新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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天空の神殿

 

 

 ─夕空─

 

 日暮れが夕刻の空を紅く染め始めた頃……

 アバンは漸くその遥か視線の先に、若き頃を過ごした彼の地に郷愁の想いを胸に感じながら足を踏み出した。

「ようやく……ようやく帰りましたよフローラ様」

 そう柔らかい声色でまだ見ぬ愛しき存在に、語り掛けながらアバンは小さな微笑を湛える。

 と、アバンは何かを感じふとその紅い夕空を見上げた。

「……?なんでしょう?この不可思議な感覚は……悪い気配ではないようだが……」

 決して胸騒ぎといった不吉なモノではないが、アバンは不思議な気配を感じていた。

 強いて言えばそれは、神聖な神の啓示を受ける様なそれでいてとても身近な感覚……

「懐かしさとも違う……しかし……私はこの感覚を何故か知っている?」

 過去に感じたことのない感覚とはわかっても、それとは裏腹にアバンの胸の奥にある不可思議な記憶が今のアバン自身を深く見つめていた……

 

 

「…………」

 パプニカ王国から出航した船がカール王国に向けて航行している中、ヒュンケルはその船上で紅く染まる夕空を眺めていた。

「どうした?ヒュンケル」

 と、そこに同じくこの船に乗るクロコダインが物憂れげに空を見つめるヒュンケルに訊ねた。

「ああ、なんだか妙な感覚を覚えてな……」

「妙……?ああ、確かに俺もさっきからなんとなく感じていた……俺たち獣人族は人間よりも自然の様相にいささか敏感に出来ているモノでな……今回もそういった類のモノかと思ってはいたのだが……なんというか、何者かから見られている様な感覚なのだ……だが」

「決して胸騒ぎや不吉なモノではない……?」

「そう、その通りだ……何かが始まるのか……それとも……」

「ああ、お前が言うことはよく分かる……俺も同じ感覚だ……」

 ヒュンケルとクロコダインはそう言って再び、紅い空を見つめた。

 

 

 ───パプニカ王国

 

「姫様、カールへの復興支援隊の船も無事に出航いたしましたが、次の支援物資の手筈は……」

 パプニカ三賢者の一人アポロは主であるレオナ姫の執務室に於いて、カール王国への復興支援の算段を改めて確認していた。

「……?姫様……?どうされました?」

 しかし、レオナはふと何かに気付いた様に執務室の窓から紅く染まる夕空を見つめる。

「あ、ごめんなさい!いいわ続けて……」

「いえ、何か……気にかかる事でもお有りですか?」

「…………気にかかるというか……なんだか不思議な感覚を覚えてね……」

「不思議な感覚?」

「懐かしいというか……なんだか落ち着く感じなんだけど……でもとても遠いというか……」

 レオナは自分でも今感じているこの感覚をどう表現したら良いかわからず戸惑いながらも紅い夕空を見上げる。

 すると、その時……!

「え……?まさか…………」

「姫様……?」

 アポロは更に怪訝な表情でレオナの顔をみつめると、彼女は突然振り返り告げた。

「ダイ君の……っ!!ダイ君の剣は……っ!!?」

「ダイ君の剣はいつもの保管室にある筈ですが?どうされました姫様……っ!!?」

 アポロがそう言うが早いかレオナはダイの剣が保管されている部屋に駆け出した。

 

「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」

 レオナはダイの剣の保管室に駆け込むと厳重に保管されている保管庫の扉の鍵を取り出した。

「姫様……っ!!?はぁ……っ!はぁ……っ!い、一体……っ!!何事ですか……っ!!?」

 突然駆け出したレオナの後を必死に追い掛けて来たアポロはようやくレオナに追い付いて訊ねる。

「声が聞こえたの……ダイ君の……声が……」

「ええ……っ!!?ダイ君の声っ!?ならばダイ君は……っ!!?」

「わからない……!でも……でも……っ!!!」

 

 ガチャン……ッ!!

 

 ダイの剣の保管庫の鍵が開きレオナはその重厚な扉を開く。

 そして、レオナとアポロはその目を見開いた。

 

「コレは……っ!!まさか……っ!!?」

「どういうことですか……っ!!?これはっ!!」

 

 二人は暫しその場に立ち尽くし目の前のダイの剣のある変化を見つめていた。

 

「アポロ……ロン・ベルクさんを呼んで……」

「え……?」

「今すぐにロン・ベルクさんをパプニカに呼びなさいっ……!!!ダイ君の剣に……緊急事態だと言って!!!」

「は……っ!はい……っ!!かしこまりましたっ!!」

 そう言ってアポロは頭を垂れると急いで部屋を後にした。

「ダイ君……あなた……もしかしたら……」

 レオナはそう一人呟きながらダイの剣に映る自らの潤いを湛える瞳を見つめた……

 

