─希望の人─
【ロモス王国城下町】
「そうよ!いいわ!しっかりバランスを意識してね!」
「お、今日もみんな頑張ってるな!」
ここは、ロモス王国城下町の憩いの場にもなっている公園の一角。そこに足を運んだのは、先日マァムがこの城下町で久しぶりに再開を果たしたイザナの息子であり、マァムの幼馴染のイワンという青年だ。
「あら、イワン!」
「やぁ、今日の調子はどうだい?クレア」
「ええ、みんなとても上達してるわよ!どの子も私の小さい頃よりも上手なんだもの!」
イワンの問いにそう応えるのは、クレアと呼ばれる彼より1歳下の少女だ。彼女はいつもこの公園で見知った子供たちに得意のアクロバットのコーチングをしていた。
「そうか〜それはスゴイね!でも、ボクが訊いたのは君の足のことだよ?」
「え?あ、あはは!それなら大丈夫よ!イワン先生が診てくれたおかげでね♪」
「おいおいボクはまだ先生なんて呼ばれるのは早すぎるよ〜」
と、その時イワンの姿に気付いた子供たちが彼の元に駆け寄ってきた。
「あ!イワン先生だ!」
「ホントだ!イワン先生ー!!」
「いや、だから先生はまだ早いって〜」
「フフ♪いいじゃない?近い将来きっとそう呼ばれるんだから、今から慣れとかないと♪」
「そ、そういうモノかなぁ〜」
子供たちに囲まれてイワンが苦笑している姿にクレアは優しく微笑みを返した。
【ランカークス村】
昨日の夕方、ポップはスティーヌと久しぶりにゆっくり話すことが出来て安心したのか、今朝はいつもより魔導書の読了に集中することが出来た。
そして、あれ程山のようにあった魔導書もとうとう残り一冊となった。
「ふうっ!漸く最後の一冊か〜帰って来て今日で四日……なんとかここまで来てやった……ハハ……」
そう言いながらポップが最後の最も分厚い魔導書を取り出して自身の机に置くと、表紙とページの間に何か紙切れ挟まっていることに気付いた。
「ん?なんだこれ?」
そう言いつつポップはその紙切れを取り出すと…
『ポップへ、おめぇのことだからこの一番分厚い魔導書を最後にまわすだろうと思ってな!
とりあえずこの魔導書以外は頭に入れたらスグに俺のところに返しに来い!
クールでダンディな師匠マトリフより☆』
「…ってなんだこりゃ……クールでダンディ?誰がだ!…ったく!わかってるっての!そもそも勝手にパプニカの図書館から持ち出したの師匠だろうがよ!」
と、ポップは一人マトリフに悪態をつくと最後の魔導書に改めて目をやる。
「ん?この魔導書以外は?てことはこのやたら分厚い最後の魔導書は……師匠の自前か?」
ポップはその魔導書をマジマジみつめると他の魔導書よりもかなり年代ものと思えるくらいに古びた感じが見受けられた。しかし、同時に何かとてつもない力がこの魔導書には込められている様な気もした。
「ただ古いってワケじゃなさそうだな……表紙にはタイトルみたいなのもないしな……もしかして呪いのアイテムじゃないだろうな…」
おそるおそるその魔導書を観察するが、やがて意を決してその本を開く。
「ま、本に食われちまうなんてことはないだろうしな……ハハ……ん?」
そうして表紙を開き次の1枚目のページを捲るとそこには古代の文字でなにか書かれている。
「え…っと……これって確か……」
ポップは徐ろに読了済みの魔導書の中から一冊を取り出して机上で開く。
「古代の文字はこの本で訳せば……」
その取り出して開いた魔導書は古代文字の翻訳が書かれているモノだった。
「ん〜と……最初の文字は……マ……次はダン……最後は……テ……つなげると……"マダンテ”…マダンテ?」
マトリフから授けられた最後の魔導書にはこの謎の言葉”マダンテ”と記されていた。
【ネイル村】
「うん、良い味付けね♪美味しいわよマァム!」
「ホント!良かったぁ!!このベリーのジャムいつか作れるようになりたいって思ってたから♪」
「フフ♪良かったわね♪でも誰に食べてもらうのかしら?」
「え……っ?」
「あなた最近ホントに女の子らしくなってきたからなんとなくね〜♪」
「べ、別に!母さんに食べてもらいたいのよ!」
と、マァムはレイラの言葉に思わず顔を赤らめて答える。
「もうマァムったらそんなに照れなくても良いでしょ?あなたもそういう年頃なんだから♪」
「そ、そりゃあ私だって……」
「大丈夫よマァム……あなたはとても魅力的な女の子よ♪母さんが保証する、だからもっと自信を持ちなさい……あなたが想う人は必ず振り向いてくれわ」
「か、母さん……」
「まぁでも〜いきなりマトリフみたいに結婚します!なんて言われたら驚いちゃうケドね……」
そう言いながらレイラとマァムは数日前のマトリフとカイアのいちゃつく姿を思い浮かべて苦笑する。
「さすがにいきなりあんなことにはならないわよ……」
「そうよね……フフ♪」
