新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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ポルトスのピラァ  

 

 ─拳聖の提言─

 

「フム……流石はレオナ姫じゃな……早速動き出したようだ……」

 ロモス王国のシナナ王は先刻パプニカから届いたレオナからの書簡に頷きながら目を通していた。

「我が国は比較的他の国に比べて魔王軍による被害はさほどでもなかったが、パプニカも少しずつ復興が成されているようじゃな……後は……勇者か……」

 そう呟くとシナナ王は側近を呼び、自国の精鋭部隊で編成した勇者ダイ捜索隊の進捗状況を確認した。

「以前の武術大会のメンバーと兵士から選抜した精鋭で、ダイ様の捜索においての立案等を上げて準備は着々と進んでおります」

「そうか……ダイは我がロモスを二度も救ってくれた勇者じゃ、なんとしても探し出さなければならん!今パプニカ王国のレオナ姫から送られてきた書簡にもあったが、あちらも勇者ダイ捜索隊の結成を決め着々と準備を進めておるそうだ」

 書簡に書かれていたパプニカの現状を話し、更に側近にはカール王国への復興支援の為の派遣隊についても訊ねる。大戦から五日経った現在、ロモス王国は既にカール王国への復興支援の為の手筈を整えていた。

「レオナ姫の陣頭指揮も全く見事なものじゃ……して、カール王国への復興支援の派遣隊じゃが、予定通り今日向かうのじゃな……」

「はっ!つきましては、国王様に出発のご挨拶をさせて頂きたいと派遣隊の隊士が申しておりますが……」

「そうか、ワシも激励の言葉を贈りたかったからのう……よかろう」

「かしこまりました!!それでは派遣隊へ伝えて参ります!」

「うむ、よろしく頼む……」

 シナナ王は側近にそう告げると、再びレオナからの書簡に目を落とす……すると、一人の兵士が突然声を上げて駆け込んで来た。

「国王様!!大変でございますっ!!」

「……!?なんじゃっ!?どうした……!?」

 兵士の様子にシナナ王も慌てて顔を上げる。

「はっ!只今あの拳聖ブロキーナ様がお越しになられまして……」

「なんとっ!ブロキーナ殿がっ!?お、おお!?すぐにお通ししなさい!!」

「はっ!かしこまりました!!」

 シナナ王はマァムの師匠でもある武術の神ブロキーナの来訪に驚きながらも一報を伝えに来た兵士に命じた。

 

「来たよ~ん♪」

 やがて、ロモス王の前でもピースをしながら茶目っ気たっぷりに登場したブロキーナ。やや苦笑しながらも、シナナ王は拳聖と名高い彼を丁重にもてなした。

「これはブロキーナ殿、あの武術大会以来ですな……して、今日はどうされました?」

 シナナ王が来訪の意図を訊ねるとブロキーナは真剣な表情で言う。

「足首くねくね病のリハビリを兼ねて山から降りて街に買い出しに来たんじゃが……」

「は、はぁ……」

「それとは別にちと気になる事がありましてな……ロモス王の耳にも入れておくべきかと……」

「気になる事……?」

 そう言うとブロキーナはシナナ王の傍らの従者達にチラッと視線を向ける。シナナ王はそんなブロキーナの意図を汲み取り、彼等に命じた。

「そなた等はすまんが、少し外してくれ……」

 従者はそれぞれが顔を見合わせると、皆一様にシナナ王に頭を垂れて場を後にした。

「ブロキーナ殿これでよいじゃろうか?」

「いやいや、大袈裟にして申し訳ない……ただ、少しデリケートな話しなのでな……実は昨日あのロン・ベルク殿とこの大陸に聳え立つピラァの周辺で出くわしましてな……」

 そう言うとブロキーナは神妙な声色で語り出した……

 

 昨夜の事……ブロキーナは数日前にあのバーンパレスから、このロモス王国の北西にあるポルトスという町に投下されたピラァ・オブ・バーンの周辺を見回っていた。

「ふむ……かつては小さいながらも活気に満ちて賑わっていた町が跡形も無くなるとは……なんと酷い事よ……」

 ピラァ・オブ・バーンが投下された地はその強大な衝撃によってその全てを破壊し尽くされ、跡には巨大なクレーターしか残らない。それはまさに大魔王バーンが地上に穿った恐るべき破壊兵器だった。

