─神聖の神器─
「オルヴァ王子に敬礼!」
ベンガーナ城敷地内にある兵士達の鍛錬場前で兵士達が規則正しく整列し、オルヴァに向けて恭敬の姿勢を示す。
「ああ、みんなご苦労!だが申し訳ない!もう既に聞き及んでいることと思うが、先刻我がベンガーナ城内で魔界の恐るべき敵との熾烈な戦いがあった!」
オルヴァは今日、ダイの捜索のためにオーザムへと向かう予定だった兵士達に凶神の下僕との戦いについて、事の次第を伝える。
「そのため今日のオーザムへの出立を延期し後日改めて行うことととなった!今日まで準備を整えて貰い大変申し訳ないが、許して欲しい!」
と、オルヴァは兵士達に頭を下げると、その中で兵士長が告げる。
「とんでもごさいませんオルヴァ王子!オルヴァ様やクルテマッカ陛下がご無事で我々は安堵しております!我等こそ馳せ参じるべき時にお役に立てず申し訳ございませんでした!!ですが、ミネルヴァ様やアリア様も何事もなかったと聞き及んでおりましたので、何よりでございます!」
「ありがとう兵士長!うん、父上達も大丈夫だ。皆には大変心配を掛けたがこうして我が城も我が国も守られたから安心して欲しい!たが一つだけ、皆にこれだけは約束して貰いたい!!」
と、ここでオルヴァは更に真剣な表情をみせると兵士達は改めて居住まいを正す。
「今回の我がベンガーナで起きた不慮の事態はどうか公言しないで貰いたいのだ。先の大戦による大魔王バーンの脅威は勇者ダイとその仲間たちの活躍でこの地上から去ったとはいえ、未だ人々の間には暗い記憶が残されているだろう、故に今またここで魔界の恐るべき存在がこの地上を狙っていると耳にすれば、人々は再び恐れ慄く時間を過ごさなければならない!幸いなことに今回はカール王国の勇者アバン様の大きな尽力のおかげで強力な魔界の輩は退けられたが、必要以上に人々の不安を掻き立てることはしたくないのだ!皆わかってくれるか?」
オルヴァの毅然とした姿勢とその力強い言葉に兵士長を始めベンガーナの兵士達は一様に頷いた。
「ご立派なご判断であります!我らベンガーナ兵はオルヴァ様のご進言を深く胸に刻み、この度の件につきましては一切公言しないことをお誓い申し上げます!よいな!皆の者っ!!」
「はっ!!」
「ありがとう兵士長、ありがとうみんな!これからも我がベンガーナ王国の平穏のため励んで欲しい!!」
「ありがたきお言葉!痛み入ります!!皆の者!!オルヴァ王子に敬礼!!」
兵士長がそう叫ぶように声を上げるとベンガーナの兵士達は皆が揃ってオルヴァに改めてその忠誠を示した。
また、今回ベンガーナ王国を急襲した凶神レノクスの下僕である魔女マナルガとの戦いや彼らの恐るべき野望と策略、更にアバンの祖父ジニュアールⅠ世、祈祷師一族、マギサについても詳細に記したクルテマッカの書簡をオルヴァは受け取り、勇者ダイ捜索の一時延期の旨と共にテランのフォルケン王に届ける様に早馬を飛ばしたのだった。
───一方その頃アバン達は……
「ここが香玉の間ですわ!アバン様!」
「おおー!扉からも何処となく荘厳かつ麗しき香りが感じられますね〜」
アバンの言う通り、この香玉の間は代々ベンガーナ王国に伝わる重要な客人をもてなす特別な客間であり、それを物語るように扉の設えは勿論のこと、部屋の内装に於いても限りなく豪華な作りになっているのだった。
「では、参りましょうか」
「はい、お願い致します」
ミネルヴァの言葉にアバンは頷くと彼女の姉君ルティナとの初対面にその気持ちを整える。
コンコン……!
