─愛しい気持ち─
「えっと…あとは〜お魚を買っておしまいね」
かつて魔王軍の百獣魔団や闘技場において妖魔学士ザムザによって襲撃されたロモス王国も、今や世界中で最も早く復興を果たした国として認識されていた。それ故に魔王軍の襲撃前まで開催されていた城下町での市も再開された。そしてその報せはマァムの村のネイル村にも届いており、彼女も久しぶりにロモスの市に買い出しに来ていた。
「あら!マァムちゃん!久しぶりだねぇ!!」
「……っ!?」
その声にマァムは振り返ると途端に満面の笑みを見せた。
「イザナおばさんっ!!」
「これまた綺麗になっちゃって〜♪しかもアンタ聞いたわよ!あの大魔王バーンをやっつけてくれた勇者パーティーの一人だったんですって!!?世界を救ってしかもこんなに綺麗になって!!一時とはいえ面倒みさせて貰ったアタシの鼻も高いってものよ♪アハハハ!!」
やや恰幅よく元気を絵に書いたように豪快な笑顔をみせるこの女性は、かつて勇者アバンがその仲間たちと共に魔王ハドラーとの最終決戦のためホルキア大陸の地底魔城に乗り込む際にロカとレイラからマァムを預かっていたイザナという女性だった。
「イザナおばさんのご家族がネイル村からロモスの城下町に引っ越してから時々は会いに来れてたんだけど……ここ何年もご無沙汰してごめんなさい…」
「いいんだよ!元気でいてくれていれば!アンタだって村を守ったりなんだりで忙しくしてたんだろうしね♪でも本当にすごいじゃないかっ!!大魔王バーンやあのおっかない魔王軍をやっつけてこうして平和な世の中にしてくれたんだもの!!」
「ううん!みんながいたからよ…みんなで力を合わせたから勝ち取れた平和なのよ」
「そうかい、フフ♪言うことも立派になったわ!やっぱりアタシが面倒みてただけあるね!ま、ほんのちょこっとだけどね♪アハハハ!!」
「うん!おばさんには感謝してるわ♪」
「ところでそんな綺麗になっていい人でも出来たんじゃないのかい?」
「え…っ!?」
一瞬、マァムの脳裏に緑色の背中が浮かぶ。
「おや?図星かい?そりゃどこの馬の骨だろうね〜って、アンタが見初めたんだ馬の骨はないか?アハハハ!!」
「え、ええ……まぁ……」
「ところでレイラちゃんや村のみんなも元気かい?たまには行かなきゃと思ってんだけど最近腰の調子が悪くてね〜」
「え?大丈夫?ホイミならかけてあげられるけど」
「そうかい!さすが僧侶の娘だね!じゃあちょっとだけお願いしようかしらね?」
「ええ、お安い御用よ♪」
そう言ってマァムはイザナの腰に手を当ててホイミをかけた。
「あ〜やっぱ魔法ってスゴイね〜痛みが引いてきてたよ♪」
「ホイミって呪文は体内の治癒能力を活性化させる魔法だからおばさんの身体にはまだちゃんと治癒能力があるってことよ♪でもお医者さんにちゃんとみせないとダメよ?」
「ああ、そうだね、まだまだアタシも頑張らなきゃだしね!マァムちゃんに負けてらんないわ!アハハハ!!」
「うん!その意気よ!イザナおばさん!!」
そうしてマァムはホイミをかけ終わるとイザナに別れを告げて目的の魚屋に向かった。
「いやぁ~それにしてもホント綺麗になったわ〜♪アタシの若い頃にそっくりだわ!」
と、去っていくマァムに手を振りながらイザナは笑顔で呟いた。
マトリフとブロキーナが解呪の洞窟から帰還してから二日。彼らは既にそれぞれの住居に戻っていた。マトリフなどは魔族である鬼眼族のしかも子持ちの女性と結婚までして幸せそうにパプニカのあの岩の洞穴に帰っていったのだった。
そんな驚きの展開もありつつ、マァムは故郷であるネイル村で大戦前のようないつもの日常を過ごしていた。
「ただいま〜」
お目当ての魚を購入してネイル村の自宅に帰ってきたマァムは台所に立っていたレイラに帰宅を告げる。
「おかえりなさい!お魚あった?」
「うん、あったわよ!あ、そうそうロモスの城下町でね、久しぶりにイザナおばさんに会ったの!!」
「あらホント!元気にされてた?」
「うん!でもちょっと腰が痛いって言ってたからホイミをかけてあげたらだいぶ良くなったみたい」
「そう、それは良かったわ!フフ♪良いことしたわねマァム♪」
「昔お世話になったしね♪」
