新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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占い師の勇気

 

 ─ヒュンケルの光─

 

 夕食後、ヒュンケルはテラスで夜風に当たっていた。すると……

「ヒュンケルさん?」

 声のする方を向くと、メルルが顔を見せた。

「すまない、呼び出してしまって」

「い、いえ……それはいいんですが、私に話しがあるなんて、珍しいですね……」

 メルルは少し警戒していた。ヒュンケルは最早アバンの使徒の長兄として知られている存在だ、バーン打倒を果たしたこれまでの戦いでも奮迅の活躍は周知の事実であることから、かつての魔剣戦士としてのヒュンケルの顔をメルル自身は話しに聞いていただけで、よくは知らない。では、何故警戒するのか?それは、やはりマァムとの事が少なからずメルルにとっても気になるところだからだ。ところが……

「実はな……この身体の事なんだが……」

「……?身体ですか……?」

 予想外の言葉にメルルは首をかしげる。

「昨日、ラーハルトから聞いた話なんだが、この世界にはなんでもエルフの住処というところがあるらしいのだが……」

「あ、私も昔、おばあ様に聞いたことがあります。なんでもあらゆる魔法に長けていて、特に医療魔術というモノを得意としていると……でも、幼い頃に聞いた話なのでお伽噺かと思っていたのですが……ラーハルトさんがその話を?」

「ああ……エルフならもしかしたらこの身体を完全に回復出来るかもしれないと……」

「そうでしたか……それで、何故私にその話を?」

 メルルは改めて訊ねる。

「いつかダイが新しい剣を探していた時に君が行った占術で、あのダイの剣が出来上がるきっかけになったと前にレオナ姫に聞いてな、そこでもしかしたらエルフの住処とやらもその占術でわかるのではないか?と考えたのだが……」

 ヒュンケルはメルルの顔を窺うように言った。

「エルフの住処ですか……そうですね……あの時はダイさんの新しい武器がある場所を占いましたが……確かにポップさんの故郷のランカークス村にロン・ベルクさんの工房がありました……ですが……」

「なんだ?」

 メルルはやや不安気に話し出す。

「これも、おばあ様から聞いた話しですが、エルフは他の種族とあまり関わらない独自の文化を持っている様で、特に礼儀知らずな人間や粗暴な魔族からは距離を取っているみたいです……ですから、仮に占いでその場所がわかってもエルフ達が会ってくれるかは正直わかりません」

 メルルはヒュンケルの真剣な眼差しをみて、少し申し訳ない気持ちになる。

「そうか……ラーハルトは場所さえわかれば広い意味で同じ魔族である自分がいればそのエルフの住処には入れるだろうと言っていたが、確かに入れてもその後にエルフが会おうとしなければ意味がないな……」

「でも、気紛れな性格とも言われていますから……お伽噺で恐縮ですが、エルフ達妖精は何かをして貰えたり、ささやかでも彼等が喜ぶ贈り物をしたりすれば、力を貸してくれるという話もよく聞きましたね」

「なるほど……だが、確かにタダで頼むというのも気が引けるしな……」

 ヒュンケルは考え込んだ。

「占いの方は試してみましょう!少なからず何かは掴めるかも知れませんし……」

「そうか、ありがとうメルル。恩に着る」

「い、いえ!とんでもないです!皆さんに協力出来るのはこれくらいしかありませんから……」

 メルルはヒュンケルから謝辞を述べられ、思わず恐縮する。

「そうか……だが、俺自身もそうだな……」

「え……?」

「かつての俺はこのパプニカ王国に対して破壊の限りを尽くした。人間を憎み罪のない命もどれ程奪ったか知れない……だからこそ、その罪は永遠に消せるものではない……」

「ヒュンケルさん……」

「だが、そんな俺でも仲間達は受け入れてくれた……いや、その生き方を変えてくれた……だからこそ、仲間の力になれればと思い生きて来れた……」

 ヒュンケルは星空を見上げながら振り返った。

「マァムさん……ですか?」

 メルルは不思議とその名を口にした。当のメルル自身も内心驚く程に……

「そうだな……確かにきっかけはアイツだったな……マァムには一生、感謝しても仕切れない……」

「それは、思慕の想いですか……?」

 これもポップがくれた勇気なのだろうか?メルルは今、自分がヒュンケルの心の深い部分に踏み込もうとしている事が、やはり普段の自分には考えられないことだと思い自分の事ながら驚いていた。

