─ネイル村─
ポップ達がパプニカからランカークス村に出立する少し前、既にマァムはマトリフのルーラで故郷ネイル村に到着していた。マァムは深呼吸をしながら久し振りの故郷の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
「どうだ?故郷に帰ってきた気分は」
「うん!やっぱり安心するわね……ありがとうおじさん!」
マトリフがそう語り掛けるとマァムは笑顔で頷いた。と、その視線の先にマァムはずっと逢いたかった人の姿を捉えた。
「母さんっ!!」
「……!?マァム!!あら、マトリフも!?」
「ただいま母さん!!!」
「お帰りなさいマァム……本当によく頑張ったわね……」
レイラは柔らかく暖かい微笑を湛えながら娘の労を労った。
すると、マァムの姿に気付いた村人達も次々と顔を出す。
「おお!?マァムじゃないか!」
「おかえりマァム!!」
「おかえり!!」
「マァムお姉ちゃん!おかえりなさい!!!」
「みんな……ただいま!!」
皆がマァムの帰りを喜んでくれている、マァムはその光景に心からの感謝と安堵を感じていた。
「マトリフもありがとう、わざわざマァムを送ってきてくれたの?」
レイラはマァムの傍らに佇むかつての仲間でもあるマトリフに優しく礼を述べる。
「へへっまぁな、この間はちっとしか顔出せなかったしな……ん?」
見るとマァムの母レイラの足元にしがみついてマトリフを避けるように怯えている少女がいる。
「どうしたの?ミーナ」
「だ、だって……このおじちゃん…この前ポップお兄ちゃんに意地悪してた……」
「へ……?あ、ああ~あの時か……」
「あの時?」
マァムがマトリフに訊ねる。
「ポップ君の修行でここに来た時ね?」
マトリフの代わりにレイラが答える。
「ああ、彼がおじさんにルーラを教わった時ね!大丈夫よミーナ!このマトリフおじさんのおかげでポップはとっても強くなったのよ!」
「え!?本当に……?」
「うん!凄く頼りになるんだから!!それに私だって小さい頃はマトリフおじさんによく遊んで貰ったわ……ね♪おじさん!」
マァムがそう言ってマトリフをみると懐かしそうに呟いた。
「ああ、そうだったな……おっ!?そうだ!じゃあ昔、マァムにもよく見せてやったアレをやってやろう!」
「そうね、今日は天気も良いからきっと上手くいくわ♪」
レイラが空を見上げながら言うとマトリフが言う。
「きっとじゃねぇよ絶対だ!この大魔道士マトリフ様に不可能はねぇ!!」
「フフ♪ええ、楽しみだわ」
「ねぇ何がみれるの?」
ミーナがレイラを見上げて首をかしげる。
「いいものよ♪みててごらんなさい」
そうして、マトリフは少し広い場所に移動する。
「みんな離れてろよ!ヒャド!!」
すると、マトリフは右手にヒャドを作り出し上空高く放った。
「さぁて!お次は……メラ!!」
そして更に上空に放ったヒャド目掛けてメラを打つ。ヒャドがメラの熱で水蒸気に変わると日の光に反射して、上空に綺麗な虹が掛かった。
「わぁ!すごーい!!」
「フフ、ホント綺麗な虹ね♪」
「おおー!」
「キレイ~!」
「マトリフおじちゃん!ありがとう!!意地悪なんて言ってごめんなさい……」
「はははっ!いいさ、気にすんな!よしっ今日は大サービスだ!もっと色々見せてやろう!」
「ほんとっ!?やったぁ!!」
マトリフの言葉に喜んではしゃぐミーナを見つめながらマァムは改めて故郷ネイル村へ帰ってきた喜びに浸っていた。
「マァム……本当にお疲れ様……」
「うん……ありがとう……良かった……帰って来れて……」
「………」
優しい母の眼差しでレイラはマァムを包み込む様に見つめた。
「母さんに色々話したいことがあるの……そうだ!アバン先生が生きていたのよ!!」
「え…!?アバン様がっ!!?」
「な、なんじゃとっ!?それは本当かね!マァム!!」
かつてダイとポップがこのネイル村に訪れた際にアバンはハドラーとの死闘の末にメガンテによってその命を落としたと伝えられたが、マァムはアバンが実は生きていてバーンとの最終決戦を共に戦い抜いた事をレイラや村長を始め村の皆に伝えた。
「そう……フローラ様のカールのまもりで一命を取り留めたのね……」
