─消える火─
カイアはノーラと共にヒュルトが幽閉されている鬼眼城の北の洞窟に向かった。
「ヒュルト!!ヒュルト!!」
二人はヒュルトの元へ駆け付けると、その巨体をゆっくりと動かしてヒュルトがその来訪に応えた。
「母上……父上も……どうしたの?」
「うむ、変わりはないか?」
ノーラが優しくヒュルトの大きな頭を撫でながら、複雑な表情を見せる。
「ああ……でも父上……どうしたの?何か変だよ……」
ヒュルトは生まれてから直ぐに鬼眼族の元老院の企みでこの北の洞窟に幽閉され、これまで長い時をこの洞窟の中で過ごして来た。そして、更にこの洞窟には封魔の力が施されていてヒュルトのその生まれ持った強大な魔力を抑え込んでいた。
「そうか?大丈夫さ…なぁカイア」
「え……?あ、ああ……ヒュルト!それよりもうすぐここから出られるからな……」
「えっ!?本当っ!!」
「ああ……すまなかったな……本当に長い間こんな所にいさせてしまって……」
「ううん……いいよ母上……父上も会いに来てくれた……ありがとう……あの人の言った通りだった……」
「……?あの人……?」
ガンッ……!!!
「……えっ……?」
ドサッ……!!
突如カイアは頭に大きな衝撃を受けて倒れ込んだ。
「な……に……が……」
「すまない……カイア……」
意識を失う寸前……微かに聴こえたのは、ノーラの声だった……。
「カ……イア……」
「………っ!!!?」
マトリフに回復呪文を掛け続けながら昔の事を思い出していたカイアは、再び意識を取り戻したマトリフの声に反応する。
「マトリフ!!!」
「う……うぅ……お前……大……丈夫……か……」
マトリフは自身の命が今にも消え入りそうな状態にも関わらず、カイアを労る言葉をかける。
「何を言う……お主の方こそ心配される身なのだぞ……だが、案ずるな少しずつだが先程よりは回復している……」
カイアは咄嗟に嘘をついた。マトリフがヒュルトから受けたその傷口は殆ど回復していなかったのだ。マトリフの心臓付近を貫いたその傷からの出血は多少抑えられてはいるが、完全には塞がらずマトリフ自身も下がっていく体温からその事に勘づいていた。しかし……
「そう……か……どおりで……楽になった……ワケだ……」
まさにそれは、カイアの悲しみを少しでも軽くしようとする、今際の際の嘘だった。
「マトリフ……お願い……生きて……私と共に生きて……」
「カイア……」
「私にはもう、あなたしかいないの……あなたしか……」
「フッ……こんな……美人に……焦がれる……とはな……ヒヒ……長生きは……するモンだ……な……」
「そうだ!マトリフ生きよう!!これからも!!!私と長生きしよう!!!」
「………そう……だ……な…ウッ…!?ガハッ……!?ゲホッ……!!!」
「マトリフっ!!!?」
マトリフは突如吐血し、その呼吸も荒くなってきた。
「……す……まねぇ……どう……やら……こ……こまで……みてぇ……だ……」
「何を言う!!!傷は大丈夫だ!!ほら、もう塞がる!!!」
カイアは涙ながらに咄嗟に嘘をついてマトリフを励ます。
「……カイア……あり……が…とう…な……こん……な……ジ……ジイ……を…愛……して……くれ……て……」
「マトリフ!!!しっかりしろ!!!目を……目を閉じるな!!!そうだ、ほら!!あなたの自慢の弟子……!!!彼に逢わせてくれ!!約束だマトリフ!!!だからほら!!目を開けてマトリフ!!!」
「ああ……ポップ……そ…う……オレ……の……弟子……アイツは……俺……よりも……スゲェ……ぜ……」
「ああ!!そうだ……!!だから逢わせてくれ!!私のこともちゃんと紹介して……!!あなたの妻だと……!!!」
「………ああ……アバンの……ヤツにも……逢わせて……」
「え……?アバン!?あ、ああ!!逢わせてくれ!!マトリフ!!マトリフ……!!?」
カイアは滂沱の涙を溢して必死にマトリフの名前を呼び続けるが、彼女自身にもマトリフの命の火が燃え尽きようとしている事が伝わっていた。
「………ヒュー…………ヒュー……」
「マトリフ……生きて……お願いよ……」
既にマトリフの呼吸は尽き掛けて、喉の奥の微かな呼吸音しか聴こえなかった。しかし、その最後……微かに……傍にいるカイアにも聞き取れない様な声にならない言葉でマトリフは呟いた。
「……ロ……カ………レイ……ラ………
……マァ……ム……
ごめ……ん………な………」
マトリフは閉じたその瞳から一筋の涙を流した。
そして、その瞬間ーーー。
マトリフの命の火が消えた……。
「マトリフ……?ねぇマトリフ?
