新章 ダイの大冒険 第一部 ポップ   作:平月

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鬼眼族ノーラ 

  ─長の真実─

 

 

【ランカークス村】

 

 ポップ、アバン、そしてジャンクとスティーヌ夫妻は満月の月明かりが照らす中、深い眠りに落ちていた。また、彼等だけでなく地上の世界は、あの洞窟で熾烈な戦いを繰り広げている彼等以外は皆、殆どがその眠りに落ちていたことだろう。それくらい静かな夜だった。

 

 と、そんな時だった……。

 

 パラパラパラ………

 

 ポップが就寝の直前まで読み込んで自身の机上に置いたままにしていた一冊の分厚い魔導書が、不思議なことに風もないのに自らそのページを捲り始めた。

 そして、同時にそこには窓の外から差し込む月の光が照らされ、その神秘的な光景がその分厚い魔導書に何か不思議な力を注いでいるようだった。

 やがて魔導書はとある白紙のページでその捲る動きをピタリと止めた。

 

 その部屋の主である若き大魔道士は勿論のこと誰もいないその空間で、その魔導書だけが静かに呼吸をし始めたかのように微かな淡い光を湛えていた。

 

 

【解呪の洞窟

    ヒュルトの異次元空間】

 

「猛虎破砕拳ーーーー!!!!」

 

「ブラックアイズ

  グレネードーーー!!!!」

 

 ズドォォォーーーーン!!!!

 

 ヒュルトは暗黒闘気を瞬間的に収束して、その濃度を高めた闘気砲ブラックアイズグレネードでブロキーナの渾身の猛虎破砕拳を迎え撃つ。そして、互いの技が正面から炸裂し周辺に激しい衝撃音を轟かせる。

 しかし、それでも本人達は一切攻撃の手を休めることなく、更に一進一退の攻防戦を繰り広げていた。

「ガアァァァーーーー!!!!」

 ヒュルトは続けざまに黒い暗黒エネルギーの炎を吐き出す。

「なんのっ……!!!」

 しかしブロキーナは、素早い身のこなしでその黒炎を交わす。

 だが、次の瞬間ヒュルトの巨大な背中の翼が大きく羽ばたき、その際に発生した強烈な暴風がブロキーナの動きを止める。

「くっ……くくっ……!!おのれっ……!!!」

「グフフフ……そんな枯木の様な身体では、この羽ばたきには耐えられんだろう!!グハハハハーーー!!!」

 ヒュルトはブロキーナを蔑みながら嘲笑する。

「フン!!ならば、この風を真っ正面から突き破ってやるわい!!はあぁぁーーーー!!!!」

 そう言うと、ブロキーナは猛虎破砕拳と同じ体勢で闘気を高めていく。

「グハハハハハーーーー!!!!その技では我が暗黒エネルギーに満ちたこの暴風を突き破る事など不可能だ!!!」

「甘いわっ!!!

 武神流秘奥義!!!

  白虎神砕拳ーーー!!!!」

 

 ズドォォォーーーン!!!!

 

 すると、ブロキーナは武神流秘奥義の白虎神砕拳を放つ。

「そ、その技は!!?

    リーデアを仕留めたあの時のっ!!!?」

 そして、白虎神砕拳から放たれた闘気がヒュルトの羽ばたきで起こす暴風を一気に切り裂いていく。

「なにぃぃぃーーーっ!!!!」

「はあぁぁぁーーーー!!!!」

 

 ドゴォォォーーーーン!!!!

 

「グハァァァーーー!!!!!」

 白虎神砕拳の強烈な一撃がヒュルトの巨体に炸裂しヒュルトは苦悶の叫び声を挙げた。

「はあっ!!はあっ!!ど、どうじゃーーー!!!!!」

 

 

 一方、カイアはマトリフを戦場と離れた比較的安全な場所にルーラを使って移動させると、すぐさま回復呪文を掛け始めていた。

「マトリフ!頑張って!!!!」

 しかし、先刻一瞬意識を取り戻したかにみえたマトリフだったが、今は再び意識を失い危険な状態に陥っていた。

「どうしてっ……!!?どうして回復しないのっ!!?私の鬼眼の力も注いでいるのにっ……!!!?」

 カイアは先刻の戦闘に於いても鬼眼一族の長として、その強さを遺憾なく発揮する程の目覚ましい活躍をみせてはいたが、本来彼女の鬼眼の力とはバーンやヒュルトとはやや異なり、どちらかと言えば攻撃よりも回復や防御に特化した性質のモノであった。その為、鬼眼の力を注いだ回復呪文などはよりその効果を発揮出来る筈であったが、今はマトリフの生命力が余りにも微弱な状態に陥っているのか、その身が回復する傾向は見られなかった。

「お願いよ!!マトリフ!!!

 目を開けて!!!お願い……!!!

 私を一人にしないで!!!

