新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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武神流の真髄

 

 

 ─マァムの決意─

 

 ザッ…!ザッ…!ザッ…!

 

 マトリフ達が解呪の洞窟から帰還した二日後、

マァムは自身の師であるブロキーナが住む山小屋に向けてその歩を進めていた。

「もうスグね……老師お身体は大丈夫かしら?」

 

 二日前の早朝……。

 

「それにしてもマトリフもブロキーナ様もお身体は大丈夫ですか?随分とお疲れのようですが……」

「なぁにちと夜ふかしし過ぎただけさ……なぁブロキーナ?」

「う、うむ……そうじゃな……と、とと……」

「老師……っ!?」

「ホホ……スマンなマァム……」

 ブロキーナはマトリフの言葉に頷きながらもやはりその身にはかなりの疲労が蓄積されていたのか、体勢を崩すとマァムに支えされた。

「おいおい!ブロキーナ大丈夫か……っ!?ウ……っ!?ウゥゥ……っ!!?」

「マトリフ……っ!!?」

「大丈夫っ!?マトリフ!!?」

「おじさん……っ!!?」

 すると、マトリフも自身の胸の辺りを抑えながら蹲ると、慌ててカイアが駆け寄り支えた。

「あ、ああ……大丈夫……なんでもねぇよ……ん?お?これはこれは……ヒヒヒ♪」

 モミモミモミモミ……

「ちょ……っ!?ちょっとマトリフ!ドコ触ってるのよ!!?」

 マトリフはカイアに支えられながら鼻の下を伸ばしてその豊満な彼女の胸を揉みしだく。

「おじさん!!」

「はぁ〜マトリフ……アナタって人はこんな時まで……」

「すんません……(^_^;)」

「とにかくブロキーナ様にウチで休んで頂きましょう!」

「ええ、そうね……さ、老師」

「スマンなマァム……レイラ殿……」

「なにを仰るんですか……マトリフあなたも休んでいって……カイアさんでしたね?アナタと息子さんも是非……」

「ええ、恩に着るわレイラさん……さ、ヒュルト」

「うん…レイラさんありがとうございます」

 そうして傷付いた解呪の洞窟からの帰還組はレイラとマァムの自宅にて一時、その身を休ませる事となった。

 

「二人共随分と疲れていたのね…ぐっすり眠っているわ」

 レイラはロカの部屋にマトリフとブロキーナを寝かせて来ると、マァムとカイアに向かって優しく微笑んで言った。

「カイアさんもどうぞお休み下さい」

「ええ、私の部屋でヒュルト君も休んでますから」

 ヒュルトもレイラとマァムの自宅に迎えられてスグにマァムの部屋で休んでいた。

「私は大丈夫です、体力にはまぁそれなりに自信はあるので……でも、マトリフやブロキーナ殿はやはり人の身ですものね……やはり無理をさせてしまったわ……」

「人の身……というとやっぱりカイアさんアナタは…」

 マァムが思わずそう口にするとレイラが嗜める。

「マァム……」

「あ……ごめんなさい……」

「ううん、いいのよ……改めて自己紹介がてら私のことを話しておきたいから……レイラさん、マァムさん……」

 そうしてカイアは自身が魔界で鬼眼族と言われる魔族の一部族の長であることやその実弟があの大魔王バーンであること、更にマトリフ達も知るこれまでの過去や経緯などをレイラとマァムに丁寧に話していった。

「そんな壮絶な過去が……」

「バーンとの確執もあったんですね……」

「どれも随分と昔のことよ……でも、私やヒュルトはとても運が良かった……」

「え…?」

「マトリフとブロキーナ殿といった素晴らしい人間にこの地上で出逢うことが出来た……そして彼らは私や息子をアナタ達にこうして出逢わせてくれた……」

「カイアさん…」

 レイラとマァムはカイアのその言葉と優しい微笑みにお互い笑みを浮かべる。

「そうね……マトリフとブロキーナがいなければこの解呪の実もここにはなかったわね」

 レイラはそう言いながら今はロカの部屋でその英気を養っているマトリフとブロキーナが置いていった解呪の実をみつめて呟く。

「彼らのあの洞窟での活躍は本当に凄かったわ……人間にもこれ程強い存在があるとは私もヒュルトも驚いたもの……そしておそらく私達を亡き者にしようとしたあの呪神冥竜も……」

