新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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過去

 ─悲憤の涙

       憤怒の背中─

 

 どうして……

     こうなったのだろう……

 

 私の所為なのか……私が……あの子を生んだから……私が……私が……

「違うっ!!断じて違う!!!」

「ラーノ……」

「俺達の子ヒュルトを生んだことは間違いなどではない!!!」

 二人の魔族は大火に包まれ今にも焼け落ちそうなその鬼眼の城を、遠巻きに見渡せる崖の上から眺めていた。

「全ては臆病な心に蝕まれた者達の愚かな所業によるモノだ……」

「だが私は……私達は、伝統ある鬼眼一族の歴史を終わらせてしまった……」

「カイアそれも違う……」

「………」

「鬼眼族の歴史は消えない、決して終わらない……」

「ラーノしかし……!!」

「俺達はまだこうして生きているじゃないか……」

「生きている……?」

「そうだ……お前の中にも、私の中にも鬼眼一族の血が流れている……そして、勿論……俺達の子供にも……」

「ラーノ!!!」

 男の名はラーノ。

 そして、女の名はカイア。

 二人はその愛情のままに深く、強く、互いを抱き締め合った……。

「新たな歴史を作ろう……鬼眼一族の新たな歴史を……」

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「う、うう……」

「ラーノ!!ラーノ!!!

何故だ……!?何故、私達を裏切ったっ!!!?」

 全身に甚大なダメージを負って今まさにその命が尽いえようとしているラーノにカイアはその身を支えながらも問い質す。

「す……まな……い……だが、どうしてもヤツ等に…ヒュルトを渡すワケには……いかなかった……」

「……だが、だからと言って何故……我が子に……ヒュルトに手を掛けるような真似を……」

 怒りとも疑問とも思われる感情がカイアの言葉に込められている。

「ヤツ等に……ヒュルトは……あの悍ましい一族に……拐かされつつ…ある………だから……なんとしてもヤツ等に渡すワケには……いかない……と……」

「そんな……我が子を亡きモノにしてまで……そんな……」

「お前も知っているだろう?ヤツ等……の恐ろしいまでの底知れぬ暗黒の力を………あのバーンと対等か……それ以上に危うい存在だ……」

「しかしヒュルトは……」

「ああ……その通り……強い子…だ……だ……だが、俺は…俺…は……あの子を……最後の最後に信じてやれなかった……」

「ラーノ!!!」

「だから……そんな間違いを犯した俺には……親としての……資格はない……」

「何を言うんだ!!!」

「しかし……カイア……お前は……違う……お前は……あの子を……信じて……俺の分まで……愛してやってくれ……」

「ラーノ……」

「不思議な……モノだ……な……お前に討たれ……こうして……命尽きるも……お前の……腕の中……と……は……」

「ラーノ!!ダメだ!!?いくなっ!!いかないでラーノ!!!」

「泣く……な……お前には……俺よりも……相応しいヤツが……いる……さ……」

 その瞬間、鬼眼一族の魔族ラーノの生涯は終わった。

「ラーノォォォーーー!!!!」

 カイアは涙に打ち拉がれ、哀しみの中でラーノの名を叫んでいた。

 

 どうして…… 

     こうなったのだろう……

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

「どうして、こうなったのだろう……なぁ?ヒュルト……」

 そして、今……カイアはこの封印の間の最下層でヒュルトを前にして問う。

「千年以上も前のあの時の事を…私は片時も忘れた事はなかった……お前が……私達の元を離れたあの時の事を……」

「今更……」

「そうだ……今更だ……確かに今や私も一族の長としての矜持を守らなければならない立場にある……だが、それでもお前へのわだかまりを完全に消すことは出来ない……」

「それが……貴様の弱さだ……」

「………そう……そうかもしれないな……だが、お前にこうして向き合う事をやはり私は諦める事は出来なかった……」

 そう言ってカイアはマトリフ達の方を振り返る。

「弱さを……認めると言うのか……」

「そう思うのならそれでも良い……だが、私は……私は……」

 その時だった。ヒュルトのその身に変化が訪れたのは……!

「グ……オァァァ……アァァ…オァァ……」

「………っ!!!?ヒュルト!?」

「ガァァァ……アァ……アアァ……」

 突然の呻き声をあげ始めたヒュルトは、その身を悶えながらもこれまで纏っていた暗黒エネルギーをその身に収めていく。

「ヒュルト……!!?」

 苦悶の表情を浮かべながら苦しみだすヒュルトを案じてカイアが声を掛ける。

「ガァァァ………グオァァァァァーーーーーー!!」

「ヒュルトーーーー!!!!」

「カイアーーーー!!!?」

「カイア殿ーーーー!!!?」

 ヒュルトから感じられる凄まじい暗黒エネルギーの膨らみとカイアの叫び声にマトリフとブロキーナもその状況を案じて声を上げる。

「グガァァァーーー!!!!!」

 そして次の瞬間ーーーー!