 マトリフーーー!!!!」

 カイアの大粒の涙が一つ二つとマトリフの身体に零れ落ちていく。そして、その一粒一粒の涙には愛する存在をもう二度と失いたくないという悲愴な想いが溢れていた。

 

「はあっ……!!はあっ……!!やはり二発が限度のようじゃな……」

 ブロキーナが、今回のこの解呪の洞窟の戦いでみせて来た武神流秘奥義は、普段であれば絶対に使う事のないまさに文字通り武神流においての秘匿とする奥義だった。

 そして、更にこの秘奥義の一つ一つはブロキーナがマァムに授けた閃華裂光拳や猛虎破砕拳などよりも、遥かに膨大な闘気エネルギーを必要とする技の数々であるとと共に秘奥義を使用する身体に掛かる負担もその攻撃力や破壊力の強力さに比例して大きなモノだった。

 最も猛虎破砕拳も放った本人の身体に少なからず反動としてダメージが返るが、破壊力で上回る白虎神砕拳はその比ではなかった。それ故に、技の生みの親であるブロキーナとて一日に二度打つのが精々といったところだった。

「どれだけ時が経とうとも……忘れもせぬあの時以来じゃな……」

 すると、ブロキーナの左の目の端に何かが輝く。

「むっ……?こ、これは……!?」

 みると、それは先刻よりカイアから贈られた鬼眼の腕輪が放つ輝きだった。そして同時にブロキーナは自身の身体のダメージが少しずつ回復していくのを感じていた。

「なんと!これはありがたい!!力が戻っていくようじゃ!!そういえばカイア殿が言っておったのう……かの有名な星降る腕輪と同じく素早さが上がる効果だけでなく、この腕輪には他の効果もあると……改めて礼を言うぞいカイア殿………」

 そうしてブロキーナは腕輪を見つめながらニカっと笑うと、すぐに向き直りその歩みを進める。ゆっくりとその身に友マトリフの命を危機に至らしめたヒュルトに対する怒りを膨らませながら……しかし、同時に彼は感じていた。ヒュルトという存在の憐れを……

 ブロキーナは、カイアがこのヒュルトの間に来る前に自身とマトリフに語っていた事を思い出していた。

 その生まれついての巨体と強さ故に心ないかつての鬼眼一族の長や一部の取り巻きから疎まれ続け理不尽な迫害さえも受けて来た。そしてそれは当然、そのヒュルトを生んだカイアの身にも及ぶ事となった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「お前達の存在は、この鬼眼一族の恥どころか災厄にしかならん……」

「その通りだ……我ら元老院の意見は全て一致しておる……」

「そ、そんなっ!!もう一度!!もう一度どうか長にお目通りをっ……!!!?」

「たわけ者!!!新たな長はこれまでの長とは違いお主等の犯してきた罪をお許しにならんわっ……!!!」

 

 およそ千年前ーーーー。

 かつて、魔界の東の大陸の大半を、その恐るべき強大な力で治めていた鬼眼一族の大国があった………。

 地上世界とは違い特に国の名などは定めてはいなかったが、魔界の多くの者はその大国を鬼眼の国と呼んで恐れていた。

 そして、その国の中心部に聳える鬼眼城で、当時その鬼眼一族の戦闘部隊を率いていたノーラとの間に五人目の子であったヒュルトを生んだカイアは、長の側近を務める四人の元老院達から厳しく糾弾されていた。

「ならばノーラは……!!?ノーラは何処に……!!?」

「フン……!!あやつもよりにもよってあのバーンの血族たる貴様なんぞと契りを交わすとはなっ……!!!」

「ヤツの亡き父上もさぞかし嘆いているだろう!全く悍ましい!!」

「どうせ貴様が誑かしたのだろうがな……本来なら貴様達の血族は、全て処刑されても文句も言えないところを先代の長の情けでこの国で生かされて来たというだけなのだ!!それを調子づきおって!!!」

「し、しかし!!私とノーラは……!!?」

「ええーーい!!!黙れっ!!!ノーラのヤツも今は投獄されておる!!!そして貴様の血族も既に貴様と穢らわしいその子供達のみ!!ならば今度こそ、ここで貴様等の血族をこの鬼眼の一族から葬ってくれるわっ!!!」

「そ、そんな!!我が子には、我が子達には何の罪もありませんっ……罰するなら私だけに……!!!」

 カイアは涙ながらに元老院達に訴え掛ける。

「グハハハーー!!!今更遅いわ!!お前が最後に生んだあの悍ましき巨大な蛇は、今頃我が鬼眼族最強の部隊が始末している事だろう!!!」

「ハハハハハーーーー!!!!」

 四人の元老院はそう言ってカイアを見下しながら嘲笑する。

「そんな……

   そんなっ……!!!!?」

 

 バアァァーーーーン!!!

 

 すると突如、この部屋の扉が開いたかと思うと元老院達とカイアは現れたその存在に驚愕した。

「なっ……!!?