「呪神冥竜!?」

「ええ、呪神冥竜メドゥルザ……マァムさんあなたも耳にしたことはあると思うけど、かつて竜の騎士バランが滅ぼしたヴェルザー一族の中で唯一ヴェルザーと共に生き延びた存在であり、冥竜王の実の息子よ……」

 レイラが驚きの声を上げる中でカイアは丁寧にメドゥルザの素性を語る。

「呪神冥竜メドゥルザ……そいつがそいつが……父さんを……っ!!?」

「その通り……そして14年前にこの地域一帯の女児達に呪いを掛けたのもそのメドゥルザの仕業よ……だからそう、その呪いを解いた所為でロカ殿が魔界に行かなければならなくなったのだから、あなた達にとっては大切な家族を引き離された許し難い仇になるわね……」

 レイラもマァムも14年前の呪いを放った存在をようやくここで知るに至り、その心情は驚きから憤りに変わりつつあった。

「絶対に許せないわ…!!」

「ええ、ロカのことも…そしてなんの罪もない子供達の命をも危機に陥れる呪いを掛けるなんて…」

「でもカイアさん、そのメドゥルザってヤツは何の為に14年前私や他の子達にそんな呪いを掛けたの?」

 マァムはそう言ってカイアに強い視線を投げながら訊ねる。

「ごめんなさいマァムさん……残念ながらそこまではわからないの…」

 しかしカイアはここで嘘をついた。

 メドゥルザが14年前にマァムや子供達に呪いを掛けたのは自身の子供を設けるに相応しい存在を探し出す為ということは、解呪の洞窟でのメドゥルザ自身の口から齎されたことではあったが、カイア自身も一人の女性としてそんな悍ましい話しを目の前の二人にとても語れる気持ちにはなれなかったからだ。

「そう…ですか」

 すると、落胆するマァムにレイラは優しく告げる。

「でもマァム大丈夫よ、この解呪の実をマトリフやアバン様が調べてくれるのだから、ロカのこともあの呪いの真実もきっと解き明かされる時が来るわ…そうですよねカイアさん」

 すると、落胆するマァムにレイラは優しく元気づけるとカイアにも同意を求めた。

「え、ええ……きっとマトリフ達がやってくれるわ」

「そうね……うん、私もきっと全ての謎が解き明かされることを信じるわ!」

 そう言って頷きあうマァムとレイラにカイアは、ほんの少し胸の痛みを感じながら共に頷き合った。

「でもそうね、ロカ殿ことなら少しだけわかるわ……彼は今、私とも顔見知りのワズという老婆の魔道士を助ける為にメドゥルザの城に向かっているわ……でも大丈夫、彼は元気に生きている……それは確かよ……」

 カイアはメドゥルザの呪い理由を語る代わりに今のロカの現状をマァム達に告げた。

「父さんがメドゥルザの城に……っ!?」

「でも、良かった……確かに心配なことには変わらないけど……でも、本当に……生きていてくれているだけで本当に……」

「母さん……」

 レイラがその瞳に涙を浮かべるとマァムはその肩を優しく抱きしめてマァム自身もその瞳に涙を浮かべた。

 そして、カイアはそんな二人の光景を優しく見つめていた。

「あの解呪の洞窟にあった呪精木という魔界にしか生えない木を通してマトリフ達とロカと会話することも出来たの……」

「だから父さんがそのメドゥルザの城に向かったことを知ったのね……」

「ええ、ごめんなさいマトリフ達も気にしていたけどアナタ達よりも先に彼と話してしまって……マトリフやブロキーナ殿はともかく私などが…」

「ううん…いいのカイアさん……私はアナタのお陰でロカが魔界でも生きていられることが嬉しいわ……本当にありがとうカイアさん……」

「レイラさん……」

 やがてその後、レイラとマァムはカイアと親交を深め合いその絆を確かなものとしていった。

 

 

「着いた……」

 ネイル村を出て数時間、マァムはその視線の先にブロキーナの山小屋を捉えていた。

「ほ……っ!ほ……っ!」

「え……?まさか……っ!?」

 マァムの耳にその声が届くと彼女は慌ててその歩を進める。すると、そこには山小屋の前で懸命に正拳突きをするブロキーナの姿があった。

「老師っ!?」

「ほ?おやおやマァム?どうしたんじゃ?」

「老師こそ!お身体は大丈夫なんですか?」

「ホホ♪いやいやこの前はワシの持病のあたまツルツル病の発作が出て迷惑をかけたのう……でももうご覧の通り大丈夫じゃよ!ホホホ♪」

(「そ、そんな持病だったかしら?」)