 ヒュルトは今取り込んだ暗黒エネルギーを逆に吐き出すと、自らがその黒いエネルギーに覆われ、その中で異様な変貌を遂げていく。

「ヒュルトーーーーー!!!!」

「こいつはイケねぇ!!!」

 マトリフはカイアの身を案じてトベルーラで彼女の元へ飛び出していった。

「大丈夫かっ!?カイア!!!」

「マトリフ殿!!ヒュルトが!!ヒュルトがーーーっ!!!」

「とにかくここを離れるぞ!!」

 マトリフはカイアの腕を掴み急いでブロキーナが控える場所まで移動しようとした。

 しかしーーー!

「どこへ行く……」

「なに……っ!!!?」

 マトリフが振り返ると猛烈な暗黒エネルギーの間から巨大な黒眼がギョロリと目を剥いて現れた。

「なんだコイツはっ……!!?」

「あれこそがヒュルトの力の源!!黒眼だ……!!!」

「あれが黒眼……!!!?

 くっ……!!!ルーラーーーー!!!!」

 そうしてマトリフは、改めてその腕にカイアを抱き抱えルーラでその場を離れる。

「我が黒眼の力を見よ!!!!」

 すると、突如その場の景色が歪みさっきまでの洞窟内部の空間ではなく、どこまでも果ての見えない異様な暗黒の空間が広がった。

「な、なんじゃ!!この空間は……!?」

「まさかこれが!!ヤツの黒眼で作り出した異次元ってヤツか……!?」

「その通りだ……」

「………っ!!!?」

 その声はこの空間に重く響き渡る様な声だった。そして、その声に振り返ったマトリフ達はその目で異様なモノを捉えていた。

「まさか!!?あれがヒュルトなのか……?」

「禍々しい威圧感が……さっきまでの比ではないのう……」

「あれが……ヒュルトの本当の姿だ……」

「グフフ……これで貴様等には万に一つも勝ち目はなくなったわ」

 カイアが言うそのヒュルトの真の姿とは、その額に巨大な禍々しい黒眼を怪しく光らせた、マトリフとブロキーナがこれまで見たこともないようなとてつもなく巨大な黒竜の姿だった。

「くそっ……!!!なんだよこりゃ……メチャクチャじゃねぇか……っ!!!!」

「こんな巨大な竜がおるのか……」

 その巨大さとその身から放たれた暗黒エネルギーにマトリフとブロキーナが驚愕するのも無理はなかった。その迫力は、あのバーンの鬼岩城をも超越していた。

「グフフフフ………恐れているな人間よ………いいぞ、その恐怖!!その恐れこそが我が力となる!!!グハハハハ!!!!三人揃って我が暗黒エネルギーの餌食にしてくれるわーーーー!!!!」

 すると、ヒュルトはその凄まじい暗黒エネルギーを巨大な口の中に蓄え始める。

「いかんっ……!!!?」

「くそっ……!!!?」

「ヒュルト私はお前を………っ!!!」

「フンッ!!下らぬ戯れ言は地獄でほざくがいい!!

 死ねぇぇぇーーー!!!!

 ブラックアイズブラストーーーー!!!!!」

      

 ズドォォォーーーン!!!!!

 

 ヒュルトはその巨大な口に蓄えた暗黒エネルギーの塊をマトリフ達に向けて一気に放出した。

「くそったれがぁ!!!

     フバーハ!!!!!」

 マトリフは咄嗟にフバーハで防御する。

「マトリフ殿ーーーー!!!!」

「カイア!!おめぇのおかげで俺の魔法力が高まってる!!暫くはコイツで凌ぐからブロキーナと対策を考えろ!!!」

「私の……!?」

「お主の封印を解いた時に契約したデステマの影響で、マトリフ殿の魔法力が跳ね上がったのじゃ!!!」

「ああ、そういうこった……カイア頼んだぜ……!!」

 そう言ってマトリフはフバーハに更に魔法力を注ぐ。

「マトリフ殿!」

「ヒュルトの心を救えるのはお前だけだ……諦めるな……!!」

「………」

 カイアはマトリフの背中を見つめながら、あるもう一人の男の背中をそこに重ねていた。

(「俺の分まで愛してやってくれ」)

(「ラーノ……」)

 

