新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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 ─大魔道士の目覚め─

 

 ダイが空に消え、ポップに重症を負わせた黒の核晶(コア)の爆発から三日目の朝。アバン達は示し合わせた様にポップの部屋に集まっていた。昨日までに何度もこの部屋を訪れていたレオナ、メルル、ヒュンケルの他にもラーハルト、ヒム、クロコダインやチウの姿も見える。

 そして、マァムもポップの傍の、もはや定位置とも思われる処に座ってポップを優しく見つめている。

 

「ん……んん……うん……」

 ポップがゆっくりとその目を開いた。三日振りの目覚めに注ぐ光がその瞳に染みる様だった。

「……!?ポップ!!」

 その声は彼にとってこの世で最も愛しい人の声だった。これまでも何度も何度もこの耳で聴いてきた声は、今は何故か違って聴こえた。

「マ……マァム……か……」

「ポップ……!!」

「……!!!?」

 マァムはポップを抱き締めていた。驚いたのはポップだけでなく、その場にいた全員が驚いていた。マァムがそれ程までにポップの事を思っていたのだと、この場に居た者達はこの瞬間により深く理解したのだ。ただ一人……いや、一匹?を除いては……

「こ、こら!変態魔法使い!マァムさんに何やってんだ!!」

 チウがことさら大きな声でポップに噛みついた。

「……!?」

 マァムはその声に驚く。 

「お、おい!!やめないかチウ!まだポップは病み上がりだ!」

 クロコダインが慌ててチウを諌める。

「で、でも……クロコダインさん……」

 チウは思わず小さくなる。

 すると、マァムが頬を赤らめながらポップに謝る。

「ご、ごめんなさい……いきなり……」

「あ、ああ……いや……へへへ…」

 ポップは照れながら力無く笑う。しかし、マァムはそれでもホッとしていた。控えめでも、それは久しぶりに見るポップの笑顔だったからだ。

「みんな……なんか心配掛けちまったみたいだな……悪かったよ………」

 ポップが、殊勝にもその場の皆に詫びるとアバンが声を掛ける。

「大丈夫ですか?ポップ……どこか痛いところや違和感などはありませんか?」

 アバンの声も眼差しも愛弟子をいたわる優しさに溢れていた。

「アバン先生……すいません心配掛けて……大丈夫です。少し怠い気がしますけど、だいぶ寝てたからだと思います」

「そうですか……安心しました。しかし、先程もクロコダインさんからもありましたように、まだ病み上がりですからね、無理はいけませんよ」

「はい……マァムもありがとな……」

「えっ!え、ええ……本当によかった……」

 マァムは涙を浮かべて頷いた。

「みんなもありがとな……なんだ、ラーハルトやヒムまで心配してくれてたのかよ」

「フ、フン!俺はヒュンケルの付き添いだ!」

「へへ、まぁ……おめぇにはバーンパレスからの脱出時に世話になっちまったからな……一応義理だよ義理!」

 急に名指しされたラーハルトもヒムも戸惑いを隠せなかったが安堵している様子はポップに伝わった。

「そっか、なんにしてもこんだけ雁首揃うと圧巻つーか、なんつーか……!?」

 ようやくいつものポップらしく軽い口調が戻ると、一際神妙な顔で自分を見ているメルルにポップは気付いた。

「メルル……おめぇにも心配掛けちまって本当にごめんよ……」

 メルルはその瞳が既に潤んでいた。しかし……

「そ、そうですよ!ポップさんはいつもいつも……どうして無茶ばかりするんですかっ!?私は……私達は……」

 思わず張り上げた声はやがて小さくなる……ポップはそんなメルルを優しく見つめる。

「悪かった!本当にごめん!」

 ポップは心から頭を下げて謝った。しかし、それはこの場にいる、そして、彼の無事を案じていた全ての仲間達に向けたモノだった。

「い、いえ……私こそ……取り乱してごめんなさい……」

「あーあ、メルルやマァムに心配されて両手に華ね~ポップ君!」

「ひ、姫さん…!?」

 ポップはレオナの言葉に冷や汗をかく。

「メルルもっとガツン!と言ってあげなさい!珍しくマァムが大人しいんだから!」

「ちょっと、レオナ!私だって言いたいこと沢山あるわよ!」

「わ、私だって!まだ言い足りないくらいです!」

「お、おいおい二人とも~(^^;」

 ポップはもうたじたじだ。

「おやおや、本当に両手に華のようですねポップ~♪」

「せ、先生まで勘弁してくださいよ~」

 「アハハハハハ!!」

 ポップのたじろぐ姿に皆、声を上げて笑った。その光景をポップは苦笑いで受け止めるしかなかった。しかし、心底ホッとしていた。この光景に再び触れる事が……出逢う事が出来て……

