新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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帰還 Ⅲ

  ─想い 愛言葉─

 

 マァムがマトリフのルーラでネイル村への帰路に就いてから暫くして、アバンはポップがいる部屋の扉をノックした。

 コンコン…!

「はい……!」

 ポップが応えて扉を開けるとアバンが柔らかい笑顔でそこにいた。そのアバンの表情をみてポップはマァムが無事に旅立った事を改めて察した。

「マァムは無事に旅立ちましたよ」

「そうですか……良かった……アイツ……何か言ってました……」

 慣れない手紙を書いた事が照れ臭かったのかポップは顔を逸らして言う。

「いえ、特には……」

「え……?」

 アバンの言葉にポップはやや拍子抜けに言う……しかし……

「ですが、あなたの手紙を優しく胸に納めていましたよ……沢山の涙と共に……」

 ポップはそのアバンの言葉と優しい眼差しを心に深く感じた。そして、アバンの言うマァムの涙を思い浮かべて暖かい気持ちになった。

「それに、レオナ姫とメルルさんがマァムをしっかりと支えてくれていました……なので大丈夫、あなたの気持ちは必ず伝わります。だからあなたもしっかりとマァムの事を信じて上げてください……」

 ポップは俯くがすぐに顔を上げる。

「……はい、マァムの笑った顔……もう一度みたいですから……」

「ええ……」

 アバンはポップとマァムの深い絆を心から祝福出来る時が来る事を信じて止まなかった。

「では、私達も行きましょうか?準備は出来ていますね?」

「はい、あ、でもその前になんか姫さんが話があるって言うんで……」

「そうでしたか、わかりました。マァムを見送った皆さんがまだ表にいますので、先に行ってますね…」

「はい、すぐに行きます!」

 そうして、アバンは先に皆の所に向かった。 

 

 コンコン……

 

 アバンが、去って数分後。やや控えめに再び扉をノックする音が聴こえた。

「はい……」

 ポップが扉を開けると、そこにはレオナが俯き加減で佇んでいた。

「姫さん……ん……?どうしたんだ?辛気臭い顔して、マァムや俺がいなくなるのがそんなに寂しいのか?」

 ポップは相変わらずの軽口を叩く、いつもとは違うレオナの重い雰囲気を感じ取り敢えて明るくいつも通りを装ったのだ。

「ポップ君……本当にごめんなさい!!」

「え……?」

 ポップはレオナの謝罪の意味がわからなかった。

「なんだよ?急に……」

 しかし、レオナの瞳は今にも涙が溢れそうだ。

「お、おいおい!?どうしたってんだ!本当に……!?」

 そうしてレオナはポップに昨日のダンス会場での事、自分の浅はかな考えでポップとマァムを傷付けた事、その自身の後悔や情けなさ全ての胸の内を彼にしっかりと伝え、もう一度心から頭を下げた。

「こうして、謝罪することも遅くなって……本当に自分が情けないのだけど……」

「………」

「でも、本当にごめんなさい!!」

 あの普段から気の強いレオナがこうして自分に深々と頭を下げているのが不思議に思ったが、ここは真剣にこの謝罪を受け取ろうと思った。

「頭を上げてくれよ姫さん……わかったよ……」

「ポップ君……」

「でも、別に俺は姫さんに怒ってなんかないぜ?」

「え……?」

「怒ってるとしたら……マァムから逃げていた俺自身にだ……」

「………」

 ポップは目を閉じて深くマァムを想う。そして、ゆっくり目を開けて語り出す。

「昔っから俺ってさ、大好きになった子に思い通りにいかねぇと、つい心ない言葉をぶつけちまってさ……わかってた筈なのに……また、マァムを傷付けた……」

「ポップ君……でもマァムは……」

「ああ……だから、アイツへの手紙には今の俺の胸の内を全部書いた……やっぱり、俺……マァムの事が……好きだから……よ……」

 ポップは顔を紅くしながらもそれでも真剣な目でレオナに告げた。そして、レオナもそんなポップの言葉と眼差しに心から安堵した。

「それに、俺は姫さんに感謝してるんだぜ……」

「え……?」

「マァムの事……支えてくれたんだろ?」

「え……どうして……?」

 レオナはポップの言葉の真意を訊ねる。

「さっきアバン先生に訊いてさ……メルルと一緒にマァムのことを支えてくれてたって……」

(「アバン先生……」)