「おのれ!!しぶとい人間風情がーーーー!!!!この黒眼の力を舐めるなーーーー!!!!!」

 すると、ヒュルトは更に暗黒エネルギーを高めていく。

「やめろぉぉーーーー!!ヒュルトーーーー!!!!」

「……っ!!!」

 カイアの叫びにも似たその声に、一瞬ヒュルトは小さく反応する。

「お前を苦しめてきたのは私だ!!お前の苦しみを理解し切れなかったのは私だ……!!!命を奪うのならば彼等の命ではなく、私の命だけを狙えばいい!!!!」

「グフフ愚かな……所詮地上界はヴェルザー様の手に落ちる……ならば今の内にヴェルザー様に楯突く因子は取り除いておく必要もあるのだ……」

「へっ……!!そうかよ……だが、そう簡単にはいかねぇぜ!!!」

 マトリフはフバーハの魔法力を高めながら不敵に笑う。

「フン……!こざかしいゴミが……ならばコイツもくれてやろうっ!!!」

 すると、ヒュルトはブラックアイズブラストを放ちながら同時に両手を掲げそこに自身の暗黒魔力を蓄えていく。

「グフフ……暗黒魔力で高まったこの俺の呪文がどれ程のモノか……味わうがいい!!!」

「ヤベェ!!イオナズンだ!!!しかも、ヤツの言う通り暗黒魔力を含んだ魔力で打ちやがるっ!!!二人とも逃げろ!!!」

 マトリフはフバーハでヒュルトの技を防いでる状況に手が離せない状態の為、カイアとブロキーナにこの場を離れるよう叫ぶ。

「いや、逆にチャンスじゃよ!!」

「ブロキーナっ!!!?」

 すると、ブロキーナは素早く駆け出し、ヒュルトの巨体を足場にして駆け上がっていく。

「な……!!?貴様っ……!!!」

「両の手が塞がってるのう……」

「………っ!!!?」

「猛虎破砕……!!!!」

 その瞬間、ブロキーナはヒュルトの黒眼に狙いを定めて猛虎破砕拳の体勢に入る。

「舐めるなぁーーーー!!!!」

 しかし、ヒュルトは両手に蓄えていたイオナズンをそのままブロキーナに放つ。

「ブロキーナぁぁぁーーー!!!」

 マトリフの叫び声が響く。

「マホカンターーー!!!!」

「なにぃぃぃーーーー!!!?」

 すると、突如現れた光の壁がブロキーナを守り、イオナズンをヒュルトに跳ね返した。

「恩に着るぞい!カイア殿っ!!」

「私達はチームだ!!!いけっブロキーナ殿ーーーー!!!!」

「ホホ♪はぁぁぁーーー!!!」

 そして、再びブロキーナの拳の闘気が高まる。

「猛虎破砕拳ーーーー!!!!」

 

 ズガァァァーーーーン!!!!

  

 自ら放ったイオナズンとブロキーナの猛虎破砕拳をその黒眼にまともに受けたヒュルトは、そのダメージに苦悶の雄叫びを上げた。

 

「グオオァァァーーー!!!!」

 

「よっしゃあ!!いいぞ!!!」

 マトリフはフバーハを解いてガッツポーズでブロキーナを迎える。

「ホホ♪カイア殿のナイスサポートでなんとか決められたわい」

「なぁにアレくらいいつでもお安いご用だ♪」

「いいコンビネーションだったぜ……!?おっ……!?ととと……」

「マトリフ殿っ!!!?」

「大丈夫!!?」

 マトリフは長い時間ヒュルトの攻撃をフバーハで防いでいた為か少なからずダメージを受けていた。

「今、回復を……!?」

「いや……大丈夫さ、このくらい……」

「無理しないで!フバーハだって完全にダメージを防げるワケじゃないのに……」

「へっ……!ちったぁカッコつけさせろ……ヒヒ……」

 そう言って笑うマトリフに苦笑しながらもカイアは肩を貸して立ち上がる。そして未だ苦悶に喘ぎ身を捩るヒュルトを見やる。

「グオオァァァーーー!!!!」

「黒眼に受けたダメージはかなりのモノだったようだな……」

「うむ、あの強烈な暗黒エネルギーがすっかり鳴りを潜めておる」

「………」

 カイアはそんなヒュルトを見つめながら密かにその瞳を潤している。

 

 ドクン……!!

 

「………っ!!?」

 

 ドクン……!!

 

「なんだ!?この鼓動は…!!?」

 

 ドクン……!!

 

「ヒュルトの方からじゃ……」

 

 ドクン……!!

