─カールへの帰還─
ポップが目を覚ましてから三日の間にアバンはレオナと執務室で、今後の事について話し合っていた。
「パプニカの復興については出だし好調といったところですね」
「はい、鬼岩城の攻撃による城下町の破壊状況はかなり復興が成されて来たので、食糧やその他の物資を他国に送る用意もいくらかは出来るかと思います。特にアバン先生の故郷のカール王国はかなりの被害だと以前からフローラ様に伺っておりましたので、必要なモノをおっしゃって頂ければご用意させて頂きたいと思います」
「ありがとうございます。フローラ様もカールの皆さんも喜んでくれるでしょう、私からも改めて御礼申し上げます」
アバンはカール騎士団に所属していた頃から国の運営などでよくフローラから相談を持ち掛けられていた特別な存在だった、その為、今となってもカール王国の大使の様な立場でいた。無論、それは対戦直後にフローラから命じられた事でもある。
「とんでもありません!フローラ様やアバン先生から教わった事に比べたら、まだまだ全然お返し足りないくらいです!なので、これからも遠慮なくおっしゃって下さい!」
「いやぁ~ははははは!それは恐縮です!ですが、パプニカの支援が受けられれば我がカール王国の復興も早く成せるというモノです、本当に痛み入ります……」
改めてアバンは深々と一礼をする。
「共に助け合える世界をこれからはどんどん広げていきましょう!アバン先生!」
「ええ、真の平和の構築はこれからの私達の手に掛かっていますからね!」
二人は互いの国を背負う立場の者として、がっちりと握手を交わした。
その後、アバンは明日のタイミングでカール王国に戻る事をレオナに伝えた。フローラにパプニカの現状やこの数日のレオナとの協議内容の報告などをしなくてはならないといった理由もあるのだ。故にレオナもアバンの弟子の一人としては寂しい気持ちも確かにあったが、一国の元首としての姿勢を優先させ、快くアバンの出発を受け入れた。
「明日はいつ頃、お発ちになりますか?」
レオナが訊ねるとアバンは少し考えて口を開いた。
「そうですね~パプニカの美味しいランチを最後に頂いてから、お暇しましょうかね♪」
「ええ!是非ともそうして下さい!そうだわ!それなら明日のランチはアバン先生のお見送りのパーティーにしましょう!」
「いえいえ!そんな大袈裟にしなくても……また何度もパプニカには来ますので……」
「いえ、皆もきっと賛成してくれますから!お願いします!」
「う~ん……しかし、申し訳ないですね~」
「そんなことありませんよ!それにささやかではありますが、改めて復興に向けての決意の会にもしたいですから!」
「なるほど、それならばとても反対出来ませんね、遠慮するのも無粋というモノです」
「さっすが!アバン先生!その通りですよ♪」
そう言ってレオナはアバンと笑顔を交わした。
「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます」
「はい!お任せ下さい!」
そうして、アバンはレオナ主宰のアバンのお見送りランチ会と復興の決意の会に参加することとなった。そして、レオナはこうしちゃいられない!とばかりに家臣を集めて、今から準備に取り掛かった。
アバンはその迅速なレオナ姫の動きに圧倒されながら執務室を出ると、各々に明日の出立の挨拶に向かった。
レオナと別れ、先ずアバンはヒュンケルの元に向かった。途中、城の人間に訊ねながらヒュンケルを探していると、城の中庭に見掛けたと聞いたので、そこへ足を向けてみた。
「ヒュンケル!」
「アバン…」
ヒュンケルは聞いた通り中庭でラーハルトと何やら話し込んでいた。
「ラーハルトさんもおられましたか……丁度良かったです」
「アバン、どうかしたのか?」
ヒュンケルがアバンの言葉を受けて訊ねると……
「ええ、そろそろ私もカールに戻ろうと思いまして明日の午後に発つつもりなので、ご挨拶に伺いました」
「カールに……!?そうか……寂しくなるな……」
「!?」