「はい、どうぞ」
ミネルヴァのノックで扉が叩かれると部屋の中から彼女と似たような声が応えた。そして、その声を受けてミネルヴァが荘厳な造りの扉をゆっくりと開ける。
「ルティナお姉様」
「あらミネルヴァ!え…?もしかしてそちらの方は……っ!?」
扉を開いてミネルヴァとルティナの姉妹が顔を合わせると、それと同時にルティナの視線はミネルヴァの後ろの人物に釘付けになった。
「お初にお目に掛かりますルティナ様、私カール王国の…」
「アバン様っ!!!」
「あ…!は、はい……アバンです……」
「キャァァァ~♪アバン様ぁぁぁぁぁーーー!!!!どうしましょう!!ミ、ミネルヴァ!!私どこかおかしくないかしら?メティス!!今日のこのドレスで良かったかしら?あ〜も~アバン様にお逢い出来るならもっと素敵なドレスにしおけば良かったぁぁぁ〜!!」
「お、お姉様……そんなことないわ、とてもお綺麗よ」
「ええ、先生!とてもエレガントですわ!」
「そ、そうかしら?」
と、ミネルヴァやメティスがはしゃぐルティナを落ち着かせようとする中、そんな彼女は口をあんぐりと開けて佇んでいるアバンを伺う様に見る。
「あ、ああ!え、ええ!本当にとてもお似合いですよルティナ様っ!!いやぁ私もあなたにお会いしたかったのですよ…」
「ええっ!!?アバン様が!!私のことを……っ!!?キャァァァ~!どうしましょう!!」
「お、お姉様落ち着いて!」
「フフ♪ね、おっしゃったでしょ?ルティナ伯母様はアバン様の大ファンだって」
アリアがアバンにそう笑い掛けると、彼も冷や汗を掻きながら頷いた。
「そ、そのようですね……ハハハ…」
その後は、思いがけず大ファンのアバンに出逢うことが出来て興奮したルティナを皆でなんとか落ち着かせると、ミネルヴァが口火を切ってゆっくりと先の凶神勢との戦いをルティナⅡせつせつと語りだした。そうして、やがてルティナも真剣な表情で妹の話しに聞き入っていた。
「そう…先ほどまでそんな大変なことが……そうとは知らず、また年甲斐もなくはしゃいでしまいお恥ずかしいですわ」
「いえいえ、そんなことありませんよ、それに私の方こそこれ程までに歓迎して頂けて嬉しいです」
「アバン様……」
アバンは柔らかい表情でルティナにそう告げると彼女は頬を赤らめながら同じ様に柔らかい笑顔を返した。
「みんなもごめんなさいね…こんなに騒いでしまって、変な伯母さんよね…」
「ううん!そんなことありませんわ伯母様!私もアバン様が大好きだもの!お気持ちはよくわかりますわ!ウフフ♪」
アリアはそう言ってルティナに笑いかけた。
「ありがとうアリア……そうよね♪アバン様カッコいいものね~」
「フフ♪アバン様両手に華ですわね♪」
「ええ、本当に♪」
「お、おやおやこれは困りましたね〜照れてしまいますよ〜」
ワハハハハ!!
そうして香玉の間では3人の美女に囲まれたアバンを中心に笑顔の華が咲いていた。
「では、ルティナ様…私から少し伺いたいことがあるのですが……」
と、アバンはそう言いながら自分達が入ってきた扉を振り返る。
「アバン様?どうされました?」
「ああ、いえ…オルヴァ王子もやはりいて貰えればと思いましてね…こちらに来られる予定でしたよね?」
「ええ、今日のダイ様の捜索を延期する旨を兵士の方々にお伝えしてからルティナお姉様にご挨拶にをしに来ると言っておりましたが…」
ミネルヴァもそう言って扉の方を見やる。
「オルヴァにも関係のあることなの?」
「はい、先の地下牢での戦いのことは先ほどミネルヴァ様からもありましたが、その凶神勢との戦闘中に私がオルヴァ王子に"ある剣"をお渡ししたのです…」
「”ある剣"?」
「はい、奇跡の剣という剣です」
「奇跡の剣っ!!?アバン様はあの伝説の剣をお持ちなのですかっ!!?」
「いえいえ!私のモノではないのですが、ディードックさんという旅商人の方にお借りしているモノで…」
「ディードック?」
「今、お父様と今後のご商売についてお話し合いをされていますわ」
「今回の地下牢での騒動でディードック様にも大変お力添えを頂いたものですから、クルテマッカ陛下もディードック様を大変お気に召されてベンガーナ王国専属商人としてこの度お迎えすることになりましたの」
「あーそうなのね〜どうりで彼の姿が見えないと思ったら今回はそういういいわけなのね」
「いいわけ?」