 

「ヒュルトっ……!!!?」

「カイアっ……!?」

 カイアは思わず駆け出していた。マトリフが自分を呼ぶ声は聞こえていたが、今は目の前で悶え苦しむヒュルトしか見えていなかった。

「ヒュルト……もう……もうやめよう……」

「………」

 カイアはヒュルトから聞こえた鼓動にかなりのダメージがあったと感じ、その身を労る様に告げた。

 しかしヒュルトは、カイアの言葉に何も反応しない。

「私が悪かった……だから頼む……もうやめてくれ……私は……私は……もうお前の苦しむ姿を見たくはない……」

 カイアは必死にヒュルトに自分の想いを訴えている。そしてマトリフは、少し離れた位置から、そんなカイアを見つめている。

「カイア……」

「やはりカイア殿は、母親なのだな……」

 カイアが必死にヒュルトに訴え掛ける姿を見ながらブロキーナがそっとマトリフに告げた。

「………ああ……そうだな……」

 マトリフは、カイアのそんな後ろ姿を見つめながら優しく微笑んでいた。

「ヒュルト……私はお前をヴェルザーの呪縛から解き放ちたいのだ……お前を失いたくはないのだヒュルト!!!」

「俺を……?」

「そうだヒュルト!!私と共に戻ろう!!一族の元へ……!!!」

「………っ!!!?」

「……?」

 カイアの言葉にヒュルトは微妙な反応を示した。しかし、この場で唯一人……マトリフだけは、その微かな不穏な空気を感じていた。

「………」

「ヒュルト!!ヒュルト?……どうしたヒュルト?大丈夫だ、私がついている……それにお前が戻る事に一族の者達は理解してくれている……」

「………理……解……」

「そうだ、私が長になり少しずつではあったが、過去のわだかまりは解けていったのだ……お前が不在の間に一族は変わった!だから安心して……」

「グフフ……」

「ヒュルト……?」

 カイアの必死の説得の中、ヒュルトは突然不適な笑いを浮かべる。

「そうか……もう俺を苦しめるヤツ等はいないのか……」

「あ、ああ……そうだ!その通りだ!!お前は一族の誇りとしてこれからは私達と生きていくんだ!!」

「………私……たち……?」

「ああ、そうだ!!」

「ならば俺の希望も……叶えて貰えないだろうか……?」

「もちろんだ!!なんだ!何が望みだ!!何でも言ってくれ!!お前の望みなら私は……!!!」

 

 ドンッ……!!

 

 その瞬間、カイアは何者かに強烈な体当たりを受け、勢いよくその場から撥ね飛ばされた形になった。

「なっ……!?何を……っ!!?

       マトリフ殿……っ!!!?」

 瞬時にルーラで移動して来たのか、カイアを撥ね飛ばしたのはマトリフだった。

 しかし、そのマトリフの様子がおかしい……

「マトリフ……殿……?」

 カイアがそう声を掛けるのと同時にマトリフはゆっくりと後方に反り返る様にその身を倒した。

 

 ドサッ……!!!

 

 その僅か一瞬の間、カイアの頭は真っ白になった。しかし、すぐに目の前に飛び込んできた光景に血の気が引いた。

「マトリフ殿っーーーーーーーーーっ!!!!!」

 駆け寄るカイアの目に映ったのは、マトリフの胸にじんわりと広がる鮮血だった。

「どうしたっマトリフ殿っ!!!!?」

 異変に気付いたブロキーナもマトリフに駆け寄る。

「ああぁぁ……あああぁぁ……

  マトリフ殿……マトリフ!!!

  起きてマトリフ!!!!

  マトリフーーー!!!!!」

 カイアはその現状に動揺を隠せないでいる。

「いかん……!!胸を貫かれておる!!

 出血も多い……!!!!」

 ブロキーナはすかさず回復魔法を掛ける。

「私も……!!

   ベホマっ……!!!!」

 カイアもブロキーナに倣って回復魔法をマトリフに施す。

「グフフ……グフフ……」

「………っ!!!?」

「………っ!?ヒュルト!!?」

 ヒュルトはマトリフを必死に救おうと奔走する二人の姿を見ながら嘲笑する。

「何がおかしいんじゃ……」

「グフフ……その女が俺の望みを叶えてくれると言うのでな……その俺の望みを教えてやったのさ………」

「なんじゃと?」

「どうだ?それが俺の望みだ………グフフ……その人間を殺し、貴様等が浮かべるその苦悶の表情を見ること……グフフ……だがなぁ俺の望みはこれだけではないぞ……?」

 ヒュルトは必死にマトリフに回復魔法を掛け続けるカイアに向かって嘲るように言う。

「貴様も同じ様に……」

「もう……いい……」

「……!?カイア……殿……?」

 ヒュルトの言葉を遮りカイアは重い口調で告げる。そして、そんな彼女の変化にブロキーナは心配そうに見つめる。

「もう……わかった……お前の気持ち……いや……お前が……どれほど迄に穢らわしく悍ましい闇に堕ちたのかが……よくわかった……」

「グフフ……そうか……ようやく理解してくれたか……我が母よ……」

 その瞬間……カイアはその言葉に言い知れぬ怒りを感じた。

「ヒュルトーーーー!!

