─父ロカの話─
マァムがネイル村に帰省した後、村人達はマァムを労ったささやかな昼の宴を開いた。ネイル村の人々の明るい声と笑顔がマァムの心を暖かく癒してくれる。あの熾烈な戦いを潜り抜け、心からその平和を噛み締めながら、マァムはその柔らかな薄い桃色の髪に爽やかな風を感じていた。そして、そんな時にふとあの緑衣の彼を思い浮かべた。
「ポップ………」
今ここに彼がいたら、どんな気持ちなのだろう……安心感から暖かい気持ちになるのだろうか……それとも、近くに彼の体温を感じて、その存在を意識して、気持ちが落ち着かないだろうか……
ふと見ると、村の人達が皆、笑顔で昼の宴を楽しんでいる。暖かいこの空間に彼がいたら……きっと人懐っこい彼の事だ、あっという間に打ち解けて皆を笑顔にするのだろう……そんな事を想像すると、自然と優しい微笑がマァムの顔に浮かぶ……こう何気ない時にもマァムの中にはポップの事が浮かぶようになっていた……
「どうしたのマァム?」
「………!?」
虚を突かれた様に声の方を向くと、母レイラがマァムの顔を覗き込むようにみている。手にはマァムの為に持ってきてくれたのか、いくつかの料理をのせた小さな皿を手にしていた。
「う、ううん!なんでもないわ!美味しそうね、それ!」
ポップの事を考えていた事が照れ臭かったのか、マァムは慌ててレイラの手にしている皿の料理に目を向ける。
「あなたの好きなものを持ってきたわ♪どうぞ」
差し出された皿をマァムは笑顔で受け取る。
「ありがとう母さん……」
そうしてレイラも自分の皿を膝に置いてマァムの隣に座った。
「こうして一緒に食事をするなんて久しぶりね♪」
「そうね、やっぱりほっとするわ……」
マァムはそう微笑み掛けるとレイラは目を細めて言う。
「たった数ヶ月顔を見なかっただけなのに、随分と成長したわねマァム……」
「そう?私はあまり変わってないと思うけど……」
そんなマァムにレイラが更に言う。
「ううん、なんていうか少し女性っぽくなったかしら……」
「え……!?」
マァムはレイラのその言葉に胸が高鳴った。
「フフ、どこかにいい人でもいたのかしら?」
レイラはマァムの心を見透かすかのように笑顔を向けると、マァムは顔を真っ赤にしている。
「そ、それは……その……」
「あら!ホントにいるの?あなたもそういう年頃になったのね……」
マァムはレイラの言葉にまだ顔を赤らめながらも、意を決して訊ねてみた。
「ね、ねぇ母さん……父さんってどんな人だったの……?」
「父さん?そうね……なんていうか……不器用な人だったわね」
レイラは少し遠い目をしながらも、柔らかな表情で語り出した。
「あなたが生まれた時は、まだ魔王ハドラーとの戦いは決着していなかった……あの当時はまだ、ハドラーは完全にアバン様に倒されたワケではなかったのよ……」
「ええ、ブロキーナ老師から訊いたわ、アバン先生が凍れる時間の秘宝を使ってあの当時のハドラーを一時だけ封印したのよね……そして、そんな時に私が……」
「ええ……ロカはあなたが生まれた時に本当に喜んでいたのよ……でも、本当に不器用で最初はあなたをよく泣かせていたわ……フフ♪」
「そうなの?私、そんなに泣き虫だったの?」
「そうね、でもねあなたが笑うとロカは大はしゃぎでね♪あなたが笑う度に俺が笑わせた!なんて言って誇らしげにしてわ」
「そうなんだ……父さん……そんなに私の事かわいがってくれてたんだ……」
「ええ、それはもう!本当に幸せだったわ……あなたが笑っても泣いてもロカは暖かくあなたを愛してくれた……」
レイラはその優しい表情でマァムをみつめながら、そっと彼女の薄桃色の髪を撫でる……
「母さん……」
「でも、あなたが小さい頃にも父さんの事は少し話したけど……どうして、また彼の事を?」
レイラのその問い掛けにマァムは少し押し黙ると、レイラに告げた。
「実はね……母さんにその……相談したいことがあって……」
マァムは俯きながら言う。
「相談……?」
「うん、私……その……どうしても気になってる人がいて……」
