新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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ポップの日常 Ⅱ

 

 

 ─継承─

 

 深い霧と深い森の緑に囲まれた不可思議な空間。 

「ああ…久しぶりだな…」

 そう呟いてマトリフはゆっくりと歩を進める。

 彼はこれが自分の夢の中だとわかっている、その上である目的のためにその歩みを進めていた。

「来たぜ……師匠……」

 深い霧がかった緑の森の奥へと進むと一本の道が見えてきた。

 マトリフはなんの躊躇いもなくその道を進む。というよりも以前に訪れてことがあるかのように当たり前のように歩いていく。

「……」

 と、その時、マトリフの目の前の霧が晴れその奥からとてつもなく巨大な建造物がその姿を表した。

 それは荘厳な様相で佇む巨大な神殿だった。そして、その神殿の奥からゆっくりと歩いて来る存在があった。

「バルゴート師匠」

「来たかマトリフ……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なんなんだ?このマダンテって……」

 ポップは開いた分厚い魔導書と睨み合うように、そこに記された古代文字を翻訳している。

「まぁでも、とりあえずこの先も翻訳していけばわかるかもしれないな……」

 そう言って再び魔導書に目を落とすと……

「ポップー!そろそろお昼にしたら〜?」

「ん?もうそんな時間か?」

 階下からスティーヌが昼時を知らせてきた。同時に彼女のランチの美味しそうな香りも漂って来た。

 グゥ~

「ハハハ…俺の腹の虫も鳴ってら〜解読はメシの後にするか…腹が減ってはなんとやらだ…」

 ポップは苦笑しながらその腹に手を当てると魔導書を閉じて席を立つ。

「あ、そういえば……」

 と、ポップは部屋の扉を開ける前に踵を返して山積みになっている魔導書の山から一冊を手に取った。

「ん〜コイツもパプニカの図書館から持ってきたのかな〜?でもそれにしては……」

 ポップは手にしたその魔導書をパラパラと捲っていく。

「白紙…だよな……どう見ても……」

 そう、その魔導書はどのページを見ても何も書かれていない白紙だった。

「師匠のことだからなにか試してんのかな〜?」

 そしてポップは再び魔導書を閉じるとそれを机の上に置いて、改めてスティーヌのランチを味わいに階下に向かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「師匠が残した最後の教え」

 マトリフはそう呟きながらその歩を進める。

「我が生涯を賭してなお辿り着くには至らなかった……伝説の大呪文……」

 バルゴートはそんなマトリフに悠然と告げる。

「俺の生涯を賭しても辿り着けなかった……伝説の大呪文……」

 バルゴートはその手に一冊の魔導書を持ちゆっくりと開く。

「マダンテの書」

「うむ、お前の弟子の元にあるのだな?」

「はい…アイツなら夢想魔法も極めるでしょう」

「いいだろう…」

 そう告げるとバルゴートは開いた魔導書に手を翳し自らの魔法力を込めた。

「ワシの最後の魔法力を注いだ…」

「はい…」

「夢想魔法の書とマダンテの書…今度こそ、その真の力を解き放ち身に付ける存在であることを望む」

「我々が成し得なかった究極の境地」

「託す時が来たのだ…かつてない熾烈な時を超える為に……」

 そうしてバルゴートはマトリフにそう告げると彼の瞳を真っ直ぐに見つめながらその姿を消した。

 すると、バルゴートが消えた後には、手にしていた一冊の魔導書ともう一つ黒い魔法石が添えられていた。

「師匠……」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ザザ〜ン……

 

 カイアはその視線の先に美しく輝く地上の海を見ていた。

「母さん……」

 そして、その隣には彼女の一人息子のヒュルトが肩を並べて座っている。

「マトリフさんはまだ目覚めないの?」

 すると、カイアはヒュルトの肩を優しく抱いて柔らかい声で告げる。

「ええ、彼が目を覚ますまで起こさないでって言っていたから……きっと何か思惑があるのよ……だからそっとしておいてあげましょう」

 しかし、そう息子に告げるカイアもその胸の内ではマトリフの様子を気に掛けていた。

 それは、マトリフ達と共にあの解呪の洞窟から帰還した翌日のこと……

 