「と、とにかくお元気になられて良かったです!あ、これ母さんと作ったベリーのジャムです」

「ホホ♪こりゃありがたい♪ま、入ってくれマァム」 

「はい、失礼します」

 そう言われてマァムはブロキーナの山小屋に迎えられると、この日の昼下がりはレイラとマァムの手作りのベリージャムで二人はランチを共にした。

 そして……

 

「ホホ♪美味かったのう!この山菜も後で頂くとしよう♪」

「フフ♪良かったです!」

「さて、マァムわざわざ訪ねてきたのはこのジャムと山菜を届けに来ただけではあるまい?」

 そう言うとブロキーナはマァムに話を向ける。

 ブロキーナのその言葉にマァムは改めて居住まいを正しながら口を開いた。

「はい……実は今日、老師には解呪の洞窟でのことを聞かせて頂きたいと思いまして伺いました」

「解呪の洞窟でのこと?フム……そうじゃな、確かに先日はワシもマトリフ殿もかなりの疲労からちゃんと話せてなかったからのう……カイア殿からはいくらか訊けたのかのう?」

「はい、カイアさんからはおじさんと老師に出逢ってからのことを訊きました」

 マァムは解呪の洞窟から帰還後にネイル村でブロキーナとマトリフが休んでいる間、カイアから彼等と出逢ってからのいきさつを訊いたことを告げた。

「そうか……ではロカ殿のことも?」

「はい、カイアさんも父さんとは魔界で面識があったという事や解呪の洞窟では呪精木という魔界の木を通して父さんと話せたことなんかも訊きました…でもマトリフおじさんや老師からも父さんの話を詳しく訊いた方が良いとも言ってました…」

「ホホ♪そうじゃな……しかしカイア殿からそこまで訊いておればワシから話せることはほとんどないが…フム、そうじゃな…ワシも十数年前にロカ殿と顔を合わせてからついこの間まで再開は果たせなかったが、やはりロカ殿はロカ殿だったのう…十数年の時を経ても彼の力強い声色は変わらんかった……いや、むしろ更に頼もしくも感じたのう……」

「老師…」

「大魔王バーンが倒れこの地上に平和が戻った今、マトリフ殿やアバン殿もなんとかロカ殿を魔界から救い出す方法を考えておる……彼等にとっても無論ワシにとってもかけがえのない友じゃ……今この時を無くしてなんとしてもロカ殿をお主達の元に帰してやりたいのじゃ……」