ルティナの言葉にアバンが首をひねる。
「フフ♪何かにつけて陛下はお姉様と顔を合わすことを避けがちなのです」
「自分にやましいことがなければ何も恐れることはないでしょ?ねぇそう思いませんことアバン様?」
「へ?あ、ああ…まぁそうですね〜」
「ヘックション!!」
「おや?陛下、風邪でも引かれましたかい?まぁあの地下牢はちと寒かったですからねぇ〜」
「う、うむ…そうかな……?」
と、クルテマッカは自分のことが話題に上がっていることも知らずにディードックの前で首をひねっていた。
「では、アバン様いかが致しましょう?オルヴァをお待ちになりますか?」
ルティナは向き直って、改めてアバンに奇跡の剣の話を進めるか、オルヴァを待つか訊ねる。
「そうですね〜」
「あ、私がオルヴァ様をお連れ致します!」
「そう?じゃあメティスお願いね」
「はい先生!では、皆さん少々お待ち下さい」
そう言ってメティスは急いでオルヴァを呼びに兵士達の鍛錬場に向かった。
「フフ♪あの子もようやく前を向けるようになりましたわ」
「前を?メティスさんに何か?」
「あの子がいなくなったから話すわけではありませんが、彼女は先の大魔王バーンの大戦で両親と妹を亡くしているのです」
「なんですって!?」
ルティナの口から、知られざるメティスの素性を聞かされてアバンは驚きの声を上げる。
「アバン様はこのベンガーナ王国に空を飛ぶドラゴンを操る魔物が急襲した話はご存知ですか?」
「空を飛ぶ……もしかしてそれはスカイドラゴンを操る鳥人ガルダンディという魔物ではないですか?」
「ええ、やはりご存知でしたか……そうですあのガルダンディがスカイドラゴンを使ってベンガーナの街を焼き尽くした際にメティスの家族は巻き込まれ帰らぬ人に……」
ルティナは深い憤りと無念の表情を浮かべながら深くその瞳を閉じて言った。
「そうでしたか……ご家族を……」
「メティスは私の弟子として、私も滞在しているテラン領の小さな村で、魔法技術の修練を積んでいたのですが……あの襲撃が合って家族を亡くしてから彼女は暫くの間、塞ぎ込んでしまいました」
「無理もないことです……」
アバンはこの時、バラン率いる竜騎衆の一人である空戦騎ガルダンディーが、このベンガーナ王国の領内にあるアルゴ岬に呼び出された直後にベンガーナの街を火の海にしていた事実を後にポップやヒュンケルから聞いていた。
「メティスは元々大人しい性格の子でして、魔王軍に対する怒りも当然あったのでしょうが性格的に怒りよりも嘆きや絶望感に苛まれていました……しかしそんな時に……いやそんな時だからこそ私は彼女に私自身の生い立ちや妹のこと……そしてメティス自身の使命を説いて聞かせました」
「メティスさんの使命?」
「はい、彼女には彼女自身も気付かない程の類稀なる魔法の才がありました、しかしその大人しい性格故に彼女はなかなか自分に自身が持てなかった……簡単な魔法はすぐに覚えましたが、自らが修得しようというより私に進められてようやくその技術を得ていくという感じだったのです…」
「どんなことでもそうですが、やはりそこに自分の強い意志がなければ身につくモノは限られてしまいますからね」
「ええ、さすが勇者の家庭教師をされていたアバン様はよくおわかりですね、その通りなのです……そして彼女のその強い意志が使命として動き出したのが……」
「ご家族の死ですか……なんと皮肉な…」
アバンは心底居た堪れない表情でその瞳を伏せる。
「そうですね……しかし彼女は家族を失い自分だけ生き残ったことに苦しみ喘ぎながらも賢明に考えていたようです…そうして一つの答えを導き出しました……それが、もう自分のような悲しい思いを誰にもさせたくないという強い意志から生まれた彼女の使命感でした」
「魔法技術を身につけて人々の為に」
「はい」
「それはきっとお姉様の教えも彼女がその使命に目覚める後押しになったのだと思いますわ」
「それなら良いのだけど」
「ええ、私もメティスさんの魔法をつい先ほど見せて頂きましたが、いずれも素晴らしいモノでした。きっとこれからも彼女は大きく成長されていくことでしょう」
「まぁ!アバン様からのお墨付きということですわね!」
「はい!私が保証しますよ!」
愛弟子のメティスがアバンに認められてルティナも喜びを表すとその後は暫くの間、談笑しながらオルヴァとメティスを待っていた。
コンコン!