 レオナの心にアバンの笑顔が浮かぶ。

「そうだったの……先生が……」

「へへっ……やっぱり先生はすげぇな……ちゃんと見ててくれてんだ……俺達の頑張りを……」

「そうね……本当に素敵な先生……」

 ポップもレオナも柔らかい笑顔を交わしてアバンの偉大さをしみじみと感じ入った。

「ポップ君、あのそれと……もう一つ……」

「ん?なんだい?」

 レオナの瞳には憂いと力強さの両方が浮かぶ。

「ダイ君の事なんだけど……」

「ダイ……!?何かわかったのか!?」

 ポップは思わず声を上げる。

「ううん!違うの、相変わらず目新しい情報はないんだけど、彼の捜索隊をこのパプニカで立ち上げようと思うの」

「ダイの捜索隊!そっか、そりゃあいいな!!国が動いてくれれば世界中探せるかも!?」

「うん、それでね……焦らせるつもりはないから、故郷であなたもしっかりと休んで貰いたいのだけど……」

「その捜索隊に加わればいいんだろ?」

「ポップ君……」

「実はさ師匠にもアバン先生にも言われてたんだ……ダイの帰還は絶対に果たされなきゃならないって……でも、それはアイツの帰りをただ待つんじゃなく俺達の方からアイツを探しに行くって事でも全っ然アリって事だろ?しかも、姫さんがそうして捜索隊を立ち上げるなら俺がそこに加わらねぇ理由なんかあるワケねぇじゃねぇか……!」

 ポップの言葉に彼が自分と同じ考えでいた事を知り、レオナはこの時ほど頼もしく、また嬉しく感じたことはなかったかも知れない。ダイの隣にはずっとこの緑衣の少年がいた。彼がずっとその傍らにいたからこそ、ダイも戦い続けられた。レオナとはまた少し違う意味と思いでポップはダイの帰還を求めているのだ。

「そうね……うん!だから、必ず帰ってきてね!!」

「おうっ!!任せて頂戴!!」

 ポップは笑顔で頷き、レオナも満面の笑顔で返した。

 

 風が穏やかに流れている。トレードマークの黄色いバンダナを優しく撫でるその風が、柔らかい春の暖かさと清々しさを届ける。

 そして、目の前には熾烈な大戦を共にくぐり抜けたかけがえのない仲間達が自分を迎えてくれていた。

「ポップ……」

 最初にポップの前に歩み寄りその手を差し伸べたのは、アバンの使徒の長兄であり、ポップの兄弟子であるヒュンケルだった。

「ヒュンケル……」

 二人の間にそんなに多くの言葉はいらなかった。がっちりと交わした握手の中で、二人の硬い信頼と絆は誰の目からみても明らかなものだった。ただ、一言……

「マァムの事を頼むぞ……」

 ポップはヒュンケルのその言葉にやや驚いたが、すぐに笑顔をみせて真剣な目で告げる。

「ああ、任せとけ……」

 しかし……!

