─カイアの贈り物─
マトリフ達一行は、カイアのマトリフへの求愛という驚愕の展開を経て、これからの動向を話し合っていた。
「さてさて、マトリフ殿に春が来たのは良いとして、これからどのように動くかのう?」
「こんなジジイの春の話しはしなくていいぜブロキーナ……だが、そうだぜカイア、このままヒュルトの所に殴り込みかけんのか?」
ブロキーナの軽い冷やかしをスルーして、マトリフはカイアにこれからの事を訊ねた。
「うむ、そのつもりだ」
「でも、ホントにいいのかよ?敵対してるとは言えおめぇの息子なんだろ?ヤツは……」
マトリフはカイアの心中を伺う。すると、カイアは微笑を浮かべて告げた。
「マトリフ殿……ありがとう……だが、これは我が一族のケジメでもあるのだ……先程も話したが、一族から離反する行為はたとえどのような理由があろうとも、その命を取られても仕方のない重い罪……我が息子とてそれは例外ではないのだ……」
しかし、そう言うカイアはブロキーナの表情に何か気に掛かるモノを感じた。
「……?どうしたブロキーナ殿……何か言いたいコトでも?」
カイアがそう訊ねるとブロキーナはやや憂いを込めて告げる。
「世の中には、様々な事情や形があれども時として掛け替えのない存在と対峙しなければならぬ場合もある。しかしのう……同時にそこにはやはり、絆という強い繋がりもある。友や師弟、恋人……そして親子も……カイア殿はそういう意味ではヒュルトとやらに絆を感じておるか?」
「………」
「ブロキーナ……」
カイアはマトリフとブロキーナに背を向けて口を閉ざす。そして、ゆっくりと顔を上げると先刻まで自分が封印されていた巨大黒魔晶が浮かんでいた方向に視線を向けた。
「私にはヒュルトの他にも多くの子がいる……しかし、いずれも愛しく大切な存在だ……故にヒュルトとの絆もある……だが、だからこそ……」
カイアは強く拳を握る。そして、それを見つめるマトリフとブロキーナも彼女のその胸の内を思いやりながら優しく告げた。
「厳格な一族のしきたりとその狭間ってところか……」
「辛い決断をしたのじゃな……」
二人の言葉にカイアは静かに目を伏せる。
「カイア……俺達もいる……」
「………!?」
カイアは振り返りマトリフの顔を見る。
「詳しい事を訊かせてくれ……そしたら一緒にヤツのところに行こうぜ……」
「ああ、そうじゃな……」
「マトリフ殿……ブロキーナ殿……」
マトリフは照れ臭そうに頭をポリポリと掻きながら言う。
「ついさっき出逢ったばかりだけどよ……なんか他人な気がしねぇんだおめぇとは……」
「ホホ♪ホレたおなごは放っておけないじゃろ?マトリフ殿♪」
「うるせぇ♪ヒヒ……」
マトリフとブロキーナはおどけながらも、カイアの気持ちに寄り添う。
「一人じゃねぇからよ……頼れや俺達を」
「きっと力になれると思うよ……」
カイアの瞳からは一つ二つと涙が零れていた。
「ヒュルトに封印され、私は一度は絶望した……鬼眼族の長い歴史の中でも決して数こそは多くないが、バーンのように離反する者はこれまでもいくつかはあった……だが、我が子までもが、まさか一族を裏切るなどとは夢にも思わなかった……」
「長という立場故に深く悩んだことじゃろうな……じゃが、それは決して無駄ではない」
「無駄ではない?」
ブロキーナの言葉にカイアは顔を上げる。
「お主がそれだけ真剣に鬼眼族の事もそして、お主の子達の事も同じくらい大切に思っているというコトじゃ……」
「ああ、そうじゃなきゃどうでもいいって考えて放っておくだろ?少なくともそうして悩んで苦しんだりしてねぇハズだ……でも、お前はしっかりとその苦しみに向き合った……ちゃんと逃げずにな……」
カイアの胸にはマトリフとブロキーナの言葉の一つ一つが深く染み入る様だった。そして、そこには確かに暖かい感情が込められていた。
「……不思議なモノだな……人間とは……魔界という殺伐とした世界に生きている者としては、人間という存在が他者の事に対しても、そうして考えを巡らし、そこから導きだされる事をなんの躊躇いもなく与える姿勢が本当に不思議でならない……」
「カイア……」
マトリフがそっと彼女の肩に手を乗せる。そして、その手から伝わる温もりに彼女は再び涙で応えた。
「本当にお主達に出逢えて良かった……ありがとうマトリフ殿……ブロキーナ殿……」
「おうっ!!ヒヒ……」
「うむ!」
マトリフ、ブロキーナ、そしてカイアは互いにその絆を深くして、改めて黒眼巨竜ヒュルトとの戦いに臨む決意を固めた。
「あ、そうそう!お主達には礼をするという約束もしていたな」
「礼?ああ……別に構わないぜ今更よ……」
「うむ……気にせんでいいよ」
マトリフもブロキーナもカイアの申し出に首を振るが、彼女は告げる。
「いや、これは私の気持ちだ……受け取って……」
「貴様らぁぁぁーーー!!!!」
