─戦闘開始─
『魔法使いってのは
パーティーの中で最も
クールでなくちゃいけねぇ』
その師の言葉は、マトリフの内側に常に刻まれていた。
自身の愛弟子にも伝えたそれは、生涯マトリフにとって決して切り離せない言葉であり、今では彼自身のアイデンティティのようなモノだった。
だからこそ、この時も……恐らく……いや、確実にこれまでの人生において、かつてない程の強敵を前に彼はそのクールな姿勢を貫いた。
(「カイアのヤツ……相当熱くなってるな……まぁ敵とは言え、自分の子と相対している状態だからな……当然か……」)
マトリフは、ヒュルトと対峙してから強い姿勢で言葉を投げ掛けるカイアを冷静見つめながらも、彼女のその心情に理解を覚えていた。
(「ブロキーナは落ち着いているな……隙は一切見せてねぇ…へへっ相変わらず便りになる相棒だぜ……」)
更にブロキーナの様子も伺いながら、いよいよマトリフは、そのクールな視線をヒュルトに向けた。
(「黒眼巨竜と言われている割には、一見したところただの魔族にしか見えねぇが、ヤツの内側から感じる禍々しい暗黒魔力が半端ねぇな……やっぱこいつがこの洞窟の暗黒魔力の大元ってところか……」)
ヒュルトから感じれるその暗黒魔力は、この洞窟内部の何処よりも色濃く感じれた。マトリフはこの暗黒魔力もメドゥルザという憎き存在から与えられたモノなのかと言わんばかりに、目の前のヒュルトに鋭い視線を向けた。
「ん?そうか……!?封印を解いたのは貴様等かっ……!?人間風情が余計なことを……!!!」
マトリフの視線に気付いたのか、ヒュルトは怒りを露にして言った。
「随分と熱くなってるじゃねぇか……ヒヒ……親に心配掛けてるドラ息子のケツをひっぱたきに来てやったんだよ……」
「貴様……!!どうやら下らない話まで吹き込まれている様だな……」
ヒュルトはそう言ってカイアを睨み付ける。
「お前にとっては下らぬ事でも、我が一族にとってお前の身勝手は看過し難い事……マトリフ殿もブロキーナ殿も全ての事情を心得てここにいる……」
「フン!だが、コイツ等が今更それを知ってなんになる……ノコノコやって来たところで所詮、貴様等全員ここで朽ち果てる運命なのだからな!!」
ヒュルトは不敵に笑いながら暗黒魔力をその右手に集中させる。
「へっ……!!ワリィがそう簡単にいかねぇ事情をこっちは抱えててな……」
「メドゥルザというヤツの企みを突き止めなければならないんじゃよ……」
「………っ!!?貴様等メドゥルザ様の事まで……!!?」
「メドゥルザ様……か……つくづく愚かな子だ……よりによってあの悍ましい一族などに与するとは……」
「その話しは以前もした筈だ……もはや魔界は鬼眼族のモノではない……確かに一時期は俺とて鬼眼の一族として生きていた事に誇りもあった……その鬼眼族からバーンという存在が生まれ、意図も簡単に一族を捨てたと言えども、ヤツは魔界の君主にまでたどり着き何千年もの間、魔界の神とまで恐れられながら君臨し続けてきたのだからな……」
「だが、さっきもおめぇさんが言ってた通り、それでも結局ダイに……竜の騎士に破れたじゃねぇか……」
マトリフが不敵な笑みで言う。
「そうだ……バーンは、あの竜の騎士バランとその息子を侮った……だからこそ、その慢心がヤツの最後を招いたのさ……」
マトリフは、この時思った。このヒュルトという男は熱くなり易いところもあるが、同時にバーンの敗因を指摘するなど、なかなかクレバーなところもあると……
そして、更にヒュルトは語る。
「だが、冥竜王ヴェルザー様は違う……今はまだ天界の精霊の力の影響下にあるが、メドゥルザ様の計画を進めていけば必ず冥竜王は復活される……そうなればバーン亡き今、魔界も、地上界も、天界すらも!!全てヴェルザー様の手に落ちる……そしてこの俺は、その新たな魔界の神ヴェルザー様に力を認められた!!」
「そんなに嬉しいか?」
「なんだと……っ!!?」
カイアは改めてヒュルトの眼を真っ直ぐ見つめて告げる。
「我々鬼眼の一族は、決してお前を認めなかったワケではない!!確かにお前を恐れていた者も一族にはいた、だが私が長になってからは皆、私の声に耳を傾けてお前を受け入れようとしていた!!それなのに……それなのにお前はっ……!!?」
「黙れっ……!!!!もはや議論の余地などない!!メドゥルザ様はわかっていたのだ!!!かつての我が母よ!!貴様こそが、魔界に於てヴェルザー様の障害となる事をっ!!一族の誰より色濃くバーンと同じ血を持つ貴様を亡き者にする事の重大さをなっ……!!愚かな人間共々ここでくたばれっ!!!!ハァァァァーーーー!!!!」
そして、ヒュルトはその右手に集中させていた強力な暗黒魔力をカイアに向けて放つ。
「愚か者ーーーー!!!!」
バアァァァーーーーン!!!!
