新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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アバンの帰還

 

 ─来るべき時─

 

 再びベンガーナ王の謁見の間に赴いたアバン達はルティナを伴って現れると、明らかに落ち着きのないクルテマッカの様子に苦笑していた。

「お、おおっ!?こ、これはこれはルティナ様っ!ご機嫌麗しゅう!!」

「なぁ〜にがご機嫌麗しいものですか!?私と顔を合わせたくないとそのいかつい顔に書いてありますよ!」

「そ、そんなことは断じでありませんぞ!ルティナ様!!」

「フフフ♪お父様ったらおかしいわ♪」

 二人のやり取りを皆が笑顔で眺めていると、アリアが思わず吹き出した。

「ア、アリア……っ!?ワ、ワシは別にだな~」

「まぁいいわ♪ミネルヴァもオルヴァもそしてアリアもこうして健やかに過ごせているのも王たる貴方の器量のうちとしておきましょう♪では、改めてご機嫌麗しゅう♪クルテマッカ国王陛下♪」

「あ、ハハハ……ハイ、ルティナ様…」

「ところで、こちらに赴く前に先刻の地下牢でのことはミネルヴァたちからも伺いましたがクルテマッカ様」

「は、なんでしょう?」

「私も是非マギサ様にご挨拶を致したく思うのですが…」

 そう言うとルティナはクルテマッカに小さく頭を垂れる。

「ミネルヴァたちの話しによれば、彼女は我々祈祷師一族を代々見守る巫女の末裔であったとか……そうであれば祈祷師一族の一人としてお目に掛かりたいのです」

「そうでしたか…わかりましたルティナ様、先刻の戦いの後に我がベンガーナ王国を守護して頂ける神聖の使徒としてマギサ様をこの城の礼拝堂にお迎えしておりますので、これから皆で参りましょう」

 クルテマッカの言葉に皆が頷くと、一堂はこのベンガーナ城の敷地内にある礼拝堂に向かった。

 

 

 厳かなその空間は常に静寂が保たれている。

 しかし、不思議と包み込まれる様な暖かい感覚も感じると、そこではあらゆる存在が清浄な気持ちでいられるようだった。

 ここはベンガーナ城内でもクルテマッカ自身が特に力を込めて建設した礼拝堂である。そしてそれを物語るように、装飾はもちろんのこと光の注ぐ大きな天窓や豪華な祭壇など、初めてここを訪れる者は皆が皆、目を見張るようなベンガーナ王国でも一二を争うほどの見事な建造物だった。

「とても心地の良い場所だわ……クルテマッカ様」

「そうですか!!ルティナ様に気に入って頂けるとはこの礼拝堂を造った甲斐がありましたな!!ワハハハハ!!」

 クルテマッカの得意げな笑い声が礼拝堂に響き渡ると、ルティナを始め皆が微笑ましく苦笑する。

「ルティナ伯母様、マギサさんはあそこに……」

 アリアがルティナにそう告げて視線を向けた先には、この礼拝堂の中でも最も神聖な光を湛えている祭壇だった。そしてそこには……

「あら、あのお人形は?」

 ルティナがそう言って祭壇に歩み寄ると、そこには小さな人形が供えられていた。

「これは私がマギサさんに貰ったお人形なの…そしてマギサさんが小さな頃にお母様に貰ったお人形なのよ」

「マギサさんのお母様……まさか!?彼女は祈祷師一族を守りし最後の巫女!!」

「え……っ!!?お姉様!それはどういうことです!!?」

 ルティナの驚愕の表情とその言葉にミネルヴァが訊ねる。

「ええ、ミネルヴァ…私が祈祷師一族の歴史をあらゆる伝承や文献、そして私たちに継承されてきた教えに基づいてこれまで多くの研鑽を重ねて来たことはアナタも知っての通りだけど、その中で私たち祈祷師一族を守り支えて来てくれた存在があったことは、先刻もマギサ様の口から聞いたのよね?」

「え、ええ…正直私も彼女がその末裔だと知って驚いたのだけれど……」

「彼女の母親…名はメアルス。先代から継承されてきた祈祷師一族の叙事文によると祈祷師一族を守護せし最後の巫女の名もメアルスとあるの」

「そんな……っ!?で、でもお姉様!!そのマギサさんのお母様であるメアルス様が最後の巫女なら私たちの代……いえ、その前の私たちのお母様の代の巫女はどうなってしまったの…?」

「それがきっとあの忌まわしき事件が起きなければ…マギサ様に受け継がれていた筈なのよ……」

「マギサさんのお母様が……遭遇してしまったあの事件……」

「まだマギサさんが幼い頃に起きてしまった不幸な出来事が……」

 ミネルヴァがその表情を青くしながらいると、アリアやアバン、そして言葉に出来ない思いを感じているクルテマッカやオルヴァ、メティス、またディードックさえも厳しい表情を浮かべていた。

