新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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女魔族キュレ

 

 

 ─師の存在─

 

(「魔族の女?どうしてここに?ロン・ベルクの知り合いとかか?」)

 ポップはマトリフから与えられた多くの魔導書の中で″マダンテ″というとある呪文のことを訊こうとロン・ベルクの元に赴くと、彼の小屋の前で見慣れない魔族の女と出くわした。

「先に問うたのは私だ…聞こえなかったのか?小僧…お前は何者だと訊いたのだ?」

 女魔族は冷たい視線をポップに向ける。

「……おめぇこそ……」

(「コ、コイツ……なんて鋭い目をしてやがんだ……」)

 ポップは言い返そうとしたが、その女魔族のあまりに鋭い視線にたじろいでいる。

 すると……

「フン!……まぁいいだろう……私の名はキュレ……この小屋の主に用がある……それでお前は?」

「オ、オレは……っ!?ポップだ!!ロン・ベルクとは大魔王バーンを倒す為に力を借りた仲だ!!」 

 女魔族はキュレと名乗るとポップもそれに応えて名乗りながら、ロン・ベルクとの関係も簡潔に述べた。

「大魔王バーンだとっ!!?ならば貴様はあの勇者ダイの仲間か……っ!!?」

「ダイを知っているのか……っ!!!?」

「当然だ……あの大魔王バーンがこの地上の大戦で討たれたという話は魔族の間では既に知れ渡っている。故に大騒ぎもいいところだ……なんせ何千年も魔界に君臨し、魔界の神とまで言われていた存在が討たれたワケだからな……それを倒したとなれば勇者ダイの名も当然の如く知れ渡るさ……いや竜の騎士ダイの方が適切かな?」

 キュレはやや含みのある微笑を浮かべてポップに問いかける。

「勇者だろうが竜の騎士だろうが関係ねぇよ!ダイはダイさ……」

 ポップは強い眼差しでキュレに告げた。

「そうか……なるほどお前はその勇者ダイの仲間というより……フフ…まるで弟を案ずる兄のような立場なのかもな」

「兄……まぁ一応はアバンの使徒の兄弟子だからな……」

「アバンの使徒……勇者アバンの弟子か……しかし驚いたな……あのロンがお前達人間に手を貸すとは……」

「アバン先生のことまで知ってやがるのか?大体いきなり現れておめぇはロン・ベルクとどういう関係だ!」

「勇者アバンの話も魔族の間ではよく通っているさ……それにロンと私はお前達とおなじ様なモノだ……かつてヤツも一人の武器職人に師事していた……私はその同門だ…」

「もしかして……ルゲル・ベルクって人か?」

「なに?お前、我々の師を知っているのか!?」

 と、ポップはここでアバンと共にロン・ベルクの口から彼の師ルゲル・ベルクのことを訊いた旨を伝えた。

「なるほど……ロンが我らの師のことまでお前達に……」

「ああ、まぁ俺たちも前の大戦で色々あってさ……エルフって奴らにある仲間を助けて貰いたいと思っててさ……そしたらロン・ベルクが、そのアンタらのお師匠さんならなんとか力になってくれるかもってさ……」

「そうか……そういうコトか……」

 そう言いながらもキュレはどことなく眉間に皺を寄せている。

「でもよやっぱスゲェヤツにはちゃんとした師匠みたいな人っているモンなんだな」

「どんなモノも何かを究める道には教えを請う存在があるものだ……因みにお前はロンに武器を作って貰ってはいないのか?」

「武器を?あ、ああ…まぁ……作ってもらったことならあるっちゃあるけどよ……」

 と、ポップは以前ロン・ベルクから自分にと与えられたブラックロッドのことを頭に浮かべていたが、バーンとの戦いで完全に壊してしまったことも思い出して複雑な表情を作る。

