってくれたり……」
「そ、そんな私は大したことは何にも……」
「それに、あのバーンパレスから落とされたピラァによる危機を事前に察知してフローラ様達を救ってくれたりしましたよね」
「あ、あれは本当に突然頭に浮かんできた事を咄嗟に……」
「そう、それがあなたの力であり、その力でみんなを守ったのですよ。メルルさん、あなたも世界を救った立派な一人です」
「アバン様……」
メルルはアバンのその言葉に胸を熱くする思いだった。自分自身はポップ達の役に立って来たとは、とてもおこがましくて殆ど考えたこともなかった。しかし、アバンの今の言葉には紛れもなく熱く、深いものを感じた。そして、今のメルル自身アバンのその言葉に自分の存在価値を認めてあげられる自信を感じる事が出来た。
一方その頃、パプニカ三賢者の一人エイミは、足早にレオナ姫の執務室に向かっていた。
「失礼します。遅くなって申し訳ありません!」
エイミはつい今しがた、このパプニカ王国に長年仕える老兵バダックから、レオナ姫の執務室にエイミ以外の三賢者であるアポロとマリンが入っていったと聞き、何か重要な話があるのではと慌てて駆け付けたのだ。
「あら、エイミどうしたの?」
レオナはやや驚いた表情で、エイミの訪問を迎えた。
「あ、いえ……バダックさんからアポロと姉さんが姫様の執務室に行ったと聞いたので何か重要なお話しかと……」
レオナの様子にエイミはやや拍子抜けした様に答えた。
「あーそういうことね、でも、三賢者の仕事ってワケじゃないのよ。ねぇ、ふ・た・り・と・も」
レオナは意味深な視線をアポロとマリンに向けると、二人は何故か顔を赤らめている。
「どういうことなの?二人とも」
エイミがアポロとマリンに訊ねると、二人はゆっくりと口を開いた。
「エイミ、ごめんなさい黙ってて。実は私達、結婚することにしたの」
「へぇ~そうなの………って!えええぇぇぇぇぇーーー!?けけけ!けっこーーーん!!!」
エイミはあまりにも予想外の言葉に驚きを越えて驚愕して叫んだ。
「そ、そんなに驚かなくても……」
「驚くわよ!まさか二人がいつの間にそんな関係になってるなんて!姫様はお気付きだったんですか!?」
「とんでもない!私だってさっき訊いたばかりよ!二人がそういう仲になってるなんて!でも、まぁある意味では私にも責任あるしね……」
「どういうことです?」
「二人にパプニカの護衛を任せて私達は敵の本拠地に向かったじゃない?」
「あ、そういうことでしたか、それなら私も姫様と共に参りましたから…でも、姫様と私がパプニカにいなかった間にってことよね?」
エイミはアポロとマリンにジロリと視線を向ける。
「す、すまん!大戦の最中に!しかし、我々は決して浮わついていたワケじゃない!それは誓って言える!」
「ええ、それは本当よエイミ!皆が命を懸けて戦っている最中に浮わついているワケにはいかないもの!」
「ふ~ん、なるほどねぇ~まぁ二人で命懸けでパプニカを護ってくれていた際に芽生えた感情なんでしょうから、二人を祝福しないなんて言わないわよ!ただ、私だって色々あるのに……ブツブツ……」
「ん?なんだ?」
「最後、何か言ったエイミ?」
「う、ううん!何でもないわ!とにかく、おめでとう二人とも!」
慌てて取り繕うように、エイミはアポロとマリンに祝福の言葉を述べたが、ふとレオナをみるとその顔はいたずらっ子の様にニヤニヤしていた。
「それで、姫様ご相談があるのですが……」
途端にアポロが真剣な顔で切り出した。