  貴様ぁぁぁーーー!!!!」

 しかし、そのカイアの怒りを抑える様にブロキーナは彼女の肩に手を置いた。

「止めてくれるな……ブロキーナ殿……!!!!」

「カイア殿……今のお主にマトリフ殿は見えておるか?」

「………っ!!!?」

 その言葉にカイアは虚を突かれた思いになった。そして慌ててマトリフにその視線を移す。

「マトリフ殿の言葉……想い……そして命を……どうか頼む……」

 ブロキーナはカイアの肩に置いていた手を離して、ヒュルトに対峙する様に歩を進める。

「ブロキーナ殿……っ!!!?」

 カイアは思わずブロキーナに呼び掛け!?る。しかし、その背中には、ゆっくりと、しかし確実に強く熱い怒りに満ちた闘気が膨れ上がっていた。

「ワシとて……目の前で親友が命の危機に遭わされて黙っていられる程、お人好しではないよ……しかしカイア殿……お主はどうかお主にしか出来ぬ事にその想いを尽くしてくれ………ワシの親愛なる友を………どうか死なせんでくれ!!!」

「ブロキーナ殿っ!!!!」

 そうして、ブロキーナは再びその歩みを進めた。

「うっ……ううぅ……」

 すると、そんな中マトリフは微かに意識を取り戻した。

「マトリフ……!!!」

「カイ……ア……ヒヒ……やっぱりおめぇはキレイ……だな……」

「こんな時に何を言っている!!今、回復呪文を……!!!」

 カイアの目には既に涙が浮かんでいる。しかし、その涙を振り払う様に彼女はマトリフの身体に回復呪文を掛け続けた。

「グフフ……人間よ……たった一人でこの俺とやり合うと言うのか?」

 ブロキーナはヒュルトの前に立つとマトリフとカイアを背にして彼等を守る様にヒュルトに対峙する。

「今のマトリフ殿への攻撃は黒眼の力か……」

「そうだ収束させ貫通力を高めた黒眼の暗黒闘気だ……そして、更にこの暗黒魔力でなら多少の時間は必要になるが俺の黒眼の傷も塞がる……」

「カイア殿に大人しく殊勝な態度を見せていたのも、その黒眼の回復の為の時間稼ぎか……」

「グフフ……ああ、そうさ……つまらん話に乗るフリは面倒だったがな……」

 ブロキーナはその身に燃える様な怒りを込めた闘気を纏う。そして更に身に付けている鬼眼の腕輪からもブロキーナの怒りに共鳴するかの様な凄まじい力が溢れだしていた。

「これ程までに怒りを持って敵に相対するのは、久しぶりじゃ……」

「ホウ?あのリーデアよりも腹立たしいか?この俺は……グハハハハハ!!!」

 ヒュルトは、先の戦いでブロキーナに破れたリーデアの名を出して嗤う。

「言うまでもないじゃろう……」

「グフフ……ならばこちらもその怒りに応えてやろう……そして思い知らせてやる……人間ごときがどれ程イキがっても……この黒眼巨竜には到底叶わぬという事をな!!!」

 

 ウオオァァァーーーー!!!!

 

 ヒュルトは再び立ち上がりその巨体を持って、強烈な雄叫びと共にブロキーナに襲い掛かった。

「ヒュルト!!お主にだけは絶対に負けんっ!!!!」

 そして、ブロキーナも負けじと全闘気を解放し鬼眼の腕輪の力をも合わせたかつてない力を持ってヒュルトに挑んでいった。

 親友マトリフの命の危機を目の当たりにしたその中で、黒眼巨竜との熾烈な第二ラウンドが始まった。

 

 




 大変なことになりました。話を進めていくウチに、書き手の自分でもこういった展開は数話前までは、本当に考えてませんでしたが、別件で少し『死』というモノについて考えていたことがあり、もしその『死』というモノが人を強くする要素があるとしたら?という考えから、その力の源はやはり、怒りや悲しみなのかも知れないという考えに至り、カイアやブロキーナの更に一歩深めの力でもって挑まないと、黒眼巨竜と化したヒュルトには敵わないのではないかと考え、こういった展開になった次第です。
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