ヒュンケルの口から思わず出た言葉に、アバンもラーハルトも以外な印象を受けたが、敢えて見守る事にした。アバンは少しずつ変わり始めたヒュンケルに安堵し胸を暖かくした。
「そうだヒュンケル、それなら今しか機会がないのではないか?あの事を訊くには……」
ラーハルトがヒュンケルに言う。
「ああ、そうだな……アバン実は訊きたい事があるんだが……」
「?なんでしょうか……?」
ヒュンケルは自身の身体の完全回復の為にエルフの事や彼等が得意とする医療魔術の事など、アバンに訊ねた。
「なるほど~エルフですか~確かに可能性としては充分有り得ると私も思います。それに確かにダイ君の捜索をするにしても貴方の力は必ずや必要となりますから、完全回復が果たせれば、より広範囲の捜索が出来ますからね」
「ああ、なんとしてもダイを探し出さねば……」
ヒュンケルがそう口にすると、ラーハルトも頷く。
「わかりました、現在私が持っているエルフについての情報はお話致します。ただ、私自身もエルフに遭遇した事はありませんので、限られた少ないモノになりますが……」
「構わない、少しでも情報が欲しいところだからな…」
「はい、ところでエルフの話しはラーハルトさんから?」
そう言いながらアバンはラーハルトの方を向く。
「ダイ様の捜索には俺も当然向かうが、身体を完全に回復させてダイ様の捜索に当たると言うヒュンケルの言い分も一理あるしな……」
ラーハルトはアバンの問いにそう答えた。
「そうでしたか、それでエルフの話をしてくれたのですね……ラーハルトさん、ありがとうございます」
アバンが自分に頭を下げる姿を想像していなかったラーハルトはやや戸惑いながら言う。
「い、いや……それ程の事でもない……」
「いえ、ヒュンケルからも前に訊いていますが、貴方がバーンパレスで彼の命を救ってくれた事も心から感謝しています、彼の師として御礼をさせて下さい」
ラーハルトは思わず助け船を求める様な顔でヒュンケルをみる。
「ラーハルト、アバンはそういう男なのだ。魔族やモンスターだろうと人間だろうと分け隔てなく接するヤツなのだ……」
「あ、ああ……だが、もう頭を上げてくれ……人間に頭を下げられた事など初めてでな……どうしたらいいかわからん……」
「そうでしたか、これは失礼しました。しかし、嬉しいものですね……」
「……?」
「……?」
アバンの言葉にヒュンケルもラーハルトも疑問を抱く。
「自分の弟子がこうして素晴らしい友と出逢い、互いに研磨し、支え合っている……これほど師として嬉しいことはありませんよ……それにラーハルトさんにはダイ君の事も支えて下さっておりましたし……バーンとの最終決戦の場でも、ポップとダイの策によくぞ、その命を預けて頂きました」
「ヒュンケルはともかく、ダイ様の事については、我が主バラン様から託された使命でもある。命を張るのは部下として当然の事だ」
ラーハルトは真剣な眼差しをアバンに向ける。
「はい、その使命感こそダイ君を支えてくれていたものだと思います。彼はどこまでも純粋に前に進む力を持っていました。真っ直ぐにブレずに一直線に……しかし、それ故に傷付き倒れることもあった。あのバーンとの最終決戦の場でもそんな場面がありましたね……」
アバンの言葉にラーハルトとヒュンケルはバーンパレスから地上の各所に投下されたピラァオブバーンによる地上への破壊行為を思い出していた。大魔王バーンはダイ達が総力を結集して己の処へ辿り着く事を読み、ダイ達との戦いを展開させながら、最後の一本のピラァ投下による地上破壊という恐ろしい布石も打っていたのだった。そして、一時はそのピラァ投下の為にバーンパレス眼下のフローラ達が消し飛んだと思い込んだダイはバーンの破滅を語る言葉と策略に絶望し、己が無力に力を失ってしまった。
「ダイ様の絶望は当然だった。しかし、ダイ様に何らかの落ち度があったわけでは決してない!バーンが……バーンのあのおそるべき悪魔の如き策略が……」
そう言いながらラーハルトの言葉が強くなると、アバンは彼の肩に手を置いた。
