新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

15 / 124
予感

 ─マトリフの懸念─

 

 アバンはその扉をノックすると、相手からの応答の声を聞いて、扉を開けた。

「マトリフ、ずっとここに居たのですか?」

「おう、アイツは目を覚ましたか?」

 ここは、パプニカ城の図書室。パプニカ王国が誕生した頃からの史書や代々の国王達が残したその当時の国内事情等を記載した文書など、その他にも様々と膨大な資料が揃えられていた。しかし、マトリフがこの三日間ずっと読み耽っているのはこの内の古い魔導書ばかりで、彼の周りには既に読み込んだ魔導書がいくつも積み上げられていた。

「さすがというか、相変わらずというか、よくこの三日間でここまで読み込みましたね……」

「昔から知ってるだろ?俺の性格は……気になり出すと調べずにいられねぇんだよ……んで?お前がここに来る余裕が出来たってことは、ようやくアイツ、目を覚ましたんだな?」

 マトリフは顔も上げずに古びた魔導書から目を離さず言った。

「ええ、お陰様で。無事に完全回復出来ました」

「そうか………」

 そういうと、マトリフはゆっくり顔を上げてアバンに頭を下げた。

「俺の弟子が世話になったな……感謝するよ、よくアイツを救ってくれた……」

 マトリフが人に頭を下げることなど滅多にない為、アバンはやや驚いたが、すぐに笑顔を作って言った。

「私だけの力ではありませんよ、皆さんが協力してくれたお陰です。特に……マァムは付きっ切りで看護してくれましたからね……」

「ヒヒ……それなら完全回復するワケだな!誰かさんみてぇに惚れた女が傍にいてくれりゃあな!」

「ロカとレイラに重ねてるんですか?あの二人を?」

「さぁ、どうだかな……」

 マトリフは言葉を濁したが、その顔は意味深な笑いを作っていた。

「ま、とりあえずガキ共の惚れた腫れたはここら辺にしといてよ、アバンちょっと訊いて貰いてぇ話がある……」

 そう言うとマトリフは打って変わって真剣な表情になった。

 

 マトリフはいくつかの魔導書を持ち出すとそれぞれ目的のページを開きアバンの目の前に置いた。

「これは、どれも魔界に関する内容……」 

「ああ……今、俺は魔界について調べてる……まぁ昔も色々調べてはいたが、改めてな……」 

「どうして今になって?」

 そう訪ねるアバンにマトリフは神妙な顔で語る。

「アイツだよ……ポップだ……」 

「……?どういう事ですか?」

 アバンはマトリフの言葉の意味を図りかねて訊ねる。

「アイツがココに運ばれて来て最初の晩さ、うなされ始めた頃だよ……」

「確か、あの時は私もマァムも少しの間でしたが、席を外していてあなたがポップの様子を看てくれていましたよね?」

「ああ……お前らもうなされるアイツが落ち着くまで手を尽くしていたが、そのお前らが来るまでの間に……アイツは口にしたんだよ……うわ言で……ヴェルザー……ってな……」

「……!?何ですって!?」

 アバンの表情は一気に険しくなる。

「フ……その面をみると、おめぇもヤツの……ヴェルザーの事は気に掛かっていたみてぇだな……」

 マトリフは不適に笑うが、その表情には何処か不安気な様子も伺われた。

「ええ……あのバーンパレスでの最終決戦で、一時その存在を表したのが魔界に封印されているという冥竜王と呼ばれているヴェルザーでした。ヒュンケルとラーハルトによれば……」

「ああ……ダイの親父のバランに倒された筈なのに……ヤツは不死身ときてる……天界の精霊とやらが封印したんだろ?」

「はい……しかし正直、私はあのヴェルザーという存在……バーンパレスでの僅かな時間、しかも思念体のような姿をとっていましたが、またバーンとは違う異質な、なんとも重苦しい邪悪なモノを感じました……」