「カイアっ!!!」
「カイア殿っ!!!」
「案ずるな二人とも……」
ヒュルトによる攻撃をまともに受けた様にみえたカイアをマトリフ達は気遣ったが、カイアは不敵な笑みを浮かべて涼しい顔で二人に告げた。
「改めて私の力をみせよう……鬼眼の一族の長たるこの力を、ヒュルト!!!お前にも存分になっ!!!!」
「クッ……!!鬼眼の力で暗黒魔力を防いだのかっ…!?」
「私がただ封印されていたとでも思っていたのか?お前の封印は基本バーンの鬼眼の瞳と同じ構造、つまり見る、聞く、考える、この三つは可能!!ならば、対策などいくらでも思い付く!!!」
「おのれぃ……!!」
「この私にお前の暗黒魔力は効かないと思え!!!くらえっ……
イオナズンーーー!!!!」
ズガガァァァーーーーン!!!!
カイアのイオナズンがヒュルトに炸裂した!!
「ぬっ……!?おらんっ!!」
「何処だヒュルト!!?」
しかし、カイアのイオナズンで破壊されたのはヒュルトの玉座のみで、玉座に設えていた魔法玉も粉々になったが、そのヒュルト自身の姿はそこには無かった。
「上だっ……!!?」
ブロキーナとカイアがヒュルトの姿を探していると、マトリフが上空を見上げて声を上げる。
「トベルーラで逃げたか……!!」
「むっ……!!?また暗黒魔力を蓄えておるぞ……!!?」
ブロキーナの言う通り、ヒュルトは更に強大な暗黒魔力を蓄えて、鋭い視線で三人を見下ろしている。
「貴様に暗黒魔力が効かないと言うなら、人間共にはどうかな?」
「………っ!!?ヒュルトっ!!!」
カイアはヒュルトのセリフとその暗黒魔力の大きさに青褪める。
「二人とも!!?逃げてっ!!!」
「もう遅いわっ!!くらえっ!!!
ブラックアイズルイン!!!!」
その瞬間、ヒュルトは黒い禍々しい閃光を放った。そして、その黒い閃光はマトリフとブロキーナの頭上に降り注いだかと思うと、一瞬で彼等が立っていた場所をその凄まじい破壊力で粉々に粉砕してしまった。
強力な暗黒魔力を使うヒュルトに戦闘開始直後、マトリフとブロキーナは強烈な洗礼を浴びることになった。
戦闘開始の序盤になります。マトリフは大魔道士としてのクールな分析。カイアは鬼眼の力。ヒュルトは暗黒魔力とそれぞれの得意分野を公開してます。基本的にヒュルトは普段は黒眼の力を用いたりはしません。メドゥルザに与えられた暗黒魔力を気に入っています。鬼眼の力がヒュルトの元々の力ですが、メドゥルザによって注がれた暗黒エネルギーにより、黒眼となりましたが彼にとってはとっておきの力でもあるという事です。最も、魔界においてもわざわざ黒眼の力を使わずとも敵を倒してこれたということもありますが……