「ええ、本当におそるべき相手でした、大魔王バーン。しかし、彼は…ダイはその大魔王バーンを見事に打ち破りました!そして、それは彼自身の後ろに彼自身が感じてくれていた我々の思いを…魂を彼が背負って最後に立ち向かっていったからです!」
ラーハルトに向けたアバンの言葉に彼は熱くなる。と、同時に何故、ヒュンケルを始めアバンの使徒と呼ばれる者達が、強くそして熱く数々の戦いを乗り越えてくる事が出来たのかがわかった気がした。
このアバンという存在が彼等一人一人を常にどこまでも支えて来たのだ。そして、その一つ一つの魂の絆がラーハルトの主である、ダイを守り支え、そして共に戦って来たのだ。あの、ポップの様に……
「あの、魔法使い…いや、大魔道士だったか……ヤツのあの言葉も今の様に熱く、ダイ様を立ち上がらせてくれたな……」
アバンも、ヒュンケルもそして、ラーハルトもあの時のポップの言葉を思い出していた。
『閃光のように…!!!』
「ポップの成長度には、俺も舌を巻くほどだ……アイツはダイと始めからずっと一緒に戦い抜いて来たからな……」
「正直、俺はアイツのことを侮っていた……お前達と初めて出会った時もお前が駆け付けるまで、アイツは一人で俺達、竜騎衆に立ちはだかったが……無謀としか思えなかった」
「あの時のポップは必死だったのだろう……ダイの記憶は消され、戦力も充分とは言えなかった状況で、あの様な事をするしかなかったのかも知れん……」
「そうでしたか……」
アバンは何かを悔やむような表情でその目を伏せた。
「だが、俺はそんなヤツの姿を不思議と頼もしく感じたよ……たった一人であの竜騎衆という強敵に立ち向かおうとする勇気があったんだからな……」
「敵として相対した身ではあったが、確かにそうだな……」
ラーハルトもヒュンケルに習い頷いた。
「ありがとうございます。あなた方がいて本当に良かった……お二人の支えがあってこそ、ポップも必死に必死に強くなって、あのバーンとの最終決戦まで辿り着いたのですから……」
「いや、ヒュンケルはともかく俺は……」
「そんなことありませんよ、先程も言いましたが、あのバーンとの決戦でのポップの策にあなたはその命を懸けてくれました。彼を信じてくれました。私は師として自身の弟子を誇らしく感じると共に貴方に感謝しています」
「だから、よしてくれと言っているだろう?人に頭を下げられる事に慣れていないんだ……」
「そうでしたね♪」
アバンもラーハルトも微笑で返す。ヒュンケルもその光景が嬉しかった。
「さて、ではそろそろ本題といきましょうか?エルフの話を……」
ヒュンケルとラーハルトはアバンに向き直る。
「古よりエルフは別名、森の人と呼ばれていて、人がおおよそ踏み入ることのない、深い森の奥に住処を持っているとあります」
「森の人か……だから人に見付からずに存在出来るのか?」
ヒュンケルが訊ねる。
「ええ、確かにそれもあると思います。滅多に森の外には出てこないという話しもありますし、仮に森の外に用事があっても、レムオル等の呪文やきえさり草などを使って姿を消しているのだと考えられます、それに森というのはあくまでも身を隠すという意味の比喩的な表現でもあると思います」
「しかし、何故それ程の警戒をする?例えば呪文を使えれば多少の防衛能力はあるのではないのか?」
今度はラーハルトが訊ねる。
「確かに、ある程度の攻撃呪文も使えると前に文献で読んだことがありますが、それでも性格的なモノやあまり他の種族と接しないところで、より強い警戒心を持っているのだと思われます」
「なるほど……だからバーンがこの地上を破滅させようと動いていても、これまでその姿すら見せなかったのか……」
「かも知れませんね……それに……」
「それに?」
ヒュンケルが訊ねる。
「エルフは天界や魔界に自由に行き来出来るという話しもあります」
「……!?」
これにはラーハルトが微かに反応を示したが、アバンもヒュンケルも気付かなかった。
「なるほど、天界や魔界か……いざバーンによって地上が破壊されても直前に逃げる場所は確保されていたという事か……」
