─武神流秘奥義─
木漏れ日の中、一人の青年が目を細めて陽光の中で楽しそうに戯れる妻と娘の姿を微笑ましく見つめている。
「ぱーぱー!!」
覚えたての言葉を大きな声で叫びながら、幼い娘が青年に手を振っている。
「あなたもいらしたら?」
妻である女性は青年が住んでいる村の村長の一人娘だった。父と母に大切に育てられた彼女は、教養も人柄も優れた村自慢の娘だったらしい。
「ああ……」
青年はそう応えて、ゆっくりと愛しい妻と娘の側に歩いていく。
青年の名は、ブロキーナと言った。
ゴゴゴゴゴーーーーー
「さすがに凄まじい闘気じゃのう……」
リーデアの身体全体からは、先刻よりも遥かに強大な暗黒闘気が溢れている。
「お前程の相手ならば、我が力の全てを注いでも良いと判断した……」
「そうか……ならばこちらも全力で臨むとしよう……」
ブロキーナも未だかつてない程の闘気を滾らせてリーデアを見据える。
(「俺の見立てでは、ブロキーナとリーデアってヤツの力は、ほぼ互角だ……しかも互いにこれ程の闘気エネルギーを高めているという事は……一発勝負か……」)
マトリフは場の空気が尋常でない程に張りつめている中、冷静に状況を見つめていた。
「一つお前達に訊いておきたい……」
と、リーデアが突然そう口にする。
「……なんじゃ?」
「………?」
「お前達の他にもう一人の仲間でもいるのか?」
リーデアはブロキーナとマトリフに助言を与えていた存在を薄々感づいていた。
「仲間かどうかは、わからねぇが……とりあえずさっきあのゴライアスを倒す前に少しアドバイスは貰ったよ……ここには俺とそいつ、そしてお前のエネルギーしか感じねぇってな……つまり、あのゴライアスはお前が血を与えて作り上げたお前の分身みてぇなモンだとわかったのさ……」
「だから、お主を倒せばヤツもきっと倒せると思ってのう……」
「成る程な……あの策はそういう経緯だったか……」
「おめぇがあのデカイのに命令したりよ……色々芝居染みた事をしていたが、よく考えたら俺達に自分等が同一だと悟られねぇ様にしていたんだと思ったら合点がいったぜ……」
マトリフはリーデアの思惑をもここで暴いた。
「フフ……中々キレるヤツだな……ところでお前達に助言を与えたのはあの扉の先にいる者だな……?」
そう言ってリーデアは自身の後方に聳える巨大な扉をアゴで示す。
「ふん……!てめぇの封印を解いてくれとうるさくてな!そのおかげでおめぇ等とこうしてやり合ってるってワケさ!」
「わかった……ならばお前達はその者の封印を解くという目的の為に……そして、私はそれを阻む為に最後の勝負といこう……」
リーデアは纏っていた暗黒闘気の濃度を深め構えを取る。
そして、ブロキーナも更に闘気を深く練り込みそのエネルギーを高めていく。
互いの闘気が最高潮に達すると、各々を中心に激しい闘気の柱が立ち昇った。
「くっ……!!!?なんて凄まじい闘気だ!!!こいつは相当ヤバそうだぜっ……!!」
「マトリフ殿……離れていてくれ……」
振り向いてそう告げるブロキーナの言葉にマトリフは彼の目を真っ直ぐに見ながら頷いてルーラで距離を置き、戦況を見守る事にした。
ブロキーナとリーデアは互いに睨み合いながら、更に闘気を極限まで高めている。その場の大気がその闘気の渦に巻き込まれる様に震えている。
そして……!!
ゴゴゴォォォーーー!!!!
「はあぁぁぁーーーー!!!地上の強者よ!!心して見るがいい!!そして砕け散れ!!!これこそ我れが誇る最強の暗黒拳っ!!!