「なぁぁぁにが!!!任せとけだ!!!!」

「………!?」

「このおぉぉぉーー!!!!」

 なんと、チウが突然叫び声を上げて右手を振り上げポップに突っ込んでいく。

「お!おい!?チウ……!?」

 クロコダインが慌てて止めようとするが……

「まぁまぁ待てよ、クロコダイン……」

 ヒムがクロコダインを制する。

「ヒム……お前……!?」

 見ると、チウはポップに突っ込んだもののその短い腕ではポップに届かずいつかの様に頭を押さえられてポップになんなくその突撃を止められていた。

「くっ……!?お前なんかが!?お前なんかがっ!!どうして!!どうして!!マァムさんとっ……!?」

 チウは真剣な強い眼差しでポップを睨み付ける。しかし、その目には嫉妬は籠っていても不思議と憎しみはなかった。

「チウ……」

 ポップはそんなチウの眼差しを真剣な表情で受ける。

「いいかっ!!覚えておけよっ!!マァムさんを泣かしたら、このボクが絶対に絶対にお前を許さないからなっ!!!!いいかっ絶対にだぞっ!!!!!!」

 チウの魂の叫びだった。

「わかった。男と男の約束だ。」

 ポップはチウの熱い言葉とその思いをしっかりと受け止めて誓った。

「よく言ったぞチウ……」

「ああ、カッコ良かったぜ隊長さん……」

「クロコダインさん……ヒムちゃん……」

「うおぉぉぉ~ん!!」

「隊長~!!」

「なんだかわからないけど隊長カッコ良かった~!!」 

 すると、なんと物陰から獣王遊撃隊のメンバーが駆け寄ってきた。

「お、お前達っ!?今日は待機のハズなのにっ!?」

「だって隊長カッコいいから~!!」

「うおぉぉぉ~ん!!」

「ゲロゲロ~!!」

 よくわからない理由で、どうやらチウにこっそり着いてきていた様だった。

「お前達~!!!!」

「やれやれ、なんなんだこりゃ……」

 涙ながらに遊撃隊と抱き合うチウにヒムが呆れている。

「フフッ……まぁチウにはアイツ等もいるし、俺達もいるしな……すぐに立ち直るだろう……ポップ、騒がせて悪かったな……」

 クロコダインとヒムがポップの前に歩み寄る。

「おっさん……ヒム……」

 がっちりと二人と握手を交わして互いの今後の健闘を祈り合う。

「お前には本当に色々と世話になった、礼を言う……ゆっくりと故郷で休んだらまた会おう……」

「こっちこそありがとうな……しっかし、こんな強面のオッサンに有り難がれるとはな……人生わかんねぇな……?」

「ワハハハ!!いつもの軽口が訊けて安心したわっ!!」

「ヒヒ……」

「ポップよ、俺もお前には感謝してるぜ……」

「ヒム……」

「忘れねぇぜ……最終決戦……一緒に大魔王バーンに立ち向かったこと……それに……ハドラー様とのことも……」

 ヒムはあのバーンとの最終決戦でポップの策を信じラーハルトと共にバーンの天地魔闘の構えを破る事に尽力した時の事を振り返った。そして、ハドラーの事も……

「ヒム……俺もだ……忘れたくても忘れらんねぇよ……それに、お前も勿論そうだが、ハドラーも今となっちゃ俺達の仲間だと思ってる……」

「ポップ……」

「……!?」

 ポップのその言葉にヒムともう一人……かつてのハドラーの宿敵であったアバンも陰ながら反応を示す。

「努力して、努力して、アイツは俺達に何度も立ち向かった……でも、それは俺達人間と同じ生き方だ!敵味方ではあったが、最後のあの瞬間……俺はハドラーを仲間だと感じたんだ……だから、そんなハドラーをお前はずっと誇りに思っていいんだぜヒム……」