マァムのその言葉にレイラは自分がロカと出会った時の事を思い出していた。
レイラがロカに初めて出会ったのは彼がアバンと共にこの村に訪れた時の事だ。魔王ハドラー討伐の為に旅を続けている最中、アバンがこのロモスの地に住む拳聖ブロキーナの元を訪れる際にこのネイル村に立ち寄ったのだ。
そして、レイラはそんな昔を思い出しながらマァムが今、誰の事を思い浮かべているのかもおおよその検討がついていた。
「そう……だから、急に父さんの事を訊いたの?」
「え……?」
「私達の馴れ初めでも訊いてみたかったのかしら?」
「う、うん……父さんと母さんはどうして、その……」
「そうね……父さんだったから……としか言えないかな……?」
「え……?」
マァムはレイラの言葉の意味が解らずに訊ねる。
「考えたことなかったのよ、ロカ以外の人のこと、この人の隣には私じゃなきゃ、きっとダメなのねってね……」
「それって……」
「アバン様やマトリフと違って父さんは頭より身体が先に動くタイプだから、本当にいつもいつもケガばかりしてね……勿論、それは私やアバン様やマトリフを助ける為というのも解っていたのだけど、いい加減に自分の身の事も考えて欲しかったわ……でもね、結局何も言えなかった……」
「そういえば、マトリフおじさんが無茶ばかりする父さんに小言を言っていたから、母さんは何も言えなかったってアバン先生が言っていたわ」
マァムはあの時、目を覚ます前のポップの傍らで、アバンから訊いた話をした。
「フフ、そうね……マトリフも何かしら感じていたのかもね……でもね、母さんが父さんに何も言えなかったのには、もう一つ理由があるのよ♪」
「理由?」
そう言うとレイラは笑顔で言う。
「一緒にいる時くらいは、笑顔でいたいなぁ~って♪」
「え?」
「もう!やっぱりニブイところはロカゆずりねマァムも!」
「ど、どういうこと?」
マァムはその鈍感さをレオナにも指摘された事があったが、この時のレイラの真意にも気付けなかった。
「つまり、もうその頃には母さんは父さんに夢中だったのよ……好きな人の傍では笑顔でいたかったから……それに、ロカも……」
「父さんも……?」
「ええ、それを望んでくれたから……」
マァムはそう話すレイラの澄んだ瞳に、父ロカへの深い愛情を見た気がした。そして、同時に自分の胸に熱く感じられる感情が、その想い人との時間を浮かび上がらせる。
「そっか……そうね……一緒に笑い合える時間て、本当に幸せな時間よね……」
いつもは、怒ったり呆れたりする事も多いが、それでも共に笑いあった時も沢山あった……そして彼は、あの勇気の使徒は、自分が下を向いた時に優しく、暖かい言葉をくれた。
「あなたもその人との時間、大切にね……」
母レイラのその言葉にマァムは満面の笑みで頷く。
彼との再会はきっともう少し先の事になるだろう……お互いに自分と向き合って自分の中の大切なモノを明確にするには、もう少しだけ時間が欲しい……しかし、それは二人の未来を大切に思うからこその今なのだ。
マァムは改めて誓う。あのバーンパレスで彼に告げた、勝って未来を一緒に掴もうと言った言葉と未来を掴んだその先に、彼を一人の男性としてみていけると言ったあの時の自分の気持ちを思い出しながら、父と母の様に大切な人を深く愛していくという事を……暖かくその胸の中に感じながら。
レイラとマァムの時間はじっくりと書きたいと思っていたので、個人的には良い話を書けたかなぁとほっとしています。
話の中でもありましたが、確かにマァムがネイル村を出てから数ヶ月しか経過してないんですよね。でもその数ヶ月の中でマァムの人生はとても濃密な時間となったのも確かで、その時間の中で出会った仲間や取り分けポップ、ヒュンケルという二人の男性はこれからのマァムの人生でも特別な存在となっていくのだろうと思います。ポップとの未来をマァムはどう受け止めるのか?また、マァムとの未来をポップはどう受け止めるのか?書き手にとっても今後の課題です(^^;