「なにかしら?」
「はい、実は二人で話し合ったのですが、式の方は行わないようにしようかと……」
「!?なんですって?どういうこと!?」
レオナは眉間に皺を寄せて厳しい顔で訊ねた。
「あ、いえその……まだダイ君も帰らない内に我々が式など開くべきではないかと……」
アポロは畏まって、その理由を話した。しかし……
「許さない……」
「え……!?」
「そんなこと許さないわよ!アポロ!マリン!」
レオナは二人に向かって激昂しながら叫ぶ。
「し、しかし!そのような状況で祝い事など!」
「本当は結婚の話しも、まだ早すぎるかも知れないと思ったんです!でも、やはり姫様にだけは一家臣としてお伝えしなければと……」
「よく聞きなさい二人とも!」
レオナの強い言葉は、アポロとマリンの弁を制して二人を硬直させた。
「ようやく魔王軍との大戦が終わり世界に平和が戻ったわ、確かにまだまだ世界中には魔王軍に破壊され、蹂躙された跡が残ってる。無論、それを見て見ぬ振りをしなさいと言ってるワケじゃないのよ、でもあなた達にも存分に幸せを味わって欲しいから、私はこの国の長として、あなた達と平和を分かち合いたいから戦ってきたの。でも、そのあなた達がダイ君に気を使って自分達の幸福な時間を我慢するなんて、あまりにも淋しすぎるわ……」
「姫様……」
レオナは切々と語る。それをアポロもマリンもそして、エイミも真剣に受け止めていた。
「ダイ君だって、自分のためにそんな風に幸せを我慢するなんて訊いたら悲しむと思わない?世界中の復興が進んである程度落ち着いてからでもいいから、結婚式を挙げないなんて、お願いだから言わないで。アポロ、マリン……私はあなた達を兄や姉として思ってるのよ……だから、思いっ切り幸せになって!」
レオナの言葉は暖かかった。アポロもマリンもこの若き王女よりも年齢は上だが、いつも感じるレオナの大きさや深さは包み込まれる様な母の愛にも似たような感覚を覚え、心から敬意を感じるものがあった。
「姫様……私共が浅はかでした。お許しください!」
「姫様のお心遣いに返す言葉もありません!」
二人はゆっくりとかしづくと頭を垂れた。
「頭を上げて二人とも。大丈夫よ、私はあなた達に幸せになってもらいたいもの。それに結婚式なんて、まさに平和の象徴じゃない!盛大にいきましょう!フフフ、腕が鳴るわ!」
そういうとレオナは腕をまくるポーズをしてみせた。その場に爽やかな笑いが起こる。
「改めて、結婚おめでとう!アポロ!マリン!」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます姫様!」
エイミは深々とレオナに頭を下げながらお互いの手を繋ぐアポロとマリンを穏やかな気持ちで見つめ、その幸せを祝福した。
「さぁて、エイミはいつになるかしらね~」
と、レオナの唐突な言葉にエイミは慌てながら言う。
「わ!私は……まだまだです!」
「そうかしら?まぁ確かに相手がなかなか手強そうだものね~なんにしても後悔しないようにね」
「ひ、姫様~」
レオナの冷やかしにエイミは汗を掻いていると、マリンに突っ込まれた。
「あら、エイミも誰か相手がいるの?やっぱり彼かしら?」
「い、いや、べ、別にその……」
「あら、どうしたの?ヒュンケル」
「えっ!ヒュンケル!?」
レオナの声にエイミは驚いて執務室の扉の方を振り返った。が……そこには、ヒュンケルどころか誰もいない。そして、エイミは瞬時に悟った。
やられた!