闘魔黒帝拳ーーー!!!!!」
リーデアは自らの全暗黒闘気を拳に乗せた黒いエネルギーの塊をブロキーナ目掛けて放った。
そして、同時にブロキーナも負けじと全身全霊全ての闘気を集中させた武神流秘奥義の最強拳を放つ。
「武神流秘奥義!!!
白虎神砕拳ーーーー!!!!!」
すると、そこから放たれた闘気は武神流奥義の猛虎破砕拳よりも強大な、咆哮する虎の形のエネルギーと化してリーデアの暗黒闘気と真正面から衝突した。
ドガガガァァーーーン!!!!
「うおぉぉぉーー!!!!」
マトリフはその強大な闘気の衝撃で生まれた爆風から、なんとかその身を守っているが、その眼前にはとてつもない光景が繰り広げられている。
リーデアの最強技である闘魔黒帝拳とブロキーナの武神流秘奥義白虎神砕拳は互いに一歩も譲らず激しい鍔迫り合いを展開していた。
「ヌオォォォーーー!!!!!」
「ちょえぇぇーーー!!!!!」
互いに一進一退の様相で全力の技を繰り出している。
「くくっ……!!!に、人間ごときにこれ程の技が放てるとはっ……!!!?」
「ぐぅぅ……!!リーデアとやら……お主もやはり……タダ者では……ないのう……!!!」
双方から放出された闘気エネルギーは、いつどちらが押し返しても不思議ではない程、ギリギリの均衡を保っている。この勝負、一瞬の隙がその勝敗を決定づけると言えた
(「くそっ……!!!リーデアの野郎にはマホカンタが掛かってやがるからな……迂闊に手出しは出来ねぇ……それに……」)
マトリフはこの時、先刻のリーデアとの一騎討ちに向かう前のブロキーナの言葉を思い出していた。
(「マトリフ殿……すまんが、ここからはワシ一人に任せてくれんか?」)
(「あの時のブロキーナが見せた顔……いや、覚悟……暗黒闘気で受けたダメージは回復呪文じゃあ治せねぇとわかってても、アイツはリーデアとの一騎討ちにこだわりやがった……何が、何があるって言うんだブロキーナ……!!!お前の中に……!!!」)
「あっ………!!!?」
「………っ!!!?」
ブシュッ………!!!
その時、ブロキーナが突き出している拳から腕に掛けた部分が裂け、そこから血が吹き出した。
「ブロキーナーーー!!!!」
マトリフの声が響く。
しかし、それでもブロキーナは拳を下ろさずに一歩も退くことなく闘気を放ち続けている。
「ハハハハッ!!やはり脆弱な人間は悲しいな!!これ程の技を放ったのは見事だが、その老体に加え我が暗黒闘気のダメージを負った状態ではどうやらここらが限界のようだ!!!」
リーデアは勝ち誇る様にブロキーナに強い言葉をぶつける。
「ホホ……否定はせんよ……た、確かに……年は取りたくないモノじゃな……しかし、人はのう……どんなに傷を負おうが、どんなに心身が打ちのめされようが……絶対に退いてはいけない時というモノがあるのじゃ……」
「なに……っ!!!?」
「それはのう……自らの命よりも大切な存在を守る為……その為になら人はどこまでも何よりも強くなれるのじゃ……!!!」
この時、ブロキーナの脳裡には仲間達の顔が浮かんだ。アバン、マトリフ、レイラ……そして、ロカ……更にブロキーナが14年前に一度だけネイル村に訪れた際に目にした幼いマァムの無垢な笑顔を……
「とくと刮目せよっ……!!!人は守るべき者を背に常に強くあれる!!!これが我が武神流の真髄の一手じゃあぁぁぁーー!!!!
はあぁぁぁーーーー!!!!!」
「なっ……!!!?ば、バカなっ……!!!?その身体の何処にそんな力が……っ!!?ぐっ……!!?ぐおぉぉぉあぁぁぁーーー!!!!」
「かあぁぁぁーーーー!!!!!」
ブロキーナは全身全霊の闘気エネルギーを込めてリーデアの暗黒闘気を完全に貫いた。
瞬間ーーー!再びブロキーナの脳裡にある映像が過る。
幼い子供と美しい妻と暖かい陽光が穏やかに差し込む光景ーーーー。
(「………ワシは守るよ……今度こそな……」)
ズドォォォォーーーン!!!!!