 ブロキーナはこの町がまだ健在だった頃に、よく山から降りて日常品の買い出しに来ていた。そんな折に触れて顔見知りになった町の人間も決して少なくはなかった為、ブロキーナの黒眼鏡の奥の瞳には悲壮と憤怒の色が滲んでいた。

「大魔王バーンが倒れたとは言え、人々の悲しみや不安が全て消えたワケではない……今はまだ、勝ち取った平和に浸る日常が許されているのだろうが……」

 大魔王のピラァ投下によって、既に跡形もなくなったポルトスの町。ブロキーナはその場所を見つめながら一人、感慨深く呟いている。

 すると……

「ああ、全くその通りだな………」

 ブロキーナの呟きに応える声。だが、その気配に既に気付いていたのか、彼はさして驚きもせずにゆっくりと振り返った。

「ホホッ……お主も来ておったか……ロン・ベルク殿……」

「あの時は、可笑しな道化のなりをしていたが……あの拳聖ブロキーナがこんなところで感慨に耽っている場に出くわすとはな……」

 バーンパレスが地上に落ちた時、ブロキーナはポップ達と共に無事に墜落の衝撃を逃れて地上に降り立った。その際にロン・ベルクはビーストくんになりきっていたブロキーナと顔を合わせていたのだ。

「お主も何かを感じておるようだの……このピラァに……」

 ブロキーナは聳え立つピラァを忌々しく見据える。

「……も……という事はアンタもか……?」

「確信はないがのう……だが、やはり解せんのでな……こんな大層で尚且つ厄介な代物……準備する方とて容易な覚悟ではなかったろうに……」

「確かに……あの頂には死の大地を消し飛ばした10倍の破壊力を持つ黒の核晶(コア)があるからな……」

 二人は静かな戦慄を覚えながらピラァの頂を見つめる。

「バーンが語った六芒星の意味は、本人曰く魔法力増大の狙いがあったというが……」

「それだけではない……ということだな……?」

「まぁさっきの言葉通り……確信はないがのう……」

「俺も各地にこうして聳えるピラァがどうにも気になっていてな、これまでいくつかの地をまわって来て、このロモスの地のピラァで四本目だ……それで、この周辺で何か解ったことはあるか……拳聖よ……」

 ロン・ベルクは真っ直ぐとブロキーナを見据えて訊ねた。すると、ブロキーナもロン・ベルクの眼を見据える。

「かつてこの地にはポルトスという小さな町があった……」

「ポルトス……その町があのピラァの投下で一瞬で消え去ったというワケか……」

 ロン・ベルクは数日前にはその町があったであろう巨大なクレーター跡に目を向ける。

「そこに住む人々の全てがのう……じゃがそのポルトスの町はその昔にある恐ろしい出来事があった舞台でもあるのじゃ……」

「恐ろしい出来事?」

 ブロキーナは頷くとゆっくりと語り出した。

「今からおよそ14年前の事……この辺り一帯の町や村で幼い女児だけにある呪いが掛けられた事があった……」

「呪い……?」

「うむ……しかも生まれてから二~三歳くらい迄の女児ばかりでの……」

「妙だな……それで、具体的にどんな呪いだったんだ?」

 ロン・ベルクが訊ねるとブロキーナは更に神妙な面持ちになる。

「呪いに掛けられた女児は全て高熱に晒され、虫の息となる状態にまで命の危機に陥った……そして、その女児の親の元には魔族と思われる者からメッセージが送られてきた」

「魔族?」

「お主も知っておるじゃろ?かつてハドラーも使っておった鏡を使った通信呪文じゃよ……」

「そういう事か……確かにそれを使って来たなら先ず間違いなく魔族だろう……しかし、何故女児ばかりが……しかも、そのメッセージとは……?」

「送られてきたメッセージには"月満ちる時……闇に捧げる澄んだ瞳を選ばん"とだけしかなく字面の内容は解るがその意味するところが全く理解出来なかったそうじゃ……しかし、幸いにもある男の活躍でその子供達の呪いは解かれることになった……」

「ある男……?」

 ロン・ベルクは怪訝な表情でブロキーナに問う。

「かつて勇者アバンと共にハドラー率いる魔王軍に立ち向かった戦士……ロカという男じゃ……」

「なんだと?ロカというと、あの武闘家の娘の……」

「おや?知っておったか……そうじゃワシの弟子でもあり、アバンの使徒の一人マァムの父親じゃよ……そして、そのマァム自身もまた幼いその頃、他の子供達同様にその呪いを掛けられておった……」