おそるおそるアポロ達の方に向き直ると、二人とも顔を意味深に綻ばせながら言った。
「やっぱりそういうことね~エイミ~」
「なるほどなぁ」
「え、えっと……その……」
「まぁ手強そうでしょ?だから、どうなるかわからないのよ」
「ひ、姫様~!」
エイミは、もう泣きそうだ。
「エイミ、でもいいことだと私は思うぞ」
「えっ…!?」
アポロの意外な言葉にエイミは驚く。
「確かに彼は我がパプニカにとっては、敵でもあり、恐ろしい存在でもあった。しかし、アバンの使徒としての使命に目覚め正義の戦士として魔王軍との戦いにおける勝利に大きく貢献してくれた。実はな、あれからダイ君達がカール王国に向かった後に聞いた話だが、魔王軍があの鬼岩城でパプニカを急襲した際に彼はダイ君達と合流する前に、僅かな時間ではあったが、逃げ惑う人々の避難に手を貸してくれていたんだ」
「ヒュンケルが!?」
「ええ、ダイ君達が戦っている場所に向かうまでに、少しでも人々を助けようと思ってくれていたみたい。その後、私が駆け付けた時には彼が通ったと思われる範囲の住人は皆、無事に避難出来ていたわ、中には銀髪の勇者なんて言って目を輝かせて喜んでいた子供達もいた程よ」
「ヒュンケル……そうだったの…」
「だから、エイミ、お前はいい男を選んだと私は思うぞ」
「え、選んだと言うか……」
「え!?もしかして!選ばれたの!?」
「いやいやいや!そうじゃないわよ!」
エイミは必死に否定していたが、二人の口から語られたヒュンケルのエピソードは嬉しかった。少しずつでも、ヒュンケルが人々に受け入れられていって欲しいと考えるのは彼の素晴らしさを知っている者としては心から願うことだからだ。ましてやそのヒュンケルに想いを寄せるエイミなら尚更のことだった。
「あの時はこのパプニカに世界中の国家元首が集まっていたから、魔王軍はそこに目を付けて襲ってきたけど、まさかあんな鬼岩城なんてものまで、持ち出してくるなんてね……」
「はい、今でも想像しただけで恐ろしい事です。しかしだからこそ、その鬼岩城を剣一本で打ち砕いたダイ君の強さが世に知れ渡ることになりましたね」
「それに関しては、ベンガーナ王があれ以降、すっかりダイ君のファンになってしまって、勇者ダイの名を世界中に広めることに一役も二役も買ってくれたわね!」
レオナとアポロはあの魔王軍の鬼岩城による襲撃時の事を思い出しながら語る。しかし、ダイの話しに及ぶとやはり楽しそうだ。
「必ず……彼は戻るわ……必ず」
アポロもそして、マリン、エイミの姉妹もレオナ同様に彼の帰還を強く信じていた。
「と、言うことで!」
「……!?」
と言って人差し指を立てるレオナに三賢者は注目すると。
「これから、勇者ダイ捜索隊を立ち上げるわよ!」
「おお!?」
「しかし、姫様!まだ病み上がりではないですか!?」
「そうですよ、お身体は大丈夫なのですかっ!?」
三賢者はそれぞれ声を上げながらも主君への配慮も忘れてはいない。
「ありがとう、身体は大丈夫!今朝も言ったけど、丸一日寝たからノープロブレムよ!さっきだって朝食もランチも食べ過ぎちゃったくらいよ!ただ……少し精神的には…ね…」
「姫様……でしたら、尚更あまり無理をなされては!」
マリンが心配そうに訴える。
「ううん、違うのよ。確かにダイ君がいなくなっちゃったのは相当堪えてるけど、じっとしてても辛いばかりで……」
「姫様……」
「だから、私らしくいなきゃきっとダイ君も戻ってこないんじゃないかと思って、積極的にこっちから探しちゃおう!って思ったのよ!」
「無理はしておられませんか?」
アポロは主君にというよりも、健気な妹に向ける様な優しい目線で言った。
「うん!彼を探して動いている方がずっと楽よ!前に少しでも進んでいたいから!」
「姫様……」
三賢者は皆、一様に感心した。そして、同時に心から安堵していた。
「だから、あなた達も力を貸して!」
「はっ!勿論です!」
三賢者は改めて膝をついて若き王女への敬意を示した。
その後、レオナは夕食の時間まで三賢者それぞれに復興の指示を出しながら、自身もこれからの国の事や世界各国との連携を模索し、ダイの捜索に関しても綿密に隙のない計画を立てる決意を固めた。
メルルとレオナこの二人のコンビは好きですね。バラン編から絡む二人でしたが、レオナが姉でメルルは妹的な姉妹にみえてました。後の破邪の洞窟での女子会パーティーでもマァムやフローラと共に二人は絡んでいましたが、やっぱりオモシロ姉妹でした
さて、今回のシーンではこのメルルとレオナの一番の課題とそこにエイミのどうやってヒュンケルに繋げていくかのポイントをちょっとだけ意識してみました。アポロとマリンの結婚は完全オリジナルエピですが、エイミとヒュンケルのよいスパイスになれぱ良いかな~どうかな~という段階です……つまり、まだ作者もわからんっ!という感じです……(^^;
ちなみにレオナはパーティ好きの設定も付け加えてます。
ダイ君捜索に本格的に動き出すレオナも今後しっかり書いていきます