 ブロキーナが語る言葉の一つ一つをマァムは噛み締める様に聞き入った。そして、自身の幼い頃に消えた父ロカの微かな面影や温もりを強く胸の内に感じていた。

「老師、私……あの大魔王バーンとの戦いを終えて考えていたことがあるんです」

「ん?何かのう?」

「バーンとの最終決戦の場において私はその場に馳せ参じながらも結局バーンと直接戦うことは出来ませんでした……」

「ウム、あの時はバーンの鬼眼の力によってワシ等はあの瞳と呼ばれた玉に封じられてしまったからのう……」

「ええ、そしてあの時に瞳にされなかったのはダイ、ポップ、ヒム、ラーハルト……そしてアバン先生……」

「しかし今考えればワシ等はあの五人に救われた様なものじゃ」

「そうですね…彼らが命を捨ててバーンとの戦いに挑まなければ……勝てなかった」

 そう口にするとマァムは眉間にしわを寄せ苦い表情になる。

「老師…私はご存知のとおり、ダイとポップの旅に加わる形で先の大戦に臨んでいきました」

「ウム……」

「彼等の後ろ姿を追いかけて二人と共に旅をすると決めたあの頃が、今では懐かしく思えるくらいなんですが……私の中ではいつも彼等の背中が見えているんです……」

「背中?」

「はい…」

 そして、いつかのようにマァムの脳裏に大魔王バーンとの最終決戦でがむしゃらにバーンに向かっていったダイとポップの背中が浮かび上がる。

「そして、あの二人のうち一人は私達の目の前で空に消えてしまった……」

 マァムは今度ははっきりと苦悶の表情で告げた。

「空に消えた勇者……」

「でもダイは……ダイは必ずどこかで生きている…あの大爆発の中でそう考えることは現実的ではないのかも知れません……でも、私はそう思えて仕方ないんです……」

 マァムの口調は少しずつ熱を帯びていた。そして、そんな愛弟子の想いにブロキーナは優しく頷きながら告げる。

「そうじゃな……ワシもそう思うよマァム……あの強く優しい勇者がそう簡単には消えはせんよ」

「老師……」

「しかし、ならば彼はどこでどうしておるのか?という疑問が自然と出てくるじゃろうな?」

「はい……」

 すると、ブロキーナはその黒眼鏡の奥の瞳にやや力を込める。

「解呪の洞窟でワシとマトリフ殿は魔界の強敵と出くわしワシはそのうちの一人と拳を交えた……マァム…もしダイ君がなんらかの理由でこの地上とは違う世界に存在しているとしたらどうする?」

「地上とは違う世界?もしかして父さんと同じ様に魔界にいると言うのですかっ!?」

 ブロキーナの思いもよらない突然の発言にマァムは驚きを隠せなかった。

「イヤ、それはわからんが……もしこれからロカ殿だけでなくダイ君の行方を探すとしてもしこの地上をくまなく探しても見つからない時は……あるいは……」

 ダイが空に消えてまだ数日しか経っていない今、マァムだけではなくダイに関わる多くの人間が未だにそのショックを完全に払拭し切れてはいないのは事実としてあった。

 しかし、そんな中にあってもブロキーナは先の解呪の洞窟での戦いを通してダイ生存の可能性と魔界の繋がりを冷静に分析していた。

「ロカ殿のことでワシ等は解呪の洞窟に入ったが、もしダイ君と魔界になんらかの繋がりがあるとすれば、それはやはり竜の騎士としての使命ではないかと思うのじゃ」

「竜の騎士としての使命?」

「カイア殿から聞いているのではないか?マァム……呪神冥竜メドゥルザのことを…」

「はい……許し難い存在です……父さんはそのメドゥルザの呪いの所為で……」

「ウムそうじゃ……じゃがヤツはあの冥竜王ヴェルザーの息子にしてバーン亡き今、一部とはいえそれでも広大な魔界においてその支配権を広げておる存在…つまりもし、ダイ君が生きていたら亡き父君の竜の騎士としての使命を今一度完遂する為に、魔界にその身をおいているかも知れんのう……」

「ダイが魔界に……」

 その時、マァムはふとその脳裏にポップの姿を思い浮かべた。ダイがその魔界にいると知ったら彼なら魔界にまでダイを探しに行くのだろうか?と、そんな考えさえも浮かんでいた。

「マァム……先だってワシが話した魔界の強敵についてじゃが……当然、魔界に赴けばこの地上とは比べ物にならない程の多くの強敵に出くわす可能性は非常に高いじゃろう」

「はい、老師の仰っしゃりたいことはわかりますし、私も今のままではいけはいと思っています……ですので老師!もう一度!もう一度私を鍛えて頂けないでょうか!!」

「ホホ♪やはりマァムよ、お前はそう言うだろうと思っておったよ…」

 そう言ってブロキーナは優しく微笑みながら頷いた。そして……

「お前のその決意をワシは無駄にする気はないよ♪」

「老師!それならば!!」

「ウム、お前には改めて我が武神流の真髄をもう一歩も二歩も極めて貰いたいと思うとる」

「武神流の真髄を……っ!!!」

「その名も"魔道武神流″と″武神流秘奥義"」

「魔道武神と武神流秘奥義……っ!!!?」

 ブロキーナの口から突如告げられた魔道武神流と武神流秘奥義。

 マァムの深く強い決意を受けたブロキーナもまた、この二つの武神流をマァムに継承すべく堅い決意をその胸に秘めていた。

 

 




 今回、とうとうマァムとレイラは14年前の呪いとロカを魔界へと赴かせあ元凶となる呪神冥竜メドゥルザの存在を知りました。
 マァムにとっては父との時間を奪われ更に母レイラにおいても愛する人との時間を引き離された原因がメドゥルザであるわけなので、怒り心頭であることは間違いありません。しかし、今回ブロキーナの元を訪れたことでマァムは自分の今の力とこれから先の戦いの予感に、現状を分析した結果改めてもう一度武神流を極める道を選びました。
 そんなこれからのマァムに期待大です!
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