 ポップはハドラーの最後を見たあの瞬間に感じたことをヒムに熱く語った。

「……バッ…!バッカ野郎!!そんなの!!お前に言われなくったって!!わかってるつーの!!へへっ……」

 ヒムの目に熱いものがある。照れ臭そうにそれを拭いながらヒムはもう一度ポップと硬く握手を交わした。

 そして、アバンはその光景を柔らかい眼差しと誇らしい気持ちで見つめていた。

 と、そんな中で突然ポップの目の前にある男の手が差し出された。

「……!?」

 ポップがその顔を上げると、ラーハルトが目の前に佇んでいる。

「ラーハルト……」

 ポップはその手を握ると彼もまた、強くポップの手を握った。

「ダイ様とのことでは、お前にひけを取るワケにはいかん……だが、お前と共に歩めばダイ様を必ず探し出す事が出来ると信じている……」

「ラーハルト……ああ、俺もだ……ダイの帰還には必ずお前の力が必要だ、頼むぜ……」

「フン……そこで泣きべそかいている金属男と同じことを言わせる気か……?」

「あん?なんだとっ!?」

 ラーハルトの言葉にヒムが突っ掛かる。

「お前に言われなくてもわかっているという事だ」

「はははっ!まぁそうだなっ!」

 ポップはラーハルトともう一度熱い握手を交わした。

 そして、今度はポップがその歩を進めてある人の前に立った。

「メルル……そう泣くなよ……」

「ごめんなさい……でも…でも……」

「一生会えないワケじゃないんだしよ……色々とありがとうな……メルル……」

 泣きじゃくるメルルにポップは優しく告げる。

「私こそ……ずっと、ポップさんには助けて貰ってばかりで……それなのに何も出来なくて……」

「おいおい!何言ってんだよ?助けて貰ってたのはこっちの方だぜ?ダイの剣を探しに故郷のランカークスに行ったのだってそうだし、それに……バーンとの最終決戦の最後の最後でお前は俺に力をくれた……だから、俺は立ち上がれたんだ……忘れないぜ……本当にありがとうな……メルル」

 メルルはポップの言葉の一言一言がその胸に染み入る思いだった。優しく暖かい、大好きな人の言葉がメルルの瞳に更に涙を溢れさせた。

「ポップさん、大好きです……だから私……マァムさんには負けませんから!」

「メルル……!?」

 メルルの宣言にポップは驚いたが、ふとみるとレオナがなんだかニヤニヤしている。

「な、なんだよ!?姫さん!?」

「頑張ってね、ポップ君♪」

 ポップが慌ててレオナに声を上げると、レオナは小悪魔のように笑っている。

「絶対楽しんでるだろこの状況~」

「とんでもない!真剣よ私わ♪」

 メルルを始め皆が苦笑しながら、ポップとレオナの掛け合いを見つめる中、レオナは改めてポップに向き合う。

「それじゃあ最後に私も……」

 スッと差し出された小さな手をポップは優しく握る。

「さっき色々と伝えちゃったから私からは殆ど何もないけど……ある人から伝言を預かってるわ……」

「……?ある人……?」

 ポップの問いにレオナはコクリと笑顔で頷く。

「マァムからよ……」

「え………」

「覚悟はいい……?」

「か、覚悟……!?あ、ああ……」

 レオナの物言いにポップは少し緊張しながら応える。

「“信じて欲しい。だから私もあなたを信じてる。"」

「……マァム……」

 短いが、そこにはマァムの純粋な想いが込められていた。そして、深く深くマァムの事を想い、マァムの言う信じるという事をポップは改めてもう一度、自分の心で考える事を誓った。

「しっかりと受け止めて上げて……あの子もしっかりと自分と向き合っているから……」

 レオナは友としてマァムのその純粋な想いをポップに告げた。

「ああ、わかった……ちゃんと……しっかりと俺も自分と向き合うよ……」

 ポップは自身に、そしてマァムに心から誓う。

 そして、あの時マァムがくれた未来を共に掴もうと言ってくれた言葉……そして、マァムが大戦後の未来にはきっと違う自分になれる気がするという言葉もポップはこの時、思い出していた。

 あの星空の下で彼女が見せた笑顔は、その一つの答えだったのかも知れないと……ポップはそう思えてならなかった。

(「本当に……お前を好きになって……本当に良かった……マァム……」)

 

 そして、アバンと共にポップもまたルーラで故郷ランカークスへの帰路に就いた。

 仲間達が見上げた空は、マァムを見送った時と少しも変わらず蒼く澄み渡っている。穏やかな風と春の香りが優しく深くパプニカに清々しさを運んだ。

 

 




 前回のマァムのから、今回はポップのエピソードとなりました。ポップとマァムとの違いを考えた時に、ポップの場合は仲間一人一人とのエピソードがしっかりあるキャラなので、この別れのシーンでは、出来る限り一人一人との絆を表現するように心掛けました。また、そんな中でもポップらしさも出すようにしたつもりなので、爽やかな中にもポップらしさが伝わっていましたら何よりです。
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