「………っ!?」
「むむっ……!?」
「なんだぁ……?」
すると、突如カイアの言葉を遮る様に響いて来た怒号に、マトリフ達が振り向くと、次々と武装したドラゴンの兵士達が乗り込んで来た。
「おやおや随分とやってきたのう」
「ヒュルトの手下達だ……やはり私の封印が解かれたコトに勘付いたようだな……」
「きっ…!?貴様はカイア!!?クソッ……!!やはりヒュルト様の懸念通り封印は解かれていたかっ!!!?」
「おいおい、ヤツの手下は随分と躾がなっちゃいねぇなぁ……なぁ!カイア」
「フッ……全くだな……闇に堕ちたとは言え我が子ながら情けない話だ……」
「ホホ、仕方ないのう……」
マトリフ、カイア、ブロキーナはヒュルトのドラゴン兵団に対して戦闘態勢に入る。
「さぁ~てと……ん!?あ、あらら……!?」
「どうしたマトリフ殿……!?」
マトリフが意気揚々とその手に魔法力を込めようとすると、途端に彼はその場で崩れ落ちた。
「そ、そっか……さっきのデステマで、全魔法力を使い切っちまってたの忘れてたぜ……」
先刻放った究極破壊呪文デステマはマトリフの強大な魔法力を持ってしても、その全てを使わなければ放つことの出来ない超強力な呪文だった。
「クソッ……!!あの回復魔法陣はドラゴン兵共の後ろだし……参ったな……」
「マトリフ殿、確かお主魔法の聖水を一つ持っていなかったか?」
「ん?あ、ああ……あるにはあるけど、こいつじゃぁ回復量だってたかが知れてるぜ……」
マトリフが懐から1本だけ残った魔法の聖水を取り出すとカイアが手を差し伸べる。
「それを貸して、マトリフ殿」
「へ?これを……あ、ああ……」
マトリフがカイアに魔法の聖水を手渡すと彼女は鬼眼の力を発動させ、手にした魔法の聖水に注ぎ込んだ。
「はぁぁぁーーーーーー!!」
すると、魔法の聖水は光を放ち黄金色の水に変わる。
「お、おぉっ……!?な、なんだこりゃ……!!?」
「おお!?もの凄い光を湛えておるのう♪」
「よしっ!マトリフ殿、これを使えば魔法力は完全に回復する筈だ」
「マジでか!?」
マトリフがカイアから渡された聖水を使うと完全に底をついていたマトリフの魔法力がみるみる回復していった。
「うぉっ!?こ、こりゃすっげぇぞ!!?ん?しかもなんだか……身体の調子も良くなったような……」
「私の鬼眼の力は、魔法力のみならず体力や身体に異常がある場合にもそれらを回復させる効果がある。魔界でも病が流行ったりした時は重宝されたりもするがな……」
「そっかぁ~おめぇ凄いんだな!本当に助かったぜ!あんがとよ♪」
「れ、礼など……あ、愛する人の為には当然のことだから……」
カイアは頬を赤らめながらマトリフを見つめる。
「お、おう!サンキューな!コホン……!」
マトリフも咳払いをしながら、照れ臭そうに頷く。
「よし!んじゃあこれで、思う存分ヤツ等の相手をしてやれるぜ!!」
「ホホ♪こりゃまた見たこともないのが、ゴロゴロいるのう……」
マトリフが意気揚々と肩をまわしていると、ブロキーナが彼等の目の前に立ち塞がるドラゴン兵団を眺めて言う。
「あの鎧の兵士がシュプリンガー、狼の様なヤツがウルフドラゴン、巨大な二本の角がヘルジュラシック、空飛ぶドラゴンに騎乗しているのはドラゴンライダー、後方に二種類いる巨体のドラゴンはギガントドラゴンとブラックドラゴンだ……まぁそれぞれ数もかなりいるな……」
「やれやれ、まさに多勢に無勢……まるでドラゴン祭りだなぁ♪」
「ホホ♪では、こやつ等をさっさと片付けてヒュルトの処に行こうかの」
そう言ってブロキーナが一歩前に踏み出すと……
キラキラキラ……
「ん!?なんじゃろ?」
突如、ブロキーナの左上腕部に不思議な光が輝き始めた。
「お、おおっ!?ブロキーナそれ!!」
マトリフが驚いて声を上げる。
「おりょ?この腕輪は?」
みると、ブロキーナの腕には不思議な装飾の腕輪がはめられていた。
「それは鬼眼の腕輪。それを身に付けていれば、星降る腕輪の様にすばやさが格段に上がるが、効果はそれだけではない……」
「ホホ♪そりゃあスゴいのう!」
「せめてもの礼だ、使ってくれ」
「ありがとうカイア殿♪遠慮なく頂くとしよう♪」
「よしっ!んじゃ改めて……」
「いくとしようかのう」
「うむ!」
そうしてマトリフ、ブロキーナ、カイアは黒眼巨竜ヒュルトが待つこの洞窟の最深部に向かう為、先ずは目の前のドラゴン兵団の掃討に挑んでいった。
カイアとヒュルトの繋がりや鬼眼の一族の厳格なしきたりなど、カイア自身の抱えているモノの重さや深さが少しずつ明らかになります。しかし、マトリフやブロキーナと出逢い、彼女の運命がここから大きく変わり始めます。更に、それは迫り来るヴェルザー陣営との戦いに挑むポップ達地上の戦士達のこれからの展開にも大きく関わってくることにもなります。鬼眼の一族、今後重要な存在となるのは確実ですね。