「忌々しい人の手によって祈祷師一族を守る巫女の系譜が絶たれてしまった……」

「ええ、陛下の仰っる通り……我々祈祷師一族と共にある守護の巫女の系譜は、その正当な儀式で継承を果たさなければその系譜が正式に成立するわけではない……それは私たち祈祷師一族においても同じこと……それ故にメアルス様は娘のマギサさんに継承を果たす前に亡くなられてしまったからその系譜は絶たれてしまったの……」

 代々祈祷師一族もルティナの言うとおり血の繋がりや系譜のみでは、正式に祈祷師としてのその力を継承することは出来ない。それは一族の硬い掟が長い時を経ていく中で歪められない様に先代が常に次の代へ厳格に継承の儀式を施して来たのだった。そして、代々祈祷師一族を守護する血筋である巫女の一族もまた、同じ形で厳しくその系譜を守ってきたのだ。

「でも……神はそんなマギサさんをそして我々祈祷師一族を長い時の中で守護して来た巫女の系譜も見捨てなかった」

「それが…!神の神聖……!?」

 オルヴァの言葉にルティナは静かに頷く。

 すると……!

「ルティナ様っ!!?これは……っ!!!?」

 アバンがそう叫んで視線を祭壇の上空に向けるとルティナは振り返って目を見開いた。

「こ、この眩い光はあの時の……っ!!?」

「そうですわ!あの地下牢でマギサさんが放っていた光と同じ!!」

 すると、その光の中から少しずつマギサの姿が具現化されて現れた。

「あ………あなた様が……マギサ様……」

 ルティナはその光の中のマギサの姿を見つめて呟く。

『ルティナ様……』 

 二人は視線を交わす。そしてそこには言葉はいらなかった。

 ここに来る前にミネルヴァやアバンからマギサが地下牢で彼らに告げた話は全て訊いてきた、そして自らの研鑽の元祈祷師一族を守護せし巫女の一族の歴史も知っているルティナと神の神聖の力により魂だけの存在からベンガーナ王国を守護せし精霊に神格化したマギサもルティナたち祈祷師一族の歴史とその使命を理解していた。

『ミネルヴァ様…アリア様…』

 マギサがまるで我が子を見つめるような優しい眼差しで彼女たちの名を呼ぶと、ルティナ、ミネルヴァ、アリアの三人は前に進み出てマギサの姿を見上げる。

 そして、三人の瞳からは自然と一つ二つと雫が零れた。

「マギサさん……私たちはきっとこの地上を守るわ」

「ええ、祈祷師一族の力を私たち三人で継承してあなたと共に」

「マギサ様……いつまでも私たち祈祷師一族はあなた方巫女の一族と共にあります……」

『ありがとう……ございます……お母様…メアルスもきっと喜んでおります……私も神の神聖を受け継ぎし精霊としてこの国を守ると共に来るべき戦いの時には必ずや神の神聖の力において……必ずや皆さんをお護り致します』

「祈祷師一族は永劫、神の神聖精霊マギサ様と共に」

 ルティナのその言葉を受けマギサはゆっくりと微笑むとその光の彼方に消えていった。

 そして、消えるその寸前でアバンと視線を交わすとアバンもまた静かに微笑み、改めてこの地上を守る決意と共に深く頷いた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「それでは皆さん、色々とお世話になりました」

「何を言うアバン殿!世話になったのはこちらの方だ!!本当にお主には何度礼を尽くしても足らんほどだ!!」

「ええ、本当ですよアバン様っ!!それにアバン様から受け継いだこの奇跡の剣……本当に私などが所有してよろしいのですか!?」

 クルテマッカとオルヴァの言葉にアバンは笑顔で頷くと言った。

「いえいえ、クルテマッカ様にはカールへの復興でもお世話になっておりますので、それとオルヴァ王子…その奇跡の剣は貴方を選んだと私は思うのですよ」

「ええ!?わ、私を……っ!!?」

「はい、貴方の剣はその奇跡の剣を奮った時に最大の力を発揮すると私は見ました、ですので是非ともその剣でこれからもご自身の剣を極めて下さい!そして来るべき時にはその磨いた剣技と奇跡の剣でどうか皆をお守りください!!」

「は、はい!!必ずや!!!」

 力強くオルヴァはそう告げると共に誓いを込めてがっちりとアバンと握手を交わした。

「アバン様!また来てくださいね!!」

「はい、アリア姫も我がカールが復興を遂げたら是非ともお越し下さい、私が責任を持ってご招待致します」

「わぁ!楽しみだわっ♪ね、お母様!伯母様!」

「ええ本当ね♪」

「フフ♪そうね♪」

「これからも祈祷師一族としての使命を果たされることと思いますが皆様のご健勝を心よりお祈りしております、何かあればいつでもご連絡下さい!必ずや駆けつけさせて頂きます!」