「ええ、そういうところも含めてエルフは不思議な力があるようですね」
「そういえば、メルルにも今回協力をして貰うことになったのだが……」
「メルルさんにも?ですか……?」
「ああ、以前ダイが武器を探していた際に彼女の占いで、ロン・ベルクの工房まで辿り着いたのを訊いてな、もしかしたらエルフの住処も見付かるかも知れないと思ったんだ、それでメルルに昨夜頼んでみたというワケだ」
「なるほど、それは良いアイデアですね、では占って貰えたのですか?」
「いや、とりあえず占いが出来る場所を姫に頼んでみようと思うのだが……」
ヒュンケルはやや遠慮がちに言う。
「そうでしたか、それでは今からお願いにいきましょう!」
「姫はもう手が空いているのか?」
「いや……まぁでも大丈夫だと思いますよ、とりあえず行ってみましょう!」
そうして、三人はレオナの元に向かった。
「メルルに占って貰う?」
アバンとヒュンケルから、先程の話を聞きレオナは頷いた。
「なるほど、考えたわね!それ良いかも♪」
「……?」
レオナの顔が何故かニヤニヤしている。
「あ、あの……姫……?」
「あ、ああ……ヒュンケルの回復の
為ですよね!大丈夫!わかってますよ!メルルはどこかしら?」
アバンはレオナの反応に一抹の不安を感じていたが、とりあえずヒュンケル、ラーハルトと頷き合った。
「で、そのメルルの占いだけど、明日のパーティーでどうかしら?」
レオナの唐突な提案にアバン達は互いの顔を見合わせる。
「俺達は構わないが……」
「そう!なら後はメルル次第かしらね!」
その後、レオナの傍に仕える侍女がメルルを連れて現れた。
「ヒュンケルさん、昨夜の占いの件ですか?」
メルルはヒュンケルの顔が見えると昨日の話を出した。
「ああ、今しがた姫に話をしたのだが……」
「そうよメルル、実はね明日アバン先生がカールにお戻りになるので先生のお見送りパーティーと復興に向けての決起パーティーを合わせて行おうと思ってるんだけど、そこであなたがヒュンケルからお願いされた占いをお願い出来ないかと思って……どうかしら?」
レオナはメルルに提案をする。
「え、ええ…私は構いませんが、ヒュンケルさんやアバン様はよろしいのですか?」
メルルらしく、アバンとヒュンケルを伺う。
「私は全然構いませんよ、それどころかメルルさんの占いをみせて頂けるなんて有難い事ですから、是非ともお願いしたいところです」
「ああ、俺も同じ意見だ……宜しく頼む…」
アバンもヒュンケルも頭を下げる。
「は、はい!頑張ります!」
「よし!これで決まりね!あ、メルル一応他の占いもあるかもしれないからそこんところもお願い!」
レオナはメルルの前で両の手のひらを合わせてお願いポーズをする。
「他の占い……ですか?」
「ええ、皆きっとあなたの占いには注目するだろうから、少しだけ盛り上げて♪」
「は、はあ……」
「御礼はたんまりするから♪」
レオナは何か思惑があるのか、まだニヤニヤしている。
「え、ええ…御礼は必要ないですよ……私でお役に立てるなら……」
メルルはレオナの思惑が読めず少々引き気味だ。
「では、そういう事でメルルさんのお力をお借りしましょう、宜しくお願いします」
アバンはもう一度メルルに頭を下げるとヒュンケルもそれに習った。
「面倒を掛けて申し訳ないが、宜しく頼むメルル」
「い、いえ……なんとか頑張ってみます……」
メルルは控えめではあったが、それでもしっかりと頷いた。
その後、アバンはヒュンケル達と別れて、再び明日の出立の挨拶回りに向かった。
ようやく勝ち取った世界の平和を維持していくことも復興と合わせて大事な国の事業なので、原作本編でもサミットの回などもあった様にレオナも国首としてそして、アバンも時期国首としての立ち位置を改めて明確にしておこうと思いました。
ヒュンケルとの会話では、アバンの博識さをもう少し足しても良かったかも知れませんが、後のメルル活躍部分も取っておきたい気もしたので、そこそこにしておきました。エルフの世界に展開が広がれば、またアバンの博識さの活躍の場が出せるかと思います。