「ブ、ブロキーナ………」
凄まじい強大な闘気同士の激突。そんな中、マトリフは爆風から身を守りながらもリーデアの闘気が消えた事を感じてブロキーナの勝利を確信した。
やがて、砂煙が晴れていきマトリフはその場に一人立つブロキーナの姿を見つけた。
「ブロキーナーーー!!!」
マトリフが駆け寄ると息も絶え絶えな状態のブロキーナがニカッと笑う。
「たくっ……!無理すんじゃねぇよ……とりあえずその裂けた拳と腕は回復呪文で治るだろう……ベホマ!」
マトリフはブロキーナの暗黒闘気以外のダメージを回復させる為にベホマを掛ける。
「ホホ……すまんな……」
「何言ってやがる……仲間だろ?」
マトリフのその言葉にブロキーナは微笑を浮かべる。
「ああ……そうじゃな……」
そうしてブロキーナは、ふとリーデアの様子を気に掛ける様に視線を泳がせる。
「ヤツならあそこだ……」
すると、マトリフがリーデアが倒れている方に視線を向けて伝える。
やがて、二人がリーデアの元に赴くと彼の半身近くは既に灰と化していた。
「リーデア殿……」
その最後を覚悟していたのか、リーデアは伏せていた目蓋をゆっくりと開いた。
「フッ……なんだ……朽ち果てる私を蔑みにでも来たのか……?人間よ……」
リーデアは嫌みを口にしながら、不適な笑みを浮かべている。
「これを渡しに来た……」
そう言うとブロキーナは何かの欠片をリーデアに見せる。
「………?……まさか!?それは……!?」
「お主の子が遺して行ったモノじゃ……」
ブロキーナはゴライアスの砕かれた兜の一部をリーデアの胸に置いた。すると、リーデアは今にも朽ち果ててしまいそうな右手でその兜の欠片に手を置く。
「………ゴライアス……我が子よ……」
そう口にするリーデアの目には微かに光るモノがみえる。しかし、ブロキーナもマトリフもそれには気付かないフリをした。
「人間よ……名はなんと言ったか……?」
「ワシはブロキーナじゃ……そして、彼はマトリフ……」
「ブロキーナにマトリフか……まさか地上にこれ程までに強く……そして、深い存在がいるとはな……魔界に住む者としては脅威ではあるが……何故だか今は不思議と悪くない気分だ……」
「………」
リーデアの身体はもう胸の辺りまで灰と化し朽ち果てて来ている。そんな中で最後の力を振り絞る様にゴライアスの兜の欠片を持つ右手をブロキーナの前に持ち上げた。
「お前達のような者に敗れたのなら誇りに思っても良いだろう……我が子ゴライアスにもそれを伝えてやることにしよう………」
「リーデア殿……」
ブロキーナは膝をついて、ゴライアスの兜の欠片を握るリーデアの右手を取る。
「忘れないぞ……ブロキーナ……マトリフ……見事な……人間よ……我等は……おま……え……た……ち……を……
誇りに……」
「リーデア殿……!!!」
リーデアのその最後の言葉はブロキーナとマトリフの心に深く刻まれた。命と命のぶつかり合いで生まれたその不可思議な感情は、リーデアとゴライアスにとっても何か大切なモノを感じさせる事が出来たのだろうと、そう信じて二人は魔界の強敵を見送った。
先ずはブロキーナのオリジナルエピソードから入りました。これは、当然本編にもありませんが、ブロキーナの過去もとても気になるところでしたので、この際書いてみようと思って今回の様な形にしてみました。勿論、こらから更に物語が進めばもう少し詳しく描いていけると思いますが、それはまた先の話になりますね(^^; ちょこっとだけ言えば武神流秘奥義誕生秘話的なところで……
お楽しみに