「なんだ?壊したのか?」

「な……っ!?な、なんでわかるんだよっ!!?」

「お前は顔に出やすいな……」

「う…っ!うるせぇな!!ちゃんと謝っとくよ!!」

「私が言いたいのはそういうコトではない……そのロンから授けられた武器は……お前にとってどんな武器だった?」

「どんなって……ま、まぁロン・ベルクが作っただけあってかなり強力な武器だったぜ……最後のバーンとの戦いでも使えたしな……ま、まぁぶっ壊しちゃったけどよ……」

 ポップは再び冷や汗を搔いて呟く。

「武器職人にとって手塩に掛けて作った武器を壊されるのは確かに我慢がならん……だが、それ以上に大切なことはその武器が使い手にどんな働きを及ぼすか?もしくわ使い手がその武器の性能をどこまで引き上げるか?つまり武器と使い手の相互関係が最も大切なことなのだ…」

「な、なるほど……相互関係か…で?」

「つまり武器職人は、師から弟子にそうしたことを一つ一つ教え授けていく存在というわけだ……つまりお前がロンから与えられた武器にはそうした魂が込められている……」

「魂か……そういった意味じゃやっぱりぶっ壊しちゃったからな……やっぱり悪いことしたよな……」

「だが、お前はあの勇者ダイと共に大魔王バーンを打倒し生きて帰ってきたのだろう?ならばその上でロンの作った武器が役に立ったのなら武器職人としては本望さ……何の為にその武器をお前に託したのか?それはお前たちが立ち向かう戦いに勝利を呼び込むため……そうだろう?」

「確かにあのロン・ベルクから作ってもらったブラックロッドは驚く程の力を俺に与えてくれた……大魔王バーンとの戦いでも最後の最後で助けられたしな……」

「ならばロンもそう怒りはしないさ……まぁ多少のイヤミはある程度、覚悟しておく必要はあるかも知れないが……」

「ハ、ハハハ…ある程度……ね……」 

 と、ポップはそこでロン・ベルクの睨みを効かせた顔を思い浮かべた。

「まぁどうやらお前は悪いヤツではなさそうだな……いいだろう信用してやる」

「そ、そっか……そりゃどうも…」

「で?」

「で?」

「ロンに何の用事だ?」

「あ、ああ……まぁ出会ったばっかのアンタに訊くのもなんだけどよ〜キュレさん?つったっけ?アンタ魔族なら″マダンテ″って呪文知ってるかい?」

 するとその言葉を訊いたキュレの表情が途端に硬くなる。

「″マダンテ″……だと……?」

「ああ……その″マダンテ″のことをロン・ベルクなら知ってるかと思ってさ……あれ?なんか変なこと言ったか?オレ」

「その″マダンテ″のことをお前はどうやって知ったのだ?」

「ん?まぁ俺の師匠……あ!つってもアバン先生じゃなくてもう一人のマトリフっていう大魔道士の師匠がいてさ、その師匠がこーんな分厚い魔導書を読めって何十冊も寄こしてよ〜その最後に残ってた一番分厚い魔導書に書いてあったんだけどさ……」

「なるほどな……それでお前はその分厚い魔導書を読むよりロンに訊いた方がを早いと思ったのだな?」

「う……っ!?な、なんだよ!魔族ってのは人の考えまで読めんのかよっ!!?」

 ポップは図星を突かれて慌てて声を上げる。

「お前は顔に出やすいと言っただろ?隠し事などやめておいた方がいいぞ」

「そんなにわかりやすいのかよ俺……」

「かなりな……まぁそんなことはどうでもいい……ならば私にその魔導書を見せてくれ……」

「アンタ!やっぱりマダンテ″のこと知ってるってことか?」

「知ってはいるが……お前の邪魔をするつもりはない魔導書を見せて欲しいといったのはただの興味本位だ……」

「じゃ、邪魔?」

「お前の師はお前の成長を見込んでその魔導書の読了を課したのだろう?ならば、ここで私が″マダンテ″に関して知ることを教えても意味はない…それに恐らくはその与えられた全ての魔導書にこそお前が求める″マダンテ″のことを知る術がある筈だ…」

「う〜なんて正論……魔族なのに真面目なんだなアンタ……」

「魔族なのには余計だ……」

「ん?でも与えられた全ての魔導書……って……これまで読んできた魔導書の中には″マダンテ″のことなんて書いてなかったぜ?」

「魔導書とは魔術の知識を収められた書という意味だけではない……全ての魔導書には必ず一冊一冊に魔術が込められているモノさ……つまりこれまでお前が読んできた魔導書から得た知識は最後の魔導書を読了する為のモノ……と、同時にそれぞれに込められた魔術がお前の魔法力をも高めているということだ……」