「ええ、本当に彼女には色々と助けられたわ……まだ母親として半人前にもなれてなかった私を母親にしてくれたのはイザナさんのおかげだもの」
「母さん…やっぱりお母さんになるって大変だった?」
マァムはどこか探るようにレイラの顔を見る。
「そりゃあもう大変なんてもんじゃないわよ!特にあなたはロカに似て……あ、でもないか……私に似てお転婆だったから……かな?」
「え?母さんに似て?」
「あなたはロカに似てるところもあるけど幼かった頃の私にお転婆なところは似てるわよ?村のみんなやイザナさんにもそう言われたわ♪」
「へぇ〜なんかちょっと以外ね♪母さんは小さい頃から家の中で大人しく僧侶の勉強をしてたのかと思ってた」
「してたわよ♪でも人一倍表でも駆けずり回ってたわ♪魔の森にもよく探検に行っては父に怒られたりしてたものフフ♪」
「確かに私、母さんの娘ね♪フフ♪」
マァムはそうしてレイラと親子の会話を楽しみながら平和な日常を過ごしていた。
が、近頃の彼女は何故かこんな時ふと思う。
(「ここにポップがいたら……」)
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「ふぅ〜っ!今日はここまでにしとくか〜」
ポップはパプニカから立つ前にマトリフから山のように与えられた魔導書の課題を日々真面目にこなしていた。
「朝から晩まで……俺ってこんな努力家だったっけ?へへへ……」
独り言を呟きながら笑っていると、ポップは何気なく宙に目をやる。
「マァム……」
そう自然と自分の口から出た愛しい人の名にポップはやや熱を感じると、西の空に沈む夕日に視線を向けた。
「どうして俺はあんなこと……言っちまったんだ……」
思い出されるのは数日前のパプニカでのこと……
アバンのフェアウェルパーティーの前日にポップはマァムに強い言葉をぶつけてしまって以来、彼女とまともに顔を合わせることなく故郷であるこのランカークスに帰って来てしまったのだった。
「強く……アイツのために強くなったつもりだったのによ……バカだよな……」
そう言って自分の未熟さを悔やみながら、右掌を強く握り締める。
しかし、ポップは故郷ランカークスへ立つ前にレオナを介してマァムからの言葉を受け取っていた。
(「信じて欲しい。だから私もあなたを信じてる。」)
「信じて欲しい……か……マァム、それって……」
いないはずのマァムに語り掛ける様に、もうほとんど沈みかけている夕日の先にポップはマァムを想うとそう小さく呟いた。
「そういやぁアイツ……手紙読んでくれたかな…」
と、その時、たまたま自宅の外に出ていたポップの母スティーヌが、その見上げた先にある息子の部屋の窓越しに、暮れる夕日をぼんやりとみつめるポップに気付いた。そして、憂いを帯びた息子のその表情に、スティーヌは彼の抱えているモノの重さを気に掛けながら推し量っていた。
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夕食をすませ、湯舟に浸かった後、マァムは眠りにつく前に枕元に大切にしまってあるポップからの手紙を開く。
ネイル村に帰ってきてからこの二日、マァムはそうしてポップを近くに感じていた。彼の手紙からはその暖かさや真っ直ぐな気持ちが滲み出ている様に思えてマァムの胸に優しい安堵感を与えてくれた。
「ありがとうポップ……」
そうして、そっと呟くとマァムは彼とのこれまでの時間をゆっくり思い出す。
初めて出会った頃にいきなり喧嘩したことから、彼に本気で失望して涙を流したことも……でも、それでも必ずマァムが思い出すのは身体を張って命を賭けて仲間や自分を守ってくれたポップの姿……
そして、いつも明るくいつもマァム自身をみていてくれていたであろう彼の眼差しに……
日増しに胸の高鳴りが増すことに……
マァムは今は戸惑いよりも、誰より彼を…ポップを求めている自分に気付くのだった……
久しぶりにこの二人の話を書きたくなりました。
この二日前にポップとマァムはそれぞれパプニカから自分達の故郷に帰って来ているワケですが、顔を合わせていない時間はお互い想いが募るといった形が表現できていれば良いな〜と思って書きました。会えない時間が何かを生み出す…そんな展開ですかね…