─真の魂─
「はぁっ!!はぁっ!!」
「フゥ〜!!フゥ〜!!」
ブロキーナとヒュルトは変わらず一進一退の攻防を繰り広げていた。そんな中で、一切のパワーもスピードも落とす事なく繰り出す技の数々に、お互い脅威を感じざるを得なかった。
「これ程までに……強いとはのう……はぁ……はぁ……ホホ……あの時を思い出すわい……大昔にこの辺りの海を縦横無尽に暴れまわっていたあの大海竜との戦いをのう……」
「ホウ……?この俺と肩を並べられる様な存在がこの地上にいたとでも言うのか?」
ヒュルトはブロキーナの言葉に不敵に嗤う。
「ああ……ワシら人の間では海の破壊者と言われておった恐ろしい怪物竜じゃ……名は確か…レヴィ……」
「………っ!!!?なんだとっ……!!!?レヴィだと!!!」
ブロキーナの言葉にヒュルトは驚きを隠せなかった。
「ほう……お主は知っておるのか?あヤツを……」
ブロキーナはヒュルトが珍しく驚愕する姿をみて訊ねる。
「グフフ……フハハハハーーー!!!!そうか、ヤツを倒した地上の強者とはお前だったか!!?ヤツは……レヴィは魔界でも名の通った存在だったが、その気性の荒さから自らを支配しようとする者には、たとえ魔界の王にでも平気で牙を剥くヤツだった……この俺も興味があったのだがな……数十年前に一人の人間に打倒されたとうウワサは本当だったか……」
「なるほどのう……これは意外な話を聞いた……お主が気にしていた程のヤツであったのならあの強さも頷けるわい……」
「いいだろう……あのレヴィを倒した相手ならば、この俺の真の力を見せるには相応しい……」
「なんじゃと……っ!!!?」
「グフフフ……残念だったな……これで貴様には万に一つにも勝ち目はない……先にあの世に行った仲間のところに行くのだな!!!!ハァァァァーーーーーーーーー」
すると、ヒュルトは自らの暗黒エネルギーを体内で練り込み始める。
「こ、これ程の力をまだ残しておったのか……!!?」
ヒュルトを中心に黒い闘気が渦を巻くように発生し、ブロキーナを寄せ付けない。
「くっ……!!これではこちらからの攻撃も届かん……!!!」
「グフフフフ……ならばこれもくれてやろうっ!!フンッ!!!」
そう言うとヒュルトは背中の巨大な両翼を全開に広げ、とてつもない羽ばたきによる大風を起こした。
「ぬおぉぉぉーーー!!!!」
「グハハハハーーーー!!!これで一歩も動けまい!!!いや、その枯れ木のような身では吹き飛ばされるのがオチだなぁ!!!」
「なんのっーーー!!!この風を切り裂けばその闘気渦をも貫いてお主に技が届く!!!」
「これまでの戦いで貴様にそんな力が残っているワケがないっ!!虚勢を張るな愚かな人間がぁぁぁーーー!!!」
ヒュルトは更に羽ばたく力を増していく。
「言ったハズじゃ!!お主に絆の強さを思い出させるとっ!!!」
「なにぃ?フンッ……!!まだそんな世迷い言を……」
「世迷い言かどうか……この技で証明するのみじゃ……!!!!はぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!!」
ブロキーナは防御を捨て去り、右の拳に全闘気を集中し始める。
「防御を捨てたか……だが、この大風の中で生まれた真空の刃の嵐に耐えられるかーーー!!!」
ヒュルトのその言葉通り、その巨大な両翼による羽ばたきから、いわゆる”かまいたち“が発生し、ブロキーナの全身を鋭い真空の刃で切り裂いていく。
「こんなモノではワシの前進は止められんっ!!!くらえっーーー!!武神流奥義・猛虎破砕拳ーーー!!!!」
その瞬間!!ブロキーナはヒュルトの羽ばたきによる大風もかまいたちも切り裂いて、闘気渦をも貫く勢いの渾身の闘気拳、猛虎破砕拳を繰り出した。
ズドォォォーーーーン!!!!