「思慕か……あるいは、そうなのかも知れないが……違う気もする……だが、仮にそうでも俺にはその資格はない……」

「そんな事…!」

「だが、そうだな……やはりマァムには幸せになって欲しいと思うし……アイツが望む事は力になりたいと思う……」

「私は……もう、ご存知かも知れませんが、ポップさんが好きです」

 メルルは唐突に自分の想う相手の事を口にしたが、それはメルル自身が勇気を振り絞って、ヒュンケルのマァムに対する想いを確かめる為に巡らした事だった。

「そうか……ポップも俺自身、驚く程に成長した男だからな……あるいはダイ以上に……大したヤツさ我が弟弟子ながら……」

「はい……ヒュンケルさんとはまた違った強さであらゆる困難を乗り越えてきた人です」

 そう語るメルルにヒュンケルは優しい眼差しで頷く。

「アイツにも、やはり幸せになって貰いたいモノだ……」

「きっと、ポップさんもヒュンケルさんに幸せになって貰いたいと思ってますよ」

 メルルはヒュンケルの優しい眼差しに応えるように微笑する。

「幸せ……か………聖母なんだ……」

「え……?」

 メルルはヒュンケルの突然の言葉に困惑する。

「マァムは……アイツは、俺にとって……聖母みたいなモノなんだ」

「聖母……?」

「ああ……俺は魔王だったハドラーがこの地上を蹂躙していた時に捨てられていた赤子でな……そんな俺を拾って育ててくれたのは、ハドラーの部下のバルトスというモンスターだった」

「はい、そう聞いています……」

「だから、俺は母の温もりというモノを知らない……そして、それを知らぬまま人間を憎んでいった……」

 ヒュンケルは悔いるようにきつく目蓋を閉じる。

「だが………そんな俺にマァムは慈愛の光を充ててくれた……あの微笑みと……アバンのしるしの輝きと共に……」

 目蓋を開けたヒュンケルの瞳は澄んでいた。一切の邪念を窺わせないその純粋な光は、今もなおヒュンケルの内にあり、その光はきっとマァムに向けられているのだと思えた。

「マァムさんが救ってくれたから……先程おっしゃった、感謝を?」

「ああ……」

 メルルはヒュンケルの純粋な心の内を感じて、暖かい気持ちになった。ヒュンケルとマァムの間にはきっと何者も入り込めない特別な感情があるのかも知れない……そして、それは同時にポップの気持ちを思うと胸が締め付けられるモノでもあった。

 暫しの沈黙の後………

 

「メルル……さっきのエルフの住処の事だが……」

「あ!はい……!」

「姫にも話だけはしておこうと思う……占術を行うにしても場所を見つけないとだろう?」

「そうですね、前は世界会議の時にいらっしゃったテラン王の控えのお部屋で行わせて頂きましたので、姫様から許可を頂ければ私はどこでも構いません」

「わかった、では俺の方から頼んでおこう。本当にありがとうメルル、宜しく頼む」

「はい、承りました!お身体が完全に回復出来るように私も祈っています」

 そう言って二人はテラスを後にした。

 メルルの心にも、ヒュンケルの心にも前を見据える先に、ささやかな光が見えていた。

 ただ、メルルの胸にはもう一つ……ヒュンケルとマァムの心の繋がりの強さに、自身のポップを想う気持ちを比べてしまう。振り返るとヒュンケルの背中が見える。その背中に寄り添うマァムを想像してみる……と、なんの違和感も感じない……それどころか、とてもお似合いのようにも見える……メルルはポップと……あんな風になれるのか………それとも………

 

 メルルは自分達の未来がどうなるのか……やはりみてみたいというという衝動に駆られる……

 しかし……それでも…それだけは、それだけはいけない!

 メルルは強く強く自分に言い聞かせながら、前を向いた。




 今回は珍しい組み合わせの話にしてみました。ヒュンケルとメルルはバラン戦の時くらいしか原作では絡みはありませんでしたが、今回ヒュンケルの身体の回復は必要不可欠と考えて思い付いたのが、ラーハルトとの会話で出したエルフの存在でした。ドラクエと言えばⅣのロザリーやⅤのエルフの隠れ里やら他にも沢山エルフは存在感出してましたので、彼等の力をここで借りることにしました。そこで、エルフの隠れ里というワードからエルフは中々、顔を出さないという設定を使ってみました。ダイの大冒険でも一切出てきませんでしたし。そしてそこから、探し物といえば優秀な占い師がいるじゃないか!?と言う流れでメルルとヒュンケルの繋がりを持ちました。そして、ヒュンケルだけでなく他のキャラにとってもエルフには重要なお仕事を用意していますので、また後々出していこうと思います。
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