  お前はノーラ……!!!?」

「バカなっ!?投獄されていた筈だぞ………!!!?」

「ノ、ノーラっ……!!!!?」

「どういうつもりだノー!!?」

 

 ザン……ッ!!!!

 

 一瞬だった。ノーラはその腰に携えていた剣を素早く抜くと、その鋭い一閃はそのまま元老院の一人の首を落とした。

「ヒッ……!?

   ヒィィィーーー!!!」

「き、貴様っノーラ……!!血迷ったかっ……!!!?」

 その後、ノーラは残りの元老院を全て切り伏せた。

「ノーラ……良かった……無事だったか……」

「カイア……すまない遅くなった……」

「いいんだ……しかしヒュルトが!!?私達のヒュルトが今……!!?」

 カイアは元老院達から聞いたヒュルト討伐の情報をノーラに告げようとしたが、ノーラは首を横に振る。

「え……!?」

「安心しろ……ヒュルトを討つ筈だった部隊は俺が全員倒してきた……」

「え……?な、なんだって!?それならお前は……お前の率いていた部下達を……!?」

「俺が投獄されてからはヤツ等は元老院の言いなりになり、この俺の言葉も届かなくなっていた……仕方なかった……」

 ノーラの瞳にはかつての部下に手を下した憂いが浮かんでいる様だった。

「そうか……そうだったのか……」

「カイア……行こう長の所に!!そしてヒュルトは俺達で助けだそう!!!」

「ノーラ……

   ああ……わかった!!」

 そうしてカイアは、その後ノーラと共に長の間に向かった。

 しかしーーーー

「これはっ……!!!?長が……長が……」

 長の部屋に向かった先でカイアとノーラが見たその光景は、鬼眼族の長が何者かに惨殺された姿だった。

「ノーラ……これは……?」

「ヤツは偽物だ……」

「え……?偽物……?」

「そうだ……見ろ……」

 すると、ノーラは既に屍と化していた長の首の付け根辺りを指差した。

「これは……鬼眼の長の印ではないか……これがどうした?」 

 鬼眼の長の印とは、一族の中で最も色濃く鬼眼の力を受け継いでいる存在の証であり、同時にこの鬼眼族の最初の存在の血族の証であるとも言われていた。そもそも鬼眼一族は他の一族との交わりにより少しずつその血は薄くなっていたが、中でもより色濃く鬼眼の力や鬼眼族最初の存在の血を継ぐ者が代々長を務めてきた。

 しかし、それはあくまで代々の長やその取り巻き達である元老院が定めたしきたりであり、実際には鬼眼族の誰が本当に最初の存在の力や血を受け継いでいるのかは、明確にはわからなかった。

「いいか……」

 すると、ノーラは左手に魔力を蓄えると屍の長にある印にその手を翳した。

「こ、これは……っ!!!?」

 カイアは、思わず驚きの声を上げる。何故なら、その鬼眼の長の印がノーラの魔力により、跡形もなく消え去ったからだ。

「どうした事だこれはっ……!?鬼眼の長の印は生まれた頃から刻まれた証だ!!故にそれは絶対に消えない印だと言われていた筈なのに!!」

 カイアのその言葉にノーラは淡々と告げる。

「だから偽物なのさ……コイツは元老院共が拵えた偽物の長なのだ……」

「どうしてそんな事を……先代の長は知っていたのか!?」

「いや、この事は恐らくこの偽物と元老院しか知らない事だろう……」

「待てノーラ……ならば、お前は何故コイツが偽物だと知っていたのだ?」

 ノーラはそのカイアの質問に何も答えずに立ち上がり、窓の外を眺める。

「ノーラ?どうした?」

「とにかくこれで長も消え元老院も消えた……」

「ノーラ……お前……」

「詳しい事は後々話す……先ずはここから出てヒュルトの元に向かおう……」

「………」

 カイアはノーラの不穏な空気にやや不安を覚えたが、黙って頷くとノーラと共にヒュルトのいる場所へと向かった。

 

 




 少し中途半端な終わり方になってしまったかも知れませんが、ちゃんと次回続きますので、ご了承下さい。
 さて、今回は冒頭に何かポップ方面で起きる予感がありました。ポップが沢山マトリフに魔導書を持たされた伏線回収のスタートになりますので、お楽しみにして下さいます(笑)
 また、ブロキーナとヒュルトの激戦からカイアの過去と話しは移りました。ヒュルトは何故不遇な時を過ごさなければならなかったのか?イヤな奴らが出てきましたね(笑)元老院。まぁ一瞬で退場となりましたが、いつの時代どんな世界にもイヤな奴らはいるモノです……(-_-;)
 ノーラという男は果たして何者なのかは、もう少しだけ先のお話になります。(タイトル鬼眼族ノーラなのに……(笑) )解呪の洞窟編もいよいよ佳境です。読んで頂いている読者様に感謝を感じつつ頑張ります(^_^;) 
 
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