「あら?来たようね」
「はいどうぞ!」
「失礼します!」
扉の向こうから声がすると、ゆっくりとオルヴァがその顔を覗かせた。
「ルティナ伯母様!ようこそ我がベンガーナへ!」
「フフ♪暫く見ないうちにすっかり精悍な顔付きになりましたねオルヴァ」
「あ、ははは…ま、まぁ色々とありましたから…」
と、オルヴァは何故かアバンの方を見て苦笑する。
「そうね色々と大変だったみたいね……でもよくクルテマッカ陛下やミネルヴァ、それにアリアを守ってくれました……そうそう!メティスのこともね♪」
「え…っ!!?」
「え…っ!!?」
ルティナの言葉にオルヴァとメティスは思わず顔を合わせて驚く。
「メティスがあなたのことをよく話すのよ〜もうそんなに好きならさっさとくっつけば良いのに〜って今も皆で話していたところなの〜」
ルティナはそう嘯いてニヤニヤしながら若い二人に視線を投げる。
「なっ!?なにをおっしゃるのですか伯母様!?」
「そ、そうですよ先生っ!オルヴァ様にそんな……っ!?」
「あら?メティスあなたがオルヴァのことをよく話すのは事実でしょう?」
「そ、そうです………けど……」
と、メティスは顔を真赤にして俯いてしまう。
「もう!そんなに恥ずかしがらなくても良いじゃない?なにもあなたは間違ってないんだから、ちゃんと堂々となさい!人を愛するのは美しいことよ」
「は、はい……」
そう小さく返事をしながらメティスはオルヴァを伺うと彼もメティスを見つめて共に頬を赤らめる。
「オルヴァ、あなたもしっかりね!メティスさんを一番に守るのよ!!」
「は、はい!!」
メティスとオルヴァはルティナとミネルヴァの姉妹に発破をかけられ畏まっていたが、お互いのそんな姿をみて思わず笑みを浮かべていた。
「いいですね〜若いというのは〜」
「あら?アバン様もまだまだお若いですわよ♪」
「フフ♪カールのフローラ様とはどうなっているのかしら?」
「ま、またその話しですか〜」
ワハハハハ!!
ルティナにもこの話はウケが良いようで、先刻の謁見の間と同じ様にこの場でも笑顔の華が咲いていた。
「では、オルヴァも来たことだしそろそろ本題に入りましょうか?」
ルティナが皆の顔を見渡しながらそう告げるとアバンも真剣な面持ちでそれを受けた。
「はい、では早速ですがオルヴァ王子、奇跡の剣はお持ちですね?」
「は、はい!こちらに」
そう言うとオルヴァは左の腰に携えていた奇跡の剣を手にする。
「オルヴァ、よく見せて貰える?」
「は、はい!あ、でもお気を付けください……」
「ありがとう…」
ルティナはオルヴァの優しい気遣いに礼を述べるとその手にずっしりと奇跡の剣の重さを感じた。そしてそのまま真剣な眼差しで剣の細かなところまで観察すると隣りにいたアバンに告げる。
「やはりこれは本物の奇跡の剣ですわ……」
「本物の?」
「ええ、アバン様、少しよろしいかしら?」
「はい」
と、ルティナはアバンに奇跡の剣を預けると、徐ろに傍らに置いていた一冊の記録書を取り出した。
「それは?」
「あらゆる文献を調べ尽くした私だけの記録書の一つですわ…過去の事象や祈祷師一族を始め世界中の調べられるだけのあらゆる伝承などをまとめてあります、まぁ最もその大半はテランのフォルケン王から調査を依頼されたモノではありますが…」
「いや〜それにしても素晴らしいですよルティナ様、これ程までに詳細に調べ尽くされているとは、私でもこれ程までのモノをまとめ上げるのはなかなか骨が折れそうです」
「まぁご謙遜を、ジニュアールⅠ世様のお孫さんであるアバン様ならワケもないでしょう?」
「いやいやそんなことありませんよ~ハッハッハ!」
しかし、アバンの言うとおりそのルティナの記録書には一つ一つ丁寧に調べ上げたあらゆる知識が膨大に収められていた。それは譬えるなら、この記録書一冊で十冊以上の魔導書にも匹敵する程の膨大な知識量であった。
「あ、ありましたわ!ここに奇跡の剣の記述が!」
するとルティナはそう言ってアバンや皆に奇跡の剣のことが記載された自らの記録書を見せる。
「確かにこれは凄い……」
オルヴァが思わずそう漏らすとルティナは優しく微笑み記録書のある部分に指を差し示した。