「え?これまで読んできた魔導書が………っ!!?あ、そうかそういえば……」

 ポップは最後の″マダンテ″の魔導書を読むにあたってそれまでに読み切っていた魔族文字に関する魔導書を使って翻訳したことを思い出した。

「そっか……俺はあの魔族文字の魔導書で″マダンテ″のことを知ったようなもんだ……」

「ならばそれまで魔導書を読了してきた成果を試してみれば良いだろう?」

「で、でもよ?魔法力が上がってるなんてことあんのか?読んだだけで?」

「知は力なり……力は術なり……術は知なり……魔導書とはそうした言葉や信念がベースとなって循環され生まれた書物だ……恐らくお前の師はお前が自分の意志でそれを心身に刻むことが狙いなのだ……」

「魔導書一冊一冊に魔術が込められているってのはそういうベースがあって、だがらこそ読みながらその魔導書の魔術が魔法力を高めるってことか……な、なるほど……ハ、ハハハ確かにあの師匠がやりそうなことだな……」

「いい師匠を持って幸せだな……」

「あ?ああ、まぁな……ちょっと……変わってっケドな…ちょっと……じゃねぇか……な?」

 

 

「ぶぇぇぇぇーーーーーっくしょん!!!」

「マトリフ!おっきなくしゃみしてどうしたの!?風邪でも引いた?」

「ずるるっ……ん?い、いや……どっかで俺のウワサをしてやがるな……」

「ウワサ?マトリフさんのウワサでなぜくしゃみ?」

「???」

 鼻水をススリながらボヤくマトリフの言葉にカイアもヒュルトも首を傾げる。

「魔界にはウワサされると、くしゃみするなんて話しはねぇか?」

「ないよ」

「くしゃみとウワサの因果関係がわからないわ…ホントに風邪じゃないの?」

 カイアが心配そうにマトリフの顔を覗き込むとマトリフはその視線を下げカイアの胸の谷間を見て鼻を伸ばしている。

「大丈夫♪大丈夫♪ヒヒヒ……」 

 と、不意にカイアの隣のヒュルトと目が合うと彼は純粋な眼差しでマトリフを見つめている。

(「や、やりずれぇ……ぶっ叩かれるよりもヒュルトの純粋な眼差しが……コワイ……」)

 

 

「ま、いいや!わかったぜ!ならとりあえずオレん家に行こうぜ!魔導書は家にあるからよ……それに俺の親父もロン・ベルクと親しい仲だからよ」

「お前の父親も?ロンのやつ暫く合わない間に随分と人間と親しくなったのだな!」

 

 じ〜っ……

 

 と、ここでポップはキュレの顔をマジマジと見つめる。

「ん?なんだ?私の顔になにかあるのか?」

「いや、もしかして……キュレさんて……ロン・ベルクのコレ?」

 言いながらポップは品がないニヤけた顔で小指を立ててキュレに訊ねる。

「バ……っ!!バカを言うなっ!!あんなぶっきらぼう!!私が相手するかっ!!フンッ!!」

(「わっかりやすいな〜ヒヒヒ♪」)

「ポップとやら……妙なことを考えてるならこの場で殺してもいいのだぞ……」

「へ?あ、ああイヤ!!じょ……っ!冗談だってば!!ハ、ハハハ……!!」

 ポップはキュレのわりと本気な鋭い視線を受けて背中に冷たいモノを感じながら、彼女を連れてに自宅へ向けて引き換えした。

 

 

 




 ロン・ベルクの姉弟子にあたるキュレとポップの出逢いです。
 魔族であるキュレは当然地上の人間であるポップよりも魔界や魔法のことについて詳しいですが、彼女が気にかけているロン・ベルクのことについては人間と交流のある彼のことは殆ど知りません。近頃になってようやく師匠であるルゲル・ベルクの目を盗んで(実際はバレバレ…)ロン・ベルクの住まいは突き止めたというタイミングでした。
 ポップと出逢ったのはロン・ベルクの住まいを改めて確認しに来たタイミングです。
 伝説の超大呪文の秘密にポップはここから迫ることとなります。
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