─ランカークス村─
正午まで、まだ小一時間と少し。ジャンクは自分の店である武器屋を開店していた。
しかし……
「やっぱり客は来ないか」
「フフ、そうねでも武器を求めるお客さんがいないってことはそれだけ平和ってことよね♪」
ジャンクのぼやきにスティーヌが笑顔で応える。
「まぁな、しかしそうなると何か違う商売でも始めるか」
「私は構わないけど、何をするの?」
「そりゃあ……………思い付かん」
「そうよね♪せめてポップがいたら、何か良い案を出してくれそうなのに……」
数日前にノヴァからポップの話を訊いたからか、少し寂しそうな表情を見せながらスティーヌが言うと、ジャンクは途端に不機嫌な顔で応える。
「ふん!あんな放蕩息子!帰って来ても口出しなんかさせんっ!!」
「もうっ!またそんなこと言って!」
ジャンクのポップに対するいつもの悪態にスティーヌはため息を突きながら言った。
「だが今回はノヴァ君の報せに心底ホッとしたな……親に心配掛けやがるのは相変わらずだが、アイツはそれでもお釣りが来るくらいの事はやってのけやがった……まぁ帰って来たら今度はぶん殴らねぇでやるさ」
「あなた……」
ジャンクはそう言うとこれもまた相変わらず不器用に息子への愛情を示す。スティーヌはそんなジャンクの言葉に苦笑しながらも優しい気持ちになった。
すると……
ドオォォォーーン!!
「なっ……!?なんだっ!!」
「ウチの店の前ですよっ!?」
突然の衝撃音に虚を突かれて、ジャンクとスティーヌが振り向くとそこには店の扉を開けて照れ臭そうに苦笑を浮かべる一人息子の姿があった。
「お、親父、母さんただいま……へへっ……」
「ポップ!!?」
そして、ポップの隣にはもう一人の人物がいる。
「あっ!!アンタは!!?」
ジャンクがポップの隣にいる人物に思わず声を上げる。
「アバン殿!!!」
すると、アバンは徐に進み出るとゆっくりと、そして深々とその頭を垂れた。
「お父様、お母様、本当に長いことご心配をお掛けしてしまい、大変申し訳ありませんでした!」
アバンは丁寧な姿勢でジャンクとスティーヌに謝辞を示した。
約一年前。アバンはこのランカークス村に立ち寄った際に彼に着いてきたポップを強く止めず、自分への同行を許してしまった。そして、その事で一年以上もジャンク達の気を揉ませてしまっていた。それ故に今日こうしてポップと共にけじめをつける意味で再びジャンク達の元を訪れ謝罪したのだった。
「親父、母さん……俺も改めて謝るよ!でも、本当に悪いのはアバン先生に勝手に着いていった俺だから!アバン先生は責めないでくれ!!」
ポップは懇願するようにジャンクとスティーヌに訴える。
「この大バカ野郎!!お前は黙ってろっ!!」
「……っ!!?」
ジャンクの一喝にポップは怯む。
そして、そのジャンクはゆっくりとアバンの前に歩み寄る。
「あんたには子供はいないのか?」
ジャンクは険しい表情で頭を下げたままのアバンに問い掛ける。
「……はい、おりません」
「そうか……そうだろうな、なら、わからねぇよな……ある日突然、子供を失う親の気持ちなんてよ……」
「親父っ!!」
「ポップ!!!」
ジャンクの発言に思わず抗議の意を示そうとしたポップに、珍しくスティーヌが強く戒めた。
「母さん……」
ジャンクは軽くスティーヌを一瞥すると、更に一歩アバンに近付いて言った。
「けじめだ……さてアバン殿、顔を上げて歯を食い縛ってくれ……」
「なっ……!?親父!?」
ジャンクの言葉にポップは慌てて止めようとする。しかし、再びスティーヌに意味深な強い視線と軽く首を横に振る仕草をされて、思わず動きを止めた。
「はい、わかりました」
そして、アバンはジャンクに言われた通りにその顔をゆっくりと上げた。
すると、同時にジャンクはアバンの前から後ろに下がり、スティーヌを傍らに二人で深々とその頭を下げた。
「えっ!?親父?母さん?」
ジャンクとスティーヌの思いがけない行動にポップは戸惑いを隠せないでいる。しかし、アバンは自身に対して深く頭を下げるジャンクとスティーヌを真剣な眼差しで見つめていた。
「本当に!本当に!息子がお世話になりました!!!」
ジャンクが力強く感謝の言葉をアバンに告げる。
「本当にありがとうございました」