「………っ!!!?」
しかし、ブロキーナの猛虎破砕拳はほんの僅かの差で、ヒュルトの纏う闘気渦を貫くまでにはいかなかった。
「グハハハハーーーーーー!!!残念だったな!!!!あの大風とかまいたちを切り裂いて来たまでは見事だったが、我が暗黒の闘気渦までを貫くまでには至らなかったようだなーーー!!!さぁ次はこちらのターンだぁぁぁーーー!!!」
ヒュルトはそう言いながら暗黒エネルギーの塊を集中させ、全力でのブラックアイズブラストの態勢を取る。
「なんのっ!!!一発で届かなければ二発じゃよ……はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」
「なんだとっ貴様……まだ……!!!!」
しかし、ブロキーナも負けじと最後の力を振り絞り全身全霊の闘気を込める。
「たった一度破れなかったくらいで……へこたれる我が武神流ではないわい……何度でも……何度でも……ワシら人間は……絆の力で…立ち上がるのじゃ!!!!」
「おのれっーーーーーー!!!絆の力などオレは一切認めんぞーーーーーーくらって消し飛べーーーーーー!!!ブラックアイズブラストーーーーーーーーー!!!!」
ヒュルトの暗黒エネルギーが練り込まれたブラックアイズブラストがブロキーナに向けて放たれた。すると、ブロキーナもそれに合わせて自身の最強技を繰り出した。
「武神流秘奥義!!!!
白虎神砕拳ーーーーーーー!!!!」
「それはっ!!!リーデアを破った技!!!!」
「穿けぇぇぇーーーーーーーー!!!!!」
ズガガァァァァァーーーーーーン!!!!!
二つの最大最強の技が激突すると、この異次元の空間の大気さえも激しく震わせる様な衝撃が起きる。
「グオォォォーーーーーーーーーー!!!!」
「はあぁぁぁーーーーーーーーー!!!!」
その時、ブロキーナの腕に嵌められていた鬼眼の腕輪が輝き始めた。
「こ、これはっ!!?おおっ!!ワシの体力を回復していく!!」
「なんだとっーーー!!!ヤツの技の威力が増して来やがったぁぁぁーーー!!!」
「絆の力じゃ……一人では確かにお主の力の前に屈していたじゃろう……しかし、ワシには仲間がおる……」
「クッ……!!!?」
「お主はいつまで一人でいる気じゃーーーーーー!!!!」
「………っ!!!?ウオォォォォォーーーーーーーー!!!!!」
ドガァァァァァァーーーーーーン!!!!!
ブロキーナの武神流秘奥義・白虎神砕拳が見事にヒュルトに炸裂しその巨大な身体に甚大なダメージと白虎の形の大きな傷を刻み付けた。
「はぁっ……っ!!はぁっ……!!!ど……どうじゃっ!!!!はぁっ!!はぁっ!!」
しかし、ブロキーナも全身全霊で渾身の技を放った反動は大きく息も絶え絶えな状態を隠せずにいた。
「はぁっ!はぁっ!や、やはりこの技は……一日に二発が限度のようじゃな………はぁっ……!!はぁっ!!」
ブロキーナがその呼吸を整えている中、少しずつ大気の振動が収まっていく。そして、異様な静けさが辺りを支配し始めた頃……
「グ……グフ……グハァ……!?」
ヒュルトがブロキーナの白虎神砕拳を受けて一時気を失っていた状態から目を冷ます。
「ふぅっ……!い、生きておったか……ホホ……」
ブロキーナはカイアの事を思い、ヒュルトの息があったことに密かに安堵する。
しかし………
「グフフ……フフ………フハハハ……ハーハハハハ!!!!」
「ホホ……思ったより元気なようじゃな……」
ブロキーナが汗を掻きながらも不敵に笑うとヒュルトはその巨体をゆっくりとお越して告げた。
「悟ったぞ……今の技で……お前はあのレヴィを葬ったのだな……?」
「よくわかったのう……その通りじゃ……かなり苦労はしたがな……」
ブロキーナは少し昔を思い出しながら言う。
「グフフ……そしてもう一つ悟った……」
「ほう……なんじゃ?」
すると、ヒュルトはゆっくりとその巨体を浮かべてブロキーナを見下ろす形を取る。
「レヴィを倒し、先刻リーデアをも葬ったこの技を……お前はもう使えんというコトだ……」
ヒュルトはそう言って不敵に笑う。
「ホホ……さすがに見抜いたか……」
「楽しかったぞ人間よ……貴様ほどの強者、魔界においてもそうそう巡り合うこともないからな……」
「そうか……それは光栄じゃな……」
「だからこそ……せめてもの礼にこのオレの真の力……いや姿を見せてやろう……」
「真の……姿……じゃと?」
「地上の強者よ……その強さに敬意を込めて我が全力の暗黒エネルギーを放ち跡形もなくこの世から消滅させてやる……無惨な死骸の一欠片も残さずにな……グフフ……」
すると、ヒュルトは突如苦しみだしたように呻き声を上げる。