「異質か……嫌な感じだな……」

「はい……しかも、そこへ来て今のあなたから訊いた話しですから……」

「ポップのヤツは……何故、ヴェルザーの夢なんかを……」

 アバンもマトリフも暫く考え込んでいたが……すぐに互いに顔を上げると……

「竜の血……か……」

 マトリフのその言葉にアバンも同じ事を考えていたと言うように頷く。

「ポップはメガンテで一時的に命を落としましたが、竜の騎士バランの血を与えられて蘇生できたと……」

「その時にポップの身体に残った竜の血が、バランの記憶をアイツに見せたとしたら……」

 アバンもマトリフもこの話を口にする事をやや躊躇った。何故なら、この地上にようやく平和が訪れた、このタイミングでの新たな不安要素だったからだ。

「マトリフ……とりあえずこの事は私達の間だけで……」

「ああ、黙っておこう……せっかくの平和な空気に水を差す事もねぇ……ましてや、ダイだってまだ見付かってねぇしな……」

 マトリフもダイは必ず何処かで生きていると信じていた。

「そうですね……」

 アバンは机に広げられた魔導書を見つめる。

「マトリフ……ポップの事ですが……」

「……ああ、皆まで言うな……ダイを一番近くで失ったアイツの傷は計り知れないだろうが……少しアイツには課題を与えてやろうと思ってる……それで少し気を剃らしてやるとするさ……」

「課題を?」

「とりあえず、もう極大呪文はベキラゴンもイオナズンもヤツなら出来るだろうし、他にもマヒャドや諸々使えるようにしといてやるさ……」

「成る程……そういえば、ポップはあなたが出来ることは全て出来るようにするって、言っていたらしいですけど……」

「ケッ!ホント生意気なガキだぜ!」

 言いながらマトリフは嬉しそうだ。

「本当に大きくなるものですね……みんな……素晴らしい成長ですよ」

 アバンはポップを始め、ダイ、マァム、ヒュンケル、レオナ……5人の弟子達の顔を思い浮かべていた。

「?待ってください、そう考えると……ポップだけにはヴェルザーの事を話しますか?」

 アバンがそう訊ねるとマトリフはニヤリと不適に笑う。

「ああ、仕方ねぇだろうな……アイツにはその話をしてから課題をやらせるつもりだ、こっちから訊きてぇ事もあるし……アイツには黙っておくのは難しいだろう……ダイのいない今、アイツが暫くは要になる必要があるしな…無論、他言無用は厳重に徹底しとくさ」

「成る程……確かにそうですね……わかりました、私も私で彼のレベルアップを考えておきましょう!」

「おう頼むわ、まぁヴェルザーの件はうまく周りには勘づかれない様にしておこう」

「はい……」

 

 そうして二人は夕暮れ時まで、様々な事を話しながら、アバンもマトリフと魔導書を読み込んだ。今後のもしもの場合を見込んで人知れず準備をするつもりなのだ。

「そうだマトリフ、ヨミカイン遺跡の事なのですが?」

 ヨミカイン遺跡。

 古来より様々な願いを叶える力が眠ると言われるパプニカ南西部に位置する古代遺跡。そして、その奥地の湖には、多くの伝説の秘呪文が記された魔導書が膨大に収められたヨミカイン魔導図書館が存在していた。しかし……

「ああ、あん時はあのデストロールのバカの所為で図書館自体は失くなっちまったが、もしかしたら貴重な魔導書なんかは、まだあるかも知れねぇし、とりあえずアイツを連れて行くつもりだ……湖の底でも探らせるかな……ケケケ♪」

「フフ……そうですね……」

 アバンはかつて魔王ハドラー討伐の旅にロカと出たばかりの頃、新たに加わったその当時僧侶だったレイラと三人でヨミカイン遺跡に足を踏み入れていた。

 そして、その時にロカは二人よりも先に魔導書に封じ込められていたマトリフと出会い、いち早くその魔導図書館に入っていたのだ。

「上手くいけば……あの伝説の大呪文をポップに身に付けさせてやれるかもしれねぇしな……」

 マトリフはそう言いながら不適な笑みを浮かべる。

「伝説の大呪文………!?もしかして、あの!?」 

 アバンはマトリフの言う大呪文に見当がついているのか、驚いて声を上げた。

「俺にも身に付ける事が出来なかったシロモノだが……アイツならやれるかもしれねぇしな……それに、もし身に付けられれば、これから来るであろう驚異に対して相当デカイ戦力になるはずだ……」