「しかし、その呪いを掛けた相手も魔族という事しか解らんのに、どうやって戦士ロカは呪いを解いたのだ?」

 ロン・ベルクは最もな質問を投げ掛ける。

「確かにのう……しかもロカ殿は戦士……あらゆる呪法や魔法に精通しているアバン殿やマトリフ殿ならまだしも、彼にはその様な知識も殆どなかった……だが……」

「だが……?」

「たった一つだけ……ロカ殿がその魔族の呪いを解く方法を見付けたのじゃ……」

 ロン・ベルクは静かにブロキーナの次の言葉を待つ。

「それは自分自身にその呪いを移すという方法だった……」

「……!?」

「その当時は魔王ハドラーが倒れて一年が経とうとしていた頃でのう……各地の復興もほぼ成されて、まさに世界は平和そのものじゃった……しかし、この地域一帯だけはその呪いに人々が苦しめられていた……中には苦しむ我が子が不憫で共に死のうとした親までいた程じゃ……だが、そんな時……ロカ殿はそのポルトスの町に残るある言い伝えを訊いた」

 ブロキーナは更に語る。

「ポルトスの町はその昔、ある一人の高名な魔道士が世界中を回り、その長い旅路の末に腰を落ち着けた地であった……そして、その際にその魔道士はあらゆる呪法や魔術の知識を収めた世界でたった一つの魔導書ミーミルの書を残した」

「ミーミル……ミーミルとは確か天界、魔界、そしてこの人間界全ての知識を有すると言う知の神の名だ……」

「うむ、恐らくはその知の神ミーミルにあやかって付けられたのじゃろうな……そして、その名の通り優れた魔導書であった……」

「その魔導書にあったのだな……その呪いを解く方法が……」

 すると、ブロキーナはある方向を指差した。

「ポルトスの町に代々受け継がれて来たその魔導書にはこうあった……町の北東の洞窟に満月の夜、あらゆる呪いを取り除く不思議な実をつける木があると……しかし、その実は呪いを掛けられた者ではなく、呪いを解く者が口にしなければならないと……」

「どういう事だ?」

「その実はあらゆる呪いの力を解くと言ってもその呪いを消すというのではなく、吸収するという性質のモノだったらしくてのう……しかもその実はそれを食した者にその呪いを吸収させて掛けられた呪いを移すという代物だったのじゃよ……」

「という事は戦士ロカはその実を……?」

「うむ……しかも、その実は元々は魔界の木になる実だった、その為ロカ殿がその実を口にすれば、その呪いを吸収し解くと同時にこの人間界では生きていく事が出来なくなってしまうという事がそのミーミルの書にあったという話しだった……」

「確かに地上の人間が魔界の食物を口にしてタダで済むワケはない……そうか、そんな事がな……」

「そして、この話はロモス王も知っておる……ロモス王国内の一部とは言え、その町や村で起きた事だったからのう……当時のシナナ王も頭を抱えておったのじゃ……」

 ブロキーナは遥か遠くのロモス城を眺めて言った。

「そうか……つまり、それで戦士ロカは……」

 ロン・ベルクはロカが子供達に掛けられたその謎の呪いを一身に受けて、自らが犠牲になったと理解した。

「それにしても随分詳しいが、アンタもその時に出くわした事なのか?」

 ロン・ベルクが訊ねる。しかし、ブロキーナはゆっくりと左右に首を振った。

「ワシも後から訊いた話しじゃ……ロカ殿の妻であるレイラ殿からのう……ワシだけでなく後にアバン殿やマトリフ殿もロカ殿の事を悔いておったが、その呪いは満月の夜までに解かなくては子供達の命が危うかったからのう……ロカ殿はアバン殿達に相談する時も無く、自らを犠牲にするといった選択しかなかったという事じゃった……」

 ブロキーナの脳裏にはロカを失ったレイラの哀しげな表情が浮かぶ……そして、同時にその悲しみを堪えながら優しくマァムに微笑むその温かな表情も浮かんでいた。

「なるほどな……この地にはそんな忌まわしい出来事があったのか……だが、あの聳え立つピラァと今の話はどういう繋がりがあるんだ?」

「うむ、ワシなりの見解なのじゃが……さっき話しに出た呪いを移す実。それはポルトスの町の北東にある洞窟の魔界の木になると言ったが、実はその洞窟がまだ存在しているのじゃよ……」

