─墓前の語らい─
「あ、あなたは……っ!?」
「久しいな……身体はもう良さそうだな」
ヒュンケルはかつて超竜軍団に壊滅させられた直後にこのカールを訪れていた。その際に生き残ったこのカール騎士団の青年を助け、同時に彼の兄であるホルキンスという男の弔いを手掛けていた。
「あの時は本当にお世話になりました!おかげさまで自分もこうして再び動けるようになりました!改めて心より御礼申し上げます!!」
「いや、俺は……」
「ヒュンケルさんですよね!アバン様から窺っております!あのアバン様の一番弟子の方だと聞いて本当に驚きましたが、同時に得心がいきました!」
「ん?」
「私もあとになって気付いたことですが、魔王軍にあれ程まで祖国を壊滅させられた直後に、あの時点では見ず知らずのアナタにこの身や兄の弔いまで託せたのはアナタ自身から感じられた信頼感だと思ったんです」
「信頼感……か……だが、落ち着いて聞いてほしい……俺はかつて人の身でありながら魔王軍に於いて不死騎団の団長を務めていた男だ……無論それ故に侵して来た罪は計り知れないモノだ……」
「ですがあの時のアナタはもう違った」
「え……?」
「私には少なくともアナタが、そんな恐ろしい過去を持つ人には見えませんでした……壊滅させられ国の跡にはたとえば金品を盗みに来たりする者もいる中で見ず知らずの存在に警戒するのは騎士団の一員として当然のことでありましたが、アナタからはそんな悪意など感じられませんでした……つまり、もうあの時点でアナタがれっきとした一人の善良な人間だったから私はアナタに託せたのです……大切な尊敬する兄の弔いを……」
そのカール騎士団の青年は真っ直ぐとヒュンケルの目を見てそう告げた。
そしてヒュンケルもまた、彼のその目を一瞬たりとも逸らさずに見つめた。
「そうか……こんな俺にそんなことを言ってくれるのか……」
「アナタはあの時から私と兄の恩人なんですから!どうか、下を向かないで下さい!ヒュンケルさん!!」
「ああ……ありがとう……俺の方こそ感謝する……」
そうして二人は熱い握手を交わした。
「兄にも改めて会っていって上げて下さい!」
「ああ、もちろんだ……」
ヒュンケルはその言葉に優しく微笑むと自身が埋葬した彼の兄ホルキンスの墓前へと行く約束をした。
「ヨイショ!!ヨイショ!!ヨイショ!!」
「それっ!!みんなもう少しだ!!力を合わせて!!」
「ウォォォーン!!」
チウの掛け声と共に獣王遊撃隊のクマチャ達は重い瓦礫を必死に動かそうと懸命に汗を流していた。
すると、その瞬間…巨大な瓦礫が軽々と持ち上げられた。
「よ……っと!コイツはドコに運べば良いんだチウ……」
「クロコダインさんっ!!あ、そ、それは向こうの瓦礫置き場ですっ!!ご案内します!!」
「おお!悪いな!」
「いえいえ!クロコダインさんが来てくれれば百人力ですから!!みんな先代獣王のクロコダインさんの働き振りをしっかり学ぶんだぞ!!」
「ウォォォーン!!」
と、そんなチウの言葉に遊撃隊のメンバーが声を上げて応える。
「ハッハッハ!!頼むぞ獣王遊撃隊!!期待してるからなっ!!!」
「おおっ!!みんな!!クロコダインさんが我々に期待してくれてるぞ!!」
「ウォォォーン!!」
「ハッハッハ!!いいぞ!!その意気だ!!」
その後、クロコダインも合流したこともあり復興作業は予定していたよりも遥かに進んでいった。
「……っん!?」
「なんだ?チウどうかしたのか?」
作業も順調にはかどっている最中、チウは再び何者かに呼ばれた様な気配を感じて振り返った。
「あ、いや……ただの気の所為だとは思うんですけど……クロコダインさん、誰かボクのこと呼んだりしてませんよね?」
「チウをか?いや、特に何も聴こえなかったがな……」
「そ、そうですよね!ハ、ハハ……やっぱ気の所為か〜ハハハ……」
(「クロコダインさんにも聴こえないなんて……もしかしたらこれはユーレイの声というヤツなのかな……」)
そう言いながらチウは自分にしか聴こえない謎の声に不気味さを覚え青褪めていた。
(「え、えーい!何をそんなことでビビッてるんだ!ボ、ボクは獣王遊撃隊の隊長じゃないかっ!!」)
チウはそんな自分の臆病さを振り払うように頭を激しく振っていると……
「おいっ!チウ!!」
「ひゃ……っ!!!?ひゃいっ………!!!」
「なんだ?どうしたそんなに驚いて?コイツを運ぶのに手を貸して欲しいんだが?」
「あ!も、もちろんですっ!!」
「なんだ?ホントにどうしたんだ?いつものお前らしくないな……」