 

──────────────────────

 

『竜の子……』

 その少女の背には、純白の翼があった。

『傷付いているのね……』

『いや……癒やしているのさ』

『癒やしてる……?』

『この傷が癒えるには……かなりの時が必要だ』

 少女の隣の男の背にも少女それよりも大きな純白の翼がある。

『だってここ天空の神殿だよ?』

『全ての傷を癒せるこの場所でも……この傷はスグには……』

『死なない……よね……?』

『わからない』

『そんな……っ!!?』

 少女の表情は青褪める。

『それだけ大きな傷を負っている……』

『なにか……出来ることはないの?』

 すると、男はスッ……と指を差し示す。

 そして、その先には巨大な翼を広げる竜の神の像が鎮座されている。

『神に祈るのみだ……竜の神に』

 少女はその竜の神の像の前に赴き片膝をついて祈りの姿勢を取る。

『竜の神様……アナタの子が……どうか……どうか……目を覚ましますことを……心よりお祈り申し上げます……』

 男もまた、少女の隣に歩み寄り片膝をついて祈りの姿勢を取る。

『竜の神よ……傷付き眠るアナタの子を……その偉大なるお力で癒やし給え……』

 

 天空の神殿……

 

 それは不可思議なる魔法により見えない霧により護られし場所。

 かつて竜の神が、治めし彼の地により……

 今もまだ、竜の神の恩恵による力が漲る……

 

 傷付き眠る竜の神の子……

 

 未だその瞳は開かない……

 

 時が

 

 使命が

 

 その瞳を開かせる時は……

 

 未だ……先のこと……

 

 されど

 天空の神殿より

 

 その生命の息吹は

  

 遥か遠い地上にも感じられていた……

 

 

──────────────────────

 

「紅い夕空……」

 マァムは自らの師、ブロキーナの山小屋を後にしてネイル村への道のりの途中で、空を見上げた。

「なんだろう…この感じ……」

 アバンやヒュンケル達のようにマァムもまた、この紅い夕空を見つめながら不可思議な感覚を覚える。

「あなたも何か……感じてる……?」

 マァムは誰ともなくそう問い掛ける。

 そして……

「ポップ……」

 愛しき人のその名を久しぶりに口にした……

 

 

「なになに……″天空の神殿……古来より生命の危機に陥る者はこの神殿の光を湛えし水の力で甦る……”へぇ〜そいつはスゲェな……死にそうでも生き返るってことか?」

 ポップはキュレと別れた後、ずっと自室でマダンテの書の解読を進めていた。

「″さらに天空の神殿には神の生み出せし彼の地をも無に帰す絶大なる魔法力が眠る……”え?神が生み出せし彼の地を無に帰す?な、なんだか想像出来ねぇ話しになって来たな……」

 ポップは更にマダンテの書を読み進める。

「″終焉を神の業とするならば、この天空の神殿に眠る偉大なる光の源にあるこの魔法力こそがその始まり……”」

 思わずポップの背中に冷たい汗が流れる。

「”故に彼の神の力は……神に選ばれし者だけの神聖なる光の使者にのみ授けられよう……神の祝福と魔の試練をその身に迎えたる資格のある者に……”」

 と、その時……ポップの部屋の窓から西陽がポップの目に差し込む。

「……ん?あ、ああ……もう夕方か……ん?」

 ポップは窓の近くに行くとその紅く染まる夕空を眺めて呟く。

「……あの空……」

 彼の脳裏にはあの日……自分を蹴り飛ばした少年の背中が浮かぶ。

(「ゴメン……ポップ……!」)

 ポップの瞳が潤いを湛え、自然と強く拳を握りしめる。

「なにが……ゴメン……だ……バカヤロウ……」

 そう言って強く歯を食いしばると、ポップは再び顔を上げて夕空の彼方をみつめる。

「あの空の向こうに……いるんだろ?ダイ……ずっと……ずっと……俺はお前を感じてる……お前の生命の灯を……感じてる……」

 そして、ポップの脳裏には何度となくダイの魂と共に光り輝いた竜の紋章と数々のダイの勇姿が浮かび上がる。

「また、必ず……俺がお前を見つけてやるからな……どこへ行っても……あの空の彼方でも……」

 そう呟くポップの胸には緑色の光を湛えたアバンのしるしが輝いていた……

 

 

 

 




 ダイの息吹も少しずつ……という感じのお話し。
 アバンから始まりヒュンケル、クロコダイン、レオナ、マァム……そしてポップと……紅い夕空からそれぞれが何かを感じ、その先にある不可思議な力を感じるという表現となりましたが、もちろんこれもかなり先ではありますが、伏線になります。
 また、新しいキャラクターも二人ほど出てきましたが彼等もとても重要な立ち位置であります。
 特にダイにとってはかなりです。
 
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