「おかえりなさい、ポップ」

 マァムのその言葉を皮切りに……

「おかえり、ポップ君!」

「おかえりなさい、ポップさん」

「よく戻りましたね、ポップ」

「ボ、ボク等だって待ってたんだぞ!」 

 チウはやや照れ臭そうにそう言うとクロコダインやヒムも頷く。

「おう!一時はどうなるかと思ったがな!」

「おめぇにはハドラー様の分も生きて貰わねぇとな!」

「ハドラー?」

 唐突に妙な事を言うヒムにポップは怪訝な顔をする。

「ハドラー様の最後にお前は手を差しのべてくれたんだろ?ハドラー様の大事な記憶は俺の中にしっかりあるんだぜ!」

 そう言って、ヒムは自分の心臓の辺りをコンコンと軽く親指で叩いた。

「そっか……ハドラー……へへ、アバン先生の仇だと思っていたのにな……」

 ポップはあの時の事を鮮明に思い出していた。

 バーンパレスで、ダイとハドラーが最後の死闘を終えた時、キルバーンの仕掛けていた卑劣な罠が二人を襲った。しかしそんな時、いち早くその罠に気付いたポップは二人を助けに入った。だが、それでもキルバーンのトラップは容赦なく助けに入ったポップさえも窮地に追い込む。その場にいたマァムやヒュンケル、レオナにもどうする事も出来ず、ダイもポップも絶体絶命を覚悟したその時、ハドラーが己の命を省みず命が尽きる寸前のその身を使って二人の救出に尽力したのだった。しかし、ポップはそのたった一度の脱出のチャンスを不意にしてまで、力尽き崩れ落ちるハドラーに手を差しのべてしまった。ダイの救出は成ったものの、その為にポップ自身はハドラーと共に卑劣なキルバーンの罠に葬られてしまう危機に陥ったのだ。ハドラーはそんなポップの気持ちに涙を溢してポップの命が救われる事をその尽き掛けた命の底から初めて神に祈ったのだった。

「ポップ……私はあなたのそういうところに誇りを感じます」

「え……?」

 アバンの言葉にポップや他の者達もアバンを見る。

「かつての敵であっても、あなたはその心を通わせる事が出来る。そして相手にもその思いを伝える事が出来る。あなたはマトリフの様に冷静に戦況を判断しながら的確な勝利の一手を打つ頭脳を持ち合わせながら、同時に心の繋がりを大切に出来る素晴らしさがある。そして、それらの力は、あなた自身の秘められた勇気の力に寄るものです」

「勇気……ですか?」

 ポップはアバンの最後の言葉の意味を図りかねて訊ねる。

「そうです。心を繋げ、平和を実現出来る勇気です。誰しも敵対する者とは解り合えないからこそ、戦いを始めます。しかし、あなたはそんな相対する者にも心を通わせようとする、それは勇気なくしては絶対に出来ません」

「先生……」

 ポップは、まさに師からの教えを仰ぐように真っ直ぐアバンの言葉に聞き入っている。

「マァムの慈愛の心とも同じ様なところもありますが、あなたの勇気はその慈愛を周りに伝える力になるんですよ」

「あら?それじゃあ、まるでポップ君とマァムはセットみたいね」

 レオナが思わず口にすると、アバンはニッコリ笑って言う。

「ポップとマァムだけではありませんよ。ダイもヒュンケルもそして、レオナ姫、あなたもポップやマァムと繋がれたからこそ、あのミナカトールは発動出来たのです。ダイの汚れなき純真さも、清く美しいあなたの正義の強さがなくては、真の平和を実現出来ませんし、ヒュンケルの闘志もマァムのように時に相手をいたわる慈愛がなければ、ただ勝利という思いに駆られた空虚なものしか残りません、そうですよねヒュンケル」

 ここで、アバンは一番弟子のヒュンケルに目を向ける。

「ああ、そうだな。マァムの慈愛の心に俺は救われた。それまでの俺は人間を憎む余りその勝利の概念すら破壊のために使っていた……」

「そして、ポップの仲間を想い、どんな困難な状況も諦めずに立ち向かう勇気に、純真なダイは安心してその力を発揮する事が出来たのです」

 アバンは今、この場にいないダイの事を思い浮かべながら、ダイとポップが最後の戦いでバーンに二人で立ち向かった、あの勇ましくも誇らしい姿を思い出していた。

「つまり、アバンの使徒のそれぞれの心の力は全て繋がって一つの大きな力になっている……って事ですよね?」

 ポップがそう語るとアバンは微笑を浮かべて深く頷く。

「さすが、ものわかりが良いですねポップ!その通りです!」

 ポップは誇らしかった。いつかはこの胸に輝くアバンのしるしがその輝きを示さず、自分は本当のアバンの使徒ではないのだと苦しみ悩んだ事もあった。しかし、アバンの言う自分の中にある勇気の力が覚醒した時にその輝きは放たれた。

 勇気の使徒。それはポップがこれからの人生に於いても最も誇らしく思える、まさに心の勲章だった。

 




 はい、お目覚めです!大魔道士様!今回前半の主人公はポップなので、ある意味ここからが本当のスタートという感じですかね。
彼の良さはやはりその人間力。ダイを始めとして彼の回りには生まれついての戦いのスペシャリストや身分の高い人がいるけど、彼はその誰に対してもいつも喜怒哀楽をもって飾らないところが、好感が持てますね。更に、ヒムやアバンが言っていた通り敵にさえもその人格を認められるところは、彼の一番の魅力なんだと思います。
その彼をこれからどんどん書けると思うと楽しみで仕方ないです!
どんどん強く大きく成長する彼を楽しみます!
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