「ここ、"奇跡の剣とはその昔、地上を侵略しようとした恐るべき魔族の力に対抗する為に神が人間に与えた神聖の神器の一つである"と…」
「神聖の神器!!?」
ルティナの言葉に皆が驚きの声を上げる。
「奇跡の剣はかつて太古の昔にこの地上を侵略しようと攻めてきた魔族と、地上を守らんとする人間達との間で起きた大きな戦いの中で、人間の神が天界の名工に作らせたという伝承に記されたまさに神の剣なのです」
「そんな昔にも魔界の魔族がこの地上を狙って来たのか…」
「そうなの、私も数多の文献を貪るように調べながら気付いたのだけれど、魔界の住人は自分たち魔族の故郷である魔界に太陽の輝きが注がれないことに常に憤りと失望感を感じ、地上界ごとその太陽を手に入れようと太古の昔から何度となくその企てをしていたようね」
「なるほど、だからあの大魔王バーンも太陽を求めてこの地上を破壊しようと考えたのですね」
「地上界を手に入れるか破壊するかの違いだけで太陽を求める事自体は変わらなかったのです」
アバンはバーンパレスでの最終決戦で大魔王バーンがダイやポップに語っていたことを思い出していた。
「大魔王バーンは倒れたとはいえ、まだ魔界には冥竜王ヴェルザーやつい先ほどにも相まみえた凶神勢も存在します」
「そうですよね…この地上を狙うヤツらはまだまだいるんですよね」
オルヴァはそう言って拳を強く握り締めながら神妙な面持ちで告げた。
「でもだからこそ、ルティナ様のような多くの事象に精通する方のお力をお貸し頂きたいのです」
アバンはルティナに視線を向けると彼女は優しく笑顔をみせて頷いた。
「ええ、勿論!私も自分の知識でこの地上の危機を救えるのならば惜しみなく使うつもりですわ!さて、では次に参りましょうか」
「お願いしますルティナ様」
そして再びルティナは自身の記録書に目を落とした。
「続きを読みますわね、"神がかつて作り上げた神聖の神器は地上のそれぞれの大陸ごとに授けられた”」
「それぞれの大陸!?」
「では、神聖の神器とは奇跡の剣だけではないのですかっ!!?」
これにはさすがのアバンもオルヴァと顔を見合わせて驚いた表情をみせた。
「ええ、そのようですね……調査をした古い文献には現在ロモス王国のあるラインリバー大陸に神爪、パプニカのあるホルキア大陸には神杖、カール王国、リンガイア王国、そしてこのベンガーナ王国のあるギルドメイン大陸には神剣が伝わっているとあります」
「あれ?オーザムのあるマルノーラ大陸は?」
オルヴァが首を傾げてルティナに訊ねる。
「マルノーラ大陸に関しては実は他の伝承があるのよ」
「他の伝承?」
「ええ、妖精界の伝承……つまりエルフの国と地上界を繋ぐ話よ」
「エルフですって…!?」
と、ここでアバンが思わず声を上げる。
「どうされました?アバン様?」
そう問われたアバンは、ここで愛弟子ヒュンケルの回復の為、彼がエルフについてどんな些細な情報でも求めている理由を丁寧に説明した。
「そうでしたか……お弟子さんの御身体のことで…」
「はい…彼はこれまで多くの戦いの中で数え切れない程の傷を負い過ぎました、そしてそれは私自信の責任である部分も多くあります……しかし彼は…ヒュンケルは、その背中で私に誇りを感じさせてくれました…」
「誇り……」
「ええ、弟子に教わるとはまさにこの事……ヒュンケルのその闘う意志は敵を打ち倒すだけではなく、己の中の強い意志を貫く一人の人間としての生き方を示してくれたのです」
「だからこそアバン様は彼を救いたいのですね?」
「彼のためなら何でもしてあげたい…私は子を持ったことはありませんが……もしかしたら親とはこういう心境なのかも知れません……」
そう語るアバンの瞳には紛れもない愛情に満ちた父性が滲んでいた。
「わかりました。私もエルフの世界についてはいくらか調べていることもありますので、後ほど近いうちにそれらをまとめてアバン様にお渡し致します」
「ありがとうございますルティナ様。あ、ではすいません話が逸れてしまいましたね……」
「では、改めて神聖の神器についてですが…先程もお話しした通り神聖の神器には神爪、神杖、神剣と三つの神器があり、地上界のそれぞれ三つの大陸に神が天よりもたらしました」
「神爪というと神の爪、神杖は神の杖、神剣は神の剣ということで良いですか?」