「ありがとうございますアバン様」

「はい、我等の使命は凶神を始め魔界の闇からこの地上を護ること……マギサ様と共に使命を果たしてまいりますわ!」

 ルティナ、ミネルヴァ、アリアはアバンに力強い視線を送るとアバンもそれに応えて力強い眼差しで頷いた。

「メティスさんも頑張ってください!!貴女なら素晴らしい魔法使いになりますよ!師にも才能にも恵まれておりますから!間違いありません!」 

「あ、ありがとうございます!!私などにまでそんなお言葉を……っ!!」

「勇者アバン様にお墨付きを貰ったのよメティス!もっと胸を張りなさいっ!!あなたにもいずれ強力な魔法を身につけて貰いますから!しっかりね♪」

「は、はい!先生っ!!」

「お兄様もメティスさんと一緒なら頑張れるわよ!ね♪」

「い、一緒なら……って!?どういう意味だよ?」

「オルヴァ様と共に戦えるように私も頑張ります!!オルヴァ様と一緒なら私……私……幸せですからっ!!」

「メ、メティスさん……っ!!?」

「よく言ったわメティス!!それでこそ我が愛弟子よっ!!オルヴァ!!彼女のこと頼んだわよ!!泣かしたらこのルティナ伯母さんが許さないからねっ!!」

「は、はいっ!!」

 

 ワハハハハ!!!

 

 最後まで笑顔の華が咲く中、ディードックがアバンに歩み寄るとその手を差し出す。

「アバン殿、最初は驚いたがアンタと久々に戦えて俺も良かったぜ!!やっぱアンタは根っからの勇者だな!!」

「ディードックさん…奇跡の剣の件すいません……手放すことになってしまって…」

「ん?ハハハ!!何言ってやがんだよ!!逆に感謝だぜ!!奇跡の剣をクルテマッカ陛下がいくらで買い取ってくれたと思ってんだよ!!!」

「へ?買い取り?」

「ハハハ!!なんでも市場に出れば80000ゴールドは下らんと言っておったがその値ならワケもない!!奇跡の剣の探索費用も合わせて十倍の値で買い取ったわ!!ワハハハハ!!!」

「じゅ……っ!!十倍……っ!!!?は、ははは…さすが……一国の主はスケールが違いますね…ははは…」

「そうかね?まぁディードック殿のこれからの働きを考えれば安いものだ!!頼んだぞベンガーナ王国専属商人ディードック殿っ!!」

「お任せ下さいクルテマッカ国王陛下!!ハーハハハハ!!!」

 そう言ってクルテマッカとディードックは互いに肩を組んで豪快に笑い合っている。

「ディードックさん……その方は王様ですよ?ははは……」

 クルテマッカ相手にすっかり馴れ馴れしく振る舞っているディードックにアバンは苦笑いしながら告げると改めて皆に向き直る。

「それでは皆さん!そろそろ行きますので、またお会いしましょう!!」

「はい!道中お気をつけてアバン様!!」

「はい!ま、道中と言ってもルーラで帰りますけどね♪さすがにもうのんびりしていたらフローラ様に叱られますので……」

「フローラ様にも宜しくお伝え下さい!お二人の結婚式には是非とも我々もご招待下さいね♪」

「ルティナ様…またそのような…で、では!!これにて!!」

「フフ♪ありがとうございましたアバン様」

「ありがとうございました!!」

「達者でなアバン殿っ!!」

「はい!皆さんもお元気で!!」

 そうしてアバンは、ルーラを唱えカールの空に消えていった。

「またお会いしましょうアバン様……」

 アバンが消えた青い空を見上げてアリアがそう呟くと彼女の肩にそれぞれ手を乗せて母ミネルヴァと父クルテマッカが優しく微笑む。そしてアリアの隣には同じ様に空を見上げるオルヴァがいる。

 アリアはそれぞれに笑顔を向けるとそっと視線を外し礼拝堂の方へもその笑顔を向けた。

 そして光の彼方に消えたアバンを見送るようにその礼拝堂からもまた、不思議な光が煌めいていた。

 




 はい、ようやく長かったベンガーナ王国編、閉幕になります。
いやはやなんとも、さすがに少し疲れましたが達成感もあり納得です。後は読み手の皆さんが楽しんでいただけてればなによりです(^_^;)
 来るべき魔界および凶神の軍勢との戦いに向けて大きな武器と頼もしい存在が、今回のベンガーナ編では登場しましたが、今後も世界各地で対魔界勢力の登場は見込めますので、地上界も負けてはいないぞ!というところをみせていければ良いかと思いますので、お楽しみ下さい✧⁠◝⁠(⁠⁰⁠▿⁠⁰⁠)⁠◜⁠✧
 次回からは少しオムニバス形式で1話〜2話短編で暫くいこうと思います。そろそろポップやマァムの様子も気になるので(笑)
 今後とも何卒宜しくお願いします(⁠•⁠‿⁠•⁠)v
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