嘘よ……起きて!!?
ダメよ!!!
起きて目を開けて!!!
いや……いや………どうして……
マトリフ!!!
いやぁぁぁーーー!!!!!」
「ーーーーっ!!!!?」
カイアのその悲痛な叫び声はヒュルトと激しい戦いを繰り広げていたブロキーナの元にも届いた。
「まさかっ……!!?
マトリフ殿……っ!!!?」
「グフフフ……どうやら貴様の友は一足先に地獄へ行ったようだな」
ブロキーナの白虎神砕拳を受けたヒュルトは大きなダメージを負いながらも、マトリフの死を嘲笑いながら再びその巨体でブロキーナに対峙する。
「ヒュルト……」
「グフフフ……心配するな、貴様もすぐに友がいるところへ送ってやる……」
「うるさいのう……」
「なに……?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴーーーー
とてつもない闘気が再びブロキーナのその身から溢れてくる。そして、左腕の鬼眼の腕輪にあった青色の宝玉がその怒りと闘気に反応したのか徐々に赤色に変化していく。
「まさか貴様…まだ……っ!!!」
「何故お主は……何故わからんのじゃ……っ!!!お主がどれだけ愛されて来たのか……お主がどれだけ愚かなのか……」
「なんだとっ……!!!」
「お主は絆というモノを……もう感じないのか……?」
「絆……?グフフ……なんだ、それは?そんなものに何の価値があるというのだ……」
「ヴェルザーやメドゥルザとやらは……確かにお主に新たな力を与えたのかも知れん……しかし、それ故にお主は大切なモノを失ってしまった……大切な絆を……踏みにじったのじゃ!!!!」
「グハハハハーーー!!!ならばその絆とやらは俺に何を与えくれた!!!ヴェルザー様やメドゥルザ様が与えてくれたこの暗黒の力こそが、俺の求めていたモノだ!!!クソの役にも立たん絆など……!!何の価値もないわーーーーっ!!!」
「ならばワシが思い出させてやろうーーーー絆の強さを!!!!」
ブロキーナのその拳には激しい怒りが込められていた。しかし、それはヒュルトへの怒りよりも、自身にも向けた怒りの強さだった。
(「ワシは……ワシはまた……大切な存在を失ってしまった……すまぬ……本当にすまぬ!!!マトリフ殿ーーー!!!!!」)
ブロキーナは、瞳から一筋の涙を溢しながら放つ拳の、その一撃一撃に力を込める。そして、その拳を放つ度に彼は友マトリフと笑い合ったいくつもの時を思い浮かべていた。そうして想いを乗せたその拳はヒュルトの身体に確実にダメージを刻んでいく。
しかし、同時にブロキーナが受けるそのヒュルトの攻撃からは、虚しい勝利への渇望しか感じられなかった。そして、ブロキーナにはその事実が、ヒュルト自身の内側に密かに眠る悲愴を表している様にしか思えなかった。
最悪の展開にしてみました。実際マトリフというキャラクターは100歳近い年齢にも関わらず、メドローアやベギラゴンやとてつもない呪文を使いこなスーパーおじいさんではありますが、本編ダイでも何度も血を吐いたりして無茶してますよね。だから、ある意味一番死に近いキャラだと思うのですが、反面メチャクチャ気持ちが若くて、スケベなので、こう言った展開は迷いましたが、致し方なしもありました。また、ヒュルトの冷徹さを際立たせる事にもなりましたので、役目はしっかりと果たして頂けたかと思います。マトリフありがとう!!