「ポップのこと……信じてくれているんですね……」 

 アバンがしみじみと言うと、マトリフは何かを懐かしむような目で言った。

「信じてる……か……アイツをあそこに連れていくのも、なんか不思議なモノを感じるな……似てると思わねぇか……アイツ等……」

 アバンはマトリフの言いたい事を察して応えた。

「そうですね……今や大魔道士のポップと戦士のロカ……能力の違いはあれ、あの二人は何処か秘めているモノは似ている気がしますね……」

 アバンの瞳に珍しく、寂しげなモノが浮かぶ。

「相棒を失って随分と経つが……さすがのお前もやっぱり寂しいか……」

 マトリフが静かに訊ねると……

「そりゃあそうですよ、私の親友ですから……掛け替えのない存在です……レイラにもマァムにも、悪いことをしました……」

「まだ、そんなこと言ってやがんのか?アイツの事はお前の所為じゃなねぇって!何度言えばわかるんだ!?」

「頭では、わかっているんですよ……でも、やはり気持ちで割り切るなんて事は……きっと一生出来ませんよ……」

「……たくっ!でも……まぁ確かに、お前らの間柄は特別かもな………そう考えれば……ダイとポップもそうかも知れねぇな……」

「マトリフ……」

 アバンはポップの気持ちを慮るといたたまれなくなった。空に消えたダイに……ポップは何を感じたのか……決してその想像は難く無かったからだ……

「まぁとりあえずアイツの事は任せろ!それと、少し俺の薬もくれや、おめぇの調合薬が一番効きが良いからな」

 マトリフ自身も決して健康体ではない。齢九十八という年齢もさることながら、これまで強力な呪文や禁呪法まがいの魔法も使ってきた所為で身体はボロボロだった。

「薬は渡しますが、無理はいけませんよ」

「ああ、わかってるよ…」 

 

コンコン!

 扉をノックする音がした。アバンは席を立って扉に近付きながら応答する。

「はい、どうぞ……」

 それを聞いて顔を覗かせたのはマァムだった。

「ここにいたんですか先生、あ、マトリフおじさんも?」

「ええ、どうしました?」

「夕食の用意が出来たそうです」

 マァムは笑顔で告げるとマトリフにも声を掛ける。

「マトリフおじさんも夕食にしたら?」

 高々積んだ魔導書の山に埋もれているマトリフは手を上げて応える。

「何か、調べ物ですか?」

「ああ、いえいえ私がマトリフの邪魔をしてましてね……昔話しに花が咲いてしまって……」

「へぇ~私も訊いてみたいな~父さんと母さんとパーティーを組んでいた時の話ですよね!」

 マァムはまるで子供のように瞳を輝かせている。父であるロカを失ってからマァムはレイラと二人暮らしだった。父親がいなくなって寂しい思いを埋めてくれたのは、父や母の過去をよく知るアバンやマトリフだったのかも知れない。

「そうですね~うん、よし!マトリフどうです?夕食を頂きながら少し昔の話しを聞かせてあげませんか?」

「わぁ!是非お願いします!」

「わ~ったよ!しょうがねぇな~酒はあんだろ~な!」

「マトリフ!飲み過ぎは身体に障りますからダメですよ!」

「そうよ!」

「へいへい、ちこ~っとだけにしとくよ♪」

 

 三人は笑い声を上げると揃って食堂に向かった。




 ポップのこれからの道標として、アバンとマトリフは必要不可欠ですから、今回はポップの目覚めから彼のこれからに続く話にしました。魔界と、ポップがこの先に身に付ける伝説の大呪文を少し出しながら、現在連載中の獄炎の魔王にも出てきたヨミカイン魔導図書館も出してみました。実際にはもうない図書館ですが、残された跡から何かしら重要なモノが見付かるなんてなんとも、冒険譚としては魅力的な展開だと思い、今後の重要スポットとして出してみました。ポップのレベルアップの為のカギはこの場所になりそうです。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。