「グッ……グオァァァ……ガァァァァ………」
「コイツは……なんてことじゃ……とんでもないことになったのう………」
その様子を目の当たりにしていたブロキーナは、ヒュルトの内の暗黒エネルギーが恐るべき勢いで膨張している様に感じられた。
「グアァァァァァァァァ………」
すると、ヒュルトの巨体が更に肥大化し始める。そして、頭にあった二本の巨大な角が天を衝く様な形に変形し始めた。
「あの角は……一体……!!!?」
「ガアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」
そして、ヒュルトは自らの体内から黒い暗黒エネルギーを上空に吐き出すと、更にその吐き出した全ての暗黒エネルギーを今度は逆にその身に吸い込んだ。
「あヤツの体内で練り込まれた暗黒エネルギーを再び取り込んだ!!?………っ!!!?そ、そうかっ……!!!この戦いの場に渦巻いていた闘気の残穢!!暗黒エネルギーを吐き出した時にその残穢をも取り込んだのかっ!!!!」
ブロキーナが一目で見抜いた通り、ヒュルトは体内で練り込まれた暗黒エネルギーを一度表に吐き出し、この異次元の空間の場において激しい戦いの中で生まれた闘気の残穢を自らが吐き出した暗黒エネルギーと共に再び体内に取り込んだのだった。
「戦いの場における熱さえも己の力とするとは……なんというヤツじゃ……ヒュルト……」
すると、ヒュルトは苦しみもがいていた様相を一変させ、その巨体はこれまで以上に禍々しい邪悪な暗黒エネルギーの満ち溢れた風貌と化していた。そして、さすがのブロキーナも珍しく背筋に冷たい汗を感じる程の圧力を感じていた。
「グフ……グフフ……グフフフフ」
「それがお主の言う真の姿かのう……」
「グフフ……その通りだ……」
「お主は本当にそんな姿を……力を……望んでいるのか?」
「なに……っ!?」
「ワシはここまでお主と命を掛けて戦いながら、どうしても拭えぬモノがあった……」
「…………」
「それは、お主の中の僅かな迷い……いや悲壮感じゃ!!!」
「………」
「お主とて本当はわかっておるハズじゃろう?しかし、長い間その悲しみから目を背けて来てしまったコトで……本当にお主が望んでいたコトもわからなくなってしまった……自らを見失ってしまったのじゃ……」
「………」
「しかし、まだ遅くはない……目覚めるコトはまだ出来る……」
「………」
「ヒュルトよ……自らの声に耳を澄ますのじゃ……自らの内にある真実に目を向けるのじゃ……」
「………」
「ヒュルト………」
「……戯言は……終わりか……?」
ヒュルトはブロキーナの言葉を一蹴する様に冷徹に告げる。
「……戯言……か……残念じゃ……」
「だろうな……最後の言葉がそれではな……だから……せめてその名を聞いておこう……」
すると、ブロキーナはヒュルトを見上げる。そして、その黒眼鏡の奥の瞳で真っ直ぐにヒュルトの紅く染まった眼を見据える。
「……ブロキーナじゃ………人はワシを拳聖と呼ぶ……」
そのブロキーナの言葉には永きに渡りその拳聖の名を背負ってきた底知れない重みがあった。
「……拳聖ブロキーナ……忘れないぞ……ガアァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」
と、ヒュルトはそれだけ告げると全身全霊の暗黒エネルギーを天を衝く巨大な角の間に集束し始めた。
「………」
「ほう……もう何も語らぬか……いいだろう……覚悟を決めた姿勢と受け取ろう……ブロキーナよ……このオレの最大最強の技で見事なお主の最後に華を添えてやろう………」
ゴゴゴゴゴゴゴーーーーーー
ヒュルトの暗黒エネルギーの高まりに比例するように、異次元空間に少しずつ歪みが生まれる。
「この技には、まだ名はない……だがこれまでとは次元の違うモノだ……」
「………」
ブロキーナはヒュルトのその言葉にも何も応えようとはせず、ただ、ただ、黙して佇んでいる。しかし、それは決してこの勝負を捨てた姿でも、その命の終わりを覚悟した背水の姿でもなかった。ブロキーナはその中で、今静かに最後の闘気をその内に集中させていた。
激戦の中の激しい技の応酬も、いよいよクライマックスです。この最後の戦いにはブロキーナとヒュルトの思いを思いっ切りぶつけてやろうという気持ちで書きました。ヒュルト自身も忘れてしまった本当の自分をブロキーナが指摘するところは特に力を込めました。まぁ本文ではヒュルトにスルーされましたケド…(笑)^^;
因みにタイトルの『竜攘虎搏』とは聞き慣れない言葉かも知れませんが、力の互角な者同士があたかも竜と虎の如く激しく戦う事という意味の四文字熟語です。