「そうそう、そのおじさんとカイアさんが出会った解呪の洞窟で見つけて持ち帰ったあの解呪の実、どうするのかしらね?」
と、マァムはここでマトリフ達があの解呪の洞窟から持ち帰った解呪の実のことを口にする。
「確かにそうよね……あの時はマトリフの結婚のことがびっくりでちゃんとした話も訊けなかったものね……それにマトリフもブロキーナ老師も随分と疲れていたみたいだったし」
「そうよね…父さんのこともカイアさんから訊けて良かったけどおじさんや老師からはまだちゃんと訊けてないし…母さん私、明日にでもブロキーナ老師のところに行ってみていいかなぁ?」
マァムは解呪の洞窟での詳細を知るために自身の武闘家としての師であるブロキーナのところへ向かう旨をレイラに告げる。
「ええ、そうね……キメラの翼もないしルーラを使える人もこの村にはいないからマトリフのところにはスグに行くことは難しいものね…」
「うん、老師のところならこの村からでもスグに行けるからね」
「あ、それならこのベリーのジャムも持っていってあげなさい、それと昨日の山菜も…お一人だとなにかと不便もあるでしょうから」
「うん、わかったわそうする!」
マァムはそう頷くと明日の朝からブロキーナの住む山小屋に行くことを決めた。
その夜───
(「マァム……マァム……」)
(「ん……?誰……?」)
深い眠りについていたマァムは自分を呼ぶ声に目を開けると、そこはどこまでも続く真っ白な空間だった。
(「え……?これって……夢……よね?」)
頭では自分が今夢の中にいるということは理解しているマァムだったが、不思議とリアリティを感じる感覚もあった。
(「マァム……ここだ……マァム」)
そう呼ぶ声はマァムの心にどこか懐かさを覚えさせた。
(「その声……もしかして……父さん?」)
マァムは記憶の片隅にある父ロカの声を思い出しながらどこかおそるおそるその声の主に訊ねる。
(「マァム…俺はいつでもお前を見守っている」)
(「父さん……やっぱり父さんなのね!」)
(「そばにいてやれなくて……すまない…」)
(「父さん……」)
と、寂しそうに詫びるその声はやがてマァムの意識から遠ざかる様に消えていった。
(「父さん……」)
そして、眠るマァムの頬を一筋の涙が伝っていった。
男は一人歩いている。
太陽の昇ることのない暗黒の大地をただひたすらに歩いていた。
と、そんな男の視線の先に小高い丘が見えてきた。
「とりあえずあそこまで行くか…」
一人そう呟くと男はその歩を再び進める。
「ギャイァァァァーーーーー!!!」
すると、突如上空から悍ましい鳴き声をと共に数種類の巨大な鳥のモンスターの群れが襲い掛かってきた。
「ま、やっぱりすんなりと行く旅ではないよな…」
数にして十数羽の魔物の群れだ。すると男は、背中に備えていた禍々しい空気を纏う大剣を抜き、それを自分の足元に突き刺すと精神集中をし始めた。
「ハァァァァ……」
「ギャイァァァァ!!ギャイァァァァ!!!」
「!!!?」
男の目と鼻の先にまで勢いよく接近してきた鳥のモンスター達が我先にと襲いかかろうとしたその瞬間!
「豪破一刀!!!!」
その凄まじい剣撃の一閃と、同時に放たれた剣圧が、上空から強襲してきた全てのモンスターを一掃し断末魔の声を上げる間も与えず斬って落とした。
そして、静けさの戻ったその周辺を眺めながら男は一人呟く。
「ここら辺は奴らの巣だったのか?」
エンペラーレグホン、ゲルバトロス、フライングテス……それぞれの種族の上位種とみられるモンスターの群れ。いずれもおよそ地上ではお目にかかれない凶悪かつ強力なモンスター達だったが、この男の前では風の前の塵の如くだった。
「まぁいいか……とりあえずあの丘まで行ってみよう」
男は背中の鞘にその禍々しい異形の大剣を納めると再び歩を進めた。
「うぉ……っ!!?なんだよ…小高い丘かと思ったら…」
丘の上に辿り着いた男はその先の状況に驚きを示した。しかし、それも無理はなく、その視線の先は急な崖になっていたのだ、そしてそこから見渡す景色の先にはやや大きめな町並みが一本の巨大な川を挟んで存在していた。
「地図も何もなく来ちまったが……あんな町に出くわすとはな……俺もそこそこ運がいいな!」
男はそう言ってその町を見下ろしながら満面の笑みを浮かべる。
「よしっ!行くかっ!!」
八割が闇に支配されるここ魔界において、この男、戦士ロカは意気揚々と再び歩き出した。
前々回からマァムとポップの日常をお送りしてますが、今回から少しずつこの先の展開に繋がるポイントをいくつか入れ込んでみました。
特にポップの手にした最後の魔導書はとても重要です。まぁそのワケはわかりますよね(^_^;)
場面がコロコロと変わるので少し落ち着かない感じだったり分かりにくかったら申し訳ありません(^_^;)