「ええ、私も本当に驚いたわ……先生の仇を打つ思いでこの村を飛び出したけど……アバン先生が生きて私達の前に姿を表した時は本当に嬉しかったし、最高の時間だった……」
マァムはバーンパレスでのアバンとの邂逅を振り返りながら胸を熱くした。
「うむ!さすが勇者アバン様じゃな!」
「ええ、本当に良かったわ……そういえばカール王国はどうなったのかしら……王女のフローラ様は?」
カール王国が魔王軍の超竜軍団に滅ぼされた話しはここネイル村にも伝わっていた。その為レイラはフローラの事が気掛かりだった。
「大丈夫よ!フローラ様も生き延びていらして、最終決戦には一緒に戦ったのよ!」
「そう…良かった……カール王国が滅ぼされたと訊いた時は本当に気が気でなかったけど、安心したわ……」
「それと……みんなに話しておかなければならない大切な事があるの……」
マァムはそう言うと神妙な表情で改めて皆に向き直り、その口を開いた。
「ダイの事なのだけど……」
マァムはその言葉を皮切りにバーンを打倒した後にダイの身に起きた悲劇を語り出した。黒の核晶(コア)という恐ろしい魔界の爆弾による地上の破壊を防ぐ為にダイが空に消えた事……また、一命を取り留め今は無事に過ごしているとは言え、ダイと同じ様に共に黒の核晶(コア)によってその身が危機に陥ったポップの事を切々と語った。
「そんな……ダイお兄ちゃん……が……」
「ポップ君まで……その様な事に……」
「ええ……でも、私達はみんな……ポップもアバン先生も……ダイは必ずこの地上に帰って来るって信じているわ……」
マァムの確信に満ちたその言葉は村人達全ての胸に強い希望を感じさせた。レイラはそんなマァムを見て魔王軍との熾烈な戦いの中で大切な娘が大きく、そして深く成長をした事を実感していた。
「そうだよ!だってダイお兄ちゃん、またこの村に来てくれるって約束してくれたもんっ!!それに……きっとゴメちゃんだって……」
「え……?」
マァムはミーナの口から思わず出たゴールデンメタルスライムことゴメちゃんの名に反応する。
「あの時、お空が金色に光った日に……私もわかったの……ゴメちゃんがさよならしてるのが……」
「ミーナ……」
「世界中の人達の心が一つになった様な…そんな不思議な感覚だったわね……」
「母さん……」
マァムがミーナとレイラの言葉に驚きを隠せないでいると、村人達も口々にその時の不可思議な現象を語り出した。
「ああ、確かにあの時は驚いたのう……」
「世界中の人となんか一つになった感じだったな……」
「空が金色に輝いて凄かったわ……」
マァムは村人が語るその言葉の一つ一つに耳を傾けながら言った。
「そうね……確かにそうだったわ……ゴメちゃんが最後に起こした奇跡は世界が無くなってしまう危機から私達の世界を救ってくれた……」
「きっとダイお兄ちゃんがゴメちゃんにお願いしてくれたんだよね!」
「うん……」
「だから……今度は私がお願いするの!」
「お願い?」
「うん!神様にダイお兄ちゃんとゴメちゃんにまた会えますようにって!お願いするの!!」
「ミーナ……」
「ああ、そうだぜ!俺達も神様に祈ろう!」
「そうじゃな……勇者とあの無邪気でかわいらしいワシらの友との再開を信じようじゃないか!!」
「みんな………うん、そうよね!ダイもゴメちゃんもきっと帰って来るわ!!!みんなで信じましょう!!!!」
そうして、マァムはネイル村の人々と想いを一つにした。
勇者とあの愛らしい友との再開を心から信じて……。
ここで、一度マァムの話しになります。パプニカからネイル村に帰ってきたその後の話しになりますが、ポイントはマトリフがマァムを送ってきたというところですね。アバンにはポップの両親に対するケジメをつけるという仕事があるから、というのもありますが、死んだと思われていたアバンがネイル村に来てしまうとパニックになるかも知れないし、マァムの帰還がブレてしまうので、マァム/マトリフ ポップ/アバン という組み合わせになりました。
また、ミーナが今回は良いバイプレーヤー的な役割を果たしてくれています。子供ならではの視点で良い話が出来たと思います。名バイプレーヤーの彼女に拍手を送りたいですね