「ええ、その通りです。ですが残念ながらその三つの神器のうち名前が判明しているのは奇跡の剣のみで、他の爪と杖に関しては名前もまた、具体的なその特徴さえもわかっておりません」
「例えば神爪、神の爪であれば武闘家だけが装備可能なあの爪のことになるのでしょうか?」
「奇跡の剣のことを考えれば、そう考えるのが自然ですわね」
「そう考えれば、やはり神は未来が見えるのでしょうかね?」
「え?どういうことです?アバン様」
ルティナを始めオルヴァやメティス、またミネルヴァとアリアも怪訝な表情でアバンをみる。
「ロモス王国のあるラインリバー大陸には武術の神様と呼ばれている拳聖ブロキーナ老師がおります」
「あ!確かにそうですね!私もブロキーナ老師の御高名は存じ上げております!」
オルヴァが思わず声を上げると更にアバンは続ける。
「また、ホルキア大陸には魔法国家と呼んでも差し支えないパプニカ王国があります。レオナ姫も賢者としての修練を積んでおりますし、パプニカは代々優秀な賢者を排出している歴史もあります。勿論、現在もパプニカ三賢者という頼もしい方々がレオナ姫をお支えしておりますしね」
「魔法といえば、確かに杖のイメージです。武闘家は爪、賢者は杖……だとしたら奇跡の剣はどう解釈したら良いでしょうか?ギルドメイン大陸に戦士や勇者……っ!?あっ…!?」
「フフフ♪気付いたようねメティス」
「そ、そうでした……ギルドメイン大陸にはカール王国があります……勇者アバン様のお郷でしたね……」
「確かにアバン様の仰ったとおり神の目には今の世が見えていたのかも知れませんね……」
「これも神の神聖の力なのでしょう。我々は神の加護の元にこの地上を恐るべき魔界の勢力から守らなければなりません」
「ええ、必ずや私もお力になりますわ……実は先の大戦では、私はテランに滞在しておらず大魔王バーンとの戦いには力を注ぐことが叶いませんでした……」
「テランにおられなかった?」
「はい、ルティナ先生は大魔王バーン率いる魔王軍がこの地上に現れる前から、その邪悪なエネルギーを察知しその影響により御身体を痛めてしまいました。それ故養生のためにこの地上の最も清浄な地と言われる場所に赴いていてのです」
メティスがルティナのその状況をアバンに告げた。
「そうだったのですね…そういえば私の仲間でマトリフという高齢の大魔道士がいますが、彼も大魔王バーンが倒れてから体調がかなり良いと言っていましたから、その逆を考えれば大魔王の存在自体がこの地上にかなり悪影響を与えていたのでしょう?お加減は如何ですか?」
「ええ、もうすっかり!これからはバリバリいきますよ!!」
「ハハハ!これは頼もしい!!」
ガッツポーズをしてみせるルティナにアバンは朗らかな笑顔で応える。
「アバン様もこれから更にご活躍のことと思いますので是非ともお役に立たせて頂こうと思いますわ♪」
「ありがとうございます、ダイの捜索の事もありますので、こちらこそ彼の行方を知る為の知恵もいずれ拝借させて頂こうと思います」
「はい、承りました。勇者ダイ様のことは私達もとても憂慮していたことでもありますので、また何かお役に立てそうな情報を掴みましたら迅速にアバン様にご報告させて頂きます」
「よろしくお願いいたします」
そうしてその後、暫くの間は和やかに歓談していたが、やがてアバンがカールへの出立を告げると皆で改めてクルテマッカとディードックが待つ謁見の間に向かった。
とても長くなりましてすいません^^;そして、ベンガーナ王国編の締めくくりが、次回になるという……なかなか書きたい展開が広がりまくって終わりませんが、次回こそベンガーナ編が本当の終幕です、よろしくお願い致します。
さて、物語の中では新たなキーワードとして、神聖の神器というモノが登場しました。大魔王バーンもそうでしたが魔界では太陽が存在しないため、太陽は太古の昔から魔界の住人にとってはどんなことをしても手に入れたいモノでした。それ故に地上界は遥か昔から魔族達に何度も侵略行為を受けていてのです。神が力のない人間にかつて神の涙を与えたという話も、そういった歴史によるものであるわけです。
各大陸に天から授けられた三つの神器。
楽しんで書いていこうと思います。