「バーンのピラァ投下によって町同様に消え去ったのではないのか……!?」

 ロン・ベルクのその言葉にブロキーナは意味深に頷く。

「ならば、ちょいと行ってみようかの……その洞窟付近まで……」

 そうして二人は、北東の洞窟まで足を向けた。

 

「これは……!!!?」

「さすがのお主も驚いたようだのう……まぁ、最もそういうワシも始めにこれを見た時は目を疑った……」

 ブロキーナの案内でロン・ベルクがポルトス北東の洞窟付近に到着すると、その一帯はまるでバーンのピラァ投下の被害を避けるようにその場の全てがその崩壊を免れていた。

「ピラァ投下の際に出来たクレーターさえもここまで広がってはいないな……」

「まるで、この先の洞窟に敢えて影響を及ぼさない様に予め破壊させる範囲を計算していた様にもみえるじゃろう?」

「ああ……むしろそうとしか思えん……やはり何か有るようだな、その洞窟に……微かだか俺の様な魔族にしかわからない物騒な空気も感じる……」

 ロン・ベルクは洞窟がある方向に鋭い視線を向ける。

「ふむ……この洞窟はロカ殿の活躍でその忌まわしい呪いが解かれてから解呪の洞窟(げじゅのどうくつ)と言われておる……しかし、魔族のお主が何かを感じるというなら、やはり放っておけない何かがあるようじゃのう……」

 ロン・ベルクはブロキーナの言葉に黙って頷くと一つ忠告した。

「それとこの大陸の管轄はロモスだったな、念の為にロモス国王の耳にも入れてこの付近に人を近付けさせない様にした方が良いだろう……」

「うむ、そうじゃな……国王には明日にでもワシが城に出向いて伝えておこう……」

 そうして、ブロキーナとロン・ベルクはその場を後にした。

 

 そして、再びロモス城………

「と、まぁそんな話しになりましてな……」 

 ブロキーナはシナナ王にロン・ベルクとの邂逅からの経緯をひとしきり話した。

「なるほどのう……そのロン・ベルクとかいう魔族にワシは面識はないが、ダイに与えたあの覇者の冠からダイの剣を作り上げた男だったらしいですな……」

「うむ、そして大魔王バーンや更に魔界の事においてもワシ等より遥かに精通しておりますからな……彼の言葉は気に止めておかれるが良いかと……」

 ブロキーナはシナナ王にロン・ベルクの意見を進言する。

「わかりました……ただ、まだ詳しい事はわからないようじゃから国民はもちろん家臣達にも不安を広げない様にこちらも他言しない様に慎重に捉えるとしよう……」

「そうですな……ワシもアバン殿やマトリフ殿には相談してみるつもりじゃが、なるべく情報は広げんように少し秘密裏に動いた方が良いでしょうな……」

 そうして二人は、ポルトス北東の解呪の洞窟の件に関しては、共有しながらも慎重に扱う事を決めた。

「それとブロキーナ殿……やはりマァムには……」

 更にシナナ王はブロキーナに神妙な表情で訊ねる。

「ロカ殿の事ですな……いずれはレイラ殿からマァムに話をされるかと思うが……こればかりは親子の事であるが故に、やはり我々がおいそれとは口を出していいことではないでしょうな……」

「うむ……そうですな……しかし、思い返せば、マァムはなんと不憫な子であろうか……」

 シナナ王も過去にロカやマァムの身に起きた事を知っていた為、彼等の事を深く慮った。

「じゃが、あの子ならきっと乗り越えられるじゃろう……頼もしい仲間がおりますからな……」

 ブロキーナはそう言いながらニコッと笑顔を見せる。

「そうですな……ブロキーナ殿、今日は貴重な話を感謝致しますぞ」

「いやいや……年寄りがでしゃばる様で申し訳ない……ただ、本当に何もなければ良いのだが……」

「ええ、本当に……」

 その後、ブロキーナはロモス城を後にして、自身の住処のある山へ帰って行った。そして、道中聳え立つピラァを目にしながら、ブロキーナは底知れない新たな驚異の予感を感じずにはいられなかった。

 

 




 少しずつ魔界に繋がる物語が進みます。更にここでロカの真相を書いていこうと思います。死んだと思われていたロカでしたが、本編でその詳細が語られる事はなかったので、オリジナルストーリーになりますが、魔界とロカの繋がりから物語を作りたいと思います。更に解呪の洞窟もドラクエっぽさを意識して楽しんで書いていこうと思います。
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