「そ、そんなことありませんよっ!」
「先代獣王の俺ではあまり役に立てんかな?」
「い、いえ!そ、そんなこと……!?」
「ハッハッハ!冗談だ!!」
「あ、あの……クロコダインさん実は……」
と、ここでチウは自分にしか聴こえない謎の声についてクロコダインに告げた。
「お前を呼ぶ謎の声?」
「は、はい……あの、これってやっぱりユーレイ……とか……?」
「ふ〜む……ユーレイかどうかはわからんが……その声は具体的になんと言っているんだ?」
「なんだか少し幼い女の子のような声で……″助けて”って……」
「助けを求めているというワケか……」
「は、はい……でも何故かボクにしか聴こえないみたいで……」
「う〜ん……しかしまぁ助けを求めているとなると確かに簡単に捨て置けんな……」
「どうしたら良いでしょう?」
チウは不安気な表情でクロコダインを見上げると、彼はニヤリと笑って言った。
「なぁに心配することはないさ……ここはカール王国だ、アバン殿という頼れる人物がいるじゃないか?」
「あ!そうだ!アバン先生に相談すれば!」
「ああ、きっとその謎の声についてなにかわかるかも知れんぞ!」
「は、はい!」
「よしっ!そうとわかれば先ずはこの辺りの作業を片付けてアバン殿と合流しよう!!」
「はい!頑張ります!!」
そうして、チウはクロコダインと共に復興作業に戻って行った。
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ザザザッーーーーーーー!!
深緑深い森の中。
一人の男が目にも止まらぬ速さで、更に深い森の中だと言うのに生い茂る草木もものともせず一切のスピードを落とさずに駆け抜けて行く。
「姫様!申し訳ございませんっ!このコモル不覚でございましたっ!!」
年の頃はまだ少年と青年の中間といったところだろうか、それでも割と整った顔立ちで、腰には細身の剣を携えている。
そして、特徴的なのはその尖った耳……
彼は妖精の王国の騎士団の一人で、普段は王女の護衛を務めていた。
しかし……
「姫が何者かに連れ去られたなどと先代に知られたら……いやいや!今は私のことより姫の安否だ!!くーっ!こんなことだから私は未熟者なのだ!!姫っ!!ただいまこのコモルがお助けに参りますっ!!もうしばしの辛抱を!!」
なにやら一人熱くなりながら、コモルという妖精騎士は相変わらずの凄まじいスピードで深い森の中を進んでいった。
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復興作業も一段落し、ヒュンケルはホルキンスの弟と共に彼の兄の墓前に赴いていた。
「兄さん……あの時兄さんを弔ってくれた人だよ……名はヒュンケルさんというんだ、しかもあのアバン様のお弟子さんだったんだよビックリだよね……」
ホルキンスの弟はまるで目の前に兄がいるかのように穏やかな表情と口調で兄の墓前に語り掛ける。そして、ヒュンケルはそれをみて彼の隣に屈むと、静かに哀悼の意を表した。
と、ここでヒュンケルは前にホルキンスを弔った際にその墓前に突き立てた彼の愛刀に目を向ける。その刀身にはバランとの戦いで付けられたものだろうか、激戦を彷彿とさせるように多くの傷があった。
「刀身に残るこの傷跡……」
「ええ、あのバランという男との戦いは前にも少しお話ししましたが、それは激しいモノでした……」
ホルキンスの弟は兄の最後の勇姿を思い返しながらそう告げる。
「あのバランは、魔王軍の中でも剣の腕前に於いては右に出る者はいなかった程の男……そのバラン相手にそれ程までに凄まじい戦いを演じるとは……ホルキンス……一度手合わせをしたかった……」
ヒュンケルのその言葉にホルキンスの弟は涙を浮かべている。
「あなたとなら良い勝負になったかも知れませんね……」
「……!?」
「アバン……」
ヒュンケルとホルキンスの弟が振り返るとそこにはアバンがどこか寂しげな表情で微笑を浮かべていた。
アバンとホルキンス……この二人とそしてもう一人……カール王国騎士団を語るに於いて、この三人の話はこれからのヒュンケルの時間に大きな意味をもたらすこととなるのであった……。
今回は、場面が3パターンとあり、タイトルに悩みましたが、とりあえずホルキンスのエピソードをメインにしてみました。
次回からアバン、ヒュンケル、ホルキンスの話をメインに進めていこうと思いますが、チウや今回から登場の妖精の騎士コモルのエピソードなども展開していこうと思います。