「カイア、ヒュルト、ここが俺の住まいだ!ま、ちっと狭いかも知れねぇが、あの洞窟が危なくないと解るまでここにいてくれや…」

 マトリフは解呪の洞窟から戻ったのち、カイアとヒュルトを自身の住居であるパプニカの岩の洞窟に連れて来ていた。

「私達はアナタと一緒にいられればどこでもいいわ♪ね、ヒュルト」

「うん!」

「ヒヒ♪そうか!んじゃま、きたねぇトコだが入ってくれや」

 そう言ってマトリフはカイアとヒュルトを迎い入れた。

「わぁ〜スゴいな〜色んなモノがあるね!」

「色々とガラクタばっかりだが、それなりに使えるモノもあるぜ~ちょっと前にはでっけぇ岩の塔をぶっ壊す爆弾も作らせたしな!」

「爆弾!へぇ〜スッゴイな!」

 マトリフはかつて魔王軍のフレイザードが繰り出した炎魔塔と氷魔塔を破壊する為に、その爆弾をバダックに作らせた時の話をした。

「しばらくは退屈しないで済むかもな?好きに見ててもいいぜ、本棚の本も勝手に読んで構わねぇからよ」

「ありがとうマトリフさん!」

 ヒュルトはそう言って目を輝かせながらマトリフの岩屋の中を見て回っている。

「ハハハ!やっぱ見た目通り年相応だな♪」

「実際はヒュルトが生まれて100年以上は優に経っているからマトリフよりも年上になるけど、中身は子どもよ♪特に見たこともないモノには好奇心旺盛だし♪」

「そっか〜ハハハ!でも嫁さんと子どもがいきなり出来ちまうとはな!」

「不束者ですが宜しくお願いいたします」

「お、おう!こちらこそ末永く宜しくな!」

 その後、マトリフはカイアと話し込んでいたがふと何かを思い出した様に彼女に告げる。

「なぁカイア…ちょっといいか?」

「なに?」

「明日の晩から悪ぃがオレちょっと長く眠るから、その……起きるまでそっとしておいて貰いてぇんだ……」

「長く?どういうこと?もしかしてどこか悪いの?解呪の洞窟で負ったダメージとか?」

 マトリフの言葉にカイアは本気で焦って訊ねる。

「いやいや、身体の方はなんの問題もねぇよ……ま、後で詳しく話すけどよ……前に話したオレの弟子によ…引き継がなきゃならねぇことがあってな……それでその準備の為にいつもより長く眠りにつく必要があるんだ……」

「引き継がなきゃならないこと?」

「ああ、しかもコイツはオレだけじゃなくオレの師匠から託されたことでもある……って、まぁこんな説明じゃチンプンカンプンだろうが、そこは一つオレを信じてくれ!果てはオメェ達との幸せな時間を過ごすことにも関わってくることだしよ!」

 そう告げるマトリフの目は真剣だった。そしてカイアはそんなマトリフに首を横に振ることが出来る訳はなく、しっかりと彼の目を見て告げた。

「わかったわ…アナタを信じます……」

「ああ、あんがとな!ま、目ぇ覚ましたら約束通りオレの弟子にも会わせてやるし、このパプニカって国の姫さんにもオメェらのことちゃんと紹介もするからよ!」

「ええ、ありがとうマトリフ♪」

 そうして、二人には見つめ合いながらその手を強く結んだ。

「母さ〜ん!こっち来てご覧よ〜なんか面白い本があるよ〜♪」

「あらどんな本なの〜?」

 奥の部屋からそう声を掛けて来るヒュルトにカイアは腰を上げて彼の元に行こうとする。

「なんか裸の女の人がたくさん載ってる〜♪」

「へ?」

「へ?」

 瞬間、マトリフとカイアはその動きを止める。

「なんでこれみんな裸なのかな〜?寒くないのかな〜?」

「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!ヒュルト!!それはホラ!えっとだなっ!!」

「ヒュルト〜そんな本は捨てちゃって良いわよ〜♪なんなら外の浜辺で燃やしてもいいわよ〜♪」

「えーーーーーーーーーー!!ちょ!ちょっと待てヒュルト!!それはーーーーーっ!!!!」

「なによ?何をそんなに慌ててるのよマトリフ?いらないでしょ?そんな本っ!!!?」

「は……はい……いらない…かも……です……」

 そんなこんなで結局マトリフの隠してたエッチな本はカイアに命じられたヒュルトの手で無事に浜辺で燃やされたのだった。

 

 




 タイトルのポップの日常というより、マトリフの日常となってしまいましたが……ポップの口からマダンテというキーワードも出て来たのでご了承下さい(^_^;)
 さて、以前に解呪の洞窟でマトリフの命を救った夢想魔法が出て来ましたが、バルゴートの夢はマトリフのただの夢ではなくこの夢に重要な伏線があります。もちろん、のちのちカイアやヒュルトもマトリフやバルゴートの思惑を知ることになります。
 今回も日常風景のエピソードではありますがとても重要な回になりますね。
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