スティーヌは涙声でアバンに丁寧に頭を下げながら、心からの感謝の気持ちを伝えた。
「ど、どういうこったよ!!二人とも!?」
ポップは未だ戸惑うばかりだが、アバンは二人に歩み寄ると優しく言った。
「お父様、お母様、私こそ彼には本当に助けられました。どうかお顔を上げて下さい……」
すると、その言葉にジャンクとスティーヌはゆっくりと顔を上げて柔らかい笑みを浮かべる。
「確かにコイツがいなくなったあの時は、アンタの事を随分と恨んだ……勇者かなんか知らねぇがタダの人拐いじゃねぇか!!ってな」
しかし、そう言うジャンクの顔には笑みが浮かぶ。
「だかな、コイツがダイ君の剣を探してるって帰って来たあの時に、アンタに対するそんなわだかまりなんざ、すっとんじまってよ……それどころか、何をするにも中途で投げ出す半人前にも満たねぇバカ息子をすっかり男の顔にしてくれちまって……だから命を懸けて魔王軍に向かっていったコイツの背中にアンタへの感謝の気持ちが溢れて止まんなかったのさ……」
「親父……」
「アバン殿、コイツにとってもアンタは大事な存在なんだろうが、俺等にとってもアンタは一人息子を強い男に変えてくれた大事な恩人なんだよ……本当にありがとう」
「ええ、本当に……ありがとうございました」
そう言うとジャンクとスティーヌはもう一度深々と頭を下げた。
「私にはポップ君の他に四人の弟子がおりますが、その中でもポップ君は勇気の使徒として、この度の魔王軍との大戦にその限界を越えて挑んでくれました」
「勇気の使徒?」
「はい、ダイ君には純粋、パプニカ王国のレオナ姫には正義、ヒュンケルには闘志、マァムには慈愛、そして……」
「ポップには勇気」
「そうです。そして今日ここに来させて頂き、改めてわかった事もありました……」
アバンの言葉にジャンクもスティーヌもそして、ポップもアバンを見つめる。
「お二方の深い愛情が彼の……ポップ君の強い勇気を支えていたのだということです」
「お、俺達が……?」
ジャンクとスティーヌが互いの顔を見合わせる。すると、アバンは微笑みを浮かべながら頷くとポップを見つめて言った。
「私は、勇気とは何かや誰かの為に困難に立ち向かうといった本当の優しさがなければ決して成り立つものではないと思います。そして、同時にそれは一朝一夕で得られるものではありません。幼い頃から大切に愛情を注がれながら育まれるものだと思うのです。つまり、今こうしてポップ君があの大きな戦いを乗り越えて来られたのは、ご両親の愛情を基盤とした勇気に彼が目覚めたからだと確信しています」
ポップの胸にはアバンの一言一言が熱く染み渡る様だった。そして、気付けば頬に熱いモノが伝っていた。アバンはゆっくりとポップの傍らに立つと彼の肩を強く掴んでジャンクとスティーヌに向き合った。
「お二人の愛情を一身に受けた彼の勇気が、仲間を救いそして、この世界を救ったのです!」
ジャンクとスティーヌにとってはポップとこうして無事に顔を合わす事だけでも深い安堵と喜びを感じていたのに、自分達の一人息子がかつて世界を救った勇者から、再びその世界を救ったとの言葉を送られたこの時には、更にこの上もない喜びに包まれる様だった。
「俺達は普通の家族で普通の親子だ……だが、コイツを鍛えて強くしてくれたのは紛れもなくアンタや仲間の皆さんだ。アバン殿だからこそ、アンタのその言葉しっかり受け取らせて貰うよ」
「ええ、誇りに思います。ポップ、よく……本当によく、頑張ったわね……世界を救ってくれてありがとう……」
「母さん……親父……」
そして、ポップは両親に駆け寄り強く優しく抱き締め合った。
アバンはその光景に胸を熱くする。しかし、次の瞬間にはこれからポップが更なる大きな戦いにその身を投じていく事になるだろう事をジャンクとスティーヌに伝える覚悟を固めていた。
前回のマァムの里帰りに引き続き、今回はポップの帰郷になります。アバン自身のケジメもしっかりつける為でもありましたが、本編での里帰りはパプニカに鬼岩城が襲って来たおかげで、あまりじっくりと感動の再開という感じにはなりませんでしたので、今回は改めて感動の再開としてみました。ジャンクとスティーヌは実際には戦いの中ではあまり出番はありませんが